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第十九話

 葛西家を出た後、百合は沙織がよく買い物に出掛けるスーパーへと向かった。そこで沙織を探したが見つからず、店員に話を聞いてみた。すると、沙織のレジを打ったという店員が現れて、もう随分前に店を出たはずだと答えた。

 百合はスーパーを出るともう一度、沙織の携帯に電話を掛けた。しかし、やはり繋がらない。入れ違いになったのだろうかとも考えたが、葛西家からこのスーパーは基本的には一本道だから、どこかで顔を合わせることになる。そうなると、耕治の言うとおり沙織はどこかで寄り道でもしているのだろうか。

 そんなことを考えていると、スーパーまでの道程から少し外れたところに大きな公園があることを思い出した。そこは大きさの割に利用者が少なかったが、その分、静かで落ち着いた雰囲気があった。割と立派な噴水もあり、傍にはいくつかベンチがあった。前に立ち寄ったときはそこで沙織と一緒にスーパーで買ってきたアイスを二人で食べた。

 もしかして……。

そんな予感に突き動かされて百合が公園へ走って向かうと、本当にそこには沙織の姿があった。彼女はベンチにもたれ掛るようにして倒れていた。

百合はすぐに駆け寄ると沙織の状態を確認し、119番に連絡した。

 幸い、沙織に大事は無かった。病院に搬送された後、彼女はすぐに目を覚ました。今は念のため検査を行っている。

 百合から連絡を受けた千絵は、それを耕治に伝えた。

その話を聞いた直後は耕治も動揺していたが、検査を終えた沙織から連絡が入ると安心した様子を見せた。

『私も、もう年ですかね……』電話口で沙織が言った。『まさかいきなり倒れるなんて』

「医者は何て言っていた?」

『疲労が蓄積していたんだろうと。あと、加齢による影響も。まあ、仕方のないことかもしれませんが』

「そうか……」

『あと……』沙織は言い辛そうにして切り出す『医者からは念のため、一日、入院した方がいいと言われたんですけど』

「医者が言うのなら、そうした方が良いだろう」

『でも、あなた一人にしては……』不安そうな沙織の声が聞こえる。

「大丈夫だ。一日くらいは何とかなる」耕治は何でもないと言った様子で答える。

『そうですか?』

「ああ」

『じゃあ、お言葉に甘えて。でも、何かあったら連絡を下さいね』

「ああ」

 電話を終えると心配そうにしていた千絵が尋ねて来た。

「奥さまは何て?」

「今日は念のため入院すると……」

「百合ももう少しだけ奥様に付き添ってからこちらに戻ると言っていました。それから、あの、差し出がましいかもしれませんが、夕飯だけでも私たちが作って行きましょうか?」

「いや、そこまで面倒を掛けるわけには」

「面倒なんてとんでもないです。それにあの子はもうその気になっているみたいですし」千絵はそう言うと、携帯に表示されているメールの文面を耕治に見せる。


――from 百合

 ――今日は私がおじいちゃんに夕食を作ってあげるって伝えておいて。材料はおばあちゃんから預かってるから。あと、おじいちゃん、きっと断ろうとするからダメだって言っておいてね。よろしく。


 その文面を見て、耕治はすぐに降伏した。これは断れない。

「どうしますか?」千絵が尋ねる。

「申し訳ないが頼みます」耕治は頭を掻きながらそう言った。

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