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悪役令嬢は壁になりたい  作者: tea


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番外編4 ローザside5

「呪いを解いてって……。そんな方法知らないわ」


ポカンとしつつ、そう言えば


「簡単だよ」


そう言ってゼイムスはまた快活に笑った。


「王子様にかけられた呪いはお姫様の真実の愛のキスで解けるんだ」



こんな時に一体何の冗談を。

そう思わず脱力しながらゼイムスを見れば、想像に反しゼイムスの目は真剣だった。


「……本当に???」



「真実の愛ってのは……ボクの冗談。でも、この呪いをかけたやつはローザがボクを許したならボクが失脚しないよう、呪いが解ける様にしたって僕に呪いをかける時言ったんだ。じゃないと巻き添えくって困るのはボクの婚約者であるローザだからね」



許す?

ゼイムスを??



確かに、何も知らない人からすれば、恨むのが当然の憎い相手であるように見えるのだろう。

しかし彼は、私だけを見て欲しいという願いを叶えてくれた唯一の人だ。


まるでそうして触れ合っていないと息が出来ないとでも言わんばかりの溺れるようなキスと、抱きしめられていると勘違いしそうになる私を捕らえるその両の腕の温もり。

そしてあの苦い表情を思い出せば、優しいゼイムスの愛に満たされているはずの今でも、あのゼイムスの孤独と歪んだ愛を、そしてそんな彼の不在を思い胸の奥が苦しくなってしまう。



しかし……


「私にはその呪いは解けない」


そう言えば、ゼイムスが悲しそうに視線を足元に落した。


「ボクは許されない程、キミに酷い事をしたんだね」



まぁ、それもあながち間違いではないのだが


「私が呪いを解けない理由はそんなことじゃないわ」


そう言えば、ゼイムスが不思議そうに顔を上げた。


私が呪いを解かないのは怨からではない。


「だって、ゼイムスは今のままの方が幸せでしょ?」


私の言葉にゼイムスがキョトンとした表情で首を捻った。


「以前の貴方は今みたいに柔らかく笑ったりなんて決してしなかった。そして沢山の人に囲まれていながらいつもその瞳は孤独で苦しそうだった。私には何も話してはくれなかったけれど……きっと貴方の本質を歪めてしまう程の、沢山の辛い記憶を背負っていたんだと思う……」





一向に馬車から出て来ない私に業を煮やしたのだろう。

またドン!と強く窓が叩かれた。


ガラスが割られるのも時間の問題かもしれない。

それでも。

例え雨の中馬車から人々の手によって引きずり降ろされようと、私はゼイムスにまた過去の記憶で傷ついて欲しくなんてなかった。



「ローザ……」


下を向いたまま黙りこくっていたゼイムスが、心を決めたように明るい瞳をして顔を上げ、私の頬にまたその大きく暖かな掌で触れた。


そうだ。

ゼイムスだけが無理して苦しい思いをして大人に戻る必要などないのだ。


その思いを伝えたくて彼の手に自らの手を重ねようとした時だった。



「ありがとうローザ。でも、ボクはキミにこの呪いを解いてもらいたいんだ。沢山の苦しい記憶の果てにローザを守る力と知恵が手に入るなら、ボクは喜んでそれを受け入れて見せるよ」


そう言うとゼイムスは、私の言葉を待たずに唇に触れるだけのキスを落とした。



「……ごめん、ボクは結局今も昔も、キミに酷い事をしてばかりみたいだ」


どこか大人びた表情を浮かべ優しく微笑みながら、ゼイムスが私の頬に触れていた親指で、零れた涙をそっと払う。


「ううん。貴方は、どこまでも真っすぐ私の事だけを思ってくれる、本当に素敵な私の王子様だったよ」



私がそう言って笑えば、


「もしこの先、辛い事があった時はボクを呼んで。絶対ローザ助けに戻って来ると誓うから」


ゼイムスは最後にそう言って、深い眠りに落ちる様に目を閉じた。

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