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珈琲店からの贈り物  作者: 姫条 楓
1枚の手紙
9/13

第9話 じゃあ僕はリビングに…

「おい総司。話が違うじゃねぇか」


席に座ると同時に嘉孝が不満そうに口を開く。


「たまにはこんなのも良いだろ?いきなり大人数を自宅に招待出来るほどの準備なんてしてないよ」


昼休みに何故か僕の家に遊びに来ることが決まってしまったのだが、桐谷さんと一緒に住んでいる家に当然人など呼べるはずもなく、散々悩んだ僕は学校帰りに皆を連れてバイト先である高坂珈琲店に来ることにしたのだ。

ちなみに来る途中に店長に連絡をした僕は、桐谷さんのことについては知らないふりをしてほしいと頼んでおいた。


「へー。藤堂くんってこんな素敵なところでバイトしてるんだね。いいなぁ~」


橋本さんがキョロキョロと店内を見回しながら羨ましがっている。

その横で桐谷さんと古川さんはメニューとにらめっこをしながらあれこれと悩んでいるようだ。


「二人とも何か気になるものでもありましたか?」


僕がそう言うと、桐谷さんがメニューを指さしながら答える。


「ねえねえ!この【特製とろとろぷりん】食べたいっ」

「ああ、それはオススメですよ。きちんと店で作ってますから」


この特製とろとろぷりんは僕がレシピを考えて作ったものを店長に食べてもらったところ、是非メニューに加えようということになり、今では人気メニューの1つになっている。牛乳の代わりに生クリームを多めに使用していて、とろとろ感を最大限に求めた自信作だ。


「じゃあ私と渚ちゃんはそれにするー」


僕と嘉孝はアイスコーヒー、橋本さんはオレンジジュース、桐谷さんと古川さんは特製とろとろぷりんを注文した。

店長にオーダーを伝えたところ、僕の給料から引いておくだなんて恐ろしいことを言っていた。

まあ、桐谷さんとのことがバレないことを考えれば安いものだ。

しばらくすると、店長が注文したものを持って僕達のテーブルへと運んできた。


「いらっしゃい。今日は総司の奢りだから好きなだけ注文していいからな」

「ちょ…」


店長は笑いながら僕の頭をぐしゃぐしゃと乱暴にかき回す。

僕にとっては笑い事じゃないんですが…。

そんな僕の横で、桐谷さんと古川さんは運ばれてきたプリンを食べながら感動している。


「わーあ。ほんとにとろとろだ~」

「ほんとに美味しいね~」


そんなに喜んでくれるとは、考えた僕としても嬉しい限りだ。今度作ってあげよう。


「そんなにうまいのか?じゃあ俺も食べる」

「えー!じゃあ私も」

「よし!店長!プリン2つ追加でー」

「2つでいいのか?じゃあ総司の分も入れて3つにしておくか!」


店長…勝手に増やさないでください。僕をどれだけタダ働きさせるつもりですか…。

まあ、美味しいからいいんですが。


「そういえばそろそろ夏休みだなー。皆でどっか行こうぜ!」

「そうだね~。でも嘉孝、あんた大丈夫なの?」

「あ?大丈夫って何が?」


早くも夏休みのことで頭がいっぱいの嘉孝に橋本さんが心配そうに呟く。


「夏休み前の大事なもの忘れてるでしょ?」

「大事なもの?あー…」


何かを思い出したようで頭を抱える嘉孝。

そう。僕達高校生にとってはどうやっても回避することが出来ない期末テストである。

しかも赤点対象者にはもれなく夏休み中の補習という何ともありがたいものがあるのだ。


「補習になったら地獄の夏休みが待ってるわよ?」


テストを思い出してすっかりテンションが下がっている嘉孝に橋本さんが追い打ちをかける。


「そう言う希だって危ないんじゃねぇか?」

「そ、そんなことないわよっ!」


ムキになって否定する橋本さん。どうやら橋本さんも危ないようだ。


「はぁ~。藤堂くんと渚はいいわよね~。余裕があって」

「そんなことないですよ」

「うん。ないない」


二条学園は特別な進学校というわけでもなく、全国的に見ても平均的なレベルだろう。

僕がこの学校を選んだ理由として、自分の学力に合わないレベルの高い高校に通って苦しむよりは、余裕をもっていたほうが良いと考えたからだ。

その為、テストに関しては今のところクリア出来ている。

まあ、選んだ理由はそれだけではなく、都心から外れた場所に位置していて、少し歩けば海が見えるという雰囲気が気に入ったということもあるのだが。


「総司~…勉強教えてくれよ~」

「人に教えられるほど余裕はないよ」


前にも同じことを言われて僕の家で勉強すると言って来たことがあるのだが、結局マンガ本を読んだだけで帰っていったのだ。

そもそも友達の家で勉強をするという状況で真面目に勉強出来る人間がどれだけいるのだろうか?

大半の人間が勉強から脱線して、ただ遊びにきただけで終わるだろう。


「そういえば燈ちゃんはテスト大丈夫そう?」


桐谷さんの横に座る古川さんが眼鏡のフレームを押し上げながら言う。


「ん?私?多分大丈夫だと思う」

「うちの学校でテスト初めてだろうし、何かわからないことがあったら何でも聞いてね」

「うん。ありがと渚ちゃん」


そういえば桐谷さんの学力については僕も知らない。それ以前に、ここに来る前にどこの学校に通っていたのかすらわからないのだ。

まあ、ここに編入してきたのだからそれなりの学力はあるのだろう。


話を聞いていた嘉孝がテストの話に耐えきれなくなったのか、うんざりした様子で口を開く。


「あーもうやめやめ。テストの話はやめて夏休みの楽しい話をしようぜ」

「それもそうね。で?例えばどんな?」

「やっぱり夏といえば海かプールだろ?」

「なんかあんたが言うと卑猥ね…」

「「「確かに」」」

「なんでだよっ」


この場にいる全員が変態でも見るような目で嘉孝を見る。哀れ嘉孝…なんて可哀想なやつだ。


「でも私行きたいかもー」

「私もいいよ」

「だろ?さすが燈ちゃんと渚ちゃん!話がわかるな~」


二人とも海やらプールなどとは無縁な感じなのだが、意外にも賛成のようだ。


「まあ、楽しそうだしいっか」


一番海やプールが似合いそうな体育会系の橋本さんはあまり乗り気ではなかったようだが、周りの雰囲気におされたのか渋々了承する。


「よっしゃ!じゃあ決まりな!」

「その前にテスト何とかしろよ?」

「ぐっ…せっかく忘れてたのに」


ぐったりと倒れこむ嘉孝。喜んだり項垂れたり忙しい奴だ。


「ほんとに何とかしないとなぁ。やっぱり皆で勉強しねぇか?」

「またそうやって遊ぶつもりだろ?」

「いや、今回は水着姿を見れるかどうかの瀬戸際だ。俺は本気でやる」

「……」


エロに本気の意気込みを見せた嘉孝に女性陣の冷ややかな視線が突き刺さる。

最近嘉孝の変態キャラが確立されつつあるな。

さすがに冷たい視線に耐えきれなくなった嘉孝が気まずそうに口を開く。


「まああれだ…兎に角みんなで勉強すれば1人でやるよりはいいだろ?」

「そうね、勉強わからない人からすると1人で考えるよりはそのほうが効率はいいかも」

「そうそう、そうなんだよ」


珍しく意見が合う嘉孝と橋本さん。

確かにわからない問題をいくら1人で考えてもわからないものはわからない。


「じゃあしばらくは一緒に勉強しようぜ!総司の家でいいだろ?」

「賛成~」

「わたしも行ってみたいな」


僕と桐谷さん以外の全員が同意する。


「いや、それはちょっと…」

「いいじゃねぇかよー。今度は突然ってわけでもないんだから」

「まあそうだけど…」


特に策があるわけでもないが、これ以上断り続ければ確実に怪しまれる。


「わかった…テストまではそうしよう。その代わりバイトがある日は無しだからな」

「よっしゃ!じゃあ明日から学校終わったら総司の家に集合な」


こうしてテストまでは僕の家で勉強するということに決まったところで僕達は店を後にした。

僕と桐谷以外のメンバーは駅へと向かう為、店の前で別れた。


「すいません桐谷さん。断りきれなくて」

「ううん。あれはしょうがないよ。あんまり断ると変に怪しまれちゃうもんね」


家に帰った僕達は、とりあえず桐谷さんの部屋にある荷物を出来るだけクローゼットに押し込み、入りきらない物と机は仕方なくそのままにしておいた。あとはなるべく桐谷さんの部屋に入らせなければ済むだろう。


一通り片付けを終えた後、僕は先にお風呂に入り、部屋へと戻った。

本を読みながらベッドで横になっていたが、眠気が襲ってきた僕は電気を消して瞼を綴じる。

―と。

部屋をノックする音。

「藤堂くん起きてる?」

「どうしました?」


僕は起き上がり、部屋のドアを開けるとそこには部屋着姿の桐谷さんが立っている。


「あのね、色々片付けちゃってお布団が出せなくなっちゃった」

「あー…」


特に何も考えずにクローゼットに押し込んでしまって布団のことを考えていなかったか。


「今からまた引っ張り出すのは難しいですね…」

「うん…だから今日は…その…ここで一緒に寝てもいい?」

「じゃあ僕はリビングに…」

「リビングじゃちゃんと寝られないでしょ?」

「いや…それは」


僕を見つめる色素の薄い茶色い瞳。相変わらず破壊力抜群だ。


「わかりました。その代わり僕は床に寝ますから桐谷さんはベッドを使ってください」

「でも…床だと身体痛くなっちゃうし」

「大丈夫です。気にしないでベッドを使ってください」


僕はそう言うと桐谷さんをベッドに座らせてから床に寝転んだ。


「じゃあおやすみなさい」

「うん。おやすみなさい」



暫くして聞こえる桐谷さんの寝息。普段は気にもならないのにやたらと大きく聞こえる秒針の音。


「だー!」


何とかして眠ろうとするのだが、隣に桐谷さんがいることを考えると全く眠れない。


「こんな状況で寝られるわけないでしょうに…」


その後、僕が眠りについたのは空が白みはじめた頃だった。良く考えれば床で寝るぐらいならリビングのソファーで寝たほうがよっぽどマシだったかもしれない。あんな状況だったので冷静な判断が出来なかったか…。


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