イライアスとシュゼット⑬ side シュゼット
「いかがでしょう?」
髪をハーフアップに結い上げられ、薄化粧風に、でもその実時間をかけてバッチバチにメイクを施され、キラキラ輝く宝石を可憐に纏った自分を鏡越しに見た瞬間、
「す、すごいです!!」
プロの技に驚愕したせいで、思わず淑女にあるまじき大きな声を出してしまいました。
これは嫌味なジェレミーでさえも、文句のつけようがないのでは?!
そう思った瞬間でした。
「却下です」
そう仰って。
リュシアン様が実に嫌そうに、私が身に着けていたイライアス様の瞳と同じロイヤルブルーの色をしたサファイアのイヤリングを外すよう、侍女に指示を出されました。
「では、こちらのもの等いかがでしょうか」
そう言ってサロンのマダムが侍女に持って来させたのは、細やかな細工が実に美しい金細工のアクセサリーでした。
真昼に太陽に向かって真っすぐ咲き誇る向日葵のような色合いのそれを美しいと思うと同時に。
かつてお茶会で独りぼっちだった私に声をかけてくれた年上の女の子を思い出し、彼女のような人こそがやはりイライアス様には相応しいのだろうと、勝手に劣等感を募らせ俯きかけた時でした。
「気に入りませんか?」
リュシアン様はそう言って首を傾げると、私の答えを聞くよりも前に、またサッとそれらを下げさせられました。
次に私の前に差し出されたのは、ダイアをふんだんにちりばめた夜空に輝く星のようにきらめく首飾りと揃いのイヤリング、そして流れ星を思わせる美しい髪飾りでした。
そうして
「では、これにしましょう」
またしても私の表情をさらっと読まれたリュシアン様は、今度も私の言葉を待つ事なく、実に満足気にそう断言されたのでした。
◇◆◇◆◇
「まぁ、シュゼット! ちょっと見ない間に綺麗になって」
リュシアン様にエスコトートされ花火会場に現れた私に酷く楽し気に話しかけてきたのは、ジェレミーの母でもある、私の伯母でした。
「ジェレミーはどこ? あの子ったら用事のある時にしか手紙を寄こさないから、元気にしてるのか心配してたのよ」
あちらで他の貴賓の方々とお話されているリュシアン様が、まさか私をエスコートして下さっているとは思わなかったのでしょう。
伯母は周囲を見回しジェレミーの姿を眼で探しながら言葉を続けました。
「でも、元気そうでよかったわ。ところで、式の日取りはいい加減きまったのかしら?」
「式?」
首を傾げる私に向かい、伯母が苦笑しながら言いました。
「あなたとジェレミーの結婚式の話に決まっているでしょう」
「私とジェレミーの結婚式?!」
ぽかんと口を開けた私を見て、
「あらイヤだ。あの子ったらまだ貴女にちゃんと話をしていなかったの?」
伯母がヤレヤレと深いため息をつきました。
「ホントあの子ったら。……まぁ、でも。辺境伯領を継ぐ為に、あの子がずっと貴女のお父様の仕事の補佐についていた事、貴女だって知っているでしょう?」
伯母の言う通り。
つい先日まで私も、いずれジェレミーは私と結婚して辺境伯である私の父の跡を継ぐ気でいるのかと思っていたのですが……。
「でも、ジェレミーは先日デビューした男爵令嬢に一目ぼれして、彼女の気を引こうと必死で……」
「まさか!」
私の言葉に、伯母が思わずと言った様子で噴き出しました。
「ジェレミーは幼い頃からずっと貴女の事だけが好きなのよ。それこそ、貴女を他の男に取られたくないから、正式な婚約が調うまでデビューは遅らせろと突然我儘を言って先日私と弟を困らせたくらいよ?」
「違……ジェレミーは、私があまりにドレスが似合わないって意地悪で……」
「ふふっ、ジェレミーったらいつまでたっても恥ずかしがり屋の天邪鬼が治らないんだから」
伯母の言葉に、どう返して良いか全く分からなくなって思わず言葉を失ったその時です。
「あぁ、いた。ジェレミー、ここよ」
伯母が手を振る先に、酷く焦った様にこちらに走り寄って来るジェレミーを見つけました。
その瞬間です。
子どもの時イライアス様と初めて会ったお庭のお茶会で、ジェレミーに無理矢理強く手を引かれ、イライアス様と引き離された記憶が突如フラッシュバックしてきました。
そのせいでその時の悲しみに再びあっという間に囚われ、そこから逃げ出すことも出来ず、その場に凍り付いてしまった、その時です。
「シュゼット! 探したよ」
そう言って。
ジェレミーより先に、そして脆いガラス細工にるれるかのように実に優しく、私の手を取て下さったのは、なんとイライアス様その方でした。
「殿下?!」
驚きの余り、思わず少し大きな声を上げた伯母を無視して、
「迎えに行ったけれど、屋敷にいなかったから心配したよ」
遠くから私達を見つけ、走って来てくださったのでしょう。
息を弾ませたイライアス様は小さく深呼吸をした後、
「随分遅くなってしまったけれど……夜に会いに来たよ」
そう言うと、かつて私を救ってくれたあのお日様のような暖かな笑顔を、私だけに優しく向けてくださったのでした。
「じゃあ、行こうか」
そう言葉にすることにより周囲を一見サラリと、しかしその実しっかりと牽制して。
私の手を取ったままゆっくり歩き出されたイライアス様を
「彼女をどこに連れて行くつもりだ。今宵彼女をエスコートしているのは僕だ。勝手な真似は止めてもらおう」
そう言って引き止められたのは……。
またしてもジェレミーではなく、挨拶周りを終えられたリュシアン様その方でした。




