42 決戦前夜
「レイト、まだ起きてたんだ」
「おう、なかなか寝付けなくてな」
「そう、ちゃんと休んでおかないとダメだよ」
「ハハ、分かってるよ」
現在レスティアの宿屋で、明日に備えて休息をとっている。
「あ、あのさ……」
マーシャが俺の顔をじっと見つめてくる。
今にも泣き出しそうな顔だ。
「……どうした?」
無言のマーシャに俺が声をかける。
すると、マーシャは首を横に振り笑顔に戻った。
「ううん、なんでもない。ふふふ、魔王かー、どんなアイテムが盗めるのか楽しみねー!」
「……そうだな」
「あ、今またレアアイテムのこと気にしてるとか思ったでしょ?」
「思ってねーよ」
「……」
「……」
無理して明るく振る舞ってるのが手に取るようにわかる。
すぐにまた笑顔が消え、無言になる俺たち。
マーシャは俺がNPCだということに気付いているのだろうか。
今ここで、話しておくべきだろうか。
マーシャを騙しているような気がして、罪悪感に押しつぶされそうだ。
でも、今ここで真実を口にしたら、いざというときにNPCやこの世界を消す選択を迫られたときに俺が重荷になってしまうだろう。
それになにより本当のことを言ってしまったら、二度とマーシャの笑顔が見れない気がした。
それが一番怖かったのだ。
「ねえ、もし私たちが無事にログアウトできたら……」
「うん?」
「私と……その……付き合ってくれる?」
「え……?」
突然のことで頭が真っ白になった。
それは無理だよ、と言おうとしたがその言葉を思い切り飲み込む。
「ああ、もちろんだよ」
マーシャを傷つけたくはない。
その想いから俺は咄嗟に嘘をついてしまった。
マーシャがログアウトできても、俺はマーシャの世界へ行くことはできないのだから。
「……マーシャ、どうした?」
マーシャが下を向いたまま動かない。
と思ったら、いきなりガバッと顔を上げてこちらに手を差し伸べた。
「あー、良かった。断られたらどうしようかと思っちゃったよー。ふふ、これからもよろしくね、レイト!」
マーシャの笑顔が、俺の胸に深く深く突き刺さる。
俺は泣き出しそうなのを必死に抑え、マーシャの手を取り握手をした。
「こちらこそ、よろしくな」
マーシャと別れたくない。
そう思った。
もし、魔王を倒せばログアウト不可となり、マーシャとずっと一緒に過ごしていける。
そんな考えが頭をよぎった。
---
「いよいよだね」
「うわー、なんかめっちゃ緊張してきたっす」
「んふふ、どんな敵だろうとあたしの範囲魔法で一掃してやりますよ」
夜が明けて、俺たちは再び『神秘の祭壇』へとやってきた。
「ここから先は何が起こるかわからない。私と運命を共にできるか?」
「もちろんよ、うちらはオウガを信じてここまでやってきたんだから」
「ケヘヘ、そうでさあ。今さら町で待ってろなんてのはナシでっせ」
「……ふっ、まあなるようにしかならんさ」
いよいよ『漆黒の魔王城』への道が開かれる時がきたのだ。
オウガが6つのアイテムを祭壇に捧げていく。
すると、捧げたアイテムが虹色に輝きだし、祭壇が光に満ち溢れる。
「うお、眩しいんだゾ。目が目がああ!」
「ちょっとロン、こんな時に何ふざけてんのよ」
「はー、緊張してお腹が痛くなってきたでござる……」
『ホワイトムーン』の三人も同行してくれた。
総勢12人の選ばれしパーティだ。
「ん、どうかしたのか?」
「いや、何故かこの光景を前にも一度見たような気がしてね」
トライさんがそんなようなことを言いながら微笑んだ。
「さあ、最終決戦と行こうじゃないか」
「おーッ!」
祭壇の浮かび上がる光のゲートへと入っていくオウガたち。
「レイトー、トライー、何やってんのー早く行くよー?」
「お、おう、今いく」
マーシャに促され、俺たちも光のゲートへと飛び込んだ。
「へぇ、ここが『漆黒の魔王城』かー」
「なんだか薄気味悪いところですねえ」
ゲートの先には、薄暗い神秘的な世界が広がっている。
城の中だというのに無駄に広い空間。
「ちょ、ちょっとこれどういうことなんですの?」
「うっへえ、もうやだお家に帰りたいゾ」
そして、モンスターがびっしりと待ち構えていた。
俺たちが身構える前に一気に集まってきたのだった。




