番外編4 ローザside4
本当は翌日にはすぐコリュージュを発つはずだったのだが私の眩暈が収まらない為、こちらでの滞在を伸ばす事になった。
多忙のゼイムスだけでも先に王都に戻るよう勧めたのだが、
「ローザをここに連れて来たのはボクだよ?! ローザを一人置いて行けるわけなんてないだろう!?」
と一刀両断されてしまった。
甘やかされる心地よさに、思わずゼイムスの袖を掴めば、ゼイムスは私の額に小さくキスをして、私が眠るまでその手を繋いでくれた。
昼間沢山寝てしまったせいだろうか。
夜中にふと目を覚ませば、また暗闇の中じっとこちらを心配そうに見つめるゼイムスとまた目が合った。
私が目を覚ましたことに気づいたゼイムスが、私の熱を測ろうと私の額に向けてその手を伸ばす。
子どものゼイムスは私に触れる時、まるで大切なぬいぐるみに触れる様にその温かな手の平で包み込むように触れる。
一方、大人のゼイムスはまるで脆いガラス細工に触れる様に、指先でそっと触れる。
今の彼はどちらだろう。
そう思った私の額に触れたのは、冷たい指先だった。
『あぁ、彼だ』
私が思わず涙が零れそうになって、それを誤魔化すようにその手に猫の様に額を摺り寄せれば、私の熱が無い事を知ったゼイムスが詰めていた息を吐いた。
そしてゼイムスは再び厳しい表情を作り言った。
「再び雨になる前に一刻も早くここを離れろ」
ゼイムスの言葉に思わず首を傾げた。
窓の外では澄み渡った空に星々が輝いている。
「例えウィルでも雨季を失くすことなど出来ない。遅くとも明日の晩にはまた雨雲が、それも先日よりも厚いものが戻るだろう。だからいいか、夜明けには必ずここを発て! 必ずだ!!」
こんなに晴れているのに本当だろうか?
そう思って天気が変わる方角の方を改めて見やれば、雲一つかからない満月が見えた。
何と答えるべきだろう。
迷っている内に、ゼイムスは一人部屋を出てどこかに姿を消した。
明け方ゼイムスを起こし昨晩彼が言った通りの事を伝えれば、ゼイムスは私と同じように晴れ渡る窓の外を見て首を傾げた。
「ローザの体調が完全に戻ってからの方がいいんじゃないのかな? 帰りの道中で何かあっても心配だ」
それでも、どうしても急いでここを発たないといけないのだと言えば、ゼイムスは温かな掌で私の額に触れた後、
「分かった」
と従者に、急ぎここを離れる準備をするよう伝えた。
明け方はあんなにも晴れていたのに。
昼前になり出立の準備が整う頃には、再びポツポツと大きな雨粒が落ち始め、馬車に乗り込んだ時には再び来た時と同じような土砂降りとなってしまった。
馬車を出そうとした時だ。
先日共に祈りを捧げた人々が、突如行く手を塞ぐように馬車の周りを取り巻き私に向かって叫んだ。
「どうかもう一度、あの雲を晴らして下さい」
そうしたいのは山々だが、残念ながら今の私にそんな力は残っていない。
眩暈が残る為馬車の中からではあったが、誠意をもってそう伝えた。
そのつもりなのだが……。
「どうかもう一度奇跡を!」
と、馬車を出させまいとするかのようにその行く手に立ち塞がる人が増えた。
馬車の窓がドンドンと強く叩かれビクッと肩が震えた。
馬車から出て自らの言葉で事情を説明しようとするゼイムスの手を必死に引いて、今そうすることは危険だと思いとどまらせた。
「ゼイムスが、どうしてこの嘆願を無視していたのかようやく分かったわ」
思わずそう呟けば、
「……すまない、ボクが浅はかだった」
そう言ってゼイムスが両手で顔を覆い呻いた。
しかし、
「悔しいな。今のボクの方がローザを幸せに出来るし、ボクの方が好きになってもらえるって思ったのに。どっちも自分に負けるなんて。ホント、悔しい」
そう言って顔を上げたゼイムスの顔に、不思議と悲壮感は無かった。
その事を意外に思って、その透明な翡翠の瞳を見上げれば
「ねぇローザ、かつてのボクならきっとここから君を助けられる。だから……自分に負けるのは悔しいし、キミとサヨナラするのは寂しいけど……ボクの呪いを解いてよ」
ゼイムスがそんな思いもかけないことを言った。




