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エルは掴む、果ての世界  作者: 必殺脇汗太郎
二章 勇者と悪魔編
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エルは空回った

「あ、あの、どこに向かっているんでしょうか?」


不安そうに、獣人の女の子が問いを投げかける。


「ああ、一応、安全なところだ。」


短く返答すると、結局どこに向かっているのかわかっていない女の子は余計に迷いを見せる。


その迷いは、次第にここに居る総勢25人の元奴隷達に伝播していき、機を見て逃げ出そう考えて始めている者もいた。


しかし、結局のところ、逃げ出すという選択肢は存在しない。


何故なら、辺り一帯にこちらに敵意を見せないトレント達がひしめいていて、今この集団から抜け出せば一瞬にして殺されてしまうとわかっているからだ。


一歩、トレントが身動きするだけで、ハーフエルフの少女がビクっと体を強張らせる。


出来ることならトレント達を一時的にどっかに行かせたいところだが、こちらを襲わないだけで命令を聞かせることは出来ない。


この魔獣達は、真の強者の存在に恐怖し襲わないだけで、あって俺の横で母と手を繋いでいる少女が従えている訳ではないのだ。


よし、とりあえず茨の迷路にはたどり着いたな。


そう、俺達の向かっている場所はこの茨の迷路の先、小人族の集落である。


____________________________________________________________


しばらく迷路を彷徨って、というより正解の道を進んで集落へと至る。


因みに、迷路を順当に進んでも集落にはたどり着かない。ペペや集落に帰属している小人族の者がいないと正規の道すら現れない。余談ではあるがこの茨、魔法で焼いたり破壊したりできない。飛び越えようとしても迷路の通路は茨に塞がれ、飛び上がることすら出来ない。


そんなこんなで、俺は集落の長に事情を説明し、しばらくの面倒を見てもう事にした。


長はこれを快諾してくれた。何故か聞くと、純粋な戦力として最適であり、狩りができない自分たちにとっては願ってもいない提案だったそうだ。


そりゃ、獣人やエルフの血を引く者は狩りに優れていることが多い。


だが、反乱を考えないこともないので、釘を刺しておこうと思う。


「あー、聞いてくれ。」


大きな声で集落中に響き渡る声でそう告げる。

突然現れたにも関わらず、酷い仕打ちを受けてきた元奴隷達の話を聞いて上げたりと、積極的に行動してくれている小人たちは戸惑いの顔を俺に向け、元奴隷達は大きな声自体に不安を抱いた顔をしている。


「そんなに硬くならなくていいぞ。だがこれからいうことはしっかりと聞いてほしい。ここは小人族の集落だ。奴隷だったお前たちは、そこをしっかりと考えなければならない。彼らは非常に弱い、これは純然たる事実であることは分かっていると思う。しかし、お前達が回復して、体に本来の力が備わってきて、小人族を害そうとする場合。」


そこで俺は魔力を周囲に解き放つ。

俺の魔力は今や、そこら辺の魔法使いとは比にならない。


それが自分達の周りに充満した。それはすでに、ただの圧力であり。


恐怖に駆られて、短い悲鳴が聞こえるくらいには恐怖の対象になった様だ。


「俺が必ず報復する。安心してくれ、あの貴族達の様な仕打ちはしない。かならず一撃で仕留める。命乞いも無駄だ。わかったな?それと小人族の者たちも、彼らをよそ者の様な扱いをするな。俺が勝手に決めたことだが、受け入れることを決めたのはお前たちだ。そのことをしっかりと心に刻んで、共存の道を進んでくれ。」


「はい!」


元気よくペペが返事をすると、次々に同意の声が上がる。


「ふふ、ペペが見つけてきた人は、随分と立派な人の様ね。これはなかなかいい男を拾ってきたじゃない。がんばるのよ、ぺぺ!」


「ちょ、何言ってるのよまったく!!」


母と子の珍妙なやり取りに、周囲から笑いが起こる。


頼むから演説したすぐ後にそういうことをするのはやめてくれないか。

しかし、弛緩した空気は、不安そうな顔を浮かべる奴隷達の心を少しばかり開かせたようだ。


ともかくこれで受け入れ態勢は整った、とは言えないか。


「住居、だよな。問題は。」


「そうですね。これだけの人数を収容するには既存の住居では無理があります。」


はぁ、まさかの重労働。


というわけで俺は非力な住民たちに代わって外で木を切ったり、それを運んだりと大忙しだった。おかげでここに着いたのが朝早くだったのにも関わらず、作業はお昼を過ぎてもう夕日が傾く時間になってしまった。


それでもやはり住戸を一つ作るにはそれなりの時間を要するもの。結局完成したのは予定の四分の一程。


残り数日はここに滞在しなければならず、話し合いの結果、明日から俺は木を切る以外は狩りを担当することとなった。


そして数日が過ぎる。


____________________________________________________________


「いやー、それにしてもあんたはかなりいい線だね。エルフの木工の技術をここまで早く習得しちまうとは。あたしはこれが本業じゃないから、知り合いの木工細工師を紹介してやりたいよ。」


「それなら俺も、こういうことに関しては右に出る者がいないってやつを知っているのでそいつを合わせたやりたいですね。」


「へぇ、あんたが認めたってことはなかなかの腕前なんだね。あたしの腕の動きや道具の使いかたを注視して綺麗ですねなんて言っちまう奴が推薦するんだ、きっとあたしの知り合いと仲良くなれそうだね。」


今、俺と会話しているこの人は、純粋なエルフで、大陸の東にあるエルフの森からやってきたらしい。


そんな人が何故奴隷として捕まっていたかというと、諸国を回る旅の途中で毒を盛られて足に後遺症が残り、運動があまり出来なくなってしまったからであった。もっとも本人はもうあまり気にはしていないらしく、今は木工に趣味を変え、こうして今も技術向上のための訓練をしている。


あの屋敷では能ある奴隷は待遇が良くなるそうで、捕まった初めの頃は必死になって木工作品をアピールしたそうだ。・・・そんな生きる為に仕方なく始めたことを今でも一生懸命やっている姿をみると、またしても怒りがこみあげてくる。


気持ちを切り替えて、タイリースが作った小刀を一振りする。うん、なかなかいいバランスだ。もちろん木刀に分類されるものであるので、何かを切り裂いたりはできない。今のままでは、だが。


今日は昨日話し合った俺の役割を早々に終えて、この集落の自衛手段を小人族の長、元奴隷達の年長者から数人、小人族の大人で知識ある者を数人、といったメンバーで話し合った。


そしてその中で出た議題の内、武器面でエルフのとある技術が役立つのではとのことで、エルフの女性、タイリースに白羽の矢が立った。


早速タイリースは仕事に取り掛かり、その作業を俺が見学していた訳だ。

やってみるかと言われた時思わず、はいっと言ってしまうほどに、彼女の作業は洗練され美しいものだった。


その美しい木工技術と、エルフ伝来の、魔術刻印による疑似魔法道具作成技術が合わさり、この一振りの小刀が出来上がったわけだが、使い方が今一わからない。


「魔力を通す、ということはわかるのですが。うまく木の内側に魔力が入っていかないですね。」


「当り前だよ。普通の木では魔力の許容量は極端に少ないものさ。それをこれから引き上げる作業に入るんだ。あんたに教えてる暇はもうなくなってしまった、すまないね。」


「いや、いいんです。それよりもどうやってその木の許容量を上げるんですか?」


「んん、それなんだがね。割と大きめの鍋と、それを満たすくらいの水、あとは魔力保有量の多いやつが一人ほしいんだ。水はあるし、魔力量の面で言えばあんたで十分なんだが。兎にも角にもこの村は金属が少ない。大鍋なんてあるはずもないから、どうしたものかねぇ。」


鍋、か。


作れるな。


「わかりました。鍋に何か刻印を刻んだりはしますか?」


「いや、普通に水を熱するだけだけど?」


「とりあえず、外に出ましょう。丁度いいかは分かりませんがとにかく大鍋と熱湯ならすぐに用意できます。」


「んん?まぁ、そういうなら、見せてほしいな。」


というわけで、作業場として与えられた小屋を出る。


「準備しますので、少し下がっててもらえませんか?」


「あい、わかったよ。」


よし、初お披露目がこんな用途によってとは思っていなかったが、仕方ない。

魔力を活性化させ、右手に集中させていく。


『スキル発動・【心剣創造・熔炉大剣ようろたいけん】』


スキルを発動し、任意の心剣を呼び出す。


姿を現したのは、溢れでようとする炎を抑え込んでいるかのように、その大きな刀身すべてを朱色に染める大剣。


【心剣・熔炉大剣ようろたいけん


こいつの効果は、その見た目に反して、捕縛に特化している。


それの効果を発動するにはまず、刀身の根元をくり抜くように出来ている握りを掴み、体と平行にして刃を地面に刺す。そして発動の鍵となる言葉を口にする。


『溶かせ、眼前の敵を』


命令を受けた大剣はその刀身の朱色を輝かせ、次の瞬間、刀身が横方向に伸びて前方を円柱状に囲った。そして鍔についていた輪っかの集合体がその円柱の縁を回り始め、円柱の外側に大量の炎を発生させる。


中にいる敵を溶解させる凶悪な技。それを行使する熔炉大剣。

飛んで逃げようとしたって意味ないんだぜ?なんせあの円柱の中は拘束の魔法が二重三重に展開されていて身動きすらできないし、そもそも頭上で炎を吹き上げている車輪のごとき輪っかは外にも炎を吐き出しているが、当然内側にも吐き出している。


捕縛し溶かして殺す。なんて殺意力が高い心剣なんだ。このままでは殺人の専門家になってしまう未来が見える。


と、そんなことは置いといて、タイリースさんに顔を向けて話かける。


「どうですか。これなら結構な水も入りますし、瞬時に熱湯にすることが可能です。」


「・・・あなた、本気で言ってる?」


「え?」


「いや・・・言ってることは理解できるんだけどね。そもそも、それの周りで作業できないでしょうが。それにそんなに熱いんじゃ水もすぐに蒸発するし、なによりそれ、底抜けてるじゃない。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はっ!!!」


この日一番の失態をやらかした俺は、行き場の無くなった熔炉大剣の展開状態を解除して、近場にあった除去していない大きめの岩を熱せられた大剣で叩き割った。


「ふぅ、これで良しっと。」


「なかったことになんてならないからね?あたしがちゃんと見てたからね?」







いつの間にか夜だ!星はなんて綺麗なんだ!!


夜空を見上げて、俺はもう戦い以外に心剣を使わないと決めた。

ちくしょうっ!!!

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