イライアスとシュゼット⑥ side シュゼット
翌日開催されたリュシアン様の歓迎パーティーで
「なっ?!!」
リュシアン様が私を見るなり、その綺麗な顔を盛大に引き攣らせられました。
それもその筈。
私はリュシアン様と同じ髪色でアイスブルーの瞳をしていて、ヒールを履いた今、背丈も彼とそれほど変わりません。
なんならこうしてお会いしてみると、初対面の時にイライアス様が見間違えられた事から察せられる通り、面立ちもどことなく似ている気がします。
そんな自分とそっくりな人物が、まるで婚約者か何かのようにイライアス様の瞳と同じ色のドレスを着させられ、死んだ目をしながらイライアス様に腰を抱かれ目の前に立っているのです。
リュシアン様とイライアス様、お二人の関係性はよく知りませんが……。
想像するにきっと一方的にイライアス様に執着されていらっしゃるのであろうリュシアン様からすれば、この目の前の光景はホラー以外の何物でもないでしょう。
「イライアス、お前……いくら僕に恨みがあるからって、ここまでやるか?!」
リュシアン様が実に忌々し気に半眼になってそう言えば、イライアス様はそんなリュシアン様を見て、一人だけまた実に嬉しそうに笑われました。
イライアス様の隣で真っ青になっていた時でした。
「……気が済んだなら、いい加減その哀れなお嬢さんを離してやれ」
そんな私の様子に気づいたリュシアン様が、私に向かいそんな助け船を出して下さいました。
リュシアン様の慈悲深いのお言葉に甘えて、脱兎のごとくその場を去ろうとしたその時です。
イライアス様は逃げ出そうとした私の手をまたガシッ! と掴むと
「えー!!! 嫌ですよ。ダンスもまだ終わっていないのに。ねぇ? シュゼットもボクと踊りたいよね??」
私が反論出来ないのをいい事に、そんな事を仰ったその時でした。
「いい加減にしろ」
何故かリュシアン様がイライアス様に向かい小さく弓を引くようなジェスチャーをして見せられました。
そしてソレをご覧になったイライアス様は、どこか怯えたようにバッ! と勢いよく私から手を離されたのでした。
◇◆◇◆◇
かつてお二人の間に何があったのかは、やはり全く分かりませんが……。
まぁ、何はともあれようやく解放してもらえました。
二人の傍を離れ、ホールの隅までようやく逃げて来られた事にホッと安堵のため息を付いた時です。
「シュゼット!」
また突然誰かにギュッと手を掴まれ、今度は何事かと再び恐怖に肩がビクッと跳ねました。
恐る恐るそちらを振り返れば……
なんとそこにいたのは従兄のジェレミーでした。
「びっくりしたぁ。おどかさないでよ」
きっと領地を中々離れる事の出来ない父に代わり、こんなところまでわざわざ迎えにきてくれたのでしょう。
ジェレミーがいれば安心だと、ホッとして足を止めた時です。
「帰るぞ!!」
そう言うなり、ジェレミーが自身の上着を脱いで私にかけました。
会場はシャンデリアの灯りで熱いくらいなのに、どうして上着を?
そう思いながら、何気なく目の前にかかっていた鏡に目をやった時でした。
綺麗に磨き上げられた鏡には、リュシアン様によく似た人物が映っていました。。
そしてその人は、女性ものの美しい青いドレスを纏っていて……。
その姿はまるで道化の様でした。
『あぁ、君は何て綺麗なんだろう』
否定するのがいい加減面倒になるくらい。
パーティーに出るまで、イライアス様が繰り返し繰り返しそんな言葉を下さったから。
自分がドレスなんて似合う人間じゃ無かった事をすっかり忘れていました。
すっかり勘違いしてしまっていた自分が急に猛烈に恥ずかしくなって今度こそ一刻も早く会場から逃げ出そうと、ジェレミーのかけてくれた上着を胸の前で掻き合わせるようにギュッと握りしめたまま駆け出そうとした時でした。
「シュゼット、踊ろう!」
突然背後からそんな声が振ってきて、驚いて振り返れば、そこにはこれまでになく優しく微笑むイライアス様の姿がありました。
イライアス様はジェレミーに上着をフワッと投げ返すと、また私の手を掴み、私をダンスの輪の中に強引に引っ張り込んでしまいます。
「イ、イライアス様!? 私、こんな格好なので……」
私と踊る事でイライアス様にまで恥をかかせては申し訳ないと、慌てて逃げ出そうとすれば
「うん、そうだね。白や黄色のドレスも君に良く似合うだろうけど、ボクの瞳の色を纏った君は特別すごく綺麗だから、みんなに見せびらかしてやろうと思って」
イライアス様は私の泣き顔を隠す為、ダンスをする振りをして私をギュッとその胸の中に抱き寄せたのでした。
イライアス様が私を離してくださったのは、私の脚が痛んでもう逃げ出すどころか、まともに歩くのも難しくなってからでした。
そうして
「こんな状態では帰せないから」
私を迎えに来た従兄にそう冷たく言い訳し背を向けて、イライアス様は私の手を掴んだまま会場を後にされました。




