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第6章~仏少女と浪花六道編~ 前編

ヘラクレスこと本郷黄鉄が去っていったビル。

そこで新たなボスとなった明知晴嵐は仲間の言葉で自分がボスである自覚を芽生えさせていく。


そんな時聖十字騎士団ボス聖正純から相談を持ち掛けられる。

《パンドラの箱》……メルヘニクスのボス、アンデルセンが

残した宝を狙う奴らから共に守ってほしいと言うものだった。


そしてそれを付け狙う者たちの名を《浪花六道》と言った。

部活動のエキスパートである彼らと、新リーダー明知晴嵐の闘いが始まる!


怒涛の乱闘物語前編!公開!!

「ねぇねぇ!お父さん!」


「ん?どうした??」


「金ぴかが真っ黒になっちゃった!!」


「…あぁーあれは新月だよ。太陽の前に月が出て真っ暗になるんだ」


「へぇー」


子供のころ、父さんに聞いた月の仕組み。


関心しながら見ていたけれど


綺麗な金ぴかお月様が好きだった俺にとっては嫌なものだった。







--------------------------------------------------------------------------------







「今日は新月か…」


真っ黒な空。


そんな中でおれはランニングをしていた。


今年最後のランニングだ。もう年末と思うと早い。


…俺がボス……なんだよな。


いまさらながら走っているとそう実感する。


少し前からで、赤井やオーディンとの対談。そしてサンタとの闘いに獅子との殴り合い。


俺がボスになってから色々なことがあったけれど、それでもまだ慣れない。


俺なんかよりも先輩や狩羅のほうが向いている気がする。


「それでも…ヘラクレスを倒したのは俺なんだよな」


俺は立ち止まって空を見てそう呟く。


そうだよな。元々あそこに政治的な概念はないんだ。


俺がボスだからって、何かしないといけないってわけじゃあないんだ。


それどころか、俺がビルのボスになって人々を集めれば


新生メルヘニクスが実現される!俺の最初の夢が叶うんだ!!


そう思ったら重荷よりも楽しさが増えてきた!!!!


「っしゃー!!来年も頑張るぞぉー!!!!」


俺はそう叫びながら家に向かって全力疾走した。











--------------------------------------------------------------------------------







「くぅー!ラーメンは美味い!!」


今日の飯はインスタントラーメン。


最近名店を表現したタイプのインスタントがお気に入りだ。


スポーツしている人間としてこういうの駄目なのは


わかってるけどこの暖かさがたまらない!


「…ん?電話??」


誰からだろうと覗くと刹那からだった。


「どうしたの?刹那?」


『あ、せ、晴嵐?あの…年末って暇?』


「あぁー一応親んところに帰るつもりではあるけど…」


『そ、そうなんだ…やっぱり帰るんだ…』


少し寂しそうな刹那の声。あぁ…そういうことか


「いや、やっぱり暇かな」


『えっ?なんで?』


「いやぁーうち家族って放任で、家族以外親戚とかもいないから別に帰らなくてもいいんだよ。


 だから、メルヘニクスの仲間誰かに誘われたらそっちを優先しようって決めてたんだよ」


『そ、そう。でも、やっぱり悪いわ、家族にも会いたいだろうし


 龍二は狩羅のところで年越しを過ごすって言ってるし』


「そうなのか。あ、じゃあ俺の田舎に来いよ。刹那なら歓迎だ」


『い、田舎…//』


なんか、変な反応だな?


「ま、とにかくそういうことで千恵ちゃんもかな?」


『うん。二人してお世話になるけどよろしく』


「おう。わかった」


そういって俺は電話を切る。


ん?なんか今すんごい自然に話を勧めてたけど


刹那→女子→家族に会わせる→しかも年末年始


……あれ?これ…まずくないか??


絶対に父さんに誤解されるよなぁ?姉ちゃんにからかわれる!?


や、やばい。この状況はまずい。


これで刹那だけを連れて行ったら間違いなく誤解される!!


でも…千恵ちゃん一緒に行っても


刹那→女子→家族に会わせる→しかも年末年始→さらに妹も参戦。


…完全に誤解される!千恵ちゃんなんて俺のこと『お兄ちゃん』って呼ぶんだぞ!?


確実に姉ちゃんには『お義兄ちゃん』に聞こえちまう!刹那とのカップルを肯定してるようなもんじゃねぇか!


俺は別に誤解されてもいいっちゃあいいが…刹那が可哀相だしな。




一人でそんなことを考えていると、着信があったことに気づく。


あ、刹那と電話している最中にあったんだろうか?


えーっと、着信先は…先輩!?


俺は慌ててかけなおす。


「せ、先輩!すいません!!」


『い、いや…年末は暇か?と思ってな』


「ひ、暇っすよ!田舎に帰るんすけど、うちのところ自由だから先輩も着てください」


『い、いいのか?ご迷惑にならないだろうか?』


「大丈夫っすよ。うちの両親はいい意味でバカなんで」


『ふっ、きみに言われるとはご両親も可哀相だな』


「ちょ、先輩それどういう意味っすか!?」


『まあ、よかったよ。年末年始何もすることがなくてな、みんなで過ごしたいと思っていたんだ。じゃあな』


そういって先輩は電話を切る。


…あれ?なんかおれ凄いことを勢いに任せてしちゃった気がする。


刹那・先輩・千恵ちゃん→みんな女子→男子の実家→俺たらし疑惑!!


だめだ!絶対にダメだ!!


「…RB、お前年末年始暇か?」


『すみません。僕の家は年末に家族会議が…』


「そ、そうか…」


『どうしたんですか?』


「いや、勢いに任せて刹那と千恵ちゃんと先輩がうちに来ることになったんだけど、RBもどうかなぁーって」


『…先輩,たらしですね』


「それを言われたくねぇからお前に頼んでるんだろ!」


『…仕方ないですね。家族会議は年末ですし、行きましょう…女装姿で』


「余計誤解されるからやめて!!」


『先輩…女装したときの僕が好みなんですよね?…少しうれしいです///』


「ど、どっからその情報を…ってか照れたフリすんなよっ!!」


『とにかくわかりました。寧々ちゃんが行くなら僕もそちらに行きますので安心してください。さっきのは冗談です』


「おう、本当に助かった。んじゃあな」


『はい。それでは』


RBがそういって電話を切る。


うんうん。頼りになる後輩だぜまったく。


これで家族にハーレムを曝すなんて誤解を生みそうな事態は免れた。


そういえば車田たちは年末どう過ごすんだろう??


多分アンさんと過ごすんだろうけど、車田にも両親が…はっ!両親に公認してもらうのか!?


アンさんは確か孤児だったって聞いたから…車田の両親が了承したら即結婚!?


『…なんだ?晴嵐』


「車田…結婚式でご祝儀は絶対出すからな!」


『はぁ!?ちょ、なんだ結婚っておい―――』


俺は騒ぐ車田の電話を切る。照れてるんだなあいつ。


ほんと…遠い存在に感じるよ。






そして月日は少したち、年末。


「じゃあ、全員揃ってるな!!」


「そうね。あ、あたし以外にもちゃんと誘ってたのね…」


なぜだろう。刹那が少し残念そうだ。




そっから俺たちは電車に揺られて帰る。


田舎って行ってもそこまで遠くない。電車で軽く特急で一時間ぐらいしかかからない場所だ。


俺たちは談話を楽しみながら、俺の田舎に向けて出発していった。







--------------------------------------------------------------------------------









大広場。うちはおとんに手伝わされてるたこ焼きの屋台で一人焼いていた。


おとんが大事な用事あって、寮から戻ってきとったうちに仕事を依頼してきたんや。


ま、たこ焼き焼いてるのは気分がええから楽しいんやけど…お客さんまったくこやへん。


やっぱりおとんがおらんからやろうか?いっつも屋台繁盛してるもんな…。


……あかんあかん!自分を卑下したらあかん!今日は年末でみんな家籠もってるからや。


ってか年末に男の一人もおらんとこないなところおるってどうなん?


うちもしかしてすんごい負け組!?うぅ…どっかにええ男おらんやろか…。






「あれ?今日はいつもの親父じゃねぇのか??」


そんなとき、お客さんがきてくれる。


「へいいらっしゃい!おとんは今用事でおらんのですよ。変わりにうちが」


うちは元気に接客をする。


短めのリーゼントをした少し不良っぽい男の子。


でもなんでやろう。あんまり怖い感じはしやへん。


「んじゃとにかくたこ焼きを…10箱ぐらい」


「10箱!?毎度あり!!出来るまで待ってもらいます。すいません」


うちはそこまで言われると思ってなかったので慌てて作り始める。


「あぁー待ってる間に腹減るな。そこの冷めちまった奴くれねぇか?いくらだっけ??」


「あぁーもうそれ完全冷めきってるからただでいいで」


「おっ!マジでか!!」


そういうと男はそれを乱暴に取り、食べ始める。


冷めたたこ焼きはそないうまない。それにうちが作ったやつやし…。でもまあ腹ごしらえにはなるやろ


「おぉ!うめぇな!!これ!!」


「え?ほんまに言うてるお客さん??」


「おう、冷めてはいるけどうめぇよ。親父さんが作ったのもやべぇけどこれもやべぇ」


「ほ、ほんまに…?」


男の言葉にうちは思わず聞き返してまう。


たこ焼き作るのに自信あったけど、おとんと比べられたら月とすっぽんやと思ってたうちにとって


その言葉は信じられないぐらいの褒め言葉や。




「お、なんかすげぇ可愛い子がたこ焼き焼いてんじゃん。すいませぇーん」


「はいはい。なんでしょう?」


今度きた男三人組。


今度はほんまに柄の悪そうな連中や。それでもうちはちゃんと接客する。


「君…可愛いね?こんな寒い日にさぁーたこ焼きなんか焼いてないで、俺らと遊ばね?」


あかん。完全にナンパや、こういう奴大阪おったときから嫌いやねんな…。


「冗談きついでお客さん。うちが可愛いなんて…たこ焼きいくついります?」


「たこ焼きなんてもんいらねぇんだよ。俺らは君と遊びたいんだけ」


さっきから聞いてたらなんなん?たこ焼き『なんか』て、腹立つわぁ…。


「そないなこと言われても仕事中ですから、困りますよ」


「いいじゃねぇかよ!!なぁ!!」


そういってうちの手を急に引っ張ってくる男。


あぁー、置いといたたこ焼きの生地落ちてもうた!


「な、何するんですか!!」


「俺らと遊んだほうが絶対楽しいって!こんなもん作ってるよりさ」


何度も何度も言われて思わずカチンときてもうた。


「さっきから聞いてたら自分らいい加減に…」


その瞬間やった。


うちの腕を持っていた男の背後におった男が、ぶっ飛んでいったのが見えた。


「な、なんだよてめぇ!」


うちの腕掴んでる男が睨んでる先にいたのはさっきのお客さん。


「おい…てめぇら。てめぇらのせいでたこ焼きの生地落ちたじゃねぇか…」


下を向きながら静かな声で言うお客さん。わなわなと震えているのがわかる。


「だからどうしたってんだよ!!」


二人目の男がお客さんに殴りかかる。


あかん!こんな場所で喧嘩ごとなったらおとんの仕事に影響が!!


っと心配は無用だった。なぜなら、お客さんが二人目の男も一発殴り飛ばして終わらせたからだ。


「な、なんだよ…こいつ…」


「早く離せコラ…。てめぇのせいで狩羅さんたちに頼まれたたこ焼きこげんだろうが!!!!」


うちの手握ってた男を睨むお客さんの目は、蛇そのものやった…ほんまに怖い蛇そのものやった。


「ひ、ひぃぃぃぃぃ!!」


男は怖がってうちの手を離して倒れてる二人を起こして逃げていく。


あかん…。あかん!うち……あかんことなってる。顔が…むっちゃ熱い!




「あ、ありがとうな…」


「別になんもしてねぇよ。そんなことより早く焼いてくれ」


「そ、そない急かされても焼けるの早めることはできひんて」


「そうか。狩羅さん怒らなきゃあいいけど…」


そういって何事もなかったかのようにまたうちが作ったたこ焼きを美味そうに食うお客さん。


うちが困ってるときに、すぐ助けてくれた。こんな展開…マンガやないか!


でもあかん。なんか、直視できひんわ…。


「お、お客さんも無茶しますなぁ。あんな不良殴ったら報復みたいなあるんちゃうの?」


「あぁ?報復??なんだそれ??」


「仕返しみたいなもんや。ああいうタイプは数そろえてまた来るのがマンガの展開やろ?」


っとうちは言うてみる。もちろん彼の目は見ていない。


「仕返し。はっ!来たらまたボコボコにしてやるよ!!俺はワルだからなっ!!」




「ふっ、ほんま…アホなお客さんやな……」


そっからうちは黙々とたこ焼きを焼いていく。


お客さんは相変わらずうちのたこ焼きを食べていてくれた。


食べ終わってからまだかまだかと急かすので、退屈させないように色々話した。


「はい、だいぶ待たせてしもうたな。たこ焼き十箱お待ち!!」


「おう、ありがとよ。あぁそうだ。ここのたこ焼きは狩羅さんも俺も気に入ってんだ。


 ああいう連中来たらすぐに助け呼べよ?すぐに俺が駆けつけてやっからさ!」


最後に純粋な子供みたいな笑顔を浮かべて言って来るお客さんの顔をうちは直視してしまう。


「あ、ありがとう…」




うちが返事をしたら、そのままお客さんは振り返って去っていった。




見つけてもうた…。うちにとっての王子様や!!!




そう思いながら、たこ焼きを買いにきたお客さん。《葵龍二》の背中を見つめる少女。


関西からこちらに移住してきたたこ焼き職人の娘。






彼女の名を《八口美海》といった。



                ☆


「ついたっすよ!みんな!!」


「うぅー電車にこんなに乗るとか思わなかったなぁ…」


「本当ですね…僕なんて家族会議終わってそのまま着てるからくたくただよ…」


「お姉ちゃん…疲れた」


「あんたたちだらしないわね?」


「そうっすよ先輩。大丈夫っすか??」


電車から降りた先の駅からしばらく歩いて


クタクタになっている先輩・RB・千恵ちゃん。


普段身体を動かしてない組だな。ちゃんと定期的に身体動かさないからそうなる。


それに比べて刹那をみてみろよ。息一つ荒げてない。




「まあ、もう付きますから。見えてるでしょ?あそこが俺んちです」


先にある家を指差して言う。











「あ!おーいっ!!晴嵐!!」


すると、家の庭から女性が手を振ってきた。


俺は少し返事を渋ってると走ってくる女性。


「久しぶりー!!!」


そういいながら俺に飛びついてくる。


俺は勢いに負けてそのまま倒れる。


「「「「っ!?」」」」


俺以外の全員が驚愕とした目でみてくる。


「はっはー!どうだ弟!私のクロスチョップの威力!」


そう、決して俺に抱きついてきたわけではない。思いっきり首にチョップかましてタックルしてきたからだ。




「うっ…し、死ぬ……」


俺が生死を彷徨ってる間になぜか刹那が必要以上に驚いていた。


「も、もしかして氷歌さんですか!?」


…氷歌?誰かと間違えてるのか??


「あぁ、そっち芸名なのよ。本名は明知氷雨」


「姉ちゃん…いてぇよ」


「姉ちゃん!?」


俺の言葉になぜか刹那が驚く。


「す、すごい…あのモデルの氷歌さんの弟だったんだあんた…」


「あぁーあんた教えてないのか」


少し自慢げに語りだす姉ちゃん。


「あたし、明知氷雨はドクモやってんのよ。まあ軽いのだけどねぇー」


「あ、あたしすっごく憧れてるんです!」


あの刹那がやけに興奮して話をしている。


へぇー…刹那って姉ちゃんのファンだったのか。


「ん?どうしたんですか?先輩?」


すると、近くにいた先輩がなぜか震えていた。


先輩も姉ちゃんのファンだったりするのかな??


すると、姉ちゃんも先輩に気づいたようで、少し屈んで先輩と目を合わせる。






「…あ、あの」


「…『はじめまして』。えーっと、名前は?」


そういって俺のほうを見る姉ちゃん。


なんでだろう。ちょっと先輩がビビってるように見える。


「あぁ、黒金寧々先輩だよ」


「そう♪よろしくね、寧々ちゃん」


「え、あ…はい」


先輩は少し震えながらも姉ちゃんと握手した。


姉ちゃん女の割りには背が高いからビビってるのかな?


「んじゃあまあ、ほかの子もゆっくりくつろいでいってね」


「「「「お邪魔しまーっす」」」」


そういって俺以外のみんなは家に入っていく。


俺もみんなに続いて入ろうとすると、姉ちゃんに止められる。


「ねぇ、晴嵐?」


「ん?なんだよ??」


「あの黒金って子とはどういう知り合い?」


なぜか姉ちゃんが意味深な顔でそう聞いてくる。


んー、スカイスクレイパーのことは絶対に言えないしな。


「ただの学校の先輩だよ。同じ部活の刹那に紹介されて知ったんだ」


「へぇー…んで?あの刹那って子は彼女?」


「ばっ!ち、ちげぇよ!!」


「ふぅーん。なら…あたしが手出そうかな♪」


「…っ!?やめろよ姉ちゃんよ!俺の中学のときの彼女も寝取ったくせに!」


「えぇーでも彼女じゃないんでしょ?私あの子気に入っちゃったぁー♪ファンみたいだし」


「頼む!それだけはやめてくれ!」


俺は冬の寒い外で姉に土下座する。


中学に初めて出来た彼女は、姉ちゃんの魔の手にわたり百合っ子少女に成り果ててしまった。


「ま、冗談よ冗談。


 じゃ、あたしはお菓子でも買って来るよ。父さんに挨拶してきなよ?」


そういって歩いて去っていく姉ちゃん。


ま、気にしてもしゃあねぇか。昔っから何考えてるかわかんねぇ姉だったし









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「へぇー僕の作品のファンだったんだ」


家に入ると、今度はなんかうちの父さんと千恵ちゃんが熱心に語ってた。


千恵ちゃんが鼻息を荒くしながらコクコクとうなづいている。


「それにしても驚きましたよ。あの『暗無光秀』先生がまさか先輩のお父上とは」


なにやらRBも驚愕としている。先輩も呆然とうちの父を見ている。



「あんたの家庭ってどうなってんのよ…。ドクモの氷歌さんに人気作家の暗無先生って……」


そう。暗無光秀、本名は明知光利は作家であり、俺の父親だ。


童話チックな作品を発表しており、たまにテレビに名前があがるような作家だ。


ちなみに俺たち兄弟の名前が少し変わってるのも親父の趣味である。


「んで、親父。今日は原稿終わったのかよ?」


「…年末年始ぐらい仕事しなくていいだろう?」


「…原稿は?」


「…ほら、たまには読者と対談して意見を集めるのも」


「原稿は?」


「……まだです」


「はぁ、まあ今日ぐらいいいか。佐藤さんも休みなんだろ?」


「あぁ!あの忌々しい編集は来ない!」


「頼むから友達の前で夢壊すような作家像見せるなよ…」




そう、この親父…良い親父なんだが、ご覧の通り仕事が嫌いな駄目親父。


子供の頃に編集が来ない日は俺に構ってきて仕事をしなくて編集に怒られてた。


ま、売れてるからあんまり文句言えないんだけどなぁ


「ま、ゆっくりしていってよ。千恵ちゃんだっけ?文庫化してない話でも読む?」


父さんの言葉にコクコクと激しく首を縦に千恵ちゃん。よっぽどうれしいんだろうなぁー…可愛い。


「ぼ、僕も行って良いですか?」


「あぁ、いいよ。没になっちゃった奴だからいくら見せても大丈夫だろうし」


そういって二人を連れて父さんは書斎に戻っていってしまった。



「聞きづらいんだが、君の母親はどうしたんだ?」


「あぁー母さんはいないんですよ。離婚って奴で…」


「そ、そうか…」


あ、先輩に暗い顔をさせてしまった…。


「それにしてもやっぱりあんたの家族凄いわ。通りで田舎だけど家が大きいと思ったもの」


「ここに普段は父さんしか住んでないんだけどな。


 俺も学校通うためにアパートだし、姉ちゃんも一人暮らし始めてるし」


「「へぇー」」


「あ、お茶入れますね」


俺の田舎、歩いていると本当に懐かしい。


夏休みは色々あって帰ってこれなかったからなぁー。


書斎から二人と父さんの声が聞こえる。連れてきて楽しんでくれてるみたいだ。よかった。



「晴嵐ー!ちょっと買いすぎたから手伝ってぇー!!」


「あ、わかったー」


帰ってきた姉ちゃんも踏まえて田舎でのゆったりとした日常を送った。


こういうのも本当にいいなって思った。









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「……んで?私に話って何?寧々ちゃん♪」


「…お久しぶりです。《マーメイド》」


「あちゃー!せっかく初対面を気取ってあげたってのに」


「別に初対面を装う必要なかったんですよ。晴嵐くんも《こっち》の住人です」


「…へぇー♪あいつあたしに嘘ついてたんだ♪ま、あたしもこっちって知らなかったら当然か」


「……貴方は、憎んでないんですか?私を…」


「ん?んー、半分半分かな♪許しているし、許してない。私個人あんたを見て激怒はしないけど


 もし、貴方のことを憎んでる誰かに協力しろって言われたら私は協力する」


「そ、そうですか……」


「ま♪今日はあんたは『弟の友達』で私は『後輩の綺麗な姉』ってことなんだから、気にしないで♪


 私の愛する弟を悪い気にさせるつもりはないからね。そうねぇ、あんたが弟傷つけたらうらむかも♪」


冗談半分の笑みで言う氷雨さん。それは私を安心させる。






「じゃ、これ以上一緒にいたらバレちゃうかもだから。私は戻るねぇー」


そういって去っていく氷雨さん。あの人は昔のままだな。と思った。


しかし、それは演技なんじゃないか?という不安がよぎる。


本当はあのピエロのように激怒していて、だけど晴嵐くんが連れてきたから、抑えているのかもしれない…。


「私は…やはり解放されない運命なのかもな……」


私は一人でうつむいてしまう。


震える身体を落ち着かせるために深呼吸する。


彼女があのようにいてくれているんだ。私も平然を装って楽しまないとな。



そういって彼女も晴嵐の家に戻る。








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「なんだ?恵子。俺に用か?」


「秀人。ついに見つけたのです。《アンデルセンの宝》を、今彼ら全員帰省ですか?」


「あぁ、こっちにいるのはハチぐらいだろ?」


「そうか…はちさんだけか。戦力不足になりますなぁ。皆が帰ってくるのを待ちましょか」


「んで?その《アンデルセンの宝》ってなんだよ」


「…あの創造主の能力を得た《アンデルセン》が消える前に残した武器。


 これを持てば能力者となった我々に付加能力が付く極めつけのモノ。数はわからないけれど


 私が《アスモデウス》に頼まれていたものを見つけたのですよ……。《パンドラの箱》を」


「……それを、獲るのか?」


「えぇ、それが我々《タルタロス》の部下になったものの宿命です」


「…そうか。また、闘いをはじめるのか?」


「えぇ、そうです。今まで我侭を許したのです。今度は協力してくださいね。秀人」







俺は恵子に見えないように拳を握った。


自分の爪で手のひら切って血出るんじゃないかってほど力強く。


また…他人から奪う、他人を潰すための闘いをしないといけないのか…!!!!


「……仰せのままに。仏さま」


俺はただただ頭を下げてそう答えた。




俺の目の前の少女は落ち着いた風貌で、その手には金色の杖を持っていた。


彼女は変わった。奴に負けるまでは、本当に純粋で仏のような人だったのに!!!



俺はただ、その少女に従うしかなかった。彼女は俺の主人なのだから。


その少女の名を―――――《蛍原恵子》と言い、仲間はみな彼女のことを《仏さん》と呼んだ。










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「なぁ、刹那。お前…あの学校知ってるよな?豊麗高校って」


「えぇ、最近なんか部活動がさかんになりだした学校よね」


「あぁ、この前そこで練習試合して、俺も出たんだけどさ……完敗だった。俺は」


「晴嵐が完敗?そんな強いやつがいたの??」


「あぁ、あれは化け物だったぜ。


 強いチームではあったが、あの一人の強さが異常だった。マジでキセ○の世代だってあれ!」


「もしかして…《浪花六道》の話をしてます?」


そんなとき、書斎から戻ってきたRBが俺たちの会話を聞いて割り込んできた。


「なんだよ。《浪花六道》って?」


「知らないんですか?僕は受験高を選ぶついでに情報収集で知っているんですけど


 隣町の豊麗高校は、近年。というか本当に最近になって急激に変わったんですよ。革命が起きた。


 その理由は6人の関西からきた学生と、一人の転入生からなんですよ。


 彼ら6人はスポーツ推薦であの高校に行って、化け物のような成功をあげました。


 そして転入生はその立場を恐れずに、生徒会長にまでのし上がり


 もはや学生国家になりつつあるらしいですよ。教師よりも転入生のほうが権力が上のときがあるんですから」


「ど、どういうことだよそれ……」




「彼女を生徒たちは崇拝しています。まるで神かというようにね。


 そして彼女に付き従っている関西からきた学生6人も生徒会として活動しているんです。


 豊麗高校ではもはや名物ですよ。学園の治安も全てその者たちが守ってるといってもいい。


 その生徒会長の駒として、部活では化け物のように暴れる6人を《浪花六道》って言うんですよ」




「へぇー。そうなのか……。あ、そういえば三浦の奴が豊麗高校だったな!! 


 今度そいつに詳しく聞いてみよう!!」


「あ、先輩がボロ負けした人はわかりますよ?《小野銀次》ですよね?」


「おぉ、そいつだそいつ!!」


俺は納得して言う。


それにしても《浪花六道》か…なんかカッコいいなぁー…。






「僕はあの学校あんまり好きじゃあないんですけどね…」


RBが何かを呟く。


俺は「なんでだよ?」と思わず聞き返してしまう。








「だって、聞けば聞くほど……昔の兄さんのように見えるから」


RBはただ静かにそういった。







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「とんでもないものを手に入れてしまったね…」


「どうするんですの?正純様?」


「そうっすよ会長。守るしかないんじゃないですか??」


「そうだね……ひとまず、晴嵐くんが帰ってきたら対談式がある。その日にこの案件を出そう」




聖正純のいる正十字騎士団領。


そこで正純、美加子、隆太の三人はあるものを見ていた。






「絶対に開けれないですよね…この箱」


「あぁ、間違いない。これは…このビルで守られていたんだ。誰かがこれを狙っている」




そういって正純は生唾を飲む。


目の前にあるのは、真っ黒で禍々しい、混沌とした《箱》だった。



               ☆


「本当に、お世話になりました」


「いやいやいいよ。普段は晴嵐も氷雨もいなくて寂しい我が家もこの数日は楽しかったよ」


「本音は仕事しない口実が出来たからだろ?」


「ち、違うよ…どうせ佐藤の奴がこないなら仕事はしないから一緒だって」


本当に、最後の最後までゆったりと出来た楽しいお正月だった。


田舎で俺たちは親父と飯食ったり、正月特番見たり、トランプしたりと楽しかった。




「それにしても残念だなぁー。先に氷雨の奴帰っちゃうんだもんなぁー」


そう。俺たちが寛いでいたよりも二日ほど前に姉ちゃんは先に帰った


なにやら仕事の休みがそれまでだかららしいけどな。社会人は忙しいんだなと思ったよ。


「じゃ、親父。次は春休みにでもくっからよ」


俺がそういうと親父が俺の耳元まで近づいてきてぼそぼそと呟く。


「そのときまでに、どれか選んで連れてこいよ?」


そういって親父の視線は先輩たち女子勢。


「ばっ!あ、あの三人とはそういうのじゃねぇよ!!」


「そうか。夜あの刹那ちゃんと何やら話してたのは?」


「それも違うって。んじゃ、帰るわ」


「おう、元気にしてろよ」


「親父もな」


俺はそういって別れを告げて、先輩たちとともに元の高校のある場所に戻る。






「本当に楽しかったぞ晴嵐くん」


「あ、よろこんでもらえたならよかったです」


電車の中、まだすっからかんで客のいない車内で俺たちは田舎での暮らしの感想を駄弁っていた。


「もっとおじさんの話聞きたかったの…」


「千恵ちゃん。そんだけ未投稿原稿貰っておいてまだ不満なの……」


千恵ちゃんも父さんの原稿を持って


口では不満を漏らしているけれど、顔はとっても満足そうだ。


そんなとき、視線を感じたので見てみると、刹那がこっちを見ていた。


4人席の電車で、千恵ちゃんはRBの隣がいいだろうと、そして俺が先輩のとなりになれるように


気を使ってわざわざ向かいの席に一人で座ってくれた気の利いた奴だ。


その刹那が俺と目が合ったのを気づいて慌てて視線を逸らす。


なんだろう……そんなことをされるとこっちも凄く恥ずかしいんだが…。











昨日の夜。


先輩たちが疲れて寝付いてしまったときだった。


俺はそんな先輩たちのかわいらしい寝顔を拝見しながら毛布をかけていた。


「あら、千恵たち寝ちゃったの?」


「うん。三人とも昼に散々はしゃいでたからな。…雪で」


本当あのときの先輩たちはびっくりするぐらい可愛かった。


あの先輩までも雪を見て本当に子供のようにはしゃいでたんだから可愛さが半端ない!


あのRBも千恵ちゃんと一緒になって雪だるま作ってたりしてたから眠たくなったんだろうなぁー


俺は返事してから振り返るとそこにいるのは、風呂上りの刹那がいた。


田舎で何度か見ているけれど、やっぱり濡れている刹那の髪を見ると少し顔が紅くなってしまう。



「ちょっと……いい?」


そうたずねてきた刹那はどこか艶かしかった。


「あ、あぁ…」


俺たちは部屋の窓から綺麗な月が見える。


あれは新月から新しく出始めているんだろう。少し奇妙な形の月が見えた。


「ねぇ…」


「な、なんだよ」


なんでだろう。


風呂上がりだからか、少し艶かしく見える刹那の唇に目が行く。


たずねてきたその言葉が俺の鼓動を早くする。






「あんた…《チーム》とか考えてないの??」


「……え?」


急に言われたことに俺は思わず虚に突かれた。


雰囲気が雰囲気だっただけにちょっと色々考えすぎたな…////反省反省////


「…どうしたのあんた?顔真っ赤だけど」


「うっせぇ!さっきの酒の酔いが回ったんだよ!」


「あんた酒飲んでなかったでしょ」


「うっ……」


駄目だ。言い訳がすぐに看破された。


「ま、いいわ。んで、話の続きだけど、あんたはチームを作らないのかって話」


「だからチームってどういうことだよ?」


「はぁ…。あんたは仮にもあのビルの『王』になったのよ?


 それなのにあんたは…一人でいるつもりなの?」


「あぁ?何言ってんだよ。俺は先輩の《メルヘニクス》に―――――」


「だから、それがダメだって言ってんのよ」


俺の言葉を遮るように刹那が言う。


俺の頭にさらに、?マークが浮かぶ。






「ビルの王であるあんたが黒金寧々の配下についてたらダメなのよ。


 王よりも上の奴がいる。それが許されるほど、世界はあまくない。


 別に《メルヘニクス》から抜けろってわけじゃないの。ビル同士の戦争になったとき、


 あるいは喧嘩で代表戦になったとき、あんたには独断で従ってくれる仲間がいるのよ。


 あんたがリーダーの《新組織》が」


刹那にいわれて俺は思わず絶句してしまった。


そうか…俺は王になったんだから、もしこのビルに喧嘩を吹っ掛けてきたら俺が相手にならないといけない。


確かに、もう先輩の後ろに立っているだけじゃあダメなんだよな…。


ヘラクレスさんから譲り受けたのはこの俺なんだ、あのビルを護るのはもう先輩でもヘラクレスでもなくて


この俺になってしまったんだ。それを、俺の問題を俺よりも先に刹那は思ってくれたのか。


やっぱりこいつはしっかりしているというか。いい先輩だ。






「そ、それで…ね?」


「ん?」


俺が自分の立場に痛感していると刹那が何かを言って来る。


「あたしは、あんたがチームを組んだとき、真っ先にあんたに付くから


 あんたの後ろを、あたしはずっと歩くつもりだから…。寧々よりもあたしはあんたを選ぶ」


「…あ、あぁ」


なんだろう。そういう意味じゃないのにすっごい恥ずかしい。


「…っ//あ、あんたがそういう顔しないでよ!あ、あたしも恥ずかしくなっちゃったじゃない」


「あ、わ、悪い…」


その後、なんともいえない沈黙が走る。


刹那の奴…そこまで俺のことを考えてくれてるのか。


俺にもしもチームが出来たら、俺の隣には刹那がいるのか…。


「と、とにかく。あんたに付いて行こうって連中はいるはずよ。


 車田なら喜んであんたの仲間になるだろうしね。優もきっと仲間になりたがるでしょ」


「そ、そうか…」


俺に、仲間だけど、部下としての仲間が出来るのか。


中学でもキャプテンなんて経験したことないから初めての感覚だ。



「ま、だからあんたにはその自覚を持って欲しかったのよ。


 あんたの第一の部下が確かに忠告したわよ。じゃ、お休み」


刹那はそのまま俺に背を向けて


布団を人数分引いて、寝ている千恵ちゃんたちをそこに移動させていた。




「俺が…ボスなんだな…」


改めて俺はそう痛感した瞬間だった。


「よし、刹那。俺も手伝うよ」


そういって俺たちは寝ている先輩たちを布団に移動させ


自分たちも布団に入って眠りに入って言ったんだ。









電車内


「帰ったら、生徒会長と話さなくちゃいけねぇんだよな」


その前に、俺の仲間になってくれるような奴をスカウトしないといけないのか。


そんなことを考えながら、俺たちを乗せた電車は街に向けて走っていく。










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「ただいまぁー!大阪はやっぱりええとこやでぇー」


「お帰りとらちー!!私帰れへんかったから寂しかったでぇー!!」


俺らの前に現れたとらちーに向けて


仲間である一人の女の子が飛びつき、抱きついている。


「あ、かずたんからメールやで。もう来るってさ。ぎんちゃんからもきてはるわ」


「まーくんは?」


「あぁー…なんか、《猫を助けてるから遅れる》とかなんとか…ほんまにあの阿呆は…」


呆れたように言うとらちー。




そうしていると残り二人の男が入ってくる。


「悪い…遅れたわ」


「ん?まーくんはまだなんか?」


二人の男がそういってキョロキョロとしている。


「すまん。まだきておらんのや、あれにはおいおい説明することにするわ」


そういって、俺の隣に座っていた恵子が立ち上がった。




「秀人には既に伝えてるんだけど、貴方たちにも報告するわ。


 私たちが求めていた《パンドラの箱》が見つかった。場所も所持者もなぁ」


「「「「ッ!?」」」」


「その場所は《正十字騎士団》領。持ってるのはそこのボス。聖正純です」


「聖正純言うたら、あれやろ?天壌高校の生徒会長やろ?うちは一回ほとけさんと一緒におうたやん」


「とらちーの言う通り。あそこの高校の生徒会が《パンドラの箱》を持ってるんや」


「んで?だったらすぐに喧嘩するのかい?」


がたいの言いかずたんが俺に対してそう尋ねてくる。


「いや、もちろん今すぐいくべきなんだろうが、もうすぐ聖正純とあのヘラクレスを倒した明知晴嵐の対談がある


 もしその直後に喧嘩吹っ掛ければ奴は絶対に絡んでくる。その覚悟を決めてからじゃねぇと無理だ」


「おいおいシュートてめぇがそこまで評価するんかぁ?」


「ほんまやでシュート。うちらよりも強いんか??」


かずたんととらちーがそう聞いてくる。




「あぁ、俺たちも負けるかもな。


 俺はあの現場で、生で童戦祭を見てきたからわかる。あのビルは本当に強者揃いだ」


「「「「………」」」」




「まあ、それでも大丈夫です。私たち《浪花六道》は負けることはありません。


 彼らから《パンドラの箱》を獲るのです。あの《アスモデウス》の頼みなのですから…」


そういって、俺たちの影は、着実に正十字騎士団と…晴嵐たちに忍び寄っていたんだ。




晴嵐……悪い。俺はお前の敵にならなきゃいけねぇみたいだ。







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「晴嵐くん」


「ん?なんですか先輩?」


家から戻ってきて、翌日のスカイスクレイパー


俺はとりあえず対決に勝利して、その終わりに黒金先輩に声をかけられる。


「君に大事な話があるんだ」


そういわれて、俺と先輩は二人きりになれる場所に移動する。


俺はわかってる。言われた瞬間にちょっとドキっときたが、刹那ので反省済みだ。


今の先輩のトーンだとまずそういう方面の話題じゃないことはわかってる!!


「そのだな。私も…君のおかげで少し暇が出来ただろう?」


「え、あー…。そうなんすか?」


「あぁ、君という王がいれば、このビルは安泰だ。だから……私は旅をしたい」


「…へ?」


「だから、私は旅をしようと思う。


 言われてみれば私はこのビルとオーディエンスしか移動していないからな。


 君ならこのビルを護りきってくれると信じている。だから任せてもいいか??」


先輩が…そこまで俺に信頼を置いてくれているのか…。


「はいッ!任せてください!!先輩!このビルはこの俺明知晴嵐が護ってみせます!!


 刹那も俺の部下として付いてくれると言ってくれたんで!!」


「そうか…任せたぞ」


「はいっ!」


そういうと先輩は背中を向ける。


もう今日から違うビルに旅立っていくんだろう。


「あっ!先輩!!」


「ん?なんだ?」


「RBは連れていくんですか??」


「いや、あいつにももう私以外に奴を必要としているものがいるのでな。


 RBは私が旅に行くと言えば絶対についてくるだろうが、それではダメだ。奴はまだここで鍛えないといけない」


そういって先輩はまた歩みを進める。


やっぱり小さい身体だけど、俺やRBのことを常に考えてくれるいい心の大きい人だ。






「では、君はこれから正純と対談だろう。行ってこい。さっき刹那が探していた」


「あ、はい!わかりました!!」


そういって俺と先輩は互いに背中を向けて去っていった。


もうしばらくはこのスカイスクレイパー内で先輩と会うことはないのかと思うと少し寂しい気もするが


プライベートでは会えるんだよな。と自分を納得させて俺は刹那を探した。






「あっ!いた!!晴嵐!早くしないと生徒会長待たせてるわよ」


「悪い悪い。ちょっと先輩と話してた


そういって俺たちは正純の所へ向かった。






そのときだった。


声をかけられる。


「おい、晴嵐」


「ん?あ、飛来じゃねぇか。なんだよ?」


「……俺も連れていけ」


「へっ?」


「黄鉄さんの…王の直属だった俺たち《三人将》は黄鉄さんの命も、そして俺自身の考えも含めて


 お前についていく。お前の側近が刹那だけでは頼もしいが、少し用心不足だ。俺も行く」


その言葉を聞いて、俺はかなりうれしかった。


あの飛来が俺の仲間!これ以上頼もしいことはない!


「あぁ!こっちこそ頼む!お前が仲間になってくれるなら俺はどんと胸晴れるぜ!」


そういって俺は飛来に握手を求める。飛来もクールに微笑んで俺の腕を握ってくれる。






「あんたら…ライバルの友情確かめるのはいいけど、早くしないと遅れるわよ?」


「あぁ!そうだった!!飛来急ごう!!」




そして俺・刹那・飛来は正純のところへ向かった。














「待ってたよ晴嵐くん。さぁ、大事な話をしよう」


たどり着いた先で、正純は王者の貫禄を示しながら、座って俺を迎えた。



               ☆



「さぁ、大事な話をしようか…晴嵐くん」


俺が向かった正十字騎士団領の一室。


そこには座っているRBの兄貴聖正純、そしてその後ろに立っている伊達美加子先輩と上杉隆太。


「へぇー、君はその二人を従えるのか。凄いメンツだね」


正純が俺の後ろの刹那と飛来を見て言った。


刹那と飛来は慣れているかのように礼儀よく立っていた。


俺はいまだにこの真剣な空気に慣れないまま、正純の前の席で座る。


「んで?一応形だけの対談って話だったはずだが?」


「あぁ、もちろん僕ら正十字騎士団と君たちのビルは協定関係を置こうと思う。


 今までボスのいなかった君たちのビルにも、今はしっかりいるしね…晴嵐くん」


不敵な笑みを浮かべながら正純は俺に言ってくる。


「だからこそ、王同士がしっかりと話をして協定を結びたい」


「今も形は結んでいるような形なんだろう?」


「しっかりとした契約が欲しいのさ。僕たちと君たちが仲間でありたいからね」


そういって正純が美加子先輩を呼び出した。彼女は何か大きな箱を持ってきた。


「これは、君にとっても魅力のあるものなんだ」


置かれた大きな箱。それを開けると……さらにその中に箱があった。


ただの箱のはずなのに、どす黒いオーラが感じられるものだった。


「これは……《アンデルセンの宝》と呼ばれるものの一つ…。《パンドラの箱》というんだ」


「パンドラの箱、開けたら絶望が降りかかっていくって言うものよね」


刹那が思い出したかのように言う。


「それよりも、《アンデルセンの宝》って!!」


「そうだ。


 君の先輩黒金寧々の属していた組織メルヘニクスがボス《アンデルセン》が創りあげた。武器のことだよ」


「っ!?」


俺はその言葉を聞いて驚きを隠せなかった。


先輩のボスだったアンデルセンが創り上げし宝。それが今…目の前に


「そう驚くことではない。《12の伝説》だってその一つなんだろう?」


飛来がそう呟く。12の伝説は、俺との戦いでヘラクレスが使っていたものだ。


「あぁ、そうだ。ヘラクレスが使っていた鎧もその一つだ。


 そして、本題はここからだ。晴嵐くん、君と僕たちでこれを《護って欲しい》んだ」


「え?」


「これを、狙っている奴がいるんだ」


「だ、誰ですか…?そいつらは??」


「……《浪花六道》っすよ」


正純の代わりに隆太が呟いた。


その言葉に俺たち二人は絶句してしまう。


浪花六道。豊麗高校の生徒会幹部たち、運動部のエキスパート集団。


そいつらが……このスカイスクレイパーにも顔を出していたのか。


「そいつらがなぜか、この《パンドラの箱》を狙っているらしい。


 現に彼ら本体は着ていないが、既に小競り合いは喰らっている。


 そこでお願いだ。彼らは時期本体が出てくる。そのとき、僕たちと一緒に闘ってほしい。明知晴嵐くん」


「………。」


「こっちの利益は?」


俺の代わりに、飛来が聞いてきた。


やべぇ、俺なんも考えてなかった…。


「そうだねぇ、君のところに僕の兵力を一人。あげよう、もちろん貸し出しという形だけど


 僕のビルの参加者を一人。好きなものを君の部下として与えよう。誰がいい??」


その言葉を聴いて、俺にはもう一人しか出てこなかった。


「優!優を俺にくれ!!!」


「…いいだろう。彼なら君の部下に快く受け入れるだろう」


「っしゃあ!!」


これで刹那・飛来・優と俺の仲間が三人になった!


これであとで車田に頼み込めばあいつはきっと仲間になってくれる!!!


「あ、そうだ。もしあたしたちがあんた達と一緒に《浪花六道》と闘うとして


 奴らの情報はもうあるの??」




「あぁ、あるよ。相手の能力までは把握してないけれど、その見た目と名前ぐらいはね。


 向こうの生徒会長《蛍原恵子》。そしてバスケ部《小野銀次》水泳部《八口美海》女子柔道部《虎坂千夏》


 ラグビー部《戸雷和樹》空手部《広部正義》そしてサッカー部…《三浦秀人》だ」


「っ!?やっぱり…三浦もなのか…!!」


俺は少し下唇を噛んだ。


浪花六道が敵って聞いてなんとなく感じていたが、やはり三浦と俺は敵になってしまうのだろうか…。


「とにかく。彼らはとんでもなく強い。


 それだけはわかってる、とあるビルがたった6人で突破したという話もあるからな。


 いつ攻めてくるかわからないが、そのときは力になってくれ」


「わかった。俺は、あんたら正十字騎士団と協定を結ぶ!」


「…ありがとう。今日はご足労かけたね、もういいよ」


「あぁ、俺今から行く場所あるから。またな」


そういって俺は、正純のところから去った。








「さて、俺は俺の兵力を整えないとな」


そういって俺はそのままあの男の元へ向かった。







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「……これはどういうことだ。アン」


「今は冬です。寒いのです。清五郎」


「…だからってこりゃねぇだろうおい」


俺の家。今日は眠たくてずっと寝てたんだが、起きたら俺の布団にアンが入っていた。


こいつの分の布団も敷いてたはずなんだが……


「こうしたほうが暖かいではないですか」


「お前なぁ…」


俺はアンを引き離して離れようとする。


するとアンの奴は俺の腕を取り押さえてしまう。


「なっ、何を考えてやがるアン!!」


「…動かないでください清五郎」


くそっ!こいつ無駄に力が強い!!


足も完全に押さえつけられている!俺何されるんだ!?


「太陽さんから聞きました。時には強引に……と」


「師匠何教え込んでんだ!!!」


なんとか抜けようと必死にもがく。


しかし、やはりあのピエロの元でさまざまな仕事をこなしてきたアンなだけあるのか


とんでもねぇ力だ。本気出さないと動けそうにない……。


「いい加減あきらめてください清五郎!!」


「っていうかこういうのは男の俺の役目じゃねぇのか!?」


「貴方がしてこないからでしょう」


「だからってこれは間違ってるって!」


「大丈夫です。愛があれば無理やりもOKです」


「その理屈どっからきやがった!」


「とにかく、あきらめて今日は暖まりましょう…」


「こんのぉ!」


俺は抜けようと身体を左に傾けてアンと俺の立場を逆にする。


これで俺が離れれば万事かいけ……。


「て、てめぇ…」


「今日という今日は逃がしません」


俺が離れようとすると、アンは腕と足を絡ませて意地でも俺が離れられないようにした。


くっそぉ…ガチで抜けねぇ……!!俺寝起きで風呂入りたいんだが……。








「おーっす。車田ぁー、鍵開いてるから入るぞぉー」


そのとき、いきなり扉が開かれた音がした。


そこにいたのは、俺の戦友。明知晴嵐。俺は冷や汗がどっと飛び出した。


今、あいつの視界にはどう映っているだろう。


寝起きパジャマの俺とアン。そして、アンを押し倒している……かのように見える俺。


そして押し倒されて頬を赤らめている…かのように見えるアン。


そして散々の戦闘の末、散らかった布団周り…。


「……悪い。車田、お前の大事な時間を俺は…俺はぁー!!」


「ま、待ってくれ!!俺は無実だ!!」


「うぉぉぉぉぉぉ!!死ねぇーリア充がぁー!!!」


その後、俺は必死にアンから逃れて晴嵐を追って




小一時間ほど、説得に言い訳を重ねてなんとか誤解を解いた。






「はぁ…悪かった。わかったよ、お前らはただ喧嘩してただけなんだよな」


「いいえ、私が清五郎をおそお――――」


アンさんが何かを言おうとしてたが、それを叩いた車田によって途切れた。


いま聞いちゃあいけない台詞だったような…。


「んで?わざわざ俺の家にきてまでなんのようだ?晴嵐??」


「あぁ、そのことなんだがな。……俺の仲間になってくれ」


「あぁ?何をいまさら…」


「ちげぇよ。《メルヘニクス》じゃなくて俺の組織を作るんだ。


 先輩も旅に出てもうビルにはいない。この俺がリーダーとしての新組織を作りたい。


 そのためには、おめぇの力が必要なんだ!車田!!」


俺の言葉を聴いて少し渋る車田。


まあ、こいつは元々チームとかに属するつもりのない奴だったもんな。


「…いいぜぇ、面白そうだ。お前の仕切るチーム」


「私も、清五郎が入るなら同行いたします」


アンさんもそういってくれる。これで車田とアンも俺の仲間だ!


「んで?チーム名とかは作ってんのか?」


車田がそう聞いてくる。俺は思わずにやりと笑みを浮かべてしまう。


「あぁ…カッコ良いと思うのを考えたぜ!!俺の組織の名前は《リムバレット》だ」


「RIMBULLET…弾丸の輪って意味ですか?」


「あぁ、俺たち一人一人は敵をなぎ払う弾丸だ。そして輪を成し、協力する。


 それが俺が追い求めているチームって気がしたんだ」


刹那にいわれて考えた俺のチーム。


先輩のために、自分のために、襲い掛かってくる奴らを全て打ち抜ける強力な弾丸。


一人でも強い弾丸を、輪のように囲み、さらに強い弾丸を作る。そうすれば、先輩もみんなも護れる。


「…へっ、いいネーミングセンスしてんじゃねぇか。俺は気に入ったぜ!!」


「私も、悪くないと思いますよ?」


「そうか!じゃあ、これからはよろしく!!」


「あぁ、俺はおめぇの戦友であり続けるよ。いつまでもな」


そういって俺と車田は握手した。


思えばこいつとはもう長い付き合いだ。スカイスクレイパーでこいつに頼ってない日はない。


刹那、飛来、優、車田、アンさん、みんな頼りになる俺の最高の仲間になってくれた。


もう誰にも負ける気がしなくなってきたぜ!!


「んで?わざわざここまできてその話をしてきたってことは早速リムバレットの仕事があるんじゃねぇのか?」


「あぁ、やっぱりお前は鋭いな。実はだな」


そして俺は、車田とアンに《浪花六道》の話をした。


近々そいつらと戦うことになるかもしれない。


そうなったときに力を貸してほしいと頼んだ。彼らはもちろん承諾してくれた。







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「ん?どうしたの??龍ちゃん」


「いや、なんか付けられてるような…」


「気のせいだよぉー♪多分」






あぁー危なかった。


気づかれたらなんていったらいいかわからへんもんな…。


うち、八口美海は現在尾行中。いや、悪いことしてるんやないで?


偶然買い物途中で龍二さんを見つけたから…その、あとつけてるだけで……。


それにしても…かっこええなぁー。となりの人はお友だちやろか??


なんか優しそうな人やなぁー龍二さんとはどういう友だちやろか?


それに龍二さん買い物袋持ってる。もしかして!?自分で料理するん!?


ますますうちの王子様やぁー♪料理できる男がうち好きやねん。


二人でたこ焼き屋経営してそんでぇー…えへへぇ……。






「あっ!龍二じゃん」


そのとき、何やら龍二さんに言い寄ってくる女が現れる。


誰やあの女…!やけに可愛いやんか……。


「お、これは刹那ちゃんじゃん♪」


「あんたに刹那ちゃんとか呼ばれる筋合いないわよ!それより!!あんた今日料理当番でしょう!?」


「あ、悪い悪い。じゃあ古田さん。俺はこの辺で」


「はいはぁーい」


「ほらっ!千恵が腹空かせてんだから早く来る!」


「ちょ、ひっぱんなよっ!!」


な、なんやあれ!?


あの女、龍二さんと腕組んでる!!


しかも引っ張るようにして……まさか!龍二さんの彼女さん!?


「許せん…!あの女は許せん…!!」


うちの王子様を、うちの初恋を踏み躙りよって…。


あの女だけは絶対に許さへんでぇー!!


「…あ、もしもし?とらちー??え?攻め込む日決まったって!?明日!?……わかったすぐ行くわ」


そういってうちは電話切る。


あの女…絶対うちが超えて龍二さん奪ったるさかいな!!


私はまだ何も知らない刹那という女にライバル意識を燃やしながら、とらちーのところへ向かった。







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「随分と早い攻撃だったね……」


「大丈夫ですよ…今、明知晴嵐に連絡いたしました。すぐに来るでしょう。それに…」


「俺らには今、偶然にも勝利の女神と地獄の姫がいるんすからね♪」






「はい。ここにいたのも何かの縁です。先輩がたどり着くまで、僕らで食い止めますよ」


「千恵も頑張るのぉー」






そして、正十字騎士団領地に対して《浪花六道》が、戦争を仕掛けてきた。



               ☆


「向こうは挑発のつもりでしょうねぇ…。たった二人です


 けれど、既にこちらの兵のほとんどはリタイア。しかもたった一人で、です」


「ッ!?」


「戸雷和樹…《浪花六道》の一人が兵を皆…やりました」


「なんてことだ。やっぱり化け物集団みたいだね…」


ただただ驚くしか出来ない正純。


今、彼の弟聖孝明が、忍者を使って映像をこちらに転送してきている。


そこにいるのは身体の大きい男《戸雷和樹》と目立った髪色の少女《虎坂千夏》の二人。




「すみません兄さん。忍者が付いた頃にはもう兵はほとんどやられてて、二人の能力が見れてない…」


「なら、俺が行くしかないな」


そのとき、一人名乗りを上げてきたものがいた。織田太郎だ。


「大丈夫なんですか?」


「あぁ、一番槍を舐めるな。それに…向こうも何かの交渉だ。


 無理にここで叩こうとすれば逆鱗に触れる。俺一人が小手調べも兼ねて言ってくる」


そういうと、誰にも有無を言わさぬ威圧で戦場へ向かう織田太郎。


その姿には勇ましたが感じられた。







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「ぐッ…貴様ら!!」


「おうおう、国家規律って聞いたからもっと強いんやと思っとったんやけど…拍子抜けだな」


「いやいや、かずたんが集団戦に強いだけやん♪それにこの人らただの人やで??」


そういう虎坂の言葉を聞いた兵士は、戸雷に頭を掴まれて持ち上げられる。


「き、貴様らに…正純様のところへは……」


「へッ、流石は騎士様やなぁー誇りの高いこって!!」


その頭を軽く投げ、宙に浮いた兵に目掛けて、戸雷は強いタックルを繰り出す。


ぶっ飛ばされる兵。それを俺は、身体を使ってなんとかキャッチする。




「かずたんかずたん。あの人ほかの人とちょっと服ちゃうで?」


「…ってぇことは、あんたが《幹部》様か?」




「あぁ、そうだ。そこで倒れてるうちの仲間の上司だ。《ラハイヤン》の聖剣を持っている」


そういって俺は自身の持つ聖剣を誇示する。


「ほぉー初めて見るな聖剣使い。カッコいいねぇーその白金の剣」


身体の大きいほうの男、戸雷和樹が拳をパキパキと鳴らして


「うちは加勢せんでええ?」


「あぁ、ここまで来たら一人でやりたいやん」


そういうと戸雷は股を開けて何かの構えに入る。


あれはラグビーの構えか


「Set…HA!!」


その瞬間。とんでもないスピードでこちらに向かってくる。


俺はそれを剣で受け止め、いなす。


「ッ!?」


衝撃を使って横へ避けたことに驚いた戸雷はそのままタックルの余力で進んでいる。


俺はラハイヤンを伸ばし、振り返るのように剣を振るい、戸雷を襲う。


そのときだった。俺の目にはとんでもない光景が浮かんだ。


余力から止まった戸雷の横で……俺の剣を受け止めている戸雷がいた。


「油断してるとタックルくるで!!」


「ッ!?」


さらにその瞬間だった。後ろからの衝撃。


なんとか目で後ろを確認すると、そこには三人目の戸雷。


(ど、どうなってやがる!)


俺は高く飛ばされる。


落下地点に二人の戸雷が待ち伏せている。


このまま疲れまれば確実に止めを刺される!


俺はラハイヤンを伸ばし、ビルに突き刺し、それを元に戻して空中を移動し、ビルの壁に着地する。


「間違いねぇ。あの野郎…増えてやがる!」


ビルの上から見た光景は、三人の戸雷和樹が俺を見ていた異様な光景。


幻覚とかじゃあない。全員俺の攻撃を受け止め、俺に攻撃してき、剣にも触れた実物だ。




「はッ!ここは天下のスカイスクレイパーやで?これぐらいで驚いてたらあかんぞ、われぇ」


にやりと笑いながら、元の一人に戻った戸雷。


なるほど、やはり強さは本物だ。単純に分身能力ならそこまで驚くことはない。


ただ、奴がラグビー部ってことに問題がある。今のタックル、あの一撃で背中の骨が砕けそうだった。


そんな奴が、何人にも増えてこられたらたまったもんじゃねぇ!!何か策を考えねぇと…。


「おいおい降りてこいや。降りてこやんのやったら…落とすで」


そういってきた戸雷はまた分身をしてくる。どんどんと数を増やす。その数…13人。


一列に並ぶ奴はさながらこれからラグビーの試合が始まるようだった。


「Set…HA!!」


一人の言葉と同時に、全員がビルに向けて突撃してくる。


超人系のしかもパワーが備わっている能力者13人のタックル。ビルが大きく揺れ、皹が生じる。


俺は空中に放たれ、奴の一体を伸ばしたラハイヤンで突き刺す。


姿を消す分身。そして剣の能力で無事着地した俺はラハイヤンを伸ばし、


回すように分身していた戸雷を切り裂く。


次々と襲い掛かる戸雷に俺は攻撃で飛ばし続ける。


俺が振るった剣に戸雷が止めにかかり、その場で剣が静止する。


その直後に剣を元のサイズへ戻す。力を与えてた対象が突如消え、力の行き場をなくした


戸雷軍団は全員倒れる。その隙に俺はもう一度ラハイヤンを伸ばして突きを放つ。


一人のラハイヤンの身体を捕らえ、そのままビルまで叩きつける。


「…がはッ!!」


「正十字騎士団舐めんな」


「んじゃ、本気でいこか♪」


「ッ!?」


その瞬間。


気づかなかった。自分の懐にさっきまで見物していた少女がいたことに


俺よりも一回り小さい少女が純粋そうな笑みを浮かべて俺を見ていた。


彼女は見る間もないスピードで俺の服を掴むと、その瞬間、俺は空を見ていた。


背中には強烈な痛み…地面に叩きつけられたのか。俺は…。


「おいッ!とらちー!何勝手に闘いに入ってんだ!」


「あぁーごめんごめん。許してーな。だってこの人強いんやもん♪」


「くそッ!これで俺が勝っても後味悪いやんけ」


俺は背中の痛みに耐えながら立ち上がる。


さっきのタックルと背負い投げ、これだけでここまでダメージが行くものなのか?


「ほんまにごめんやん。次からほんっまにうち入らへんからさ」


「なら黙ってみとれ。こいつは俺が倒すんや」


そういってまた分身する戸雷。その数三人。


「…すぅー」


俺は一度呼吸を整えて、剣を構える。


「Set!…HA!」


三人がこちらに向けてタックルしてくる。


その途中、二人が左右に分かれて移動する。三点から攻撃を仕掛けてくるつもりか。


おれはなんとかそれを目で追う。取り乱すな。


…来る!!


俺は一人目のタックルをただ避ける。


そしてその瞬間に一点目掛けて剣を伸ばす。案の定、剣の先に二人目。


そしてそいつを突き刺したまんま振り回して三人目に当てる。


その瞬間に俺は飛んで剣の上に乗る。


「4人目が着てることもわかってるよ!」


タックルを避けた俺は剣を振るい4人目にも攻撃を当てて


そのまま突き刺した剣を元のサイズへ戻してビルの壁まで移動する。


しかし、そのときだった。俺の胴体を、誰かに掴まれる。


「悪いなぁー。さっきのは演技♪うちら、敵にまで義理人情あるほどお人よしやないねん」


また……あの女だった。


俺の胴体にしっかり腕を捕らえている。ここは壁!確実にやられる!!


「柔道の技とはちょいちゃうけど!バックドロップ!!」


「―――ッ!?」


俺はビルの壁に頭から直接叩きつけられる。


ダメだ。剣を持っているだけで肉体的恩恵を受けていない俺にはもう………。




「はぁー、いくら作戦とは言え、やっぱ後味悪いわこれ」


「しゃーないやんか。あのままかずたんだけにやらしてたら下手しい負けてたで?」


そういう少女はにやりと笑った。






「さて…これでうちらの脅威がわかったことやし、そろそろほんまに出てもらおうか♪なっ♪大将さん♪♪」


その瞬間。分身していた戸雷の一人が、誰かを取り押さえてうちらのほうに運んでくる。


そこにおるのは目にカメラっぽいのつけた忍者姿の奴。恐らく召還系の人のやろ


「聞こえてるかぁー♪大将はん♪あんたの仲間はうちらがボロボロにしてもうたわ。


 でもまだリタイアなってへんてことはまだ一応は意識あるんやろ。でも、あんたらが応じひん場合。


 この立たれへん人をかずたんの集団でタックルしてもらうことになるで?」


カメラに向かってそんな言葉を言っている。


これは映像と共に正純に届いているだろう。くそっ、情けない。


これでは足を引っ張ったかませ犬ではないか。


『そっちの要望はなんだい?』


「こっちの要望は一つ。《パンドラの箱》を渡してほしいだけや。


 別にそちらはんには必要のないもんやろ?ならええやんか。うちに渡してぇな」


『君達が奪ってくればいいじゃないか。無理やりにでも』


「それもそうはいかんのや。だって今かずたん強がってるけど、結構重症やねん。


 そちらの倒れてるお兄さんのせいでなぁ?


 そんなんがまだまだおる場所にうちら二人で攻めるのは末恐ろしいっちゅうやつやで」


「おいとらちーそれを言うなよ!せっかく見えはって我慢してたのによ…」


『それでも…僕らはこれを渡すわけには行かない』


「…せかぁー。ならどないしよう…みんな呼んだら勝てるやろうか?」


『言っておくが、君達がいく先にはさらに強い軍隊が待ち構えている。


 いくら残りの4人を呼んでもただじゃあすまないと思うよ?』


「せやなぁー。どないしよ」


虎坂千夏は指を頬に当てながら悩む。


「ま、とりあえず。その戦力は減らせると思うで♪」


不敵な笑みを浮かべている虎坂千夏。


(うちら二人で攻め立てたら…。っ!?)


「気をつけろ正純!!こいつらの言葉をしんよ―――」


「おっとすまねぇな!!あんたはここで退場や」


その瞬間だった。戸雷に頭を掴まれて思いっきり地面に叩きつけられる。


(ここままでは…あの二人が危ない…!)


そして俺は…意識を失った。







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「ほんまごめんなぁー。なんか君がすんごい能力でゾンビ出せるって聞いたからさ」






「それの護衛の姉ちゃん美人さんやなぁ、どや?俺っちと遊ばねぇ?」


「わ、私は…貴方みたいな男は嫌いですわ!」


「あっそ。それは残念やわ」




目の前に広がる光景は、見るに耐えるものだった。


一人の少女が倒れている。葵千恵だ。その前に立つ一人の少女、《八口美海》


そしてもう一つ。あの伊達美加子の首を握り締めている。巨大な『鉄の腕』を持つ少年。


「っていうかぎんちゃん!そりゃ首絞めてデート誘っても断られるだけやん!!」


「あぁ?そういうもんかぁ?」


「はぁーこれやから。女心がわかっとらんねん!」


「ほぉ、お前が女心を語るのか」


「うちは女やっ!正真正銘の乙女や!!」


「たこ焼き焼いてるのに?」


「たこ焼き焼いてる美少女おってもええやんかぁー!」


「自分を美少女って言うなよ」






「ふ、ふざけてるわね…」


首を絞められて苦しそうな声で言う美加子。


「おいおい、関西人にふざけてるは褒め言葉やで?やっぱり俺に気ある??」


「んなわけあるかい!!」


「…お前そのハリセン持ち歩いてんの?」


「いや、これとらちーの借りモン。一回やってみたかってん」


「お前のやないんかいっ!」


首を絞められてこの光景を見ている美加子は複雑だった。


自分を追いやった二人がここまで阿呆な会話をしているのが腹立たしかった。


「んじゃ…こっちも止めと行こうか」


「うっ…!くっ!!」


「いいねぇ、美女の苦しむ声、そそるわぁ」


「ほんまに変態やな自分…」




そんな会話を聞いたまま、私は気を失った。







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「しゃあない。ただで渡してくれんのやったら、それを賭けて決闘しようや。それでええやろ?」




脅しにしか聞こえない提案。


こっちはたった今太郎に、美加子に、千恵ちゃんを不意打ちで重症に追いやられている。


まだ…二人いない。《浪花六道》の二人がいない。ということはこれに応じなければいきなり二人が襲ってくる


場合も考えなければならないということだ。こっちは今、孝明と僕と隆太しかいないのに






「わかった……応じよう。決闘方法は?」


「いんや。ちゃうな。うちらはほとけさんも入れて7人。そっちは何人でもええ。《チェッサー》でいこうや」






「…わかったよ。開催日は二日後でいいかい」


「いんや、明日や。今が夜やから、明日の昼からや。それならほとけさんも許してくれるやろ♪」




「くッ…交渉成立だね」


「ありがとさん♪じゃ、うちらは一回帰るとするわ」


そういって、虎坂はほかの4人を連れて帰っていった。






「兄さん……」


「本当に困ったね…。晴嵐君たちが着たら説明しないと」






僕は項垂れた。


そして明日始まる《チェッサー》に対して決意を固めた。



              ☆



「そんな…」


俺が目の前で見ていた光景は、見るに耐えないものだった。


倒れている織田先輩、伊達先輩、それに千恵ちゃんの三人。


そして申し訳なさそうに汗を流しているRBと正純の二人の姿。


俺は伊達美加子先輩に呼び出された優と共に、この場所に向かってきたんだが…。


どうやら手遅れだったらしい…。


「本当に、一瞬の出来事だったよ。


 僕らが、君達を呼ぶ前に終わらせるつもりだったんだろうね。


 バレないように慎重で、嘘を重ねられ…見事に僕らは彼女の要求を飲むしか出来なかった」


そういう正純。


俺たちが間に合わなかった間に何があったのか…それはこの光景で大体検討が付く。


俺は闘ったことないが、織田太郎先輩の強さは知っている。あの車田が相打ちに持っていくしか


勝つ方法が見つからなかった先輩だ。その織田先輩がここまでボロボロに


それに刹那と結局決着が付かないほど死闘を繰り広げた伊達先輩もこの有様…。


「と、とにかく!メアリーを呼ばないと!!」


「あ、あたし電話番号知ってるよ!!」


刹那がそういってメアリーに電話をかけてくれる。


『は、はい。刹那さんですか?』


「はい!メアリー様!一つお願いが!こちらに重病者がいるのです!!」


『そ、それは大変です!す、すぐ向かいたいのですが、私は外出許可証を持たぬ身ですので……


 すみませんが、そちらから誰か使者を送っていただかないと』


「そういうことなら俺が行くよ」


そういって名乗りでる隆太。




そして隆太はメアリーを向かえに行く。






「こ、これは…三人とも重症デスネ。時間がないですし…今日で治すことは無理かと」


「そうだね……」


ここ、スカイスクレイパーには実は制限がある。


夜の12時。この時刻を過ぎると俺達は強制的にシャットダウンされてしまう。


今の時刻は夜10時を既に切っている。メアリーの能力でも全回復は望めないか。


「必死にやれば…一人治せるかどうか…ぐらいですね」


「なら、済まないが太郎を治してくれないか?」


「わ、わかりました!!」


そういってメアリーが治療を開始する。


能力を使った瞬間真剣な顔で汗を流している。


よっぽど必死にやってくれてるのだろう。こういう献身的なところ、本当に魅力的だ。狩羅が羨ましいぜ






「さて、君達には明日のことを話さないといけない。


 奴ら、《浪花六道》は明日の正午から《チェッサー》を申し込んできた。


 奴らは大将の蛍原恵子も入れて7人。チェッサーの最大人数は16人だ。


 僕らは君達も入れて合計10。もう少し戦力が欲しいが、太郎であの様子だ、僕の配下では


 捨て駒に終わってしまうだろう……」


「なら、うちから瞳と福籠を呼ぼう。これで12人だ」


飛来が正純の言葉を聴いてそう返事する。


そうか、飛来が言ってた《三人将は王に仕える》って意味だと、瞳ちゃんや福籠も俺の仲間になってるのか。


あの二人が仲間か……正直俺より強いんじゃないかってほど心強いものがある。


「本当なら、私達《蛇》からも援助したいのデスガ…」


そういってメアリーは目は織田先輩から離さずに言ってくる。


彼女がそう言葉を濁すのは、恐らく狩羅のことだろう…。


「狩羅さんなら、きっと…いらぬ争いに巻き込まれに行くな。というと思います…。


 なので、希望は薄いと思いますが、私から一応彼に言ってみますが?」


「あぁ、ごめんね。メアリーさん。そうしてくれるとありがたいよ」


そういって礼を言う正純。


狩羅の奴は正しい。自分のビルでもないことのいざこざに巻き込まれに行く必要はないんだ。


そういう意味では俺はまだビルマスターとして未熟なのかも知れない。


自分の仲間を、自分のビルと関係のないところで傷をつけてしまう可能性もある。


いや、今回の闘いは間違いなくみんな死闘になる。本来なら協定も結ばずに関わらないのがベスト。


それも一つのリーダーとしての選択。俺も少しは見習わないといけないところか…。


「とにかく、メアリーちゃんの案で安心してはいけない。


 そう思うと戦力は12人。ってところか……」


「車田?太陽さんはどうなんだ?」


「あぁ、師匠なら今は虹のサーカス団のほうにライブに言っている。


 あの人はバンドもやってるからな、忙しい身ではあるんだよ。ついでに赤井たちと話しているらしいが」


ってことは太陽さんがいない。


正直あの人がいれば浪花六道は怖くないって思ってたんだけどな……。






「これ以上要請できそうなのもいないね…こちらも無理に戦力を注ぎ足したくない。


 奴ら7人とチェッサーをしている間に残りの雑兵でこちらのビルを襲うという手段もある」


「大丈夫だ」


俺は、何も考えてなかったけれど、自然とその言葉が漏れた。




「こんだけのメンツが集まるんだ、相手がどれだけ強い7人でも、こっちはもっと化け物な12人がいる!!」


「…そうね。あのヘラクレスの弟子達に、不死の人間、最強の聖剣を持つ男、ピクシーと太陽とピエロ。


 あの三人の元メルヘニクスの弟子達。エンチャート能力者とくれば、確かに最強の布陣ね」


「もちろんお前もだぜ?刹那。お前ほど俺は実力で信頼している奴はいない」


俺は彼女に言ってやった。


自分の言葉の中に、彼女自身のことを言ってなかったからだ。


彼女は少し照れくさそうに頬を掻く。もちろんお世辞じゃない。


飛来や車田、強い奴は沢山いる。けれど俺が1番強いと思ってるライバルはやっぱり刹那なんだ。


彼女には能力だけじゃない。心の強さもあるし、何より…刹那は『進化』してる。あの蒼い目も


単純に工夫して強くなったんじゃなくて、能力そのものが変わってきている…。だからこそこいつも強いんだ。




「とにかく、ここから人数が増えるかも知れないが明日…僕らは《パンドラの箱》を護りきるよ!!」


「「「「「おぉー!!!!」」」」」」


俺たちは全員で手を上に上げた。


明日の決戦は絶対に勝たないといけない!絶対に!!







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「ってなわけで?決着にもつれ込んだの?《ほとけさん》」


「えぇ、《アスモデウス》貴方の言う通り、パンドラの箱を手に入れれば私は――――」


「もちろんよ。貴方の《奪われた力》が元に戻る。保障するわ。それに復讐するんでしょ?」


「……えぇ、なぜ貴方は《タルタロス》であるのに、私に協力をするのですか?」


「《タルタロス》も一括組織じゃないのよぉー♪正式には《罪深き7人》って異名から始まった。


 偶然この世界で謡われた《魔王》とも呼べる悪人7人を総称して言ってたらその7人が同盟組んだってだけ♪


 現にあたし《サタン》のことは嫌いだし《マンモン》は今いないし」


「…………」


「あ、ごめんね。貴方の復讐の相手が《マンモン》なんだもんね。そりゃ暗くもなるか」


「すみません…」


「とにかく、頑張りなさい。貴方の頑張り次第よ」


「はい……」


そういって電話が途切れる。




恵子が電話してたのを、俺は後ろで見るしか出来なかった。


「…秀人」


「また、《アスモデウス》か」


「えぇ、彼女はとてもいい人だわ。自分の利益もあるとは言え


 見ず知らずの私に協力の手を差し伸べてくれるのだから…」


俺はその言葉を聞いて胸が痛くなる。


「本当に…信用していい奴なのか?顔も見たことないんだろ??」


「貴方に彼女の何がわかるのよ…。」


その言葉に俺は思わず怖気づく。


「わ、悪い…」


「とにかく、明日。頼むわよ。貴方が入れば私は負けることがない。信用しているわ秀人」


そういって彼女は俺に身を寄せる。


俺の胸部に彼女は顔を埋める。本来なら喜ぶべき場面なのにな…。


「……?」


俺は恵子の肩を持って引き離す。


少し俺の行動の意味が読み取れないのか、首をかしげる彼女。


「わかってる。俺は、明知晴嵐にも聖正純にも負けない。お前がいる限りはな」


「……えぇ、負けは許されないわよ」


「…わかってる」


そういって俺は恵子の元から去る。






彼女は……変わった。


昔の優しい彼女の姿は消えた。


厳格に、忠実に、学校の生徒会もこなしている。


うちの学校では浪花六道も含めて生徒の恐怖の的だ。


そしてこのスカイスクレイパーでも、彼女は変わった……。


俺がいない間に、何があったかは知らない。だからこそ、許せない。


彼女をここまで変えた根源を俺は許すことは出来ない。


そして…そんな彼女に何もいえない自分も許せない……。









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「……先輩?」


『なんだ?晴嵐くん』


「俺…生徒会長と手を組んで、明日。決戦があるんです」


『…そうか。随分と早いものだな』


「はい。でも、俺には刹那がいます。飛来がいます。


 車田やアンも、他の三人将もいます。だから……貴方なしでも、俺は……やり通してみせます」


『その意気だ。目を見なくても声だけでわかる。君は……覚悟を決めているんだな』


「はい。先輩が旅と言って去った理由。ヘラクレスが俺に負けて引退した理由。


 今ならなんとなくわかります。……そうだ、先輩。旅では何かありましたか??」


『あぁ!あったぞ!いろんなビルで闘って、近くだったから虹のサーカス団に寄ったんだ


 そこでまたトロルとケットシーと再戦した。やはりあの二人は強いぞ!前よりも腕を上げていた。


 それに、久しぶりに太陽さんとも闘ったんだ!童戦祭では戦えなかったのでな。もちろん負けたよ』


「そうですか…あっ!赤井の奴にちょっかい出されてませんよね!!」


『はっはっは。出されに出されまくったよ。彼は本当に情熱的な男だな


 あれなら数多の女が落ちるのも無理はあるまい。現に今一緒に食事をしている』


「えぇ!?」


『勘違いするなよ?ヴィヴィアンの喫茶店を


 夜貸切にしてもらってサーカス団たちで宴会をしているんだ。聞こえるだろう?太陽さんの歌声が…』


そういって先輩が黙るので電話で耳を澄ます。


すると携帯の向こうから綺麗な歌声が聞こえる。これが太陽さんの歌なのか。


聞いてて落ち着く、いい曲だ……。


「っていうか先輩本当に旅に出てるんですね」


『あぁ、せめてこの正月休みはな。学校が始まったらビルだけで歩くことになる。


 ビル以外の場所もいろいろ見てきて、私は成長したいと思っているんだよ』


「旅しても身長は伸びませんよ?」


『私は精神的な意味で言っている!!』


「あはは、すみませんすみません…」』


先輩が少し本気で怒っているようなので反省する。


『そうだ。刹那に伝えてくれ。マジシャン…ロキの奴が随分変わった。


 私も君や刹那の話を聞いて少し怖がっていたんだが、物静かだがとても良い奴だ。


 彼は彼なりに反省し、新しい人生を渡り歩いているんだろう』


それを聞いて俺は少し安心した。


あのロキが先輩に『良い奴』なんて呼ばれるほど変わったのか。


刹那にも明日教えてやんねぇとな…。


『それにだな!!サーカス団以外にもかなりの強者と出会ったんだ。


 世界はまだまだ広いなと痛感したよ。鎧を纏うタイプや全ての攻撃を跳ね返す奴やとにかく強いものは多い』


そう語っている先輩の言葉は本当に楽しそうだった。


俺が知らない間に、先輩は楽しくいろんな人間と出会い、戦い、分かり合っているんだな。


少し羨ましい気もする。


『とにかく、私が帰ってきているときに、負けているなんてことは許さないぞ?』


「わかってますよ」


『おっと、ヴィヴィアンたちに呼ばれてしまった。じゃあまた今度な』


そういうと先輩は電話を切る。


向こうは楽しそうだなぁー…。


さて、俺は明日に備えて寝るか…。






俺は、明日の闘いに対してかつてない緊張感があった。


今までは先輩の背中に入れたけれど、今回は違う。


正純の背中にも入れない。正純は正純で、俺は俺で今回の闘いの指揮を執らないといけないんだ。


俺はその緊張感を抱きながら、眠りに入った。







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「さて、皆はん。出番でっせ?」


「あぁ、ほんま燃えてきたで」


「うちはいつでもええで!」


「また美人はんが相手やったらええんやけどなぁ」


「うちの阪神魂が燃え滾ってるで!!なぁ!シュート!!」


「俺に振るなよ……。でも、勝たなきゃなんねぇ」


「わいが全員全滅させたるやさかい!安心しーな!!」






浪花六道がそれぞれに言葉を発して、始まる会戦に気合を入れる。


                ☆


「みんな、よく集まってくれたね。それに太郎。よく間に合わせてくれた」


僕は、後ろにいるこれから闘う仲間達のほうに振り返って言葉を紡ぐ。


そこに立っているのは晴嵐くんが率いる新生組織リムバレッド


晴嵐君・刹那さん・車田君・飛来君・アンさん・福籠君・瞳ちゃんの7人。


童戦祭を観客という目線で見ていた僕にはわかる。この軍団はとんでもない化け物たちだ。


そしてこちら、正十字騎士団側は、優くん、結花ちゃん、太郎に隆太。そして孝明の5人。


僕も入れて13人か……。このメンバーなら安心だろうが、少しだけ不安だな…。






「おいおい、俺がまだ数えられてねぇぞ。生徒会長さんよぉ」


そういうと、一人の男がこっちに入ってきた。


その男の顔をよく知る人はみな驚いたような、喜んでいるような顔をした。


「この最強の男!葵龍二様が!!蛇からの援軍として来てやったぜ!!」


葵龍二。彼が自信満々に場で大きな声で叫ぶ。


「おい姉ちゃん。千恵がやられたんだろ?だったら俺がここに来ない理由はねぇだろうがよ。


 メアリーの姉御からじゃなくて、姉ちゃんから呼ばれたかったぜ。ったくよぉ」


そういって刹那さんを少し睨む刹那。


「そうね。あんたはシスコンなんだもんね。忘れてたわ」


刹那は少し呆れたように言う。


「なっ!俺はシスコンじゃあねぇよ!千恵を大事に思うのは兄として当たり前だろぉ!?」


「そういうのをシスコンって言うのよ。そういうなら彼女の一人でも作ってから言いなさい」


「うっ…言うに事欠いてそこを責めんのか姉ちゃん!」


仲良さげに兄弟喧嘩をする二人。僕と孝明もああいう風に言い合えたらいいんだけどね…。


出来た溝が深すぎた。もうないに等しいんだけれど


ああいう喧嘩出来る関係ってのは一度溝が出来てからじゃあなかなか…。


それに僕も孝明も、あんなに怒りを露わにする性格じゃあないしね。


「ってなわけで!この最強無敵の俺様が入って14人だ!これで文句ないだろう?」


にやりを笑みを浮かべてくる龍二君。確かに彼ほど頼もしい人も数少ない。




「よし!僕達14人でチェッサーに挑む!


 キングは僕でいいかな?この中で圧倒的に防御力を持ってるのは恐らく僕だ。


 車田くんの能力も防御向きかと思ったけれど、彼の戦闘スタイル的に場所が限られていたら困るだろう。


 他のものたちはみんな戦闘向きだ。防御に優れた人物は少ない。だから僕でいいよね??」


僕がそういうと、全員コクリとうなづいた。


ただ僕に決断を任せているんじゃない。みんな少し考えて、それでも僕でいいと思ってくれている返事だ。


「そして向こうのキングを攻めれないナイト二人には太郎と、刹那さん。


 二人の機動力はこの軍で随一だ。そしてキングの護衛のビショップに隆太と車田くん。


 車田くんの地雷能力を使って隆太の周りを保護して欲しい。ルーク二人は瞳ちゃんと福籠に任せよう。


 そして女王には孝明を配置する。


 これだけの人数がいれば、駒の有能性を引き出せる。


 ルークは元々相手の陣地から始めることも可能なんだ。二人の安定した力ならこれは軽いだろう。


 そして残りのみんなには、ただ王に向けて走ってもらう。チェッサーのルールも最近になって改正が


 いくつか出来てるからね。僕の頭には全てそれが入っている。それを紙に起こした。確認しておいてくれ」




僕はそういって新しく改正されたチェッサーのルールを書いた紙を皆の下へ置く。


・『王』が倒されたら負け。


・『女王』『僧侶』は敵陣にいけない。


・『騎士』と上の二駒は『王』を倒せない。


・『戦車』(ルーク)は敵陣からゲームを開始することも出来る。


・『王』は限られた空間でしか移動できない。


ルール改変はあまりに単純すぎたためであろう。


現にチェッサーよりも戦争を用いた争いのほうが増えてきた。


しかし、戦争はビルとビルを直接全て巻き込んでしまうので今回のグループ間の争いには向かない。


そしてゲーム性が少なかったから。こういったルールを増やしたことでチェッサーの利用率も増えたらしいしね。






「これを頭に叩き込んでくれたね?もちろん先に名前を出さなかったものは


 兵士だ。王を潰せる兵士だ。可能なら浪花六道から逃げて王だけを狙ってくれ。


 この勝負は全滅したら終わりじゃない。王を倒したら終わりなんだからね」


「「「「「「「おう!!!」」」」」」


みんなそういって返事してくれる。


「そうだ。晴嵐君。攻撃のほうの指令は君が出していってくれ。僕は防御に専念する」


「えっ!?」


「今回の相手、そしてこの人数の動きを僕が全て認識するのは難しい。もちろん手助けはさしてもらう。


 けれど、この連合軍の《リムバレッド》のボスは君なんだ。だから……頼めるね?」


僕がそういうと、晴嵐君は少し悩んだ後、決心づいた顔をして「はい!」とうなづいてくれた。






さぁ…チェッサー…開幕だ。





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「いいかい。向こうのルークもこちらの陣地から始めている。


 出来る限り相手の駒を理解していく。ナイトの二人は早速敵陣地に行ってくれ。


 ポーンのみんなも言ってくれ。防御側で、こちらはなんとかするから」


そういって正純が指揮を執る。


その言葉を聴いた直後、刹那と織田先輩はどこかへ消えていってしまった。


確かに伸びる剣と俊足の刹那の機動力はすばらしい。


「さっ!僕らも行こうか晴嵐」


「あぁ、焦らず、じっくりいくぞ」


俺は優・飛来・結花ちゃん・龍二を集める。


アンさんも集めたんだけど…なぜか来ない。


彼女は少し離れたところで駄々をこねている子どものようなじと目で俺を睨む。


「……清五郎から離れたくない」


…この可愛い我侭娘が。


清五郎の腕を掴んで離れようとしないアンさん。


ダメだ…この人今回の争いの危機感が限りなく0だ。


「よし!アンさんには予備兵としておこう。


 アンの能力ならこっちがピンチになった援軍にすぐ来れるし、防御としておいても優秀だ」


俺はもう彼女を切り離すことにした。


俺は4人を引き連れて敵陣に乗り込むことにした。


「さてっと…龍二頼んだ」


「あぁ?何がぁ??」


「お前龍に変身して俺ら乗せて敵陣に突っ込むぞ!」


「はぁ!?」


「いや、ほら、俺らはナイトよりも先に目立って、敵を引き寄せないといけない。


 こっちは集団なんだから、向こうが何人かで来ても多分対応できるはず。そのために目立たないと」


「はぁ…仕方ねぇ」


龍二は呆れたようにため息を吐いてそういう。


「はいはぁーい。じゃあ四人とも俺の背中掴んどけよ…」


そういわれて俺達4人は龍二の背中を掴む。


「少し……飛ばすぜぇ!!!」


その直後だった。


龍二の身体が急に変わり、巨大な龍の姿になって新幹線のようなスピードで走る。


俺たちは龍の身体になっている龍二の鱗にしがみつくのがやっとなぐらいスピードが出てる。


やっべ!俺が空飛ぶよりも早い!!ってか油断してると落ちるぞ!!!


「晴嵐!!」


そのとき、優の声がする。


俺は風の抵抗を受けながらなんとか言うの方を見る。


「どうした!?」


「結花ちゃんがどっかに飛ばされた!!」


「……えぇ!?」


本当だ!結花ちゃんの姿がどこにもない!!あの子どこ行った!?


「お、おい!晴嵐!前を見ろ!!」


今度は飛来からだった。


「なんだよっ!次はぁ!!!」


「……この馬鹿まさかあれに…」


「ふぇ?」


俺は前を見る。するとその先に大きなビル。


けれど龍二は止まるつもりもないかのようにスピードを上げる。


「おいおい!!待て!龍二!!早まるんじゃねぇって!!!」


ずどーん!!!そのまま龍二がビルに突っ込む。


ビルは激しい音を立てながら崩れ去っていく。


「いててて……おいっ!龍二!もうちょっといいブレーキ方法なかったのか!!!!」


「あぁ!?目立ってっていったのてめぇだろうが!!!!」


俺と龍二はにらみ合う。


「お前ら、喧嘩してる場合じゃないだろう」


「そうだよ晴嵐。それに…敵さんもおびき寄せれたし、結果オーライだよ」


そういう優。


俺と龍二が二人して気配のほうを見ると、そこには一人の男が。


「お、お前は…!!」


俺と優は驚いてしまった。


知った顔だからだ。


「……小野銀次!!」


「おう、久々やなおめぇら。なんだ女の子いねぇのかやる気にならんなぁ」


俺たち4人は小野銀次を睨みつける。


…一人か。もう一人ぐらい引き寄せれてもよかったんだけど…。


「晴嵐。どうする?4人で彼を倒すのかい?」


「ボスに挑んだほうがいいだろう。4人はまずい」




「おい、何しゃべってんねん」


静かな怒声が俺達全員の視線を集める。


彼は手を横に広げる。その瞬間、磁石のようにビルの残骸たちが彼の腕に集まる。


「べらべら喋ってる暇あるなら闘えや!」


その直後、鉄が集まった巨大な腕が龍二に向けて放たれる。


「「「龍二くん!!」」」


俺達三人がそう叫ぶ。


「おい!こいつは俺がやる!!てめぇらは出てけ!!」


完全にこいつ楽しそうな顔しちまってまあ…。


「とにかく!龍二に任せよう!!」


「逃がすかいな!」


もう片方の手も鉄が集まり、俺達に目掛けて襲い掛かってくる。


その瞬間。鉄の腕は地面に目掛けてペッシャンコにつぶれる。


「ぐっ…。なんやこれ!!」


「僕の能力だ。晴嵐!今のうちに!!」


優の聖剣が光っている。《デュランデル》。重力を使える聖剣だ。


「龍二君!僕も残るべきかい!?」


「いいや!ここは俺がやる!!」


「……そうか。じゃあ任せるよ」






そういって優と俺と飛来はその場から去っていく。


俺はあいつとヘラクレスの闘いを見た。今のあいつなら、浪花六道を一人で相手しても大丈夫なはずだ!


そういって俺達はボスに向けて走っていった。







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「さてっと…あたしが始末するべき敵は……」


あたし、葵刹那は


敵を探していると、一人。立ち止まっている奴を見つける。恐らく守備用のビショップだろう。


あたしはスピードをこなして不意打ちを試みるが………受け止められる。謎の手に。


「誰かきてはるとは思ってたけど、こんな不意打ちは意外やったわ。危ない危ない」


「っ!?」


その瞬間。あたしは何かされると思ってその場から離れる。


これはもう闘うしかなさそうね……。


あたしは敵を見る。そこにいるのは黒髪ショートカットの女の子の姿だった。


「………あ!!」


「え?何!?」


彼女はあたしのほうを見ると、なぜかそういって指を指してきた。


もしかして知り合い?あたしあの子のこと見たことないんだけど……。


生徒会長に見せてもらった資料によれば…《八口美海》ちゃん…ダメだ。知らない。


けれど向こうはなぜか身体をわなわなと震わせながらあたしを睨みつけている。


「……………!!!!」


「あ、あのぉ…」


あたしは思わず声をかけてしまう。


「出たな!泥棒猫!うちが相手や!!」


「えぇ!?」


なぜか彼女は目に涙を浮かべてあたしに襲い掛かってきた。


あたしは対抗するために彼女の腹部を打撃しようとするも。


「そうくんのはわかってる!!」


………え?


そういいながら、彼女は腹部を《捻じ曲げて》あたしの攻撃をかわす。


そしてあたしの顔面目掛けて拳を放ってくる。あたしは避けれずに飛ばされる。






「あんたは……あんただけは…許さん!!」


あたし…何か悪いことしたのかな?






こうしてあたし葵刹那VS八口美海の対決が始まる。



               ☆


どうなってるの?


「どうしたん?泥棒猫。うちに恐れでも抱いたんか?」


目の前では少女。八口美海と距離を取りながらあたし、葵刹那は考える。


けれど一向に彼女の能力はわからない。


今の、完全に腹部にヒットする攻撃だったはずだ。それに最初にあたしが背後から攻撃したときも


変な手が現れたのも事実。


(…とにかく!スピードが速いあたしなら相手がどんな能力でも!!)


あたしは猛スピードで美海に向かって突進する。


彼女の前で何度も拳を繰り出す。けれど全て受け止められている。


なぜ?あたしの腕のスピードを見切ってるって言うの!?オーディン様と同じ能力??


「なんや?そないなこともわからんのかいな?」


「っ!?」


あたしは変な違和感を持ってバックステップする。


その瞬間。見えた……。彼女の背中から、《何か》が生えているのを。


彼女はそれを素早く引っ込めた。


「ありゃ、その顔はもしかして見つかってもうた?」


驚いているあたしの顔を見て、にやりと笑った美海。


「しゃあない。いまさら隠してもしゃあないやろ」


そういうと彼女の背中から6つの足……吸盤がついてる。あれは……


「……蛸?」


「せや。正解や、うちの能力は蛸の精霊クラーケンはんを憑依すること。


 せやからこういうことも出来るんやで?」


すると彼女の腕が急にあたしに向けて伸びてきた。


あたしは慌てて腕を盾にするも、あまりの威力にそのまま吹き飛ばされる。


「まだまだ行くで!蛸殴りや!!」


彼女の合計8ある拳があたしを襲い掛かる。


「うぅ……当たれや!!」


あたしは軸足を回転させて、動く方向をかえたりしてその八つの拳をかわし続ける。


バスケでの動きがここで役立つか。そのまま隙を見て彼女に向けて一直線に走る!!


しかし、あたしが放った拳は一つの拳に受け止められる。


その止められている隙にもう一つの腕が戻ってきてあたしの背中を強打する。


「っ!?!?!?!」


あまりの痛さにあたしは慌ててその場から距離を取る。


再び突進するあたし。けれどあたしの拳は全て受け止められる。


「…速さが利点になるのは一体一とかの時だけでの話しやで?


 どんだけ早い陸上選手かて、100人の一般人に追われたら捕まるように。


 あんたがどんだけ早くて見えない拳を放ってこようが


 うちの八つの拳が全て受け止める。この勝負うちの勝ちやで」


「くっ……」


確かに、あたしにとってこの子は天敵だ。


オーディン様にとってあたし達スピード能力者が天敵のように


この子の腕が増えてることはあたしにとって致命的だ。


あたしは付けてる通信機のスイッチを押す。ちょっと悔しいけど……。


「晴嵐!聞こえる!こちら刹那!


 現在八口美海と交戦中。だけど相性最悪で勝てない!だから逃げる!!!」


あたしは晴嵐が聞こえてるかどうかは置いといてそういい捨て、


そのまま能力を使って逃げることにする。


「なっ!ま、待ちぃ!この泥棒猫!!!」


そういうと美海は腕を伸ばしてあたしを掴もうとする。


ってかなんであたしそんな言われようされなきゃなんないのぉ!?




あたしは必死に逃げる。


スピード能力者は逃げ足も速いのよ!!


一応相手がいるかいないかを確認のために後ろを振り返る。


「待たんかい!泥棒猫ぉー!!!!」


「まだ…ついてくるのぉ!?」


スピードではあたしのほうが早い。しかし。


腕を伸ばしては何かを掴みを繰り返して彼女は追ってくる。


段々彼女との距離がかけ離れていって、やっとの思いで彼女の姿を背後から消すことが出来た。


「さてっと…あの子よりも戦いやすい相手を探そう」


あたしは一度呼吸を整えてまたダッシュする。


いつまでもここにいたら美海に追い抜かれてしまいそうだ。








「……あの泥棒猫…どこ行ったぁー」


刹那がいた場所。


そこで息を荒くしながら探す少女の姿がそこにはあった。







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「っしゃ!敵陣からのスタート…今日の運勢は双子座二位やけど!負ける気しやんで!!」


俺、宿木福籠は飛来さんに頼まれてこのチェッサーに参加している。


俺達三人将のリーダーである飛来さんが、あの明知晴嵐に付き従った。


黄鉄の旦那にも、新しくリーダーになる奴を頼むといわれたし、まあ当然の責務だ。


俺は能力とは関係なくコインを一度天に向けて放つように指で弾く。


(……裏。)


俺は心の中でそう呟きながら、それを掌でキャッチする。


そして見てみると…裏だ。やっぱり今日も俺はついている。




「やはりな。ほとけさんの考えは正しいでほんまに…」


そのとき、どこかから声がする。


声のほうを見ると、タオルで頭を巻いて、爪楊枝を口に咥えた妙な格好の男がいた。


「シー…。お前か。聖んとこの刺客は?」


爪楊枝で歯の間をほじくりながら俺に向けて言って来る敵。ちょっとむかつく。


「あぁ、最高の運を持つ最強の男。宿木福籠様だ」


俺も相手を挑発するように自己紹介をしてやった。


「お、自分闘う前に自己紹介する律儀なタイプの男かいな。なら…わいも自己紹介せななぁ」


そういうと、なぜか相手はにやりと笑った。まるで『待ってました』と言わんばかりに。




「わいの名は!豊麗高校の平和を護る正義の味方!!広部正義!!名はまだない!!」


「…いや、名乗ってるじゃねぇかよ」


「これはヒーロー名がということや!ヒーローに協力する天才学者に出会ってへんからまだ名はない!」


「おう、そうか…」


流石の俺も少し呆れてくるぜ


「とにかく!このわい、広部正義がお前の進行を防ぎにきたんや!」


「はっ!ほざけ!!運のいい俺には誰にも勝てねぇよ!!


 んじゃま、いっちょ派手に行くぜ!『ギャンブラーコイン』!!!」


そういって俺はコイントスを始める。


「オモテ!」


キャッチして確認する。結果は表。


「っしゃー!喰らえー!!」


広部の足元が突然爆発する。


「お前らはなんか強いらしいからな!畳み掛けさせてもらう!《ガントレット・スロット》!!」


俺はグローブの中のスロットをずだだだだ!と鳴らしながら、奴目掛けて放つ。


やはりさっきの爆発じゃあそんなダメージになってないみたいだったしな


「はぁ?」


俺は思わず声に出して疑問を浮かべてしまう。


奴は……まったく物怖じず、仁王立ちでたっている。


「正義とは!相手に怯えてはならない!!やで!!!!」


そして相手は拳を作り、こちらに向かってくる。


まさか!俺のガントレット・スロットと相殺させる気か!?


俺の能力では雷のマーク。落雷だ!


俺の拳が触れた瞬間。雷が広部に直撃して光が当たっている。




「お前、さっき運の良い奴が勝ついうとったな?


 確かにそれは正解や。でも……運いい奴より強い奴がおるやろう?」


「な、なんでだよ!?」


俺はビビった。


目の前にいる広部は雷を直撃しても、ダメージを受けているそぶりを見せなかった。


そして、相殺された俺の拳が威力に負け、遠くへ吹っ飛ばされた。


(このパワー!黄鉄の旦那には劣るが……瞳の姉御以上じゃねぇか!!!)


俺はビルをいくつか貫通するほど吹き飛ばされる。


くっそぉ……強すぎるじゃねぇかよ!!


こうなったら、背後に回って、今度は静かに技を!!




「……わいの後ろに立つな!!」


「っ!?」


その瞬間だった。


広部の背後に立った瞬間。俺の足元から炎が噴出する。


爆発したって表現のほうが正しいだろうか……。


「運が良い奴より強い奴がおる。それは……《正義の味方》や」


「っ!?」


その瞬間。


俺は顔面を殴り飛ばされる。


ダメだ……龍二の時もそうだったが、一回通用しないって思ったら……俺の能力が効果を示さない。


くっそぉー…。世界にはまだまだこんな強い奴がいんのかよ!!黄鉄の旦那に顔向け出来ねぇ…!!!!


「悪いなぁ?お前さんも強いで?わい以外の奴らなら勝てたかもなぁ?」


ぶっ飛んでる俺の傍にいきなり広部が現れる。なんつースピードだ!!


その言葉を俺に放って、奴は俺を地面に叩きつけた。


俺は……そのまま気を失った。




「わいの正義を貫き通す。それを邪魔する奴は全員敵や」


最後に薄っすらと広部の声が脳内に響き渡った。







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「さてっと♪君…むっちゃ強いみたいやけど、うちには勝たれへんかったみたいやな」


「くっ……!何よあんたぁ!!」


「うち?うちはとらちーや♪」


私、赤野瞳は現在。ボロボロだった。


目の前に立っている少女、虎坂千夏に完全にやられているのだ。


「くっそー!!」


私は走って彼女を殴り飛ばそうと試みる。


「あかんなぁー。瞳ちゃん♪いくら強くてもまだまだ柔軟性が足りひんで♪


 いや…ちゃうな。うちとの相性が最悪なだけか♪」


そういいながら、彼女は私の拳を素早くいなすと、私の懐に入ってきて、


気がついたら、私の足は地面から離れていて、その直後に身体は地面に叩きつけられる。


「君がどれだけ力馬鹿でも、うちにはこの攻撃は届かへん♪


 ただ瞳ちゃん身体小さいから投げづらいわー」


軽い口調でそういう虎坂。


私はただ倒れるしかなかった。




「あーもう!しつこい!!!」


そんなとき、どっからか声がした。


私にとっては居心地の良い声だった。その声ですぐに誰かわかる。


「……ふぇ?」


そのとき、虎坂の八重歯が映るぐらい口をぽかんと開けて、彼女はその声のほうを見た。


その瞬間。何かが思いっきり激突したような音を立てて、私の視界から虎坂の姿が消えた。


「はぁ…はぁ…やっと追いついたで!この泥棒猫!!」


そして倒れる私の視界に新しく現れたのは短い黒髪の少女。背中には蛸の足みたいなのが六本生えてる。






「いちちちちち…もぉーなんなん?」


壁に倒れている虎坂。


その彼女にもたれかかるように倒れてるのは間違いなく刹那お姉ちゃんだった。


「あたたたぁー、誰か知りませんがすみません…」


お姉ちゃんは丁寧にぶつかった虎坂に誤る。


あたしは、二人の光景を見ると


一つ試してみたいことを思い出して、おもむろに通信機の電源を入れる。






「…えーっと。晴嵐のお兄ちゃん?」


『あ、なんだい?瞳ちゃん!!』


すっごく嬉しそうな声。


晴嵐お兄ちゃんは子ども好きだ。私にも優しいし、この前公園で子どもとバスケしてるの見た。


「なんか今刹那のお姉ちゃんと敵の女の子が身体を交えあってる」


『何!?どこだぁ!あの刹那と可愛い女の子がむんずほぐれつしてるとは見過ごせない!』


「…お兄ちゃんのそういう素直なところ大好きだよ…」


私は少し呆れてそのままお兄ちゃんとの通信を切る。


伝えなくてもよかったけれど、一応駒の動きはリーダーに教えないといけないとね。


「……瞳ちゃん!?」


「あ、やっと気づいたんだお姉ちゃん…」


キョロキョロとあたりを見渡すお姉ちゃんは私を見つけると手を振ってこっちに来る。


「瞳ちゃんがここで傷だらけってことはもしかして…」


「うん。さっきぶつかった人は虎坂千夏。浪花六道だよ。あたしと相性最悪で負けちゃってる…」


「あら、それなら奇遇ね。あたしを追ってきたあのショートカットの子八口美海とあたしの相性も最悪なのよ」


「…わかった!面白そうだね☆!じゃああたしが美海ちゃんやって、お姉ちゃんが虎坂やるんだね!!」




「チョイ待ちぃ!うちはそこの泥棒猫に用あんねん幼女の相手してる暇やない!!」


「まあまあいいじゃんハロちん。うちがあの子の体力削っとくからさ♪


 ハロちんはそこの幼女と遊んであげなよ」


「さっきから幼女幼女言うなぁ!!」






あたしは敵二人に大しての怒りを露わにする。


「とにかく……やるよ。瞳ちゃん」


「んい☆」






「幼女倒して、あの女やったる……!」


「ハロちん、あの子にどんな恨みが……」


そして今、女子二人同士の対決が始まる。




東京スカイスクレイパーを読んでいただきありがとうございます!

受験が忙しくてこっちの方の投稿がおろそかになっていて申し訳ありませんm(__)m


さて、今回出てきた浪花六道はみんな関西人。と言う共通点があります。

みんな。タコ、虎、ラグビー、銀工業と関西に根強い物をモデルにしております


そしてジャージこと三浦秀人くんがモブから敵に昇格!(笑)

彼は最初からこういう風にすることを決めていたんです♪

名前の由来は俺が知ってるサッカー選手三浦選手の名字と

「シュート」を漢字にしたらこうなった(笑)

広部正義は「ヒーロー」と「正義」を混ぜたらこうなりました(笑)


蛍原さんは「ほとはらけいこ」て名字と名前のかしらを足して「ほとけ」になるっすよねw漢字もそれっぽく演技よさそうなの選びました(笑)


さて、彼らと晴嵐達の闘いはどうなるのか?

今回は晴嵐達よりも他のサブキャラに注目してみてもありかも知れません♪


文字数制限によりちょっと中途半端な場所かもしれませんが

中編はなるべく早く出します、次回をお楽しみください♪


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