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悪役令嬢は壁になりたい  作者: tea


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イライアスとシュゼット⑭ side シュゼット

「分かったらその手を離せ。シュゼット嬢、どうぞこちらへ」


まるで、


『かつての恨み、今ここで晴らしたり!!!』


とでもいったご様子で。

これまでのアダルトな落ち着いた雰囲気から一変、リュシアン様が僅かにその形の良い小鼻を膨らませながらドヤァ! と胸を張ってみせられました。


リュシアン様とされてはそれに続く、悔し気に鼻白むイライアス様のリアクションを心より期待されていたのでしょうが……


「あぁ、リュシアン。いたのか」


イライアス様のリアクションは、実に軽~いものでした。



「いたのか……だと?」


イライアス様のそんなお言葉を聞かれた次の瞬間、リュシアン様のそのお美しいこめかみに、ピキッ!と青筋が浮かんだのが分かりました。


「……あぁ、いたさ、いたとも!!」


押し殺したような低く、底冷えのする声でそう呟かれたリュシアン様が、握りしめた拳をわなわなと震わせるのが見えた瞬間です。

周囲の皆が


『あぁ、この国も終わったな』


と、色を完全に無くしたのが分かりました。


「もしかして、そもそも僕が何でこんな所にいるのか忘れたのか?! だったら何で僕が身重の妻を置いてまでわざわざこんなところまで来る嵌めになったのか改めて教えてやる! 貴様が! 僕を!! 名指しで呼びつけたからだ!!!」


リュシアン様の絶叫が夜の広場にこだましました。



「それが言うに事欠いて『いたのか』だと??! 大体今日だって、主賓が僕で、お前は僕を持て成すホストの側だろう。それなのに、何度も何度も接待をすっぽかしやがって!!!!!」


『イライアス様! もう遅いかもしれませんが、それでも! それでも、どうか。誠実に謝罪してください!!』


そんな私達の思い虚しく


「やだなぁ。我が隣国の王配殿下を迎えるのは建前上同列にある父だ。父ならちゃんと向こうの主賓席にいただろう?」


顔を真っ赤にされ激高されているリュシアン様を、イライアス様が楽し気に笑い飛ばされた時です。


「何が楽しくて、互いに興味も関心もない、破滅主義者のお前の父親と並んでオレが花火を見にゃならんのだ!!!!」


リュシアン様のその言葉に、イライアス様がピタッと笑うのを止められました。

もしかして、国王陛下の事を悪く言われて気分を害されたのでしょうか?!


更に強まった緊張感に、周囲の人間がゴクリと唾を飲んだ時です。


「え? リュシアン、まさかボクに放っておかれて寂しかった??」


イライアス様がヘラッとまた楽し気に笑われ


「僕は一刻も早く身重の妻の待つ自国に帰りたいんだ!!!!!!!」


リュシアン様が、ドン! と音を立てて大輪の花を咲かせた花火よりも更に大きな声で、夜空に向かい激高されたのでした。





「もう限界だ!!!! シュゼット嬢、これ以上此奴の相手をしていたらバカがうつります。行きましょう!」


そう言って、リュシアン様がイライアス様とは反対側の、私の手をとられた時でした。


「っ!!」


リュシアン様は決して乱暴に私の手を取られたわけではなかったのですが。

リュシアン様が触れたのは、さっきジェレミーにきつく握られ微かに痣になってしまっていたところで。

私は痛みに思わず小さく呻き声を漏らしてしまいました。


その瞬間です。


「リュシアン! その手を離せ!!」


これまでのふわふわした雰囲気から一変。

イライアス様が初めて声を荒げられました。


『誤解です!!』


慌ててそう口を開こうとした時です。

私に向かい、リュシアン様が何故か黙っているようにと合図を出されました。


「お前に命令される筋合いはない」


そう短く答えて不敵に笑うリュシアン様に、イライアス様が半ば無意識の内にそのロイヤルブルーの瞳に魔力を込めたのが分かりました。

しかし……。


私同様魅了の効かないリュシアン様が、私の手を離される事はやはりありませんでした。



「バカなヤツだとは思っていたが。お前は本当に馬鹿だな。(ギフト)の本当の使い方を何も分かっていない」


そう呆れた様におっしゃって。

リュシアン様が、私達とイライアス様の間に立ちふさがるように、ご自身の護衛騎士を呼ばれました。







******


大輪の光の花が咲く夜空をぼんやり見上げます。

リュシアン様の国から輸入したという花火は、これまで見たことないほど色鮮やかで美しいものでした。


ふと隣を見れば、それを酷く退屈そうに見ていらしたリュシアン様と目が合いました。


「私、夜って鮮やかな色も熱も無い、寂しい世界だって思い込んでいました。でも、そんなことなかったんですね。私、これからは一人暮らす夜がこれまでより好きになれそうです。本日はお誘い下さりありがとうございます、リュシアン様」


改めて、そうお礼を申し上げれば


「……いえ、寧ろイライアスとの仲を邪魔したのです。文句こそ言われ礼を言われる覚えはありませんよ」


リュシアン様が一見気難しそうに、しかしその実ひどくバツが悪そうにその筋の通った綺麗なお鼻に皺を寄せながら、そんなことをおっしゃいました。





「それで。イライアスを僕の前で跪かせる方法は分かりましたか」


リュシアン様の言葉に小さく頷けば


「そうですか。それは良かっ……。念のためどうするつもりか教えていただけますか?」


鷹揚に頷きかけられたリュシアン様が、ハッと疑わし気な表情をこちらに向けられました。


何故でしょう。

魔具で仮面を作って、雰囲気美人になる作戦もなかなかに良いアイディアだと思ったのですが?

どうもリュシアン様は私の出すアイディアにあまり信用を置いて下さってはいらっしゃらないようです。


でも、まぁ。

今回私が考えた作戦は、今度こそリュシアン様の御心に添うもので間違い無いので問題ありません。


「はい。先ほどこの、花火の光を受け地上に落ちた流れ星のように美しく輝くダイアの首飾りを見ているうちに、私、遅ればせながらもようやく、リュシアン様の意図されていた事に気づく事が出来ました」


そっと押抱くように首飾りに触れつつそう言えば。

私の自信をありげな様子からして、今度こそ大丈夫そうだと思って下さったのでしょう。


リュシアン様はベンチのひじ掛けにどこか妖艶かつ気だるげに頬杖を付かれると、その先も言葉にするよう、その大人の落ち着きと余裕を存分に含んだ眼差しでもって再度促されました。


「リュシアン様は私に『辺境伯領領騎士団の奥義、流星突きをもってイライアスを地面に沈め、僕の前で跪かせろ。そうすれば、内政問題として片が付くし、お前が隠したがっている思いがイライアスに伝わる事も無く一石二鳥だ』そうおっしゃりたかったのですよね!!」


「全然違いますよ?!!」

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