40 別行動
「ねえ、どうして私たちがこんなやつらと一緒に行動しないといけないのよ!」
マーシャが『純白の塔』に入るや否やそんなことを口に出す。
「仕方ないだろう。ニックはもう塔は嫌だって言うし、戦力的にこうするしかなかったんだよ」
俺がマーシャをなだめるように言う。
「ふん、うちらも別にあんたたちと一緒にパーティーなんて組みたくなかったわよ。ねえ、タクティス?」
「……ワシはオウガの決定に従うまでだ」
怪訝そうな顔をしながらセイラが舌打ちをする。
「まあまあ、そういがみ合わずに仲良くしましょうよ、ね?」
「そうだゾ。こんなところでケンカは良くないんだゾ!」
「む、ロンが珍しく良いことを言ったでござるな」
俺たちと『ブラックサン』の二人の間に入って仲裁する『ホワイトムーン』の三人。
レイクシティで立ち往生していたところに事情を話してついてきてもらったのだ。
「はうー、この前来た時よりしんどいわね。人数は前より多いのに……」
「確かにそうだな、まあ、あの時はほぼトライさん無双だったから仕方ないよ」
ニックとルティ、トライの三人は現在、オウガ、キットと共に黄昏の洞窟へ行っている。
イエローゴーレムの強さと、洞窟の湧きの多さを考慮するとトライさんとオウガを向かわせたのは間違っていないはず。
それに、こっちは七人だから戦力的には十分なはずなのだ。
「まあ今さらメンバー交代する時間もないからな、このまま最上階を目指そう」
というのも、俺たちにはあまり時間が残されていない。
こうしてる間にも、魔王サラがこの世界を消去してしまう可能性があるからだ。
それは、NPCに限ったことではなくプレイヤーにも同じことが言える。
現実世界から切り離されたこの世界を消去すれば、行き場を失ったプレイヤーも死んでしまう。
それが魔王サラの真の目的だと、オウガは言う。
「大丈夫、きっと間に合うさ。マーシャは俺が絶対に守ってやるからな」
「うん、ありがとう」
不安そうなマーシャに、そう伝えるだけで精一杯だった。
俺は必死になって身体を動かしてモンスターを倒していく。
少しでも立ち止まると、不安に押しつぶされそうだった。
「出たな、ホワイトコンドル!」
「あらあら、思ったより大きい鳥だこと。タクティス、頼んだわよ」
「おうよ」
「気をつけろ、こいつのレベルは70だ! ホワイトムーンの三人は支援に徹するようにしてくれ! マーシャは、隙をついて盗むを試すんだ! ひょっとしたら『ホワイトウィング』を盗めるかもしれないからな」
「りょーかい!」
「わかりましたわ!」
この場に、トライさんはいない。
俺たちだけでなんとかするしかないのだ。
まずは、屈強で体力自慢のタクティスがボスを引きつける。
「うぐぐ、こやつなかなかの攻撃力……!」
「回復ならお任せくださいな!」
一瞬でタクティスのHPが半分近く削られて焦ったが、セフィーヌが素早く回復させる。
「盗むなら早く盗んじゃいなさいよ。まったくとろくさい子ねえ」
「分かってるわよ! 盗むにはしっかりと狙いを定めないといけないんだから、素人は黙ってなさい!」
ギャーギャーと喚くセイラとマーシャ。
文句を言いながらもホワイトコンドルの後ろに回り込むマーシャ。
すると、瞬時にコンドルが旋回しマーシャに向かって風魔法を放つ。
「ったく、危なっかしいわねー。ほらほら、しっかりなさいな小娘ちゃん?」
「誰が小娘ですってえええー!?」
マーシャに放たれた魔法をセフィーヌが弾く。
「ほら、早く盗みなよ、ねえ?」
「あれー? 早すぎて見えなかったのかなー? もう盗んだわよ、これが『ホワイトウィング』よ」
「な、なんですって……!? 一体、いつの間に……。いや、それよりなによりたった一発で盗めるってどういうことよ。『ブルーボーン』はオウガが数十時間かけてようやく手に入れたアイテムだっていうのに……」
「ふふっ、盗むのスキルレベルを最大まで上げてるからね。このくらい朝飯前よ!」
自慢げにホワイトウィングをひらひらさせて見せびらかすマーシャ。
「よし、ロン、ゴンゾウ、ホワイトウィングは手に入ったようですわよ! 今度はわたくしたち『ホワイトムーン』が華麗にボスを倒し……キャアアアッ!」
ホワイトコンドルの鋭い爪に引き裂かれそうになり慌てて引き返してくるセフィーヌたち。
「ったく、レベル低いんだから無茶をするなって。倒すのは俺がやるからさ」
そう言って、俺はずいっと前にでる。
「さあ、かかってこいやああ! って、あれえええ?」
「ぷーくすくす、もう倒しちゃったわよ? 坊やの出番はなかったわねえ?」
意気込んで倒そうとしたら、すでにタクティスとセイラの連携攻撃でホワイトコンドルはすでに倒されていたのだった。




