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断罪無視して世界を揺らす -悪役令嬢は歌いたいだけー  作者: 南蛇井


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4.決定的な言葉

港の夜は、深く静かだった。


遠くの都市では、融合演奏が続いている。

砂のリズムは正確に刻まれ、雪の弦は層を重ね、海の低音がゆっくりと広がる。


完璧な構造。


完璧な安定。


その音を聞きながら、ノクタはしばらく黙っていた。


アリアも何も言わない。


ただ同じ方向を見ている。


遠くの灯りと、揺れる水面。


やがてノクタは小さく息を吐いた。


そして、アリアの方へゆっくり視線を向ける。


「……誤解しないでほしい」


その声は、真剣だった。


アリアは驚いて顔を上げる。


ノクタはまっすぐ彼女を見る。


「あなたがいなくても」


少し間を置く。


「俺たちは生きられる」


夜の風が吹く。


その言葉は、冷たい事実だった。


だが残酷ではない。


ただの真実。


革命はもう一人の歌手に依存していない。


接続構造は制度化され、


分散運用は自動化され、


融合音楽は世界中で鳴っている。


アリアがいなくても。


世界は止まらない。


ノクタは視線を海へ戻す。


「革命はもう自律してる」


「都市も」


「演奏も」


「構造も」


手すりに肘を乗せる。


「だからさ」


少しだけ笑った。


優しい笑いだった。


「あなたが戻らなくても」


「世界は困らない」


アリアの胸がわずかに痛む。


だが、彼女はうなずく。


それはもう知っていたことだから。


新聞も、


都市も、


世界も、


同じことを言っていた。


──アリアは必要ない。


だが。


ノクタはそこで言葉を切る。


しばらく海を見てから、ゆっくり続けた。


「でも」


その一言だけで、空気が変わる。


彼は少しだけ照れたように頭を掻いた。


「理屈じゃなくてさ」


遠くの演奏に耳を向ける。


完璧な音楽。


崩れない構造。


安全な振動。


ノクタはその音を聞きながら、ぽつりと言う。


「揺れたいんだ」


静かな声だった。


だが、まっすぐだった。


「壊れたいわけじゃない」


「暴走したいわけでもない」


「世界を危険にしたいわけでもない」


彼は肩をすくめる。


「でもさ」


小さく笑う。


「もう少しだけ」


「大きく呼吸したい」


夜の海が、かすかに揺れる。


「少し外れたり」


「少し失敗したり」


「少し予想外になったり」


「そういう瞬間が」


ノクタは空を見上げた。


星がひとつ瞬く。


「音楽には必要なんだと思う」


彼はアリアの方をもう一度見る。


「それを最初にやったのは」


少しだけ間を置く。


「あなたなんだ」


港は静かだった。


遠くの演奏はまだ続いている。


完成された世界。


安全な革命。


だがその外側で。


ノクタは言った。


「あなたがいなくても」


「俺たちは生きられる」


そして、はっきり続ける。


「でも」


その目はまっすぐだった。


「揺れたいんだ」


その言葉が、


アリアの胸の奥にある微振動に、


静かに触れた。

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