はじまり
私には、待ってくれている人がいるのに…。
どうしても、その瞳を見つめてしまう。
ダメってわかっているのに、
なぜ、こんなにも惹かれてしまうんだろう。
今一緒いるこの瞬間だけで構わない。
この瞬間だけ、
元の世界を忘れるほど、
あなたを愛してもいいですか?
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すべての始まりは、
ーーー15年前……
「ベリカとカイリの命も今日まで…か…」
「あなた様の痕跡は残さぬよう、始末いたします」
薄笑いを混ぜながら、聞こえてきた会話。
ガクガク震える足を懸命に動かし、やっとの思いで母上の元へ戻ると、
母上は、いつもと変わらない、穏やかな笑顔で、部屋の片隅に座っていた。
「ベリカ王妃様‼︎ カイリ皇子‼︎ お支度を‼︎」
側近のその言葉に、母上は、かすかに目を細めて険しい表情に変わる。
宮殿から逃げだし、
肩まである草をかきわけながら、ひたすら走り続けた。
走って走って、当てもない先を目指し、ただ走り続ける。
足はすでに感覚を失っていた。
「皇子…お足元が・・・」
ふくらはぎから流れる血をたどりながら、傷口できつく巻かれた手拭い。
宮殿を覆った風に呑み込まれ、
その衝撃で倒れてきた柱が足をかすったのだろう。
まるで、竜巻に飲み込まれたようだった。
「これくらい大丈夫。母上は!?」
「後ろにおられます」
あとについて来る衛兵たちを確認して、再び前に進もうとしたとき
「王妃さま!?王妃さま!!」
少し離れた後方から聞こえた、数名の悲痛な声に、急いで元来た道へ戻った。
「母上!!」
側近の膝の上に倒れている母上の元へ駆け寄ると、血まみれになってる、細くて華奢なその手が、小さな私の手を
ギュッと包み込んでくる。
「しっかりしてください。もうすぐ助けが参ります」
「皇子…よく…聞くのです」
大きく幾度も呼吸を整えながら、声にする小さな叫び。
「王を恨んではいけません。王妃を憎んではいけません…すべての責任は…
この…母なのですから…」
そう訴えかけるように呟きながら、ずるっと滑り落ちていった母上の手を、もう一度掴みなおした。
「母上!!」
「皆のもの…皇子を…頼みましたよ」
私に微笑みかけて
何度か深い瞬きを繰り返した後、
ゆっくりと私を見つめる
その優しい瞳が閉じていく。
「うぅっ…母…う…ぇ…」
ポタポタと手の上に落ちてくる涙と、
言葉にならない声。
動かすままに揺れる母上の体を、何度も何度も揺さぶった。
「カイリ様…参りましょう…急がねば追っ手が」
「母上をここへ置いて行くつもりなの?」
「…王妃さまは…すでに」
“亡くなっております”
側近の目がそう言ってる。
「今は逃げることが最優先でございます」
ご遺体を運ぶことすら荷物だと言うのか。
国王の妃である母上の墓さえ、建てて差し上げられないなんて…。
なんともむごい仕打ち。
絶対に許さない。
母上を、こんな最期にした義母上。
それを見てみぬ振りをした国王。
この恨み…忘れない。
いつか必ず…。
必ず…。
晴らしてみせる。




