↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
珈琲店からの贈り物  作者: 姫条 楓
1枚の手紙
PR
10/13

第10話 でも…少し疲れました

「ちょっと待って!」


どうして待ってくれないんだ。まだ話したいことが沢山あるのに、まだ遊びたいのに…。

僕は全速力で追いかける。それなのに目の前にいるはずの人との距離はどんどん離れていく。


「どうして…」


僕は必死に手を伸ばして目の前にあるものを掴んだ。手に伝わる硬い感触。

―と。そこで目が覚める。

掴んでいた物を確認してみると、それは携帯電話だった。


「夢か…」


ひどく汗をかいている。最近どうも変な夢を見るな。前はこんなことなかったはずなのに。

それにあの子は一体誰なのだろう。前に見た夢にも出てきたのだがやはり思い出せない。

身体を起こそうとすると、背中のあたりが痛い。

そういえば昨日は床で寝ていたのだった。やはり床で寝るのは少々無理があったか。

僕はベッドに寝ている同居人に目を向けると、彼女はまだ寝息をたてている。

その可愛い寝顔に思わず見とれていると、桐谷さんが寝返りをうつと同時に目を醒ます。


「ん…わっ…!」

「うわっ!」


びっくりした桐谷さんに僕も思わず声をあげる。


「と、藤堂くん?何?えっ?えっ?」

「お、おはようございます桐谷さん」


桐谷さんは困惑しながら布団へ潜り込む。

このままだと何だか凄い誤解をされそうな勢いだ。


「あの…ここは一応僕の部屋ですので…」

「え?あ…」


桐谷さんはようやく昨日のことを思い出したのか、モゾモゾと布団から顔を出す。


「えっと…」

「えー…」

「私…顔洗ってくるねっ」

「あ、はい」


同じ部屋に寝ていたことを、恥ずかしく思ったのか、桐谷さんは凄い勢いで洗面所へと走っていった。

僕は桐谷さんが洗面所へと行っている間に朝食の準備を済ませることにした。


お互いに準備を済ませた後、朝食をとる僕と桐谷さん。


「ふあ…」


なかなか寝つけなかったせいで欠伸が止まらない。

殆ど寝られなかったうえに、またもや変な夢のせいで早く起きてしまったのだから眠くて当然だ。


「ごめんね藤堂くん。床に寝かせちゃったせいで」

「いえ、大丈夫ですよ」


床に寝たことよりも、同じ部屋に桐谷さんが寝ていたことが原因なんですがね。

そんな桐谷さんを見ると彼女も瞼が重そうだ。


「桐谷さんはちゃんと寝られましたか?」

「え?う、うん。ちゃんと寝られたよ。ふあ…」


昨日はかなり早い段階で寝息をたてていたのにおかしいな。まあ、充分な睡眠をとっていても眠い時はあるのだろう。

今日の夜はきちんと自分達の部屋で寝られるように準備しておかなければ。


「今日からみんなで勉強だね」

「そうですね。とりあえず桐谷さんの部屋には入らせないようにしないと駄目ですね」

「うん。でもある程度片付けたから大丈夫だよ」

「そうですね。何とかなるでしょう」


その後、桐谷さんが先に家を出たことを確認し、暫くしてから家を出た。前回一緒に登校した時に橋本さんに目撃されているので、気を付けなければ。


そんなことを考えながら歩いていると、数メートル先で携帯電話を見ながら立ち止まっている人物。


「何をしているんですか…」

「あれ?藤堂くん早いね」

「…10分以上経ってから出たはずですが?」

「えっと…なんか携帯の調子が悪いみたいで…」


僕が桐谷さんの携帯を見てみると、特に変わった様子はない。


「どこも壊れてなさそうですが?」

「あれ?直った…かな?」


なるほど。随分と都合のよい携帯電話だ。

僕はそんな桐谷さんの横を通りすぎて足早に学校へと向かう。



「待って待って。私も一緒に行くー」

「まったく…最初からそれが目的でしょう」

「だって1人じゃつまんないもん」


仕方なく僕は桐谷さんと並んで歩く。


「ぴょんぴょん跳ねたほうがいい?」

「…勘弁してください」


桐谷さんが意地悪そうな顔でそんなことを言ってくる。しばらくはこのネタで弄られそうだ。

学校に到着した僕達が下駄箱で上履きに履き替えていると、見知った眼鏡女子が上履きに履き替えている。


「古川さんおはようございます」

「あ、藤堂さん、おはようございます」

「渚ちゃんおはよー」


3人で教室へと向かう途中、古川さんが思い出したように口を開く。


「あの、本当に私もお邪魔していいんですか?」

「ああ、問題ないですよ。そんなことより古川さんこそ大丈夫ですか?」

「大丈夫です。いつも1人で勉強してるので、たまには大勢でやるのも楽しそうですから」

「それなら良かったです」


きちんと勉強出来るのかどうかは怪しいところなのだが、古川さんがいてくれれば大丈夫だろう。


午前中の授業は問題なく終了し、昼休みを迎えた僕達は昨日と同じメンバーで昼食をとっている。


「じゃあ早速今日から総司の家で勉強な」

「本当に勉強するんだろうな?」

「俺だってやるときはやるさ」


いつになくやる気満々の嘉孝。格好良いことを言っているようだが、頑張る理由を知っているだけに全く格好良く聞こえない。寧ろ頑張れば頑張る程、女子からの視線が冷たく感じられるのは僕の気のせいだろうか。

それぞれの昼食を食べ終えた後、帰りの集合場所を決めてから食堂をあとにした。



そして放課後。僕と嘉孝と橋本さんの3人は帰りのホームルームが終わり次第、校門へと向かった。

僕達が向かう時にはまだ隣のクラスはホームルームを行っていたので、桐谷さんと古川さんはもう少し時間がかかりそうだ。


「途中でコンビニでも寄るか?」

「そうだな。飲み物も必要だろうし」

「それ賛成~」


珈琲ぐらいなら用意出来るとは思うが、さすがに家に置いてある飲み物だけでは足らないだろうし、皆を満足させるほどの用意はしていない。

そんな話をしていると、下駄箱のほうから桐谷さんと古川さんが小走りで向かってきた。


「お待たせー」

「お待たせしました」

「揃いましたね。じゃあとりあえず駅前のコンビニに寄ってから行きましょう」


コンビニに到着した僕達はそれぞれ欲しい飲み物等を選んでカゴに入れていくのだが、女性陣が入れた大量のお菓子やらデザートやらで、既にカゴの中は飽和状態となっている。


「こんなに食べるんですか?」

「わーい。お菓子お菓子~」


僕は隣にいる桐谷さんに声を掛けるのだが、お菓子選びに夢中になっている桐谷さんには僕の声が届いていないようだ。

僕もたまにお菓子を食べることはあっても、そこまで好んで食べるわけではない。

普段あまり買わない僕にとってはなかなか理解し難い光景だ。

ようやく買い物を終えた僕達は会計を済ませてコンビニを出る。


「それにしても沢山買いましたね」

「いーのいーの」


嬉しそうな桐谷さん。まるで遠足前にお菓子を買いにきた小学生のようだ。

ちなみに、僕とのジャンケンに負けた嘉孝は、全員分の飲み物が入った袋を両手に持って息を切らしている。


「ぐあ…総司。重いから代わってくれー」

「激しく断る」

「ひでぇ…」


とは言ったものの、可哀想になってきたので、片方の袋を受け取る僕。

そんなやり取りをしながらようやく家に到着。

鍵を開けてドアを開ける。


「狭い所ですがどうぞ」

「「「おじゃましまーす」」」

「ただ…おじゃまします」


皆の声に混じって桐谷さんがただいまと言おうとしたことが気になったが、皆には聞こえていないようだ。僕が慌てて桐谷さんを見ると舌をペロッと出している。まったく…困ったものだ。


「とりあえずリビングに座ってください。因みに両側にある部屋はプライベートな空間なので開けないでください」

「そう言われると開けたくなるよなー」

「ほんとほんと」

「やめてください…」


怖いことを言う嘉孝と橋本さん。僕の部屋ならともかく、桐谷さんの部屋だけは死守しなければ。


皆が荷物を置いている間に人数分のコップを用意していると、皆は座る様子もなく、リビングやらキッチンを物色中。


「そんなに色々と見られると恥ずかしいので…」


僕がそう言ったのだが、橋本さんと古川さんは興味津々のようだ。


「だって1人暮らしの部屋なんて珍しいから」

「凄く綺麗にしてるんですね」


確かに同年代で1人暮らしをしている人間はあまりいないだろうから、色々と見てみたい気持ちはわからなくもない。

僕1人で住んでいるのならそこまで気にしないのだが、桐谷さんの私物もあるので、あまり細かく見られたくはない。


「まあ、とりあえず落ち着かないので座りましょうよ」


僕がそう言うと、ようやく全員が腰をおろす。

各自飲み物をコップに注ぎ、勉強の用意をすると思いきや、お菓子を開け始める女性陣。


「いきなりお菓子ですか」

「だってお腹すいたら勉強できないもん」

「先ずは腹ごしらえでしょ?」


勝手なことを言う桐谷さんと橋本さん。古川さんは

そんな二人を見てくすくすと笑っている。

やれやれ…これじゃあいつ勉強が始まることやら。


結局勉強を始めたのはそれから1時間程経過してからだった。

今はというと、数学が苦手な嘉孝の横で古川さんが

教えていて、国語が苦手な橋本さんを僕が教えている。桐谷さんはというと、英語の教科書とにらめっこしながら黙々と英文を訳している。


「うがぁー!なんでこんなに公式が多いんだー」

「あはは。でも公式は重要だから頑張って」


頭を抱える嘉孝と、根気よく教える古川さん。

僕の横では橋本さんが国語の教科書を見ながら固まっている。


「どうですか橋本さん」

「なんかもう活字に疲れたわ…」

「とりあえず文章を何度も読み返して、著者が何を伝えようとしているのかを考えてください」

「だー!もう!著者の気持ちなんてわからないわよー」


嘉孝も橋本さんも頑張ってはいたが、そこまで長く集中力が持続するはずもなく、二人の精神が崩壊する前に休憩をとることになった。


「だー…もうだめだ」

「ほんっと…もう無理…」


ぐったりとする二人。この様子だと勉強を再開することは無理だろうということになり、あとはお菓子をつまみながらおしゃべりをして今日のところは終了ということになった。


もっとぐだぐだになることを予想していたが、意外にも勉強が捗っていた。

やはり古川さんが加わったことがかなり大きいと言えるだろう。

僕1人ではここまで捗らなかっただろうし、文系である僕が苦手な数学を古川さんに教えて貰えたのは嬉しい限りだ。

それと、今まで知らなかった桐谷さんの学力がなんとなく見えたことも収穫の1つだった。

黙々と勉強している桐谷さんを見ていたが、彼女の学力は恐らくこのメンバーの中で一番かもしれない。いつもはふわふわしたイメージなのだが、勉強している時の集中力もあり、苦手な教科など無いのではないかと感じた。


しばらくおしゃべりをした後、時間も遅くなってきたこともあり解散ということになった。

このまま桐谷さんが残る訳にもいかないので、電車組を駅まで送り、今は二人で家に戻る途中。


「なんとか終わりましたね」

「うん。でもおもしろかったー」

「そうですね。なかなか有意義な時間を過ごせました。でも…少し疲れましたね」


普段家に大勢の人を招くことはまずない。桐谷さんとの生活を知られないように気を張っていたせいもあり、解散した途端に気が抜けてしまったのかもしれない。


「大丈夫??」

「ええ。でもさすがに作る気にはならないので食事は外で済ませましょうか」

「うんっ。じゃあトンカツがいいっ」

「また重たいものを…」

「だめ?」


上目遣いで小首を傾げる桐谷さん。本人は全く意識してないだろうが、その仕草とその瞳は反則です…。


「まあ…それは構いませんが、さっきあんなにお菓子を食べたのに大丈夫なんですか?」


お菓子だけじゃなく、シュークリームやらのコンビニスイーツも食べているはずだ。それだけ食べてまだトンカツを胃に収めるつもりか。


「あれはおやつだからいーの」

「よく食べられますね…」


そのあと、トンカツ屋に入り何事もなかったかのようにロースカツ定食を完食した桐谷さんなのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。