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第6章~仏少女と浪花六道~ 中編

白熱するメルヘニクス&聖十字騎士団VS浪花六道の闘い。


互いに凌ぎを削り、次々と脱落者が現れる。

互いの信念をぶつけ、誇りを守る。

圧倒的な強さを見せる浪花六道。それに喰らいつく晴嵐達。


彼らの勝負は一体、どこへ向かうのか。

シリーズ第6弾中編 公開!


上杉隆太の能力、『聖剣・カリブルヌス』を

一概に言えば強化能力に当たる。


自身が展開する魔方陣の内部にあれば選んだ者のステータスを向上させる能力である。

彼はその魔方陣をフィールド全体にまで広げることが可能で、


その強化能力は過去に晴嵐達、メルヘニクスを大いに苦しめた。

しかし、その彼の能力を使うには規制がある。


使っている間は、突き刺した刀を抜くまで動くことを許されない。




「ここか……強化使いがいるのは……」


そんな彼の元に一人の男の声が届く。


声のした先には、縦にも横にも大きい身体にラグビーの防具を身につけている男の姿。


「あんたが、あの浪花六道の戸雷か。随分デカイ体してんだな」


「そういうてめぇは案外ひょろいんやな。

 正十字騎士団っつったら規則正しき聖なる騎士団って聞いてたから


 織田みたいに強そうな奴ばっかやと思ってたで」


「それは偏見だな。ちっちゃい女子中学生だっているし、会長は俺以上に細い」


「へぇー、そいつは興味があるね……」


「……お前もしかしてロリコンか?」


「ちげぇよ。生徒会長の方だ。そんな肉体で闘えんのかよ?」


「あぁ、俺は弱いけど……会長は強いぜ」


「はっ、強き能力と精神は強き肉体に宿るんやで!?身体を鍛えてなさそうなてめぇらなんかに俺らが負ける気がしねぇわ!」


その言葉に、隆太は思わず眉をピクリと動かす。


戸雷の言葉を聴いた彼には自分の尊敬し、仕える王に対する侮蔑に聞こえたのだ。


「その言葉は聞き捨てならねぇな。俺らの大将はてめぇらなんかにゃ負けねぇよ」


彼は戸雷に向けて冷め切ったような静かな声で言った。

しかしその中には、確かに憤怒の念がこもっている。


「はっ!威勢がええやないか!そんなら……いくぜぇ!タッチアップ!」

戸雷は轟雷を思わせる大声でそう叫び、指を鳴らす。

その直後に彼の背後に、まったく同じ屈強な身体をした人間が12人現れる。




「セット…Ha!Ha!」

戸雷の合図と共に12人が一斉に身動きの取れない隆太へと襲い掛かる。

「……俺は、護られてんだよ!」

戸雷の攻撃にも怖気づかず放った彼の言葉の直後、戸雷の分身たちに異変が起こる。

彼らの足元から紋章が光輝き、次々爆発していくのだ。






「おーっと!そこのラグビーやろう。その辺は危ないぜ、死にたくなかったら動くな」

隆太たちが闘っている場所を見渡せるビルの上からそんな声が聞こえる。

その場にいたのは……頭にタオルを巻き、深い彫りの顔をした車田清五郎だった。

車田の後ろに


《死神》の二つ名を連想させるように黒い布に身を包むアン・ヴィクトリアが鎌を手に悠然と立っている。



「あんたか?織田の野郎をぶっ倒したって奴は?」

車田は見下すようにして戸雷を睨み、言い放った。

「あぁーそうや。俺が倒したんや、あの織田太郎をな。ま、とらちーも手出してたけどな」


「んなことは関係ねぇ。俺のライバルをよくもやってくれたな」

そういうと車田とアンはそのままビルから飛び降りる。

着地寸前でアンが出したクッションのような風が


着地の衝撃を受け止めて隆太と戸雷の間に立ちふさがる。


「二人とも……頼むね!」

そういって隆太は地面に自分の聖剣を突き刺す。

これで、カリブルヌスの能力によって、全ての仲間はエンチャートを受ける。


魔方陣を中心に、まるでフィールドの仲間達に伝達するように、


エネルギーの光が糸状になり地面を駆け抜けていく。






「さあ……力が漲ってきやがったぜ」

「清五郎。不思議な感覚です……力が上がっています」



カリブルヌスの加護を受け、力を上げた清五郎達は既に臨戦態勢だ。


初めての感覚に少し戸惑っているアンだが、この二人を強化したことは大きいだろう。


童戦祭で見た彼らの能力をさらに向上させたんだ。


これは心強い味方になる。と彼は心の中で確信する。


「ちっ、二人相手か…。面倒やな」

そういいながら戸雷は再び分身を試みる。








「相手は二人や!フォーメーションα!」

すると、相手は十三人で逆三角形のような形態になり、そのまま足並み揃えて隆太たちに襲い掛かる。

「へっ!反省しねぇな!ここいらには俺が仕掛けた地雷があるんだよ!」

車田の言葉と同時に地雷を踏んだ分身が姿を消す。

車田の地雷によって土煙が巻き上がる。その直後だった。

「っ!?」

「清五郎!?……っ!?」


その瞬間。

車田の身体が大きく曲がり、ぶっ飛ばされる。

彼に、戸雷の一人がタックルをかましたのだ。

それに気づいたアンも、しかし戸雷の早さに対処できずにタックルを受け、華奢な体が宙に舞う

「はっ!土煙なんて、こっちが身を隠すのにいいに決まってんだろ。

 元々逆三角形にしてて視界錯覚起こさせてんだ。


 後方にいた連中が今どこにいるのか気づかないだろ?」


戸雷がその言葉を放った瞬間のことだった。

剣を突き刺していた上杉にも一人の戸雷が攻撃を仕掛けようとしていた。


その鈍重そうな見た目からは想像もできない身軽さで、


隆太を一息に押し潰そうと上空から迫る戸雷の分身。隆太の周りを巨大な影が包み込む。


逃げられない。今から剣を抜く暇もない――。万事休すかと隆太が覚悟した。




「それだけはさせねぇ!」

その瞬間。


先の攻撃で吹き飛ばされたはずの車田が爆風と共に現れる。

その背中には火傷跡……自分の背中近くで爆発させてその反動でこちらに飛んできたのだろう。

車田の掌打は隆太を攻撃しようとしていた戸雷の身体を捕らえ、奴を飛ばす。


飛ばされた戸雷の腹には、車田の紋章が刻まれていた。






--------------------------------------------------------------------------------






「BOMB!」

車田清五郎の叫びに呼応し、戸雷に付けられた紋章が爆発する。


「清五郎……大丈夫ですか?」


遅れてこちらに戻ってきたアンは、心配そうに顔をしかめ、車田を見つめてそう質す。

「あぁ、大丈夫だ。あいつには確実に一発くれてやったんだ。ただじゃあ済まないだろう」

車田が、自信ありげにそう語る。


彼には戸雷の能力の仕組みについて、何かを掴んだようだった。

そして彼は言葉を続ける。


「それに、恐らく偽者なんていない。分身というよりあいつの能力は《分裂》だ」

車田は静かな声で言った。アンは「分裂?」と少しきょとんとする。



「ご名答や。車田清五郎…やったか?」

土煙が消えていき、そこに姿を現したのはたった一人の戸雷。


さっきの攻撃が堪えているのか、


焼けたようにぼろぼろになった服から車田の攻撃とおぼしき火傷の跡が見える。


「この俺の能力は分裂。最大13人まで分かれることが出来る」

この能力の利点は数が増やせるんはもちろん。一体が受けるダメージも分裂の数だけカットされる。

ただ、分身が受けた攻撃ももちろん蓄積されていくんやけどな…」

そういって立ち上がってくる戸雷。


そのとき、隆太は見つける、ぼろぼろになった服から覗く、肩に描かれた《数字》が彼の視線を奪った。

それに気づいた戸雷は惚けた顔で答える。

「あぁ、この数字か?俺ら浪花六道全員には身体の一部にあるんや、意味は…察してみいな」


そう答える戸雷。

彼の肩に書かれている数字は……『6』。

「さて……呆けてる暇ないで?」

不気味に口元を歪める戸雷。その瞬間、車田は巨大な殺気を感じた。

その直後、甲冑同士がぶつかる鈍い音が車田の耳に響き渡る。

その方向を見ると、二人の戸雷。そして……その腕の間にはアンの姿。



「……ダブルラリアットや」

「……清……五郎・・・…」

二人の戸雷の腕が離れたアンは魂が抜けたように意識を失って倒れる。

「アン!……てめぇ!」

「おっと、そう血上らせんなや。すぐ終わる」

アンの名を叫び、戸雷を攻撃しようとした車田の腰を、がっちりと掴む戸雷の分身。


その馬鹿力に、常人よりは巨大な体躯を持つ車田でさえも身動きを封じられる。

「さぁいくぜぇー!ジャーマンスープレックス!」

そのままジャンプする戸雷。身動きが取れない車田。


(まずい、このままじゃ確実にやられる――クソ、どんだけ力が強いんだよ!)


 必死にもがく車田の努力をあざ笑うかのようにとどめの一言を告げる戸雷。


「これで…終わりや」


戸雷は車田を頭から地面にたたき付ける。


落下点を中心とした波紋のごとく、轟音と共に地割れが走った。







--------------------------------------------------------------------------------







その光景を見て隆太は思う。


浪花六道というのは、ここまで強大なものなのだろうかと。


ちらりと見える車田の顔からは、生気が感じられない。


このままだと彼は確実に消滅するだろう


戦闘不能になりつつあるアン、そして車田が消滅したら、次にやられるのは自分。


この状況を打破しない限り、自分に生き残る手段はない。

(仕方がないな。これはあまり使いたくないんだけど……車田なら耐えてくれるはず!)


意を決して彼は、剣を地面から引き抜く。


そして、抜いたカリブルヌスの剣先を倒れている車田に向ける。


「……カリブルヌス。のモノに聖痕を示せ!」


光輝くカリブルヌス。しかし、その光を車田に放ち聖剣は輝きを失う


倒れながらもカリブルヌスの放った光を纏い、神々しく光る車田の姿がそこにはあった。


「お前…・・・こいつに何したぁ!」

戸雷の一人が無防備になっている隆太に向かってタックルをする。

それを避けることも出来ず、彼は無残に吹き飛ばされていく。

「やっぱり俺は……こういうサポートしか出来ねぇ。


 俺からの最高のプレゼントだ。後は頼んだぜ……車田!」

そう叫び、彼の姿は光に包まれ、そのまま消滅していく。



彼は消滅する中で、ただ一人……王に対しての謝罪を込める。


(すみません。正純さん、仕事を全うできずに消えてしまう俺を……許してください)



自分が唯一仰ぎ見る王への謝罪を思い、隆太は虚空へと消えていった。







--------------------------------------------------------------------------------







「なんだ、この力は……」

倒れていた車田は今まで感じたことのないエネルギーに戸惑いながら、立ち上がる。

でも、まだだ。まだ身体に宿った、


この有り余りすぎる力に対応できてないのか、身体がふらついているのを車田は感じた。


「なんやわからんが…。今のうちに止めささなな!」

そういって五人の戸雷が、ふらついている車田に突進していく。

「清五郎の邪魔はさせない!」

その直後、五人の戸雷は竜巻に巻き込まれ、上空高くまで飛んでいく。



「あ、アン……」

「さっきは油断しました。しかし、次はそうは行きませんよ。戸雷和樹。清五郎は誰にもやらせない」

まるで車田の盾になるように前に立つアン。

ふらふらとしていた車田の身体も徐々に増幅していく力に順応していく。

「なんやなんや。そっちの車田、随分と気迫が変わりおったな」

「あぁ、この力ならあんたにも勝てる気がするぜ。

 上杉隆太が残してくれたこの力なら!俺はあんたとも闘える!」

車田はただじっと、戸雷をにらみつけた。

(隆太……お前が託した思い、無駄にはしない)




車田とアン、戸雷和樹の真の対決が始まる



                ☆






俺、車田清五郎はかつてないほど満ち足りた気分に浸っていた。


こんな気分…バイクで走りきっても感じることはない。異様なエネルギーと快感。


俺は得体の知れない強さと妙な自信が体の底からあふれ出るのを感じる。


「あぁ、この力ならあんたにも勝てる気がするぜ。

上杉隆太が残してくれたこの力なら!俺はあんたとも闘える!」


俺は、戸雷を睨みつける。


戸雷のほうはといえば、嬉々とした表情で俺を見ていた。やっとまともに戦える。とか思っているのだろうか?


なら……俺も見くびられた物だ。


「おい、戸雷」


「あぁ?なんや?」


「……早く分身してた方がいいぞ?」


「あぁ?なんでてめぇに――ッ!?」


俺の言葉に疑問符を浮かべた戸雷が一瞬の出来事にに対して


驚いたような表情をする。彼の胴体に『紋章』。そしてそれが爆発する。




「て、てめぇ……!」


爆煙から現れた戸雷の服は所々焼け焦げており、露わになったその皮膚には火傷の痕が見られる。

そこからあふれ出る水蒸気を意に介すことなく、殺気を込めた視線をぶつける戸雷。


不思議だ……今ならどこでも爆発できそうだ。


悔しそうな顔をしている戸雷は指を鳴らし、13人に分裂する。


「Set……HA!HA!」


そう叫ぶと、今度は四方八方に散っていく戸雷。


こっちを撹乱かくらんしているつもりなのだろう。


確かに普段の俺ならこれを攻略する術はない……。だが、今は違う。


「清五郎……」


俺の背に身体を預ける。アンも不安そうに問いかけてくる。


敵は13人……正攻法ではどうしようもない。ならば、まずは全員の場所を把握しねぇと……。


俺は出来る限り見えている戸雷を目で追う。


「……アン!つかまってろ!」


「えっ、わ、わかりました」


アンにそう言い放ち、俺は手袋前で紋章を展開させる。


いくつか重複してその紋章が分裂した戸雷に向けて放たれる。紋章を重ねて展開し、それを戸雷1人1人に狙いを付けて放つ


紋章は戸雷を追い続けるが、突然光出し、大きな爆風を生む。

その爆風から出てくる戸雷には見受けられるほどのダメージがない。


「ありゃ、やっぱまだ慣れねぇなこの能力。ホーミング付けるのは無茶だったか……」


俺は独り言をもらしてしまう。


さっきは上手くいったが、失敗しちまった。


「清五郎……!こんな威力初めてです」


「あぁ、俺も爆弾ならまだしも、流石に13個の紋章で一気爆発は初めてやったしな」

それに爆発の範囲は見た限り広がっている。


俺たちがそんな流暢に会話をしていると、土煙から人影。


戸雷だ。警戒した俺の背後から突然衝撃が降りかかってくる。


「なっ……!」


俺とアンを纏めてタックルした戸雷。


その威力に負けてぶっ飛ばされた俺の前に止まることなく俺に向かってくる戸雷。


奴は俺を上空へ飛ばすようにタックルする。俺は成す術もないまま撥ねられ、宙を舞う。


天高い空を見つめる俺の前に大きな影。


空中では身動きがとれない……このまま俺を蹴り、一緒に落下して大ダメージってことか……。


「清五郎ッ!」


その瞬間。


俺の体が右に反れる。俺の周りには風……アンの竜巻か!?


突然の動きに、戸雷の攻撃は失敗する。俺はそんな戸雷の横腹に掌打を喰らわせる。


「空中では身動きがとれない……それはそっちも同じだろ?」

そのまま落下した戸雷を確認した俺は「BOMB!」と叫ぶ。


落下点にいた二人も入れて三人の戸雷を纏めて爆発させてやった。


爆風をもろに受け、地面に伏している戸雷達。


俺を受け止めていてくれた風は静かに降下していき、地面に綺麗に着地する。






「ありがとな。アン」


「いえ、当然です。……!?」


そういって俺に綺麗な笑みを見せてくれるアン。


しかしその直後、目つきが変わった彼女は振り返り、鎌を振るう。


そこにいたのは4人目の戸雷。アンの腐敗の風を受けて脚部が腐りかけている。


「アン!気をつけろ!まだまだいるぞ!」


その直後だった。


恐らく4人目の後ろに隠れていた戸雷が物凄いスピードでアンに襲い掛かる。


俺はアンの盾になるように二人の間に割って入り、戸雷に掌打。


飛んでいった戸雷が豪快な爆発音を響かせ消滅する。


けれど、それでは間に合わなかった。肉がぶつかる音が響く。


アンが戸雷二体のタックルのサンドイッチにされていたのだ。


ミシミシと関節や筋肉が軋む音が響き渡る。


「おっと、人の心配してる暇じゃねぇぜ!」


俺の背後にも、戸雷。


咄嗟の判断で行動できず、俺は戸雷のタックルを喰らう他なかった。


飛んでいった俺を捕まえたもう一人の戸雷はそのまま寝転ぶ。


仰向けになった俺の視界に映る、落下してくる戸雷。どんどん奴が近づいてくる……。


俺の下敷きになっていた戸雷が突如姿を消す。俺は一気に地面に叩きつけられた。


バウンドするように小さく浮く身体。その浮いた体をまた捕らえるように


落下してきた戸雷の膝が俺の腹部を叩き付ける。


胃の中のモノが一気に口のほうに押し出される。思わず血を吐き出す。








「どや、いくらおめぇがあの隆太とか言う奴の力で強くなっても


 完全に使いこなせてもなく、ただ威力あがってるだけじゃあ、他のやつに通用しても、俺には通用せいへん」


倒れる俺を見下す戸雷。


確かに、一人一人の攻撃力が高い戸雷が13人いる。


全員の動きは把握できない。そして全部自分だからこそ出来る抜群のコンビネーション。


全てにおいて完璧だ。さっき見えた数字『6』……。俺の予想が正しければ『力の順』だろう。


浪花六道だから6人のランキングだろうか、それとも蛍原恵子も入れて7まであるのかは俺にもわからねぇ。


それでも、6という下位の数字のこいつですらこんなに強いのかと俺は少し怖気づく。




アンが倒れた。消えてないところを見るとまだ踏ん張ってくれているみたいだ。




「ははッ。誰が使いこなせてないって?」


俺を見下す戸雷に薄ら笑いを浮かべる戸雷に向けて言ってやった。


「あぁ?自分何勝ち誇ってんの?この状況が見てわからへんのか」


倒れている俺を囲むように立つ。13人の戸雷。


あれだけコンビネーションよく攻撃していた奴だ。13人使った大技があるに違いない。


「けれど……それじゃあ勝てねぇよ」


俺はまたニタリと笑う。いい、今は良い風が流れてる。


「おら行くぜぇ!この俺の!最高の風よ!」


「「「「「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」」」」」


俺のいきなりの叫びに驚く13人の戸雷。


その直後、俺も含めた戸雷たちの周りに巨大な紋章。


「なッ!?」


その直後、地面から噴出された風によって、13人全員空中へ放り投げられる。


「爆風!上手いこといったぜ!」


俺は嬉しさのあまり歓喜を上げる。


俺は、実は自分の爆発能力に少し不満なところがあった。


確かに迫力あるものは好きだ。けれど、俺が1番好きな風を感じれない。


太陽さんに出会ったときも、アンと戦ったときも……俺は少しショックを受けた。


二人以上に俺は風を愛しているはずだ。なのに俺には風の能力は得られなかった。


風に選ばれなかった。それがショックでならなかった。爆発したときに来る


火薬のにおいが混ざった風も嫌いではなかったけれど、俺の求めているものとは少し違う。


だけど完璧だ。流石にアンのように緩急をつけて風を放つことは出来ないが


相手を吹き飛ばす。最高の風を俺は生み出した!


俺は空中に飛んでいった戸雷達に向けるために上空に手をかざす。


何重にもなって現れる紋章が俺の風に乗って飛んでいく。




空を舞う戸雷を追いかけるように紋章が舞う。


「さぁ!俺がもっとも求めていた最高の爆発!最高の風を見せてくれ!」


俺はそう高らかに叫ぶ。






「喰らえ!……『BIGBANG』!」


その瞬間だった。


恐らく、このフィールドにいる全ての者達の目に焼き付けられたであろう、大爆発


それほど強大で、風が辺り一体を吹き飛ばすように吹き荒れた。


突風能力、強化されすぎた爆発、そして同時展開出来る紋章の数。


隆太の能力で強化されたことだ。あいつの力は本当にすげぇ……。


俺は自分で出した爆発を見て、感嘆としてしまっていた。






「くッ……!きゃぁ!」


倒れていたアンは、風の威力に押し負けて吹き飛ばされる。


俺はそれを身体で受け止めてやった。


「大丈夫か?」


「あっ……ありがとうございます///清五郎……///」


なぜかアンは俯きながら言った。


普段はあんなに冷静な顔で入れるのにな。こういうときだけ照れやがって。


それにしても……流石に力を酷使しすぎた。元々なかった風の能力を無理やり発動させたみたいなもんだから


身体の負担がとんでもねぇ。こりゃ連戦は無理そうだな。




「ッ!?」


そのときだった。


どこかから殺気を感じる。


俺はこの後に及んで震えた。恐怖を感じた。


ありえねぇ……!あの攻撃だぞ?きっと誰か別の奴があの爆発を目印に来たに違いない。


俺はそんな解釈を頭に巡らせながら、恐る恐る振り返る。そこには……。


「おいおい……マジかよ」


「はぁ……はぁ……」


血まみれ、ボロボロの……戸雷和樹の姿があった。


その姿からは恐怖を抱かせる何かがあった。執念……かも知れない。


「俺は……闘わなあかんのや。ほとけさんのために。あの人のために!」




天に向かって吼える戸雷。


「……『ワンゲームタッチアップ』!」


俺たちを睨みつけそう叫び、指を鳴らす戸雷。


その瞬間だった。


彼の後ろには12人の分身。彼自身も入れて13人。


そして……背後にまだ殺気。俺は振り返りたくなかった。


「清五郎……!これはッ……!」


俺の代わりに後ろを見ていたアンが怯えるように言う。






「Set!……HA!HA!!」








そして、合計26人の戸雷が俺達二人に襲い掛かった。


ほんの一瞬。残り僅かな体力が続くまで、戸雷の攻撃は続いた。






「これで堪忍な……。ほとけさん」


最後に力尽きた戸雷は、その姿を消滅させた。








--------------------------------------------------------------------------------










「かずたんが……消滅なさりはった」


「……」


浪花六道陣地。


何かを感じ取った恵子は独り言を呟く。


その言葉に対して俺はどのように返すべきか悩んだ。


素直に驚くべきだろうか。


いや、相手は晴嵐達だ、俺達が勝つか負けるかはせいぜい半々……。いや、奴らの方が優勢か。


だけど……悔しい。晴嵐たちも友で仲間だが、戸雷をやられたのは悔しい。


俺は矛盾した感情を抱いている自分に腹を立てた。


「秀人は……いつまでも私の味方ですよね?」


おもむろに彼女は俺の手を取って問いかけてきた。


「……あぁ、俺は……お前の味方だ」


俺はそうとしか答えるしか出来なかった。


晴嵐たちを倒す側に加担しておきながら、いまだに悩んでる自分が……歯痒い。


彼女に異を唱えたくても出来ない自分も。




「他の5人は大丈夫やろか?」


「あぁ、大丈夫だ。戸雷のおかげで向こうはエンチャートを失った。ジリ貧になっていってこっちが勝つ」


俺は彼女の前では味方を演じた。




晴嵐……。早く来い。


俺は、お前と闘いたい。本当の俺と、闘ってほしい。そしたら……決心できそうな気がするんだ。











--------------------------------------------------------------------------------








「なんや。次はお前さんが相手かいな?」


俺、織田太郎の目の前には奇妙な格好で、爪楊枝を加えた男が立っていた。


「あぁそうだ。てめぇは先日の襲撃にいなかったな?」

「あぁーあんときはな。

初めてやし自己紹介するわ。わいの名前は広部正義!正義の味方や!覚えときい!」



そして二人の男が今、対峙する。



                ☆



「なんや。次はお前さんが相手かいな?」


男、織田太郎の目の前には奇妙な格好で、爪楊枝を加えた男が立っていた。


「あぁそうだ。てめぇは先日の襲撃にいなかったな?」

「あぁーあんときはな。

 初めてやし自己紹介するわ。わいの名前は広部正義!正義の味方や!覚えときい!」



明るい会話を繰り広げる2人。しかし楽しんでいるというよりは互いに警戒しているのか、目は一切笑っていない。

今すぐにでも戦闘が始まりそうな勢いだ。




そんなときだった。

空から何か飛んでくる。あれは……人?


「……へ?」

その人は広部に向かって飛んでいった。

予想外のことに対処できなかった広部は為す術なく額をぶつける




「いたたた……もぉーあの龍め…」

最初に起き上がったのは織田もよく知る少女だった。

「あッ!織田さん!」

「木下…お前なんでこんなところに」

「あぁー話せば色々と長くなっちゃうんですけど、えへへぇー…・・・」

少し申し訳なさそうに言う木下。

飛んできた様子を見ると、まあ…色々あったのだろう。

「がはははッ!おいおいお二人さん。わいのこと忘れてもらっちゃ困るでぇ!」

そういって爆笑しながら額にできた大きなたんこぶを気にせずに起き上がる広部。





「急に空からかわええ娘降ってきよるからムッチャおもろかったわ!ははははっ!」


起き上がってもまだ涙が出るぐらい爆笑してくる広部。




「……ふぅー。わいはあんたら倒して、正純んとこいかなあかんねん」

ひとしきり笑い飛ばして深呼吸をした後、その眼光は目前の敵たる2人を睨む。


先の親しみやすい雰囲気を一瞬でぶちこわし、真剣な声音で織田達に言った。

「「………!」」

自らの主君に対する敵意を察し、2人の騎士は目前の敵を睨み付ける。


覚悟の据わった眼光に映るのは、正純への曇り無き忠誠心。

「ほぉ、ええ目するやん。さっきのギャンブル野郎もおもろかったけど、あんたらも楽しめそうや。さぁ、こいや」

かかってこいと言わんばかりに手を振って挑発してくる広部。


「いいか。木下、本気で挑まないとこいつには勝てねぇぞ?」


「わかってますよ。織田さん!」


そういって木下は、両手に携えた脇差を引き抜く。


その小さな腰刺しは渦を巻いた風を纏っていた。


これこそが木下結花の持つ聖剣『シュワルーズ』の能力なのだ。


剣から竜巻を起こし、それで攻撃を行う聖剣。過去にはあの黒金寧々と渡り歩いた能力だ。


「先手必勝!!」


彼女の身体の何倍もの竜巻を纏った剣で広部に襲い掛かる。




「なんや。自分中々やるやんけ。ただなぁ、そないなそよ風や無駄やで!」


そういうと広部は大きく息を吸い込む。口を大きく広げて、風船のように腹が膨らむ。


そして一気に口から空気を放出。


「う、嘘……ッ!?」


木下の出した竜巻と、広部の息吹が衝突し、相殺される。


なんて力だ。と織田は感嘆としてしまう。


「だが……動きが豪快すぎる。そこに隙が生じるぞ。小僧」


「ッ!?」


その瞬間。広部の腹部に強烈な突を喰らわせる。


奴の腹部はよっぽど堅いのか、織田の剣では貫けず、押し込むように飛んでいく。


そのまま、ビルの壁に衝突する広部、口から吐かれる血。少しは利いただろう。


「ほんま……おもろいわ自分ら!」


は、早いッ!


織田の腹部に向かって、特攻してくる広部。


彼の拳が織田の腹部にめり込む。


「織田さんッ!」


織田は咄嗟に自分の目の前にいる広部に切り込む。




「危ない危ない。ほんまに気が抜けん奴やで」


(ラハイヤンを……受け止めた!?)


織田はその直後に来る広部の回し蹴りを避けることが出来る吹っ飛ばされる。


「ほんまにあかんわ。こいつの近くおったらまた何されるか……」


「でやぁ!」


「おーっと。こっちの嬢ちゃんも物騒なもん携えて怖いで」


ジャンプして避ける広部


「どっせい!」


木下は二つの刀を重ねて飛んでいる広部の方に超巨大竜巻を放つ。


「ッ!!」


空中にいて、避けることが出来なかった広部遥か遠くまで吹き飛ばされていく。


「でかした!木下ぁ!」


空中に飛ぶ広部をすかさず織田がラハイヤンを伸ばして突き刺す。


今度こそは貫通した!と織田が視認する。


広部の腹部から流れる血がラハイヤンの刃を赤く染める。


「ほぉ……2人とも強いなぁーたまげたわ」


細々とした呟き声。しかしその声はずしんと俺達の耳に届き、奇妙な威圧感を与える。


「ほら、いつまで刺しとんねや?はよせな……折るで?」


「っ!?」


織田は慌てて剣を元の長さに戻した。刺さっていた剣が広部の腹部から離れる。


広部が言った言葉は何の変哲もない言葉なのに、織田を怯えさせるには十分だった。


「ふぅーさすがに腹貫通すんのは痛いでほんまに……」


そのまま地面に着地する広部。彼が飄々とした顔で話しているのに織田は驚愕した。


貫いた腹の傷はいまだ存在する。なのに彼はそれで痛みを感じている様子はなかった。


「さてっと!行くで!」


―――見えなかった。


この一言で片付いてしまうほど一瞬の出来事。


その拳は岩おも砕くほど強烈で、織田は一気に意識が飛びそうになる。


「ほぉ、これを耐えるんか……でも、限界みたいやのう?」


しゃがみこむ織田を見下しながら、指を鳴らす広部。


「……後ろの嬢ちゃんも怪我したないやろ?織田をやるまで待っとけや」


「ッ!?」


全てお見通しか。と悟る木下。


彼女が広部の背に向けて放った攻撃をこちらを見るまでもなく避ける広部。


彼の能力はなんだ?いくら空手の有段者でエキスパートとしても今のパワー・スピード・回復力。


全てずば抜けている。


福籠との闘いで使われていた爆発を二人は見ていないが、それも含めて能力が一つとは考えられない!


織田は、もはや目の前の男に恐怖さえ抱いていた。


不可能だ。どこかで悟ってしまった。


ここで先の戦いで負傷していて、今も劣勢の己自身と、


才能はあるが未だ開花し切れていない木下の2人では

この男……『広部正義』には到底勝てないことを!


織田はラハイヤンで広部の心臓部を貫こうとする。

広部はそれを避けるも、あまりに突然だったのか避け切れず、肩の服が切り裂かれる。



「あぁ!?せっかく気にいっとった服やのにぃ!


戦い終わったら元通りやてわかっててもなんかショックやわこれ!」


そういうと広部は織田に背を向けた。


来る。確実に織田にはそれがわかっていた。


「俺の背中に……立つな」


威圧するような声で広部が言葉を放った瞬間。


織田の足元が爆発した。盛大に……爆発した。まるで広部を、目立たせるために。


「織田さんッ!」


織田に止めを刺そうとする広部の前に、木下が割って入ってくる。


「おっと嬢ちゃん。次は君が相手か。


この男まだ、ギリギリ意識保ってるから止め刺したいんやけど……止めるなら、相手なるで?」


「ッ!!」


その言葉で戦闘態勢に入る木下。


「あたしは……負けない。織田さんを救ってみせる!」



そこには、勇敢な心を見せる。一人の少女の姿があった。










「おいッ!飛来、まだなのかぁ!?」

「なぜ俺に聞く?今回のリーダーはお前だぞ?」



明知晴嵐・飛来拓海・徳川優の三人は敵のリーダーである「蛍原恵子」の元に向かっていた。

彼ら三人はこのチームの中でも攻撃力ではTOPクラス。


本来ならここに葵龍二や木下結花も参加するはずだったのだが

葵龍二は敵の一人「小野銀次」を足止めをしており、もう一人、木下結花ちゃんは……遭難中。

『……晴嵐か?』

そんなとき、晴嵐の元へ通信が来る。

「織田さんっすか……」

『お前達と行動していた木下がこっちにきた。


現在。広部正義と交戦中。奴の言葉通りだと、福籠がやられたらしい』

「ッ!?」

その言葉を聴いて、晴嵐は耳を疑う。

今日の占いを彼も見た。双子座は一位。他の占いでも二位や三位と上位ばかりだった。

つまり今日の彼は完璧なコンディションでこの戦いに挑んだはずだ。


龍二ほどの馬鹿じゃないと奴には勝てないはずなのに……。

「広部って奴……龍二以上に馬鹿なのかな?いや、まさか。あいつ以上の馬鹿なんて早々……」

「おい、晴嵐。龍二の奴に対して失礼すぎるんじゃないか?」

晴嵐の言葉に突っ込みを入れる飛来。

すると、何かそわそわし始めている優の姿を晴嵐の瞳は捕らえた。


「……言って来いよ。心配なんだろう?」

「え?」

「わかってるって。織田さんは先の闘いで重症を負っている。木下が広部って奴と戦ってる状況が心配なんだろう?」

「……」

晴嵐の言葉に、優は黙って俯いた。

下唇を強くかんでいる。図星だな……。木下のことが心配でたまらないんだろう。後輩思いだなこいつも

「そういうことならいけ。蛍原恵子は俺と晴嵐でなんとかしてみせる。相手は強い、お前も終わったらこちらに馳せ参じればいい」

飛来が落ち着いた様子で言う。流石、この中で最年長の先輩だ。

「ごめん、ちょっと行ってくるよ」

そういい捨てて優は己のいる場所を無重力にして体を浮かし、そのまま空を飛んでいく。

あいつあんなことも出来たんだ……。と晴嵐は呆然と去っていく優を見ていた。


「ほら、ぼさっとすんな。早く行くぞ。俺を乗せろ……」

「…………は?」

「だから、俺達2人だけなら、俺がお前の背に乗ってお前が飛べばいいだろう」

男を負ぶって空飛ぶのか……しかもこの飛来を……。

「はぁ……仕方ねぇな。ほら、乗れ」

「悪いな……」

そういって飛来は、晴嵐の背中を踏むように……乗った。

「おいッ!普通におぶられろよ!」

「なんでお前なんぞにおぶられなければならない。ほら、早く飛べ」

「ぐぬぬぬぅ……この野郎!あとで覚えとけよッ!」

そういって晴嵐は炎の翼を生やし、飛来を乗せて敵。蛍原恵子の元へ向かう。



「他の連中は大丈夫なんだろうな?」

ふとそう思い出した晴嵐は、みんなに通信してみる。

『こ、こちら……車田。戸雷和樹を倒した……』

すると、車田からの通信。かなりの朗報だが、彼の声を聞いていると喜んではいられなかった。

「だ、大丈夫か?」

『大丈夫じゃねぇ……。最後の最後に戸雷の最強必殺を受けちまった。


俺とアンはまもなく消滅する……。後は頼んだ。それと、奴らは強さを数字で身体に刻んでる。


 戸雷の奴が《6》だった。もし他の奴らのも知れたら作戦の参考にしてくれ』

そういって、車田は通信を切る。

メアリーも誘うことが出来たら、これも対処できただろう。と晴嵐は悔しそうに拳を握る。


「晴嵐!前を見ろ!」

「へぇ?」

突然叫ぶ飛来の声。

俯いていた視線を上げると、目の前に一人の男。

晴嵐はブレーキをかけることが出来ず、目の前の男に攻撃され、地面へと叩き落される。


「大丈夫か?」

無事に着地した飛来は、地面に頭が埋まっている晴嵐に声をかける。

「あ、あぁ……大丈夫だ。それよりも……」

晴嵐は起き上がって、飛来と共にある一点を見上げる。

「やっと会えたな。三浦」

威圧感を込めた声で言う晴嵐。

彼らが見ている先に、足から炎を噴出させ、こちらを見下して宙に浮いている男『三浦秀人』の姿があった。


「晴嵐。どうやら俺達は、ゴール地点に到着してたみたいだぜ」

飛来がにやりと笑いながら視線を落としていった。

晴嵐も同じように視線を落とす。そこには威風堂々と立つ凛々しい少女の姿。

手には金色の、三蔵法師とかが持ってそうな杖を携えている。

あれが……蛍原恵子だ。と2人はすぐに理解した。

「彼女には……触れさせないぞ」

降ってくる勢いで着地する三浦。

地面がひび割れるほどの勢いで着地した彼の眼は、獲物を見つけた獣のように獰猛だった。


「いいぜぇー三浦!俺と勝負だ!」



「秀人。やってください。飛来は『彼女』に相手してもらいますので」


「あぁ、わかってんよ」




睨み合う三浦と晴嵐。


2人の闘いの始まりを狼煙に、戦場は白熱していく。




               ☆



俺、葵龍二は大馬鹿野郎だ。


「ほれ!この程度か!?」


目の前で俺に攻撃してくるのは、小野銀次。


やつが右腕に鉄を変え、俺に向けて放ってくる


それを龍に変えた腕で受け止めるも、堅い……!


「ほら!ガードだけやあかんでぇ!」


「ッ!?」


物凄いスピードでこちらに迫ってくる銀次。


こいつ……地に足がついていない!?


「くッ!」


それに、腕に鉄が付着しているせいで攻撃力がある。


俺は龍の姿でごり押しし、そのまま上空に逃げる。


「逃がすかッ!」


銀次の腕に鉄が付着し続け、俺の龍の体をつかめるぐらい巨大になる。


俺は首をつかまれて無理やり地面にたたきつけられる。


「あんたが残ったんは失敗やったなぁ……。あの重力使う奴なら俺を倒せたかもしんねぇのによ」


倒れる俺を見て、見下すように言う銀次。


くそぉ……確かに力だけが取り柄の俺ではこいつには勝てないのか……!?


俺は立ち上がって奴をにらむ。


「いいねぇ……その目。まだ俺に挑む覚悟があんのかぁ?」


こういうとき、狩羅さんならどうするだろうか?


最近こういうことを考えるようになった。俺は彼の弟子であり


彼の教えを受け継いだ一人だ。ヘラクレスこそ本郷黄鉄が引退したことが原因か。


狩羅さんもいつこの世界を去るかわからない。そのとき……俺はどうするだろうか。


そして今、銀次と戦っている俺じゃなくて、狩羅さんなら……どうするだろうか。


「何考えてんだ!勝負に集中しろよ!」


「ッ!?」


鳩尾に来る重い拳俺は目ん玉見開いて痛みを堪える。


そして俺は吐血する勢いを利用して、毒ガスを奴に向けて放ってやる。


「なッ!てめぇ何しやがる!!」


俺は掃うように殴る銀次俺はそのまま遠くに飛ばされる。


飛ばされてもなお俺は奴の顔を睨み続け、息を吸い込み続ける。


「いけッ!俺様ストリーム!!」


青色のビーム。


あの黄鉄さえも喰らうことを恐れた俺様最強必殺!!


「ッ!?」


流石にやばさに気づいたのか。


銀次は慌ててジャンプしてそのビームをよける。


「おいおい……マジかよ!?」


わずかによけきれずに当たった足を見て銀次は怯える。


その足は黒こげになり、機能しなくなっていった。


「くそッ!それに……あの野郎どこに行きやがった!」






ビルの上から俺を探す銀次を見る。


流石俺様ストリーム。放っただけで俺も結構バテバテだ。


それに奴から受けた攻撃。あれが当たらなかった時点で俺の勝機は皆無に等しい……のだろうか。


『龍二くん。聞こえるかい?』


そのとき、耳から通話音が聞こえる。


この声は……生徒会長か?


「あぁ、現在小野銀次と対峙中だ」


『それはわかっている。


 彼はもういい、それより敵陣東部で対戦している君の姉と瞳ちゃんのペア。


 あるいは自陣西部織田・木下のところに援軍に行って欲しい。


 現在僕に迎えるのは銀次だけだ。彼だけなら……僕が対処できる』


自身たっぷりの声。


その声を聞いて俺は思わずにやりと笑う。


そうだ、何いろいろ考えているんだよ。とにかく、今は……指示に従う。


そしてこの状況なら狩羅さんなら……。


「逃げる!」


俺は一言そう叫ぶ。


少しむかつくが、あのままじゃあたぶんあいつの方が一枚上手だ。


今回の敵は一人で戦っちゃあいけねぇ。それを学んだ。ただ……時間は稼げたはずだ。


晴嵐達は無事敵の大将と接触。ほかの奴らがこちらに攻めてくることも現在防いでいる。


そして一人なら倒せるといったうちの大将。あんま仲良くねぇが今の声は信用できる。


狩羅さんなら逃げる。だがただじゃあ逃げないはずだ。


「おい大将!俺はこっから逃げる!ただ、最後にやっぱり少し足掻いてみる。


 なぁに。戦力減にならねぇように折り合いつけるよ。あんたのためじゃなくて……俺のケジメのためだ」


『わかった……』


そういうとうちの大将は通信をきる。


それと同時に下にした銀次は俺の存在に気づいて見上げてきている。


「見つけたぜこの糞野郎!」


奴はビルの壁に足をつけてまるで滑ってくるようにあがってくる。


もの凄いスピードだ。あっという間にビル上空まで上がり、俺にかかと落としを放ってくる。


それを俺は腕で受け止める。くッ!足に鋭い破片がありやがる!


「おらよ!」


奴の拳が俺の顔面を狙う。


それを俺は手でつかみ、奴の顔を殴ってやる。


少し吹っ飛んだ奴は腕に鉄を集めて巨大な腕を作り俺を殴る。


それをよけて俺は体をねじらせ全身龍の姿になって突進する。


直撃した銀次。しかしその直後、よけたはずの腕に捕まれてビル上空から地面に向けて投げつけられる。


俺は龍にした腕をクッションにしてなんとか着地する。


銀次は衝突したビルごと崩壊した瓦礫の中だ。これだけやりゃあ。


瓦礫の上に堂々と立つ銀次が姿。


俺にぶつかったダメージはあるだろうが、落下の瓦礫のダメージはないようだ。


まるで鉄が奴を避けるように奴にぶつかる直後にどこかに飛んでいく。


奴の服はボロボロだ。きていても無駄だと思ったのか奴はその服を脱ぎ捨てる。


流石スポーツやってるだけのことはある締まった筋肉。


「……ッ!?」


そして、ちらりと見えた背中に書いてあるあるものが俺を驚かせる。


「ふぅーやるなおめぇ。ちょっとビビったぜ」


その言葉の直後、俺は思わず怯える。


今……威圧感が変わった。こいつは、まだ本気を隠していやがる!


これ以上やれば勝てるかわからない上に、取り返しが利かなくなるかもしれない。


俺は大きく息を吸い、毒ガスを吐き出す。


そして龍の腕にしてビルを叩き割る。あたりが土埃に囲まれる。


「はっ!またそれかぁ!?……ってあの野郎。どこ行きやがった?」




物陰で奴を見る。


どうやらバレてねぇみたいだな。




俺はそのままバレねぇように奴から離れていく。


「……大将か?」


『逃走には成功したのかい?龍二くん』


「あぁ、今から援護に向かう。ただ……一応報告だ。小野銀次は……『4』だった」


あのとき、奴の背中に書いていた数字だ。


どうやら奴らは強さをナンバリングしているって言ってたな。


あれで四番目となると、ほかの奴らはどうなる?


本気も本気でいかねぇと……絶対に勝てる相手じゃあねぇな。


『とにかく、君にはやっぱり織田たちがいる場所に向かって欲しい。広部正義。


 彼はあの宿木福籠を瞬殺した相手だ。現在木下と手負いの織田が相手をしている。こっちが不利なんだ』


「わかった!すぐに向かう!!」




そういって俺は……『東』に向かって走った。





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「三浦!なんでてめぇらはパンドラの箱なんて求める!?」


「それが俺たちの目的だからに決まってんだろ!」


上空で闘っている晴嵐と三浦秀人を俺、飛来拓海は見ていた。


三浦は晴嵐を蹴り飛ばし、地面に叩きつける。


黄鉄さんとの戦いで見ていたが、やはり只者ではない。


強い。晴嵐を圧倒出来ている強さを持っている。


「晴嵐!やはり加勢すr――――」


「それはさせない」


「ッ!?」


その瞬間だった。


俺の元に誰かの殺気を感じる。


慌てて俺はその攻撃をナイフで受け止める。


「てめぇ!何者だ!?」


俺に攻撃してきた者は、動き易いように薄い防具を身につけ、武士の面を被った姿だった。


声からして……女か?正十字騎士団のボスから見せてもらったリストにはいなかったぞ?


「我が名は冷泉。仏を守護する武士なり」


そういった瞬間奴は俺のナイフごと押し切るように振りかぶる。


俺はバックステップでその攻撃をよけると、奴から強烈な掌底打ちを放たれる。


避けた直後で、地にしっかり足をつけていなかった俺は思った以上に吹っ飛ばされる。


そのまま間髪入れずに、氷で出来た刀で俺に襲い掛かる冷泉。


こいつ……!強い!今まで闘った誰よりも強い!


黄鉄さんには劣るが、黒金寧々や北風太陽クラスであるのは間違いない。


なぜこんな奴が……浪花六道に!


そしてこいつは……俺を晴嵐たちから引き離そうとしている。


わかっていても対処できない。どんどん晴嵐達と距離が離れていく。


「くそッ!」


俺はナイフを投げつける。しかし冷泉はそれを軽くかわす。


俺は後退しながら奴の攻撃を受け続けるしか出来なかった。






しまいに、晴嵐達の姿が見えないところまで後退させられる。


「そこだッ!」


そこでやっと隙を見つけ、奴に攻撃する。


奴は避けるためにバックステップを取る。これで俺と冷泉の間に距離が出来た。


俺は奴が持つぐらいの長さの刀を二本出現させる。


「刃物を自在に出せる能力者か。面白い」


「……なぜ俺を奴らから離した?」


「あの場にいる者に我の姿を見られると不都合なのでな」


淡々と話す冷泉。しかし先ほどからずっと殺気を放っていて隙がない。


「……既に勝負はついている。大人しくしていれば生かしておいてやる」


突然言う冷戦に俺は少し腹を立てる。……が、その理由がすぐにわかった。


「あ、足が!」


足が凍って地面に完全にくっついていた。


驚いていた俺の隙を見て、冷泉は俺に接近。物凄いスピードだ。


彼女の氷の刀が俺の首元に触れる。全てを止めるような……冷たい感触。


俺は脚を払われ、背中を強打して倒れる。


依然、首に氷の刀が触れる。いつでも斬れると言う脅しだ。


「警告だ。無駄な足掻きはするな」


「……なぜ、俺にとどめを刺さない」


「…………」


俺の言葉に何も反応を示さない冷泉。


なんだ、こいつの目的は?


それよりも、反撃をチャンスを待つしかないか……。


俺は、魚を求める釣り師のように、ただじっと……反撃のチャンスを待っていた。







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「さて、ようやくボスである僕の仕事が来たみたいだね」


「あぁ、あの糞野郎には逃げられたからな。てめぇを殺して俺らの勝利だ」


「ふっ……。君は僕に勝てるつもりでいるのかい?」


「あぁ、俺は知ってんねんぞ?てめぇは自分の弟の、しかも無名のルーキーに無様に負けたらしいなぁ。


 そんなてめぇみたいなひょろい奴にこの小野銀次さまが負けるかよっての」


「そうかい……。君は知らないらしい。聖孝明という僕の自慢の弟の凄さを


 そして目の前に立っているのがその弟よりも遥かに優れた『天才』であるってことを」


そういって少年。聖正純は自分の帯刀している剣を鞘から引き抜く。


神々しい光を放つ、その聖剣『エクスカリバー』がここまで似合う男は他にいるだろうか。








小野銀次と聖正純。


今、二人の男の戦いが始まる。


                 ☆



俺、小野銀次は孤独やった。


いや……俺だけやない。まーくんもはちもとらちーもかずたんもみんな孤独やったんや。


そんな俺らに手を差し伸べてくれたのは他でもない。シュートとほとけさんや。


あの二人がおらんかったら、俺らはどいつもこいつも糞野郎に成り下がってたかもしんねぇ。




だから、あの二人の野望は絶対に成し遂げさせなければならん。


笑顔を失ったほとけさんのために、俺らがやらなあかんのや!!


「待っとれよ……かずたん。おめぇの弔いは俺がしたるからなぁ……」


歩きながら、言葉が思わず漏れる。


心に思っていたことが、そのまま口から放たれる。


一歩。また一歩と自分の標的に向けて歩みを進める。


かずたんの想いも背負わないといけない。あいつは死力を尽くして、自分を倒した野郎達を道連れにしたんや。


それを無駄にしたくはねぇ……。


「……ついにたどり着いたな」


「君が来るのはわかっていたよ。えーっと、小野銀次くん。かな?」


「あぁ、てめぇが敵陣大将の聖正純か?」


「うん。そうだよ、だから僕は……ここで君と闘わないといけないよ」


そういうと、目の前にいる聖正純はゆっくりと鞘から剣を抜き始めた。


真っ白で綺麗で、薄い形状の剣。見ていて思わず見惚れてしまうほど綺麗な剣だった。


それを持つ聖もまた、薄いブロンド色の髪に、色白で肌理細やかな肌。


中性的な顔立ちがその美しさを際立たせる。




「さぁ!意地をかけた勝負と行こうぜ!!」


俺は脚を少し磁力を使って浮かせる。


龍二との戦いで物凄いスピードで動けたのはこれだ。


地面にある磁力をSとし、俺の体の磁力をNにし、反発してその浮いた身体を電磁力で動かしている。


俺は片腕に巨大な鉄クズを集め続ける。


「これでしまいや!」


そして俺は、立っている聖に向けて、拳を放った――――――――はずだったんだ。







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「あぁ……ほんっと、退屈や」


空を見上げながら、俺はふとつぶやく。


俺、小野銀次は大阪から呼ばれてこの学校に来たんだが……ダメだ。東京は肌に合わない。


大阪で抱いていたバスケも、なんか白けてきちまったよ。






「お前?ここで一人か?」


「ん?誰やお前」


「その方便……特待生か」


振り返った先にいたのは、左手にパン、右手に小さい牛乳パックを持った奴の姿が。


こいつ……誰だ?知らないんだが


「大阪から来た特待生5人。それ以外にもう一人いるの知ってるだろ?」


「……あぁー。えーっと、三浦か」


「おっ、覚えててくれたか。隣……いいか?」


「あ、あぁ」


俺は曖昧な返事をすると、三浦は俺の隣に座ってパンを食い始めた。


「お前さ。部活は?」


「……お前こそ、サッカー部かなんかだろ?」


「あぁー……」


三浦は口を開いたまま呆然とし始めた。


数秒して、何事もなかったかのようにパンを食い始める。


「……ぷっ!」


俺はこのシケた空気に思わず笑みがこぼれた。


「……ぶふっ!」


パンを食ってた三浦も、俺に誘われて笑ってしもうてた。


二人して苦笑し続けた俺と三浦。


それは海の波紋が広がり、波となるように次第に大きくなって俺達は互いに爆笑する。


「「わはははははは!!」」


「なんや、なんやわからんけどおもろかったわ!」


「ふぅーはぁーふぅーはぁー。いやぁー笑った笑った。俺ら二人ともサボりか」


二人して空を見る。今日はじめて話したのにえらい気があった。




「実は俺も、小学校までは大阪でな」


「お、そうなんか?」


「あぁ、三年以上ここにいて関西弁はほとんど抜けちまったがな」


そういって三浦は紙パックに刺さったストローを吸う。


「それで?おめぇがわざわざ部活サボって、俺に会いに来たのは理由があるんじゃねぇか?」


俺は、三浦の目を睨んで言った。


こいつが何かを企んでるのは最初からわかっていた。


「……あぁ、部活サボってんのは関係ねぇけど」


そういうと、三浦は飲み干した牛乳を地面に置いて立ち上がった。


放課後の夕日が、後光を差して三浦の背中を見つめた。


そして奴は俺のほうに振り返って静かな声でこう言ったんや。


「お前……生徒会とか、興味ねぇか?」




恐らく、これが俺の人生のターニングポイントやろう。


この頃の俺は荒れていた。それを救ってくれたのは仏さんとシュートや。


極楽から地獄に吊られた《カンダタの蜘蛛の糸》のように、俺を地獄から極楽に引っ張ってくれたんや。




きっと、他の奴らもそうやろう。


あの二人が、俺らを救ってくれたんや。


でも、シュートが突然、他のビルに逃亡した時は驚いたが


合点がいっていたのもある。俺達が出会った頃から仏さんはクールで大人しい女性やった。


でも、シュートはそんな仏さんを見るたびにどっか苦しそうな顔をする。逃げた原因のひとつだろう。


きっと……何かあったんだ。そして《パンドラの箱》に執着する仏さんの姿。


俺は悟った。この勝負に勝てさえすれば、シュートも仏さんも幸せになれる!








せやから俺は……負けられへんのや!二人のために……!





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「……ッ!?」


「君では、どう頑張っても僕には勝てないんだよ。これが必然なんだよ」


俺は……斬られていた。


腕の鉄くず達はボロボロと崩れ去っていて身体中に傷口があり、俺はその場に倒れこんでいた。


本当に一瞬やった。俺の攻撃が全て……無効化されてしまってるんか!?


「君の戦闘スタイルは能力に頼りきっている。


 それでは何百回やっても僕には勝てない。僕に勝てるのは強い者じゃなくて弱い者だ」


倒れている俺の顔を見ることなく、はき捨てるように言う聖。




「……せやから、なんやねん」


俺はその場に起き上がる。


あかんのや。俺は……負けたらあかんのや!


「俺らはなぁ。てめぇらとは違うんだよ。負けちゃいけねぇ……理由があんだよ!」


また俺は攻撃する。


しかし、また集まっていた鉄くずは消えていく。


ただの拳となった攻撃は聖の剣に簡単に受け止められ、胸部を斬られる。


「だから無駄だよ」


「うるせぇ!」


俺は立ち上がる。そして攻撃する。


けれど、無駄だ。わかってる。何度やっても聖に攻撃が届かない。


ここまでコケにされたのは始めてだ。聖正純……こんなに強いのか!?


「はぁ……はぁ……まだ、や」


「…………」


「憐れみの目で見てんやないぞこらぁ!」


「……君の男気は敬意に評するよ。ただ相手が悪かったね。……僕は『天才』だ」


憐れむ目で見た聖の姿が消える。


その一瞬。身体中に痛みが走る。今までの生半可なものやない。


全身立たれへんくなるぐらいまで切り込まれた俺の身体。


「ごめんね。君が負けれない理由があるように、僕にだってみんなが頑張ってるんだ


 僕は兄として、生徒会長として、そして大将として負けることは許されないんだよ。パンドラを守るために」




小さく呟いた聖の声が、朦朧とする俺の耳元に響き渡った。




霞む意識の中、思い出すのはシュートと仏さんの顔。


(ほんまに悪ぃ。二人の夢……もうちょいやったのに、ヘマした)




そして、俺……小野銀次は脱落した。







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エリア東部。


「……ッ!?」


「とらちー!これって!」


「ははは、信じられへん。ぎんちゃんが負けたんか」




目の前で止まってショックを受けてる八口美海と虎坂千夏の二人。


それを見ていたあたしの元に会長から連絡が来る。小野銀次を撃破した。とのこと。


「……相手が悪かったわね。うちの会長に勝てる奴なんてそうそういないわ」


「うっさい!ぎんちゃんは強いんやぞ!泥棒猫はだまっとれ!」


「ど、泥棒……!」


「まあまあハロちん落ち着いて。負けたもんは仕方あらへんよ。シュートも言うてたやろ?


 実力は互角、負けるのも当たり前やて。うちらはうちらで頑張ろや?」




「ッ!?」


その瞬間。


あたし、葵刹那は身の危険を感じた。


一瞬で身体から冷や汗が出た。圧巻としてしまった。


仲間が二人消えたのを気に本気になってきてるんだろうか。


「お姉ちゃん……」


「瞳ちゃん?まだいける?」


「うん。まだまだいけるよ」


「なら……よかった。気を抜いた瞬間にこの勝負……負けるわよ」






睨みあう乙女たち。


殺気乱れる乙女演義が始まる。



                ☆



東部エリア


「ほらほら!しっかりせなうちにまた投げられるで!」


「ッ!?」


その瞬間。葵刹那の袖を敵の一人、虎坂千夏が掴んだ。


彼女の足は宙をさまよい、視界が反転した。


一瞬ゆっくりに見えた視界はそのまま素早く地面と言う現実に叩きつけられ。






「お姉ちゃん!!」


「人の心配してる場合やないで!」


「くッ!」


その視界の端で刹那を心配していた瞳に対して八口美海の攻撃が放たれる。


なんとかガードするも、圧倒的に八口のほうが優勢だった。


何とか攻撃を受け流し続ける瞳だが、八本もある腕からは逃れられず


彼女の身体に八口の腕が絡みつき、彼女の小さな首を蛸脚が巻きつく。


「うッ……!」


「はよ落ちな。子どもがお姉さんらと戦うのはあかんで?」


首を絞めるために瞳を持ち上げる八口。彼女は瞳を見上げながら言う。


「瞳ちゃん!」


「あかんあかん。他に気取られてたら、うちらには勝たれへんで!」


その瞬間。虎坂の細い腕から出たとは思えない重い拳が刹那の腹部を貫く。


「ッ!?」


これほど攻撃力がどこから!と驚きながら刹那はその威力に負けてビルの壁を貫き飛ばされる。


「ちょっととらちー!うちに止めささせてくれるんやろな!?」


「あぁーわかってるわかってる。んじゃ、ちょいとビル内戦と行くわ」


そういい残し、ビルに向けて歩いていく虎坂。




「余所見は禁物なんじゃないの?お姉ちゃん♪」


「ッ!?」


向こうに気を取られていた一瞬だった。


瞳は自身の拳で自分の首を絞めている蛸脚に向かって殴りつけた。


あまりの痛みに蛸足が一瞬緩む。その隙を瞳は見逃さない。首を抜き、蛸足一本を取り、腕で引きちぎる。


宙に浮いた彼女は、そのまま立っている八口の身体を蹴りつけて高く飛んで地面に着地する。


腕を引きちぎられて蹴られた八口は痛そうに胸部を押さえる。


「あんた!水泳選手に肺大事やねんで!使いもんならんくなったらどないすんのさぁ!」


少し目に涙を浮かべながら言ってくる八口。


彼女はその直後、大きく息を吸う。彼女のお腹が、身体全体が風船の用に膨らむ。


残った七本の脚を地面に強く突き刺した八口は、吸い込んだ空気を瞳に向けて一気に放つ。


「ッ!?」


まさかの突風。


八口の口から放たれた突風が瞳の身体を地面から突き放し、空中に放つ。


全て吐き出した八口は宙に浮いた瞳をすかさず腕を伸ばし、捕らえ、思いっきり振り回す。


「ほらほら!自分力強くて頑丈なんやろ!?これを耐えてみぃや!!」


瞳の視界にはビル。思いっきりこれにたたきつけられる。


その痛みに耐えている間にまた新たなビル。瞳はそれを拳で砕く。


五、六個のビルにぶつけられてそのまま瞳は地面に叩きつけられる。






「『柔よく剛を制す』って言葉があってやな。うちの軟体動物のような肉体には


 あんたのそのかったい拳の意味は半減やで?それは今闘ってる泥棒猫も一緒や。


 あいつがどんだけ頑張ってもとらちーには勝てへんよ。


 さっきの言葉を理解しながらとらちーは『剛』も持った天才やねんから」


倒れる瞳に向けて吐き捨てるように言う八口。


そんな彼女の脚を、倒れた瞳は掴んだ。


「ん?なんなん?まだうちに挑む気なん?」


「……負けは認めなかったら負けじゃない」


瞳は小さな声で呟いた。そして力強く八口の脚を握り締める。


「ッ!?こ、こらッ!パンツ見えるて!」


「うらぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


急に立ち上がった瞳。脚をもたれているせいで体勢を崩した八口は


スカートを押さえた。この一瞬を瞳は見逃さず彼女を思いっきり投げ飛ばす


ビルの壁に激しくぶつかる八口。


「……いったいなぁーもぉー。まだまだやる気なん?」


「……。勝てない相手からは逃げたいもんだ。


 でも、そういうときは大抵逃げれないもの。壁ってのは誰にでもある。


 それは乗り越えるのは大変だ。だったらどうすればいいか……簡単だ」


瞳は、過去にずっと言い聞かされてきた自分の愛する男の言葉を思い出して詠唱する。


自分の環境から目をそらしたいとき、言い訳したいとき、何か嫌なことがあったとき


彼はまるで自分の娘に語りかけるようにその言葉を残した。今でも彼女の心に刻まれている。


「壁は……『砕け』ばいい!!」


思いっきり握り拳を作る瞳。


そしてその握り拳を、地面に向けて放つ。戦局を一気に変えるために『彼』がやったように。


拳から割れ目がどんどん現れていく。


地鳴りを響かせながら地割れが起こる。


「ちょ、ちょいまちぃな!」


危機を感じた八口は割れ目から逃げながら


瞳に向けて腕を伸ばす。


瞳はそれに対して地面から巨大な岩を持ち上げ、盾にする。


その岩にぶつけられた蛸足は岩を砕くことが出来ずに引き返す。


(やっぱり!複数あるけど一本一本の攻撃はさほど高くない!)


そう重いながらバックステップ。七本同時のパンチで盾にしていた岩を砕く八口。


少し勝機が見えた。瞳は確実にそう思った。


また地面から巨大な岩をくり抜く。それを思いっきり八口に向けて投げつける。


「ちょ!」


彼女は七本の脚を使って高く跳躍。


「……へへッ♪隙あり!」


瞳は跳躍して八口に向けて拳を放つ。


慌てて六本の脚を盾にした八口。瞳の渾身の一撃。


六本の脚の盾を突きぬけ、八口をぶっ飛ばす。


その後、着地した瞳は、じっと八口の飛ばされたほうを見つめる。


膝をついている八口。盾にした六本の腕達も痙攣を起こして動かないようだ。


……ん?六本?






「……あんたの作った地割れ。利用させてもろたで。


「ッ!?」


その直後鋭く尖った一本の蛸足は瞳の背中を貫いた。


吐血する瞳。完全に油断していた。一方向からしかこないと思い込んでいた。


朦朧とする意識の中立ち上がる八口を見る瞳。服が破けて見える彼女の腹部に描かれた『5』の数字。


蛸足は引き抜かれる。瞳の背中から腹部にかけて大きな穴が開いていた。


そこから流れる血。もう長くは持たないだろう。


「はぁ……はぁ……はぁ…」


(黄鉄さんが引退して、


 お兄ちゃんやお姉ちゃんのために頑張りたかったんだけど……やっぱり私はまだまだなのかな)


「もうボロボロやん自分。ゆっとくけど、うちはまだいけるで?」


「ま、まだ……いける…もん」


ふらぁーっと足元がふらつく。身体のバランスが取れなくなり、そのまま後ろに倒れていく。


(任せられたのに出来なかったよぉ……)


「ごめん。お姉ちゃん……」


倒れる瞳の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。


「いや、おめぇはしっかりやったと思うぜ、瞳!」


倒れているとき、声と同時に地面ではない……暖かいものが瞳の背中を支える。


「えっ、あっ……えぇ!?」


目の前の八口がえらく狼狽している。


顔は見ていない。けれど、その声はどこか安心した。


刹那と同じく、彼女にとっては心地よく安心出来る声。


「こっからは……兄ちゃんに任せとけ!」


「……うんっ!」


目の前に映るのは、彼女の大好きな三兄弟の一人……『葵龍二』




「あっ、えっと……龍二さん!どうしてここに!?」


「ん?おめぇ……たこやき屋んとこの奴じゃねぇか?」


「お、覚えててくれたの!?う、うれしい……/////」


「たこ焼きに関しては感謝しかねぇが、うちのダチがやられたんだ。ただじゃおかねぇぞ」


「お、覚えててくれてる……えへへぇ、で、でもなんで龍二さんがいるの!?


 ま、まさかあの刹那って女を守るため!?ゆ、許せない……」


「あぁ?姉ちゃんがどうかしたのか?」


「あの女!やっぱりぼこぼこにしてやる!羨ましい!………って、姉ちゃん?へっ?」


「なんだかしらねぇが、今は敵だ!倒させてもらう!!」


そういうと、龍二は大きく息を吸う。




「え、ちょ、龍二さんとあの女は恋人じゃなくて兄弟で、それで、あの女が敵で龍二さんも一緒に参加してて


 それで、今まで闘ってた幼女は龍二さんの友達で、うちはそんな幼女をボコボコにした挙句


 龍二さんの目の前で龍二さんのお姉さまに対してぼこぼこにするなんて暴言を吐いてしまったの!?


 どうしよう!うち完全に嫌われるやん!うわぁー!とらちーにも教えなあかんし、そ、それに今から龍二さんと


 あたしが……た、闘わなあかんねんやんな!?りゅ、龍二さんを傷つけたくないけど、ほとけさんのためにも


 うちはみんなを倒していかなあかんくて、うちらはほとけさんのためで、それで―――――――――――」




「何ごちゃごちゃ言ってるかわかんねぇが!行くぜ!『俺様ストリーム』!!」


一人で慌てふためき、何かを口走っている八口を他所に


龍二は口から巨大なエネルギー団を放つ。当然……自分の世界に入っている八口は気づかず。


「…………へっ?」


気づいた時既に遅し、八口はよけることが出来ず龍二の俺様ストリームをもろに喰らう。


「へっ!それを喰らって平気や奴はいねぇぜ!!」






「……た、たこ焼き……やん…か」


真っ黒けになってこげた八口がその場で倒れて気を失う。八口美海リタイア。




「……なんか、ギャグみたいな技だよね。それ…」


「ん?すげぇだろ!?俺の最強必殺!」


「う、うん……おにいちゃんはすごいよぉー、なんか私の頑張りが無駄になったほどに……」


瞳は、呆れた目をして龍二に言った。


向こうの人が何か龍二を見て狼狽していたが、そんなことも関係なしに最強技放つあたり


この人は蛇道狩羅よりも容赦ないかも知れない。


「さてっと、姉ちゃんはどこだ」


自分の服を破いて瞳に巻きながら龍二は彼女に質問した。


「……あそこ」


そういうと、瞳は一つのビルを指差す。


「ちっ、ビル内に入っちまったのか。俺の能力じゃ窮屈で戦えねえ」


「私ももうボロボロで闘えないし、たぶん時期リタイアだよ」


「よしっ!俺次は「ちゃんと」!正義んとこ行ってくるわ!」


「……ちゃんと?それに、お姉ちゃんはいいの?」


引っかかった言葉に対して疑問を持った後


それよりも引っかかったことを龍二に問いかける。


「あぁ、俺が今闘えないしな。それに……姉ちゃんは何があっても負けない」


瞳が見た龍二のその目は、完全に信頼している目だった。


この人は本気で、自分の姉ならどんな化け物相手でも勝てるって信じているんだろう。


そしてその目を見た瞬間。私もそんな気がしてきた。


「そうだね。いってらっしゃい、私も消える


 ギリギリまでここで耐えてみるよ。お姉ちゃんの勝ったところみたいしね」


「おう!んじゃあな!」


そういって龍二は去っていった。







--------------------------------------------------------------------------------









「済まないな。貴様は強い。だが、我はさらに強く、負けられないのだ」


辺り一帯氷柱の刺さったフィールド。


辺りには無残に散乱した飛来のナイフ


「お、お前は……何者だ。明らかに、他の奴とレベルが……違いすぎる!」


「我はただの武士。パンドラを求めるただの……武士。


 貴様はよく闘ったほうだ。六道達では太刀打ち出来ないかもな」




そこに毅然と立つ冷泉と、その場で血を流し倒れている飛来。


そして飛来の身体が光に包まれて消滅した。




「……ふぅー。今なら誰も見てないよね。


 いい加減武士キャラも疲れるなぁーっと。さて、パンドラを取りに行きますか♪」


一瞬空気を入れるために面をはずす冷泉。ただし、その顔は影が掛かってて見えない。






浪花六道を三人倒し、ついに勝負は後半に突入する。



                 ☆


「くっ!」


「てめぇはそんなに弱かったか!晴嵐!!」


地面に叩きつけられる俺、明知晴嵐。


地面から真上を見上げる。空から俺を見下す三浦秀人の姿。


靴の辺りから噴出され続ける炎が彼を宙へと浮遊させている。


「こっちはそんな暇はねぇんだいくぞ!」


炎で加速し、俺に向けて突進してくる三浦。


俺は翼を生やしてその攻撃から逃げる。


天空へ逃げた俺を着地した三浦はそこから空を蹴る。


そのときの脚は炎を纏っておらず、明らかに……刃物の形をしていた。


「ちっ!」


その瞬間。俺の頬を何かが切り裂く。


一回フリーバトルでアンさんと戦ったときに感じたこれは……風で切れた感覚。


「お前、刹那から早く動ける訓練頼んだほうがいいぞ?」


「っ!?」


気がついたらもう三浦の姿が後ろにあった。


俺の背中がくの字に曲がる。身体の骨から嫌な音が響く。


俺は負けじと飛ばされる前に裏拳を奴に与える。奴のここに俺の固く握った拳があたり


両者反発しあうように飛んでいく。


互いに空中で踏ん張り、互いをにらみ合う。


そんなとき、俺達の通信機が鳴る。同じ内容を、違う方向性で伝えられる。


「そ、そんな……マジかよ……」


「飛来がやられたようだな。あの冷泉にか」


俺には驚くことしか出来なかった。


あの飛来が、しかも奴があの武士野朗と闘いを始めてそんな時間が経っていないはずだ。


「ま、仕方ねぇっつったら仕方ねぇな」


「っ!?み、三浦どういうことだよ!」


「飛来は強いさ。てめぇよりも、俺よりもな。だが、冷泉の相手を一人でしたのは間違いだったな」


「だ、誰なんだよ!あの冷泉って!てめぇらはほとけも入れて七人のはずだろ!?」


「あぁ、だから俺もしらねぇ。浪花六道にあんな奴はいない。……恵子の推薦で来た奴だからな。


 ただ、確実に俺達の誰よりも強い。


 俺達の強さはナンバリングされているが、冷泉は名前のとおり「No.0」ってところか。


 晴嵐。冷泉を止めようってもそうは行かないぜ?てめぇは俺には勝てないからな!!!」


そういって襲ってくる三浦。


俺は三浦の蹴りを腕でガードする。さらに回し蹴り、それを止める。


三浦の猛攻は止まらない。隙を見て俺は拳を放つも簡単に避けられる。


そして俺の腹部に強烈な膝蹴り。その直後にかかと落とし、俺の意識が飛びそうになる。


頭を振って意識を戻した俺は三浦の顔面にエルボー、そしてすかさず腹部にパンチ。


直後に奴の脚をつかみ二、三回回転してから奴を地面に叩きつける。


「へっ!流石晴嵐だな!」


「そっちこそ!」


俺は少しずつ、少しずつだけど……この闘いを楽しんでいた。


今は敵だ。こっちが守るパンドラの箱を狙う敵軍の一人。倒すべき相手だ。


だけど……それよりも!あの三浦の本気の本気、殺意もあるぐらいの本気で


互いにバトルできることそのものにすっげぇワクワクする!


「……秀人」


そんなとき、小さく呟いた声を聞いて三浦の身体が驚いたように反応する。


まるで背中に針でも刺されたように、一気に顔をこわばらせている。


「わかっているの?こいつにあなたが倒されたら……」


その瞬間、蛍原恵子は自分の持つ杖を一度地面を突いて、その派手な金属が綺麗な音を奏でる。


そして中央の輪が微かに光を放った気がした。


「あぁ、わかってんよ!恵子!!」


こいつ……今の一瞬でまた力を上げた!?


気迫と言うか、なんというか格段にあがった。


「さあ……晴嵐。てめぇも本気出せ、もっと、さもねぇと俺には勝たないぞ」


「っ!?」


俺は慌てて自分の傷を炎に変換させる。


先手必勝!俺は奴に向けて攻撃する。


それを脚で受け止めた三浦は俺の脚を払う。


そして宙に浮いた俺の身体を膝で蹴る。追加で放たれる回し蹴りをなんとか避けて、


地面に手をついて、その手を一気に伸ばす。


真下からの勢いある蹴りが、三浦の顎にヒットする。




「「はぁぁぁぁ!!」」


俺はすぐ立ち上がり、拳を放つ


三浦も急いで体勢を立ちなおし、蹴りを放つ。


互いの蹴りと拳がぶつかる。


二人ともの身体が静止し、ぶつかった衝撃が風圧となって現れる。


ぶつかった三浦のズボンと晴嵐の服が破けていく。




「あの明知晴嵐……不死鳥と呼ばれることだけはありますね。


 あの不屈の精神まさに不死鳥。だが……秀人は負けません。


 誰にも、私を守ってくれるお人。『不動明王』の二つ名は伊達やありません」








少年は、一人の少女のために闘い続けた。


騎士のように、犬のように、執事のように「仏」と呼ばれる少女に降り注ぐ災厄を打ち砕いてきた。


彼はまるで彼女の盾であるように、彼女の傍から離れず、動かず、彼女を守り続けてきた。


仏に逆らう愚か者に天罰を与える不動の王。彼に天罰を与えられたものたちはみな口を揃えて言う。


―――――――『不動明王』と。





--------------------------------------------------------------------------------







「嬢ちゃん一人で勝つつもりなんか?この俺様に?」


西部エリア。


消滅した織田太郎。


そしてその場に残る木下結花と敵の一人、広部正義。


「そうよ!悪い!」


「おいおい、冗談はよしこさんだぜ」


やれやれと呆れたように首を振る広部。


「自分震えてるやん。新喜劇の辰じいやないんやから、もっとシャキっとしいな。三途の川見えるんか?」


挑発するように言う広部。


この男はふざけているが、明らかに実力は化け物だ。


能力がなんなのかもわからない。その状況で織田太郎は負けた。


残っているのは自分ひとり。


自分だけでこの男を抑えることが出来るのだろうか?


木下の脳裏にはその言葉だけが残る。


強気で言葉を返してみたものの、やはり……怖い!


「ほな……いくで!」


「っ!?」


突如こちらに突進してくる広部。


慌てて風の盾を作ったものの、それごと広部にぶっ飛ばされる。


「ヒーロージャンプ!!」


飛んでいった木下に向けてジャンプ。


そして空中にいる彼女めがけて強烈なパンチ。


地面に叩きつけられる瞬間に風でクッションを作って難を逃れる木下。


しかし、そんなことはお構いなしに広部の猛攻は続く。


「もぉ!いい加減にしなさいよ!!」


木下はシュワルーズをあわせて巨大な竜巻を浴びせる。


「おいおいまたそれかいな。それ結構面倒やねんで?」


広部は腰を落とし、足を踏ん張り、拳を構える。


これは見たことがある……。空手の正拳突きの構えだ。


「……破ッ!」


そして木下の竜巻が襲ってきたタイミングで怒号を発して、その竜巻に向けて鋭いパンチ。


風が一瞬にして四方八方に散っていく。


「ッ!?」


「せやから、わい相手に嬢ちゃん一人や無理やて!」


その直後、驚くべきスピードで木下の目の前にきた広部はそのまま彼女の腹部を殴り、木下をぶっ飛ばす。


ビルの壁にぶつかった彼女の意識が朦朧とし始めてくる。


「さてっと……わいも急いでるんや。嬢ちゃんにはとどめ指されてもらうで。


 ぽっとでの雇われ人ごときに大将取るの先越されたくないからのぉ」


そういって拳を強く握る広部。


それを見ていた木下は自分の敗北を悟った。


「……なら、二人ならどうだい?」


「ッ!?」


その瞬間。


広部の様子が変わったのがわかった。


彼が何もしていないのに、彼の足が地面に突き刺さり、砕いていく。


「……お待たせ。シュワルーズ」


その声と、うっすらと見えた姿を見て、木下の視界は


まるで水中にいるかのようにおぼろげに移り始める。


「……バカッ!来るのが遅すぎるのよっ!!」




「……ほんとうにごめん」


「じ、自分……知ってんで?正十字騎士団デュランデル徳川優やろ?」


「うん。そのとおりだよ。そういう君は浪花六道空手部広部正義……だよね、いや部活はやめたって聞いたけど」


「せや、やめたで?今はボランティアクラブを設立してる!」


「ははは、そうかい……」


「ッ!?」


その言葉の直後、広部の足場がさらに重くなる。


「そんなことはどうでもいいんだよ。僕は君を倒しにきたんだから」


「じ、自分優しい顔して結構えげついねんなぁ……ッ!?」


「五月蝿い……」


「こ、こんなんで……わいと制した思うなよ!!」


広部が激しく咆哮すると、彼はその場をジャンプ。


「驚いた。あの重力場を気合で吹き飛ばすとは……」


「デュランデル!自分もわいの獲物やで!?ぼさっとしてたらあかんぞ!」


「ッ!?優!気をつけて、あいつパワーもスピードも桁違いなの!」




木下の言葉の直後に広部の拳が物凄いスピードで優に向けて放たれる。


「ッ!?」


「それぐらいわかってるよ」


その拳を、デュランデルで受け止める優。


その直後、自分自身を巻き込んでその場に重力場を形成する。


広部と優のいる場所に巨大なクレーターが発生する。


「いまだシュワルーズ!」


「了解!!」


重力場から離れていた木下はその場でシュワルーズに風を集める。


どんどん大きくなる風。その風で塵たちが待っていく。


「お、おい!何考えとるんや!」


「まずは流れを変える!君に巨大なダメージを与えてやるのさ!」


そして木下は巨大な竜巻二つを一体化させる。


さらに巨大化した竜巻が、優と広部のいる重力場に向けて放たれる。


「がはッ!」


激しく飛ばされる優と広部。


優は自分の能力で自身を重くして、すぐに地面に着地


しかし広部はそのまま激しく飛ばされ、ビルへと衝突する。






「はっはっは……。本当にシュワルーズは手加減してくれないね……」


「て、手加減したら怒ったでしょ!?」


「まぁね。これで奴にも多少のダメージは与えたでしょ」




「はぁ……自分ら、ほんまにやるなぁ……」


ビルの瓦礫から起き上がってくる広部。彼の衣服が破けていた。




「「ッ!?」」


そこに移った『数字』は二人を驚かせるには十分だった。


「そんな……。僕はてっきり……」




「なんや?何がそんなにおかしいんや?」










敵陣本拠地。


「おいおい、マジかよ」


「……その反応は少し傷つくな」


そして三浦の振りかぶった蹴りを避けるために俺は少しバックステップを取る。




雑に敗れていったズボンから、奴の鍛えられた綺麗な足が見える。


そしてそこに見える『数字』は俺を驚かせるには十分だった。


「……お前は俺にすら勝てない。てめぇらの仲間じゃ、俺達には勝てないぜ」












それぞれの戦場、そこに移る現実。広部正義、三浦秀人の身体に刻まれた『1』『2』の数字。


胸に『1』の数字の広部正義。足に『2』の数字の三浦秀人の姿がそこにはあった。






「「さぁ……天罰の始まりだ(やで)」」


三浦と広部の目つきが変わり、晴嵐達はその気迫に負ける。




浪花六道TOP3、そして冷泉を残し、晴嵐達の闘いはさらに苦しいものとなっていく。


                 ☆



「来いよ!こらぁ!」


地響きを起こして大地を砕く広部の攻撃をかわす僕、徳川優。


その場でデュランデルによる重力場を形成。広部を抑え込む。


しかし、彼はよっぽどの化け物だ、デュランデルで作った重力場では


一瞬動きを封じれるだけですぐにその重力に適応されてしまう!


「優!どいて!」


その言葉を耳にした瞬間、僕は自分の重力場を無重力にして宙へ飛ぶ。


上から見上げると結花ちゃんの竜巻が広部を襲う。


しかし、僕の重力場になれた広部はその場で結花ちゃんの竜巻を拳で吹き飛ばす。




「嬢ちゃん!いい加減邪魔やで!」


地面を蹴り結花ちゃんに向けて走る広部。


僕は急いで重力場を作るけれど、ダメだ!刹那と一緒で作っても広部には逃げられる!


「うッ!」


「結花ちゃん!」


広部の拳は結花ちゃんを捕らえ、彼女は遠くまで飛ばされてビルにぶつかりそうになる。




「どっせい!」


そのとき、誰かが結花ちゃんを受け止めてくれる。


「俺……参上!」




「龍二くん!」


「ほぉ……あれがはちさん倒した男か」




「優!」


「了解!」


龍二くんの言葉を聞いて、僕はすぐに広部の重力場を重くする。


それを見て龍二くんは龍の姿に変身して突進する。


真上から見ていると本当に龍の姿の大きさがはっきりわかる。


広部は龍二の突進を止めようとするも、重力のせいでうまく動けず、そのまま撥ねられる。


「相変わらずすごいね。迫力が」


僕は自分のいる重力場を元に戻して龍二達の元に降りる。


「あぁ、だが期待すんなよ。俺様ストリームはもう使えないんだ、体力的に」


「結花ちゃんのほうは大丈夫?」


「まだまだ!あたし達の能力は聖剣の能力だから、体力関係ないでしょ?」


そう。僕らの能力の利点といえばそこにある。


能力を使っての疲労がない。だからこそ僕らはいつまでも能力を使役できる。


僕らが広部に勝てるところといえばそこだ。龍二くんは表に出していないが、報告を聞いている限りじゃ


俺様ストリームを二度放って、小野銀次、八口美海の二人と闘っている。ただでさえ燃費が高そうな能力だ。


援護に来てくれたのはうれしいけれど、そこまで期待出来ない。


「優。俺……囮になるわ」


そんなことを考えていると、龍二くんが言葉を漏らす。


「龍二くん?」


「俺バカだからよ、あんま作戦とか考えれねぇけど。


 お前が今俺の体力が減ってることを気にしてんのはなんとなくわかる。


 正直俺もヘトヘトだ、大技放てる体力じゃねえ、俺が奴とぎりぎりまで闘う。


 隙を見てこのチビとおめぇでなんとかしてくれ」


「チビって誰のことよ!チビって!!」


そんな結花ちゃんの言葉を無視して、龍二くんは広部に向かって突進する。


広部は龍二くんの突進を受け止め、そのまま龍二くんの腹に正拳突きを放つ広部。


「ガハッ」


「なんや自分。さっきはビビったけど、バッテバテやんか」


その直後広部の回し蹴り、龍二くんはそれを掴み、広部を地面にたたきつける。


しかし、


これを両手を地面に付けて防いだ広部は手を思いっきり伸ばし、その反動で龍二くんの顎めがけて蹴り上げる。


「優!何ぼさっとしてんの!あたし達も行くよ!」


思わず見とれていた僕を叱咤して、結花ちゃんは先に走る。




そのとき、僕は見てしまった。龍二くんを蹴り上げた広部の不敵な笑みを。


何か企んでる、次何かしでかす……そんな顔を。


「ダメだ結花ちゃん!」




「お楽しみ!最強必殺!悪を滅ぼす聖なる拳!「ジャスティス・ブロー」!!!!」


突然広部の拳が綺麗な光に包まれる。思わず見とれる。


その場で僕は茫然と立ち尽くしてしまう。これもあの技の力なのかと疑う。


そして放たれた拳から、黄金の衝撃波。まるで龍二くんの「俺様ストリーム」のような―――――――。


「ッ!?龍二くん!結花ちゃん!!」


僕は我に返って二人に向けて叫ぶ。


けれど、二人ともさっきの僕同様茫然と立ち尽くし、そのまま彼の衝撃波に飲み込まれてしまう。


「はっはっは!これこそ悪を滅ぼす最強のフィナーレ技!


 ライダーキックに北斗百裂拳、かめはめ波にキン肉バスター!ヒーローには止め技は必須やで!」


そう叫ぶ広部。




彼の前で衝撃波に飲まれた二人は倒れこんでいる。


龍二くんの姿が消えかかっている。彼はもうダメだ……。


「うッ……」


「結花ちゃん!」


僕は慌てて結花ちゃんに駆け寄る。


「お、わいの技受けてまだ意識あるか。止め刺さなあかんなぁー」


そう言ってこちらに走ってくる広部。


僕は何をしに来たんだ。結花ちゃんを助けに来たんじゃないか!


それなのに、どうして僕が無傷で彼女が傷つかないといけない!


ここまで頑張ってる彼女が、なぜ負けなければならない。


いつも頑張って頑張って頑張って!努力をし続ける彼女が、こんなに無残な姿にならないといけない!


「ッ!?」


走ってきていた広部は、突然まるで許しを乞うように地面に頭を叩きつけられる。


「……結花ちゃんに止めは刺させない」


「自分、なんか怒ってへんか?」


「あぁ、怒ってるよ。彼女の傷つく姿を見て気づいた。僕はどうやら彼女が好きらしい。


 だから……彼女を傷つけた君だけは絶対に許さないし、ここで倒す」


初めて自分の感情に気づけた。


僕は晴嵐と違ってそういう方面は疎いと思っていたけれど。


違った。ずっと好きだったんだ、彼女のことが。逆になぜ今まで気づかなかったのだろう。


今、彼女を痛め続けてきたこいつを見ていると殺意が湧いてくる。


「あんま……調子のんな――ッ!?」


「頭を上げるな。これ以上お前に動くことを許可しない」


「ぐッ!!」


悔しそうに奥歯を鳴らす広部を、僕はただただ見下す。


聖剣が異様な光を放っている。それに、さっきよりも僕の能力での重力が限度を超えている。


僕の重力がなんともなかった広部が動けなくなっている。能力が強化されたのだろうか?


「……とはいえ、君のことだ。僕が少しでも油断すれば重力から逃れるだろう。


 ましては止めを刺そうとすればなおさらだ。止めを刺しにいけば僕はおそらく君に負ける。


 君もそれを狙っていただろう?」


広部は悔しそうに下唇を噛む。図星か。


「だから僕は君を倒さない。


 この勝負が終わるまで、ずっと僕に頭を垂れるんだ」


「……自分、性格悪いやろ?聖者気取っとるくせに」


「ははっ、よく言われる」


僕は嫌味を言ってくる広部に向けて、ただただ笑みで返した。






さて、晴嵐は無事三浦と闘えてるだろうか。


瞳ちゃんによれば刹那と虎坂が闘ってるそうだけど……。




そして冷泉だったか。


奴が正純さんのところに向かったとなると、参戦したいが


「ま、彼がいるから大丈夫だろう」


僕はそう思い、ただただ広部に向けて重力をかけ続ける。





--------------------------------------------------------------------------------







敵陣本部。


「ガハっ!!」


三浦からの膝蹴りを食らって俺の口から血が噴き出す。


俺はバックステップで三浦との距離を取る。


「こうなったら!」


俺は両手に炎を集中させる。


そして両手を合わせ、その炎を真正面に放出する。


狩羅の元でした蝋燭での修業を続けているうちに完成した技だ。


しかし、読まれていたのか、三浦はこれを簡単によける。


だが!俺の狙いはそこじゃねぇ!!


三浦の先にいる!無防備に立ってやがる仏さんだ!


「っ!?」


仏さんは俺からの攻撃が来ていることに気がつく。


しまった!不意打ちのつもりだったのに気づくのが早い!これじゃ対処され―――――――。


「っ!?」


俺は思わず驚く。


俺の放出した炎と、仏さんの間に三浦が割って入り、炎を三浦が受けた。


一度避けた攻撃をわざわざ仏さんの前にいって喰らいやがった……。


「はぁ……はぁ……」


三浦は俺の炎を受けて全身が焼け、疲労の声が出ている。


この結果を見て、俺は一つのある事実にたどり着く。


「まさか……その仏さん、能力が……ないのか?」


口では言ってみたものの、我ながら何を言っているのかわからなかった。


この世界に来たら一つ能力が与えられる。誰でもだ!能力を持たぬ人間はいない。


最初は仏さんが実は弱いってことも考えた。だが、三浦や他の仲間の彼女への信頼を見るにそれはないはず!


だったら、俺が思いつくのは、さっき言ったことしかなかった。




三浦は悔しそうに拳を握り、下唇をかみしめる。


「……恵子の能力は!奪われたんだ!『マンモン』になぁ!」


う、奪われた……!?


そ、そんなことがあり得るのか?


俺が知らないだけでいるってのか。


それに、『マンモン』ってあれだよな……昔黒金先輩にも聞いた『タルタロス』って組織の一角だよな?


「そして、その能力は……。パンドラの箱にある」


三浦がさらに言葉をつづける。


だから俺たちを狙った。パンドラを狙ったのか。


悔しそうにしている三浦の後ろで憎悪にまみれた目で俺を睨む仏さん。


彼女の感情は、どこか冷めきっているものに感じた。


対照的に三浦の表情。並々ならぬ感情がこもっている。


悔しさ、怒り、悲しみ色んな負の感情が混ざった表情。


なぁ?お前と仏さんの間に……何があったんだよ。







--------------------------------------------------------------------------------







「おはよう!秀人!」


「おう、おはよ恵子」


これは、小さい頃からの俺の話。


俺と、俺の幼馴染「蛍原恵子」の過去の話。




そして、今の冷たい冷静な「仏さん」という人格を作り上げてしまった。過去の話。



ってなわけで、中編終わりです。


後編は三浦秀人と蛍原恵子の出会いから別れまで

そして、残った試合の決着をつける話になっております。


活躍したと言えば、車田さん、優、龍二の3人でしょうか。

まだまだ決着のついていない者も多いですが、どうか温かく見守ってください♪



では、後半でまた会いましょう♪

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