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珈琲店からの贈り物  作者: 姫条 楓
1枚の手紙
13/13

第13話 やっぱりハンバーグは焼きたてが一番です

4時限目が終わると同時に嘉孝と橋本さんが僕の机に集合し、そのままの流れで隣のクラスに向かい、古川さんと桐谷さんを迎えに行く。


もはや定番化したいつもの光景…のはずだったのだが。今日はいつもと少し違っていた。

いつもなら廊下で待っていると、桐谷さんと古川さんが二人で教室から出てくるのだが、今日は古川さん1人で出てきた。


「あれ?燈ちゃんは?」

「えっと…なんかまだ来られないから先に行っててって」


嘉孝が聞くと古川さんがそう言ったので先に食堂へ向かうことにした。

それぞれが目当ての食事を購入し、食べ始めていると、全員の携帯に、今日は学食ではなくて別の場所で食べるという内容のメッセージが桐谷さんから届いた。


「燈ちゃん珍しいね。渚何か知ってる?」

「え?ううん。私も先に行っててって言われただけだから…」


同じクラスの古川さんも知らないのだから、きっと個人的な都合なのだろう。とはいえ、学食で食べないとなると近くのコンビニか校内の売店で買うぐらいしか方法がない。しかし校外に出ての昼食は基本的に許されていないため、桐谷さんが食事をするためには学食か売店しかない。


お弁当を持参していれば話は別だが、あいにく今日はお弁当を持ってきていないことは僕が一番良く知っている。


「まあ、桐谷さんだって用事の1つや2つあるでしょう」

「まあそうなんだけどさ、なーんか燈ちゃん居ないとしっくりこないよなー」


最近ずっとみんなで揃って行動していたので嘉孝の言うこともわかる気がする。

まあ、多少不安はあるものの、そこまで深刻に考える必要も無いだろう。たまには1人でランチをしたい時があるかもしれないし、別の友達と食べることもあるだろう。


結局、昼休みも姿を見せず、放課後もクラスを除いてはみたものの、桐谷さんの姿はなかったので、僕は学校帰りにそのままバイトに向かうことにした。


バイトのシフトは桐谷さんに渡してあるので、今日がバイトであることは知っているはずだが、念のためメッセージを入れておいたほうがいいだろう。

下駄箱を出たところでポケットから携帯を取り出しながらふと校門の方向を見ると、桐谷さんが今まさに下校しようとしているところだった。


声を掛けようと小走りで近付くと、桐谷さんの右側から現れた見知らぬ男子生徒が声を掛けている。見慣れない光景に驚いた僕が走るのをやめて立ち止まっているあいだに、二人は校門の外に歩いて行ってしまった。特に重要な用件でもないし、二人の後を付いていくのも変なので、僕はそのままバイトへと向かった。


バイトへ行ったのはよかったのだが、オーダーミスをしたりカップを割ってしまったりと今一つ調子が良くない。そんな僕を見兼ねて、店長から「今日はもういいからあがっとけ」との早退命令が下された。


そのまま家に帰るのもなんだか気乗りしなかった僕は気分転換に駅前のショッピングモールに立ち寄ることにした。

雑貨店やブティックをはじめ、大型スーパーや飲食店など、きちんと見て回ったら1日あっても足らないぐらいの規模だ。


いくつかの店舗を見て回り、喉が渇いた僕は、モール内にある珈琲店へ向かう。

店内に入ると珈琲の良い香りが鼻孔をくすぐる。

綺麗な制服を身に纏った女性スタッフがソファー席へと案内してくれた。最近はセルフスタイルの珈琲店が多いが、あの手のスタイルはどうも忙しなくて苦手だ。ただ珈琲を購入して飲むだけであれば、自宅でもそこそこの珈琲が飲める。せっかく店舗に来て料金を支払うのであれば、セルフではなくフルサービスの店で雰囲気やゆっくりとした時間を楽しみたいところだ。


店内は落ち着いた雰囲気のソファーやテーブル、観葉植物などがあり、バイト先である高坂珈琲店と雰囲気が似ている。ただ1つ違うことと言えば、店長がオッサンで、バイト店員が普通の高校生ではないということだろうか。やはり女性スタッフが店内にいるだけで雰囲気がやわらかくなる気がする。


注文したアイスコーヒーに口をつけると、今日1日の疲れが一気に押し寄せてきた。携帯をポケットから取り出すと、時刻は午後17時。桐谷さんからは特に何の連絡も無い。まあ、普段ならまだバイトをしている時間なのでわざわざ連絡はしてこないだろう。


コーヒーを飲み終えたら帰る予定だが、どうせならモール内にあるスーパーで買い物を済ませてしまったほうが良いだろうと思い、一応桐谷さんに何か食べたいものがあるかどうかの確認メッセージを入れておいた。


お会計を済ませ、珈琲店を出たところでふと前方を見ると、桐谷さんと先程の見知らぬ男子生徒が二人で大型書店へと入る姿が見えた。念のため携帯をチェックしてみたが、桐谷さんからは特に連絡が無いようなので適当に買い物を済ませて帰宅することにした。


買い物を終えて自宅に到着すると、桐谷さんはまだ帰宅していない。

結局彼女が帰宅したのは夕飯の仕度を終えた僕がリビングで本を読んでいた20時を少し回った頃だった。


「ただいま」

「お帰りなさい」


彼女のほうに視線を向けることなく、本を読みながら声だけで挨拶を交わすと、僕が座るソファーの正面にに桐谷さんが座る様子が何となく雰囲気でわかった。


「ご…ごめんね。メッセージ気が付かなくて、えっと…お友達とご飯食べてきちゃったから」

「そうでしたか。では僕は食事にするとします」


僕はソファーから立ち上がり、先に焼いておいたハンバーグを温め直し、リビングで食事を始めた。

桐谷さんは僕が仕度をしているうちに着替えを済ませて自室から出てくると、食事をしている僕の正面に座った。僕が食事を終えるまでは、お互いに会話するわけでもなく、僕が食事をする音だけが聞こえていた。


後片付けを済ませてから再びソファに座り、読みかけの本に手を伸ばしたところで桐谷さんが口を開いた。


「あの藤堂くん…怒ってる?」

「そうですね。今日のハンバーグは怒りを覚えるぐらい美味しくなかったですね。1度冷めたものを温め直してもジューシィ感がなくてパサパサしてました。やっぱりハンバーグは焼きたてが一番です」


僕の言葉を聞くと困ったような顔で俯く桐谷さん。


「そうじゃなくて…」

「できれば次回からは遅くなるときは連絡を頂けると助かります。それに…」

「それに…?」

「いえ…何でもありません」


僕は途中まで言いかけた言葉を慌てて飲み込んで文庫本を手に取ろうとしたが、桐谷さんに腕を掴まれた。


「それに何?」

「本当に何でもありませんよ」

「何でもなくないもん」


桐谷さんが僕の腕を掴む力が強くなる。


「何でもないと言っているじゃないですか。別に彼が何者なのかなんて僕には関係ないでしょう」


僕は桐谷さんの手を振り払って自室へと逃げ込んだ。まったく僕は一体なにをやっているんだろうか。桐谷さんが何処で誰と一緒にいようが僕には関係の無いことだし、僕には彼女の交友関係に口を挟む権利などないはずなのに。

ベッドに仰向けになって冷静になろうと思ってもなかなか頭の整理ができない。それはそうだろう、見知らぬ人間が何者なのかなど、いくら考えても答えなど見つかるはずはないのだから。


答えが見つからない問題を考えながらそのまま眠ってしまっていたらしく、ふと目が覚めて携帯を確認すると午前1時半を過ぎていた。

何か飲み物か欲しくなったので自室のドアを開けるとリビングの電気が点いている。見るとそこにはテーブルに突っ伏して眠る桐谷さんの姿があった。


「ん…藤堂くん?」

「起こしてしまいましたか。きちんとベッドで寝ないと風邪をひきますよ」

「うん…藤堂くんあのね…」

「すいません。今日はもう寝ます。桐谷さんも早く寝たほうが良いですよ」


本日2度目の逃亡である…

やれやれ…明日の朝はどんな顔をすればいいのやら。

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