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珈琲店からの贈り物  作者: 姫条 楓
1枚の手紙
8/13

第8話 藤堂さん隣いいですか?

「あれ?藤堂くん今日は起きるの早いね」

「ええ、たまには早起きしようかと思いまして」


まあ、実際は早起きと言うより寝られなかっただけなのだが。

部屋から出てきた桐谷さんは、僕が先に起きているとは思わなかったらしく、完全に油断していたようだ。

寝起きの顔を見られたことが恥ずかしかったのか、顔を赤くしながらパタパタと洗面所へ走っていってしまった。


桐谷さんが洗面所へ行っている間に僕は朝食の用意を済ませておいた。


いつものように向かい合って朝食をとっていると、

だし巻き卵を口に入れようとしている僕の顔をじっと見つめる桐谷さん。


「ん?欲しいんですか?桐谷さんの分もきちんと用意したでしょう?」

「もーぅ。そんな人を食いしん坊みたいにっ。そうじゃなくて、なんか顔色悪いよ?大丈夫?」

「顔色?そんなに悪いですか?」


桐谷さんのことだからてっきり自分のだし巻き卵だけじゃもの足りずに、僕の分も欲しがるのかと。

それにしても、そんなに顔色が悪いのだろうか?

きっと寝不足のせいだろう。

桐谷さんは見ていないようで意外に僕のことをよく見ているようだ。


「ねえ、今日は一緒に学校いこ?」

「駄目ですよ」

「だって…藤堂くん体調悪そうだから心配だもん」

「大丈夫ですから」

「だーめ」


今日はやけに食い下がってくる桐谷さん。

まあ、心配させてしまっているのは僕だし、今日ばかりは強く言えないか。


「わかりました…そのかわり今日だけですよ?」

「うんっ。一緒に行こうね」


まあ、一緒に登校するぐらいなら問題ないだろう。誰かに見られたとしてもたまたま会ったことにすればいい。


家を出た僕達は一緒に歩いて学校へと向かう。

隣で歩く桐谷さんはよっぽど嬉しいのかぴょんぴょんと跳び跳ねている。


「そんなに跳ねると転びますよ?」

「だって嬉しいんだもんっ」


そんなに嬉しいのだろうか。

しかし…あんまり跳び跳ねているものだから短いスカートがヒラヒラと…目のやり場に困る。

とは言ってもついつい目線がいってしまう。

男の性ってやつだ。仕方がない。

学校に到着して下駄箱に靴を仕舞っていると、桐谷さんが近付いてきて僕の耳元で囁く。


「藤堂くんのえっち…」

「なっ…」


下を向いて頬を赤らめる桐谷さん。

何も言い返せない僕…。

しまった…ちょっと見すぎていたか。ああゆう時に女の子は視線を感じるものなのだろうか?

今後は気を付けなければ。


その日の昼休み。

いつものように嘉孝と橋本さんと一緒に学食で食事をとっていると、桐谷さんが女の子と二人で食堂へと入ってきた。クラスメイトだろうか?どうやら少しずつクラスにも馴染めてきたようで少し安心した。

そんな様子を嘉孝も見ていたようで、嘉孝が口を開く。


「おっ。燈ちゃんだ!相変わらず可愛いなぁ」

「ふーん。随分とお気に入りなのね」


橋本さんが嘉孝を睨みながら言う。怖いです橋本さん…。


「そりゃあ誰かさんと違っておしとやかな感じだし、可愛いらし…ぐえ」


嘉孝の脇腹に橋本さんの鉄拳が炸裂。痛そうだ…。


「でも残念ね嘉孝。あの転校生はもう売り切れよ」

「えっ?」

「だって今日の朝そこにいる殿方と楽しそうに登校してたわよ?」


思わず口に入れているものを吐き出しそうになった。まさか橋本さんに見られていたとは…。


「そこにいるって誰がだ?」

「だーかーらー、藤堂くんよ」

「はぁ??総司?」

「いや…通学途中でばったり会ってね…」


嘉孝の視線が痛い…。

ただでさえ嘉孝は僕と桐谷さんの関係を疑っている。これ以上深く突っ込まれるのは不味いな…何とかして話題を変えなければ。


「そういえば嘉孝…」

「おーい。燈ちゃーん。こっち空いてるよー」


話題を変えようとした僕が、嘉孝に声をかけると同時に嘉孝が叫ぶ。

嘉孝が声をかけた方向を向くと、トレーを持った桐谷さんとお友達がこちらへ近付いてきた。


「一緒にいいですか?」

「どーぞどーぞ」


満面の笑みで答える嘉孝。またお前は余計なことを…。

学食のテーブルは6人掛けになっており、僕の向かいに嘉孝と橋本さんが座っているので、あと3人分は空席になっている。


「じゃあお邪魔します。藤堂さん隣いいですか?」

「ええ…どうぞ」


桐谷さんはそう言うと、僕の横に座り、お友達は桐谷さんの隣に座った。

一刻も早くこの場から逃げ出したかったが、桐谷さんが僕の言ったことを守って【さん】付けで呼んでくれたので少し安心した。

まあ、実際に【さん】付けで呼ばれると少々違和感を感じたのだが、僕がそうしてほしいと頼んだのだから仕方がない。


「あれ?誰かと思えば渚じゃん。眼鏡かけてたからわからなかった」

「希ちゃん久し振りだね。最近コンタクトが合わないから眼鏡なの」

「あれ?二人は知り合い?」


嘉孝が橋本さんと桐谷さんのお友達を見ながら言う。


「うん。同じ中学だったからね」

「あ、古川渚ふるかわなぎさです」


その後、僕達はお互いに自己紹介を済ませた。

古川さんは運動部である橋本さんとは違い、落ち着いた雰囲気を持っていて、知的な印象を受ける。桐谷さんもおとなしい雰囲気を持っているので、お互いに何か通じるものがあったのだろう。


「さて総司。本題に入ろうか」


待ってましたと言わんばかりに嘉孝が口を開く。

そんな嘉孝を見て、桐谷さんと古川さんは首を傾げている。さっきまでこの場にいなかったのだから当然だろう。


「本題って言われてもさっき言った通りだって」

「本当かよ?燈ちゃん今日総司とたまたま会って一緒に通学してたみたいだけど、家は近くなの?」

「えっ?えっと…近くかな?近く…です」


いきなり話を振られた桐谷さんは何がどうなっているのか解らずに、僕のほうをチラチラと見ながら答えている。一緒に通学していたことを嘉孝が知っていたので慌てているようだ。


「へぇー。じゃあ今度遊びに行ってもいい?」

「えっ?いや…それは…」

「あんた馬鹿じゃないの!いいわけないでしょ!燈ちゃん困ってるじゃないの」


突然とんでもないことを言う嘉孝に橋本さんが一喝する。


「ごめんね燈ちゃん。まったく、もう少しまともな奴だと思ってたけどここまで馬鹿だとは思わなかったわ」


橋本さんが溜め息混じりに嘉孝を睨み付ける。


「冗談だよ~。そんなに怒るなって希~」

「冗談に見えないんですけど?」


よく考えてみたら嘉孝は前に何度か僕の家に遊びに来たことがあるので、僕の家の場所、すなわち桐谷さんの家を知っているのだ。突然遊びに来る可能性もあるので気を付けなければ…。


と―。それまで黙って話を聞いていた古川さんが口を開く。


「私も今度燈ちゃんの家に遊びに行ってみたいなぁ」

「ええ?えっと…でも1人だとなかなか片付かないから散らかってるし…」

「あれ?燈ちゃんもしかして1人暮らしなのー?」

「えっ?1人暮らしなの?」

「マジで!?1人暮らし?」


僕を除く全員が一斉に桐谷さんに問いかけるものだから、桐谷さんはおろおろしながら僕を見る。

桐谷さん…誰もが食い付くキーワードを…。

僕は思わず頭を抱える。


「じゃあさ、落ち着いたら今度皆で遊びに行こうぜ」

「「「それ賛成!」」」


もはや勝手に話が進んでしまっていてどうしようもない状況に、桐谷さんは完全に思考が停止してしまっている為、僕は何とかして阻止しようと説得を試みる。


「いや、でもそんなに大勢で押し掛けるのも悪いだろ」

「まあそりゃそうか…そうだよな…じゃあ皆で総司の家行くか!お前の家なら広いし問題ないだろ?」


なんだそのそっちが駄目なら今度はこっちみたいな発想は。


「いや…人を招くような所じゃないだろ」

「いいじゃねぇかよ総司!燈ちゃんも総司の家行ってみたいでしょ?」

「えっ?あ…はい」


桐谷さんは完全に嘉孝のペースに乗せられてしまっている。


「よーし。じゃあ決まりだな。今日行っちゃうか」

「いや…さすがに今日は…」


そこまでいいかけたところで昼休み終了のチャイムが鳴り、結局話がまとまらないままになってしまった。

そのあと桐谷さんから「どうしよう…」なんてメールが届いたのだが、特に明確な答えが見つからないまま放課後を迎えてしまった。

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