10.のラスト
港の夜は、静かだった。
風がゆっくりと海面を撫で、
波は暗い水の上で小さく砕けている。
遠くの都市からは、まだ音楽が届いていた。
砂のリズム。
雪の弦。
海の低い旋律。
三文化融合。
かつてアリアが中心にいた音楽。
今は違う。
整えられ、管理され、
安全な範囲で調和している。
制度の音楽。
完成した音楽。
それは遠くから聞くと、とても美しい。
破綻もない。
不安もない。
革命が成功した証のような音だった。
ノクタは少し前に都市へ戻っていった。
「演奏抜けっぱなしだと怒られるから」
そう言って笑いながら。
港には、もうアリアしかいない。
彼女は手すりに寄りかかり、海を見ていた。
遠くの光が、水の上に揺れている。
その揺れを見ながら、
彼女はゆっくり考える。
革命は終わった。
それは、もう否定できない。
世界は変わった。
接続構造は制度になり、
融合は日常になった。
もう誰も、
四拍を待っていない。
誰も、
象徴を必要としていない。
それでも世界は動く。
音楽も続く。
安全に、安定して。
アリアはその事実を、静かに受け入れる。
胸の奥に痛みはある。
けれど、それはもう絶望ではない。
ただの現実だ。
「……そっか」
小さく呟く。
革命は終わった。
でも。
彼女は胸に手を当てる。
鼓動がある。
ドクン。
ドクン。
微かな振動。
消えていない。
港の波と、少しだけ重なる。
アリアは目を閉じる。
昔のような歌は、もう出ないかもしれない。
世界を揺らす声も、戻らないかもしれない。
誰かに届く保証もない。
革命を起こす理由も、もうない。
それでも。
彼女は静かに息を吸う。
そして、
小さく声を出す。
音程は揺れている。
旋律にもなっていない。
ただの、未完成の声。
遠くの都市の音楽とは、
まったく混ざらない。
制度の外側にある歌。
未完成の歌。
それは夜の港にだけ存在する。
誰も聞いていないかもしれない。
誰にも届かないかもしれない。
それでも。
アリアは海を見ながら、思う。
革命は終わった。
でも。
歌は終わっていない。
彼女は静かに呟く。
「届かなくてもいい。」
少しだけ笑う。
「私は歌う。」




