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断罪無視して世界を揺らす -悪役令嬢は歌いたいだけー  作者: 南蛇井


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Ⅶ.レクイエム側の動揺

観測塔の最深部。


静域制御核の前で、王レクイエムは立っていた。


波形は安定している。


平均振幅は安全域。


臨界兆候なし。


理論通りだ。


そこへ、短い報告が届く。


「対象、発声不能」


空気が、わずかに重くなる。


王は動かない。


「確認か?」


「医療班三系統で確認済み。器質的損傷なし」


沈黙。


想定外。


彼は止めただけのはずだった。


暴走を。


臨界を。


全体平均の異常上昇を。


破壊する意図はなかった。


ましてや、奪うなど。


「……副作用の範囲か」


側近が慎重に言う。


「個体共鳴基盤への干渉が残留した可能性があります」


王の指が、わずかに止まる。


最強静域《零界収束》。


空間法則をゼロ方向へ書き換える絶対抑制式。


理論上、対象は“場”であり、個体ではない。


だが場の中にいる者が影響を受けない保証はない。


「完全抑制を維持しますか?」


部下の問いは、実務的だった。


危険因子が未解消なら、再発動準備を継続する。


合理的だ。


王は、答えない。


視界の奥に、別の光景が重なる。


エレシア。


祝祭の日。


誰も止めなかった。


止める決断が遅れた。


増幅は指数関数的に跳ね上がり、


共振した塔が折れ、


地面が裂け、


都市が崩れた。


最後に見たのは、


完全停止した瓦礫の街。


音のない世界。


あの日、彼は奪われた。


人も、都市も、未来も。


だから誓った。


二度と繰り返さないと。


止められるなら、止めると。


今度は止められた。


完璧に。


暴走は起きなかった。


都市は壊れていない。


誰も死んでいない。


だが――


「対象、発声不能」


その事実が、胸に沈む。


――私はまた、奪ったのか?


止められなかった過去。


そして今度は、止めすぎた現在。


極端から極端へ。


恐怖を基準に設計した結果。


王はゆっくりと制御核に手を置く。


冷たい。


無音。


完璧な静寂。


「……抑制は維持する」


声は低い。


だが続きが出ない。


安全を優先するなら、それが正しい。


だが正しさが、常に救いになるとは限らない。


側近がさらに問う。


「対象への追加観測は?」


「継続だ」


短く答える。


監視。


確認。


再発防止。


それが彼の役割。


それが王の責務。


だが胸の奥で、別の振動がある。


極めて微細な、揺れ。


後悔に近い。


いや、違う。


恐怖だ。


止められなかった恐怖。


そして、止めすぎた恐怖。


エレシアでは、遅れた。


今回は、早すぎたのか。


王は目を閉じる。


完璧な静寂の中で、


初めて、自分の判断を疑う。


奪うつもりはなかった。


だが結果として、


世界の“揺れの象徴”を沈黙させた。


それは本当に、安全か。


それとも――


恐怖が、また別の崩壊を生むのか。


制御核は、何も答えない。


静寂は、いつも通り完璧だった。


だがその中心で、


王レクイエムの思想に、わずかな歪みが生まれていた。

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