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花粉症がきつくても元気が出ます。
乗合馬車でチカバ森にやってきた三人は、森の中を少し進み青色に渦巻く歪みの前で立ち止まった。
「あった、あった。これだよ。これがダンジョンの入口だよ」
「え、これが? ……ダンジョンの入口なの……何だか……不思議ね……」
三人の目の前には、ちょうど腰の位置辺りにサッカーボールサイズほどの小さな青い渦がぐるぐると渦巻いていた。
その渦を、エリザが角度を変えながら食い入るように何度も見ている。
「すごいよね」
「ええ、ほんと……どうなってるのかしら……」
エリザが落ち着きなく渦を眺めるその姿が幼い子供のようで、マリーは思わず笑みを浮かべた。
「ふふふ……この渦なんだけどね、ダンジョンの渦はだんだんと大きくなるんだけど、迷宮の渦は変わらないんだよ」
「ほう。だから、大きくなったダンジョンのコアは破壊されるが、迷宮のコアは破壊されないのだな」
「そうなの?」
驚くエリザに「うん。あっ、でもね。迷宮の渦は屋敷を呑み込みそうなほど大きいんだよね」と頷いたマリーはケラケラと笑った。
「えへへ。じゃあ、そろそろ入ってみよう」
マリーはにこりと笑みを浮かべるとエリザとセリスの手を握った。
「あらマリー、急にどうしたの? 寂しかったの?」
「マリー殿。それならそうと言ってくだされば……主殿には敵わぬが、少しは……気も紛れよう」
エリザとセリスは手を握ってきたマリーの頭をよしよしと撫でつつ、ぎゅっと抱きしめた。
「ちが……ぐっ……くるしい……」
二人のおっぱいに挟まれたマリーは、息苦しさのあまり一度、握っていた両手を離そうとするも、二人がマリーの手を固く握ぎり離せない。
「ち、ちが……ぅ……くるし……」
マリーはもぞもぞと顔を動かしどうにか気道を確保しようとした。
「ぁん、マリーそんなに動かないで……」
「ぅふ、ま、マリー殿。すまぬが、あまり動かないでもらいたい……ぁ……
どうも……んん、私はぁ……少し敏感になってしまったようなのだ……ぁ……ん……」
「ぷはっ……ち、違うんです……違うんですよ……」
どうにか気道を確保することに成功したマリーが解放してもらおうと弁明するも、顔を紅潮させた二人の耳には届かず、マリーは解放されるまでずっと抱きしめられつづけた。
――――
――
「えっと……マリーごめんね」
「マリー殿、すまぬ」
頬を膨らませるマリーにエリザとセリスが頭を下げる。
「わたしはただ、パーティー同士で手を握っていないと渦に触れた途端、バラバラに飛ばされるダンジョンがあるから……手を握っただけで、それを説明しようと思ったのに……二人のおっぱいで……窒息死するかと思ったよ……」
腕を組みジト目を向けるマリーにエリザとセリスが、その身を小さくした。
「本当にごめんなさいね」
「うむ。すまぬマリー殿」
「……このチカバ森のダンジョンは入ったことないから分からないんだけど……ふぅ、もう、いいですよ……はい」
マリーは、その身を小さくするエリザとセリスに向け、優しく笑みを浮かべると再び二人の手を握った。
「こうして握ってれば、何があっても大丈夫だから、今度こそ入ろう」
「マリー……!」
「マリー殿……!」
「ちょっ、あぁぁ!! またぁ……ぁぁぁ……ふぁ、きゅゅ……」
歓喜のあまり二人に抱きつかれたマリーは息苦しさから気絶し、再び謝ることになるエリザとセリスだったが、どうにか三人は無事? ダンジョンに入った。
「わぁ! ねぇエリザ、ちょっと見てみて! 宝箱が早速あるよ、信じられないよ」
「まあ、本当ね」
「マリー殿、ちょっと待つのだ」
すぐにでも宝箱を開けそうな勢いだったマリーを戒めたセリスは、宝箱にそっと触れた。
「……うむ。罠はないようだ」
「じゃあ……」
そわそわと開けたそうな顔をしているマリーは、エリザとセリスの顔を交互に見た。
「ふふふ、マリーが開けてもいいわよ」
「うむ」
にぱっと笑顔になったマリーは宝箱にその手を伸ばした。
「じゃあ、開けるよ」
ガチャッと音がして宝箱は簡単に開いた。
「……ぁ……ポーションだ」
宝箱の中にはポーションが三本入っていた。マリーは少し肩を落とし、しょんぼりとした。
――――
――
俺たちは十畳ほどの部屋を何度か通り抜け、たどり着いた部屋は二十畳ほどの空間だった。
「おっ? 広い部屋に出た……が、もしかして行き止まりか?」
見渡せば、部屋奥の左右の隅に不自然なポールが二本立っている。ほかには何も見当たらない。魔物の影すらない。そんな空間だった。
「ん? あの棒は……なんだ?」
「「がぅ?」」
俺の隣をとことこ歩いているニコとミコも、ポールの存在には気がついているようだが、俺と同様に何のためにあるのか分からず首を傾げた。
「とりあえず近くに行ってみるか……」
罠の気配を感じなかった俺たちはゆっくりとそのポールに向かって歩いた。
「ふむ。穴が……空いてるな……」
近寄って分かったが、そのポールを中心に地面には穴があいていた。覗き込まなくてもその穴から下の階層が見えている。
――すべり棒? 階段じゃなくてこれで下の階層に行けってことか?
ポールをよく見れば、一本は表面がつるつるテカテカになるまで磨かれたような石柱が下の階層の地面までしっかり伸びている。
「なるほど……で、そっちは……?」
もう一本は凹凸のあるポールだった。ところどころにでっぱりがある。
――誰かが登りやすくするために石柱を削った?
「ふむ。これは……つるつるの方を使って……降りろってことだよな?」
ニコとミコも穴から見える下の階層に興味があるのか、下の階層を覗き込みつつ俺の呟きに首を傾げていた。
――飛び降りても問題ない高さなんだけどな……せっかくあるんだ……
「よし!! ニコ、ミコ。俺が先に降りるから、合図をしたら二人とも順番に降りてきてくれ」
二人が頷くのを確認した俺は、つるつるテカテカのすべり棒の方に手を伸ばし――
「よっと」
するするくるくると回りながらすべり降りた。
――うほっ! なんだこれ、楽しい……かも……
ふとアスレチックで遊んでいた遠い記憶が過った。懐かしいとは思うも遠く今の俺には関係ない記憶。
――ふむ。
すぐに地面にたどり着いてしまったので物足りない。記憶のせいなのだろうか? もう一度、登ってすべり降りたくなったが、表情の乏しいニコとミコが、俺の方をじーっと食い入るように見ている。
――ぷっ!!
二人の瞳が何故だか輝いているように見える。
――まるで仔犬だな……ああ。そうだったな、こいつらメイド見習いだが、耳があったもんな……メイド族って獣が入っている種族なのかね? ははは、これでは、もう一度すべれそうにはないな。
「さて、周りは……ふむ」
何もないだだっ広い二十畳ほどの部屋だ。
――問題ない。
「おーい。二人とも降りてきていいぞ……」
俺は右手を挙げると二人に向かって手招きした。
「ニコ、先にいくがう」
「あっ、ニコずるい……がぅ」
そんな声が上から聞こえてくると、ニコがくるくる楽しそうにすべり降りてきて、スチャッと両手を広げ地面に着地した。
「おお……がう」
表情は乏しいがニコの顔が少し赤い。楽しかったのだろう、どこか興奮しているように感じる。
「ミコもいくがぅ」
続けてミコもくるくる楽しそうにすべり降りてきて、ニコと同じようにスチャッと両手を広げ地面に着地した。
「おおっ……がぅ」
ミコも表情は乏しいが顔が少し赤い。楽しかったのだろう、ミコも興奮しているように感じる。
「「いいがぅね……」」
二人は名残惜しそうにすべり棒をじーっと眺めている。
「ふむ」
――もう一回やらせてやるか?
そんな時――
「おーい。今から降りるぞ……」
「離れてないと危ないよ……」
上の方から二人の女ハンターが覗き込み、俺たちに向け叫んできた。
「ああ、すまんな」
俺はニコとミコの手を引くと、すべり棒から少し離れた。
すると、俺たちが離れるのを見ていたのだろう。その後すぐに女ハンターの二人がすべり棒を股に挟みするするっとすべり降りてきた。
「へへへ」
「よっと……」
女ハンターの二人は慣れているのだろう。すべり棒をすべり降り食い込んだパンツと、めくれ上がったスカートをささっと直すと――
「邪魔して悪かったな……」
それだけを言い残しさっさっと先に進んでいった。
「ふむ」
――……白か……
「……さて、俺たちも先に進もう」
「おうがう」
「いくがぅ」
はりきっているように見える二人を引き連れ俺たちも先を急いだ。
だが、ここ地下一階層のフロアもどこか変わっていた。
――迷宮は、どこもこんな感じなのか?
部屋の大きさは十畳くらいで一階層のフロアと変わりなかったが、部屋と部屋を繋ぐ通路がまたもやおかしい。
通路は、急な上り階段があり途中からすべり台のような斜面になっている。
一方通行ってことなのだろう、そのため、この斜面がまたよく滑る。人族ではこの斜面を登ることはまず無理だろう。
かくいう俺も勢いがつきすぎ部屋の中央まですべりズボンが破けた。
ニコとミコは自身の魔力で作ったもの着ているのだろう何ともないようだ。
「くっ、なんたる不覚……ん?」
「きゃー、ちょっと、そこ! どいてどいて……」
俺たちが滑ってきた後方の斜面から女ハンターの声が聞こえてきたので、俺たちは素早く横に避けた。
「あぁぁぁぁぁ……!!」
女ハンターの勢いは俺以上によく十畳ほどの部屋の中央を越えた。
「おお」
俺は目の前をすべり過ぎていく女ハンターを思わず目で追った。
ブチッ!
女ハンターは部屋に一体だけいた、手のひらサイズのムシっぽい一つ目の魔物を巻き込み止まった。
この魔物も俺が倒すと何もドロップせずニコやミコだとドロップする不思議な魔物だった。
魔物は女ハンターの大きめのお尻と、背中のリュックっぽい袋にプレスされたのだろう。すぐに泡となり銅貨十枚をドロップしていた。
――ふむ。
「ふぅ……」
女ハンターはお尻をパンパンッと払い、スカートを正しながら立ち上がると、銅貨を拾い何も言わずさっさと先に進んでいった。
スカートが破けているのは気にならないようだ。
「ふむ……むっ!?」
――……は、肌色だとっ!! ……け、けしからん……
この迷宮に、俺はちょこちょこ欲望を刺激され、感情かき乱されている。
正確には女ハンターに、なのだが……悪魔である俺がなんたることだ。不甲斐ない。いっそのこと感情のままに暴れたい気もするが――
――もし今、俺の欲望が暴走でもすれば……
俺は無表情で隣に立つニコとミコを横目に見た。
――いかん。それだけは絶対にいかん。グラッドも言っていた……くぅ〜、はぁ……
俺は急に妻たちが恋しくなった。
「……ニコ、ミコ。少しペースを上げるぞ」
「おう、がう」
「いくがぅ」
それから俺たちはペースを上げ、地下十階層まで駆け降りた。
途中、サウナのような蒸し暑い階層では、パンツ一枚で歩く女ハンターのおっぱいを掴みそうになり……
小さなプールがいくつもあるような階層では、荷物を頭に乗せながら裸で泳ぐ女ハンターについていきそうになり……
飛び石の細い道を進む階層では、飛び跳ねたゆむおっぱいに目をとられ、危うく一つ目アメーバっぽい液状の魔物の中に落ちそうになったりと色々あった……
「ふむ」
ここまでくれば、さすがの俺でも女ハンターがどういった人種なのか理解した。
どうも女ハンターというものは普通の人族の女と違い羞恥心というものが欠如しているらしい。
俺はこの迷宮に入って、女ハンターのパンツや生のおっぱいを散々見てきた。
俺がいようがいまいが気にした素ぶりがまったくないのだ。
――嬉しいような気もするが残念な気もする。俺の気分は複雑だ。
しばらくは癒しの空間だと思いテンションが上がったものだが、こうも相手に反応がないと逆に萎えてくる。
――はぁ。やはり俺には妻たちが一番だな……
「あら、男の人がいるわね? まあ、小さな子まで……あなたたちも順番待ちなの?」
「んあ?」
この地下十階層にはボスがいるらしく、女ハンターたちが揃って順番待ちをしていた。
だがこの女ハンターたち、はっきり言ってうるさくてしょうがない。
並んでいる女ハンターたちの前に割り込むわけにもいかず、俺たちその後方に少し離れて座り順番を待っていたのだ。
「……そうだ……順番を待ってる」
「ふふ。ここのボスは人数が多い方が楽なの、私は一人なんだけど、ご一緒してもいいかしら?」
俺の返事を聞くまでもなく、年齢不詳のムチムチ美女が笑みを浮かべ俺たちの横に腰掛けてきた。
更新遅くなりまりしたが、最後まで読んでいただきありがとうございます。
m(_ _)m




