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忌み嫌われ皇女が愛を知るまで  作者: 小鳥遊
第三章/愛を知るまで
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ep33.救いを求めて



 私に愛を与えて、感情を与えて、心の温かさや痛さを教えてくれたのは、彼だった。

 それを放棄して、悪く言えば、彼は他の女性に目移りしている。


 私は、どうすれば良いのだろうか。


 なんて、いくら考えても分かるわけもなく。


 どうやって戻ってきたかのかさえも曖昧で、気が付けば自室の前にいた。


 扉を開けると、そこには…


 心中で溜息を漏らした後、私情を相手に悟らせないように、私が得意とする表情の仮面をつける。


 目の前にいるのは、見た目だけはそっくりそのままの、エミリーだった。


「エミリー…のふりをした、第三王女の執事さん、こんなところに何のご用がおありですか?」


 休みたいと思っていたのにも関わらず、味方とは言い難い人間が勝手に部屋へ侵入しているこの状況で、圧を出さない方が無理なことだった。


 そしてその圧に驚いたのか、侵入者はすぐに変装を解いた。


「……そう、ですか。あなたにはすぐにバレてしまうのですね。エステル様」


 トリステッツァ王女の執事は苦笑した。


「やっぱり…、あのとき、アメリアさんのフリをしたのも、あなたですね」


 何故私が分かったのかは、明らかだろう。

 魔力の波が限りなく酷似していた。

 


 そしてそもそも、アメリアさん、エミリー、執事の魔力の波はそれぞれに特徴がある。

 だから、正体を見破るのは容易だった。 


 彼からすれば私が魔力の波を見られることを知らないため何故ばれたのかと、不思議で仕方ないだろうけど。


「ウィルとお呼びください。エステル様。…不届者なのは承知の上です。罰も後ほど必ず受けます。ですので少し、私に話す時間をくれませんか」


 本当なら捕まえるべきだし、言霊の魔法を使えば、…ウィルを拘束しておくことくらい、なんてことない。


 でも、話を聞いてもらえない辛さを、私は知っているから…。


「……分かりました。お掛けください」


 それに、決して同情心だけではない。



 トリステッツァ王女の執事を名乗る彼、ウィルがここへやってきたタイミングと、アイザック様の態度には、何かしら関係があるのではないかと踏んでいる。


 だから許可する他なかった。


 ウィルと対面で座ると、部屋へ戻ってきた本当のエミリーは少し驚いて、同時に警戒していた。

 私が目で『大丈夫』と伝えると、少し不安そうにしながらも、私とウィルに紅茶を出してくれた。


 それから機転を効かせてくれたのだろう。

 エミリーは部屋から出て、2人で話をする時間をくれた。


「手短に話します。本題から話すと、我がイリーガル王国の第三王女である、トリステッツァ王女を救って欲しいのです」


「救う…?」


 エミリーが入れてくれたハーブティーを飲み、話の続きを書いた。


「はい。トリステッツァ王女のこれまでは…………」


 こうして聞いたのは、トリステッツァ王女がイリーガル王国でどういった扱いを受け、どんな試練を課せられているのかという話だった。


 要約するとこうだった。


「つまり、国のために皇子どちらかを虜にして、帝国を乗っ取ろうと?」


「はい。ですが、私にとって重要なのはそこではありません。問題は、その虜にする方法なのです」


「…聞かせてください」


 まだウィルと名乗る執事を信用しているわけではない。

 だが、ウィルは頭の回転速度が速い。

 故に、自分が不利になるようなことはしないはずだ。


(ここで私が殺されたとしても、ウィルは必ず捕まる。つまり、この場所での私の安全は保証されている。だから、大丈夫。大丈夫…)


「第三王女が虜にするためのその方法は、呪術を使用することです…」


「呪術…!?それは禁忌なのでは…!」


「はい。心得ております。しかし、第三王女は呪術を学ばざるを得ない環境にありました。そして、それを使わざるを得ない状況にも。…何せ、この国を乗っ取ることが出来なければ、第三王女は殺されてしまうのですから」


 また一口、ハーブティーを飲む。


 頭が痛くなるような内容ばかりで、今すぐにでもウィルには退場願いたいところだ。

 ただ、人が死ぬかもしれない状況を聞いてしまっては、見過ごすことの方が難しい。


「…それで、その呪術にかかっているのが、第二皇子殿下なのですね」


「その通りです。私は以前、エステル様の魔法をこの目で拝見いたしました。何とも数奇な魔法でしたが、おそらく、【言霊の魔法】ですね?」


 ウィルがその回答までに行き着いたのは、きっと私とアイザック様のやり取りを少なからず見聞きしていたからだろう。


「そうだと言ったら、ウィルはどうするのです?」


「呪術を…解除して頂くことは可能でしょうか…」


「…!それは何故ですか?呪術を解除して、この国を乗っ取ることに失敗すれば、トリステッツァ王女は死んでしまうのでしょう?だったら何故…」


 ウィルは先ほど、私にトリステッツァ王女を『救って欲しい』と言っていた。

 なのにこの発言は、まるで反対の言葉を発しているように聞こえる。


「呪術は、自分の大切な何かを代償にして、欲を叶える術です。ただ、今回願ったものが、あまりにも非現実的すぎました。故に、第三王女は自身の魂をかけて、第二皇子殿下に取り入っているのです。本来、呪術が解けるのは、呪術をかけた本人しかいませんが、本人は解く気が一切ありません。そこでどうか、言霊の魔法で呪術を破って頂けませんか…!」


 アメリアさんのフリをしてバレた時でさえ、今先ほど、エミリーの変装を見抜いた時も、まだ余裕そうな顔を見せていたウィルが、今切実に願いを訴えている。

 その表情は辛そうで、一執事が主に向ける瞳ではないことは明白だった。


(…かつてアイザック様が私に向けてくれていた瞳と、同じなんだね…)


 …ウィルは知らないのだろう。

 私の魔法には代償が付いてくるのだと。

 けれど、今それを話せば、ウィルはこの話を無かったことにするかもしれない。


 ウィルの魔法はおそらく空間系の魔法。


 まだその応用の幅も分かってはいない。

 

 もしも記憶を消されては困るので、取り敢えず代償の話はしないことにした。


 それよりも、確かめたいことがあった。

 いくつか仮説を立てているものを、より確かにするために。


「どうして、執事である貴方が、そこまでトリステッツァ王女ことを気にかけるのですか?ただの執事であるならば、見て見ぬフリでもするでしょう」


「やはり、気になられますよね…。長くなりますが、お話します。ですが、他言無用でお願い頂けますか」


「もちろんです」


 トリステッツァ王女の執事であるウィルは、いつもどこか、彼女を慈しむような優しい眼差しで見ていた、その理由も。

 今日こうして、私に国の秘密を打ち明ける理由も。


 今から話すことが全てに繋がっていると、私は睨んでいる。


 一拍おいて、ウィルは俯きながら話し始めた。



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