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エルは掴む、果ての世界  作者: 必殺脇汗太郎
二章 勇者と悪魔編
37/50

エルは己の実力を測ろうとする

「旅に必要なものは全部買ってきました。出発しますよ師匠。」


「うん!わかったよ今行く!モグモグモグ、こえおたへおわたはら(これを食べ終わったら)すふいふはら(すぐ行くから)!」


俺達は昨日の今日ですぐにこの街を出ることにした。したのだが、師匠はお昼まで寝てるし、起きたら起きたでこのありさまだ。


口いっぱいに頬張った料理。何の料理をどれだけ食べたのはわからないが、少なくとも今目の前にある皿は30枚を超えている。


どこに入っていってるんだと呆れながらも、師匠の完食を待つ。


「うぐぐぐ、ぷはー!よし、行こう!」


「代金。」


「は!おばちゃんこれ!ありがとうございました、とってもおいしかったわ!」


人を待たせていたというのに、颯爽とお金を卓に置くと、すぐに店を出て行く師匠。


その後ろ姿をあきれ顔で見送って、俺は食堂兼宿屋の女将さんにぺこっと頭を下げてから師匠の後を追う。


店の前で食後の運動というように伸びをしたり体を捻ったりしている師匠に声をかけて、改めて今後の日程を確認する。


「それじゃ、俺は帝都に向かいますけど、師匠は途中で別の国に向かうんですね。」


「ええ、私も会わなければいけない人がいてね、それに帝都にはさすがに寄れないわ。一応これでも指名手配犯だからね!」


「その指名手配って、街の人にどれだけ聞いても師匠の名前や二つ名なんて聞けませんでしたよ?」


「あら、もうそんなに時が経ってしまったのかしら。それでも私はあまり人目につくわけにはいかないのよ。今だって結構ギリギリなんだから。」


『紅蓮の魔女』


それが師匠の二つ名らしい。

どれだけ周囲に訪ねてみてもその名を知っている人はいなかった。だけれど師匠はその名を少し誇らしく語る。指名手配までされて、不用意に町中で顔をさらすようなことが出来ないこの状況でも、その二つ名を捨てることはなさそうだ。


とにかく、師匠が途中で別れるというならその意見が変わることはないだろう。


師匠との会話は面白かったし、なによりもう少し魔法のことや俺の体のことについて学びたい気持ちはあるが、それは離れる時まで全力で師匠から聞きだせばいい。


小さな決意を込めて、俺は街の門をくぐったのだった。


____________________________________________________________


街から一時間くらい歩いて場所で、俺は立ち止まり精神的疲労を回復するために木陰に座り込んだ。


「あら、自分からどうしても魔法を学びたいっていうから教えているのに、もうへばっちゃったの?」


「あのですね、誰も最初から五属性の同時発動を教えてくれとは言ってないし、無理やりここから始めさせたのは師匠ですし、五属性同時発動ってめっちゃきついんですけど!」


この訓練は正直言って辛い。


特に俺はそういう傾向にあるらしい。まさか魔法適性が皆無とは。


「あなたを作った人はあなたに何をさせたかったのかしらね。魔法適性を持つ物体なんて、私でも作れるわ。それを生命を定着させる技術を持つ人があえてしなかったなんて、どういう意図があるのかしら。」


「それは、大きな謎ですね!本当に!」


俺を作った人はよっぽど俺に魔法を使わせたくなかったらしい。


だがしかし、全く使えないわけではない。


現に三属性の魔法を同時に使うことは出来る・・・拳サイズの火と土の塊と水の玉しか生み出せないけど。


「ふん!五属性なんてすぐに発動してやりますよ!」


ヤケクソ気味に魔法を脳内に浮かべて行使する。


ボッという音を伴って今日1番の大きさの火の玉を発生させ、そのほかの属性の魔法が小さく発動したがすぐに目眩が来て魔法は消えてしまう。


地面にへなへなっと倒れ伏して、気絶に近い意識の混濁を迎える。


「あちゃー、無理やりやらないようにって言ったじゃない。そこでしばらく這いつくばって休んでなさい。それともう諦めなさい、あなたにはどうあがいても無理よ。」


「そ、んな、もう、まじかぁ。」


いじけるようにして、クラクラする頭を抱え丸くなる。


もういい、心剣があるんだ。精霊あたりを取り込めば大きな魔法に近いものだってできる!


そう思うことにして、魔法の修行をわずか1時間で諦めることになるのだった。


____________________________________________________________


疲労がある程度とれたので、また歩き始めた俺は、師匠を伴って側の森に入って魔獣を狩ることにした。


狙いはもちろん心剣の種類を増やすことだ。


ちなみに師匠に魔法を使ってもらってそれを取り込んでみたが、やはりただの魔力と認識されるのか、【無垢の剣】は姿を変えることはなかった。


なので今は魔力を全身から発して魔獣をおびき寄せている。


森に入って始めに、ざっと魔力感知をしたところ、辺りに魔獣はいないことがわかった。なので移動しつつ、魔獣に捉えられるまで待つという方針をとり、師匠との解散地点であるデーメティルの国境の関所に向かっている。


「あなたの魔力だけじゃ足りなそうだから一発でっかい魔法を使ってみる?」


「なんですかそれ、俺に魔法が使えることの自慢ですか?ん?んんん?」


「そ、そんなんじゃないわよ!本当に!だからその剣を向けるのはやめようね?嫌よ私の剣が出来上がるなんて!」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やりませんよそんなこと。」


「今考えたわよね?絶対に考えちゃったよね!?」


「先を急ぎましょう。そんなことより、他に俺の体についてわかったことはあるんですか?」


「あなた、意外と怖いところあるのね、はぁ、他に何かあるとしたらそうねぇ、子供はきちんと作れるみたいよ?」


「左腕と右腕どちらがいいですか?」


「あ、あのね!あれよ!あなたの体にはまだ魂を入れる空きがあるわよ!だからダンジョン核を見つけてもしコミュニケーションが取れるタイプだったら体に入れてみるのもありかもしれないわ!」


「・・・なんでそれを先に言わないかなぁ。」


師匠は大事なことを伝え忘れる癖があるようだ。今度から無垢の剣を向けて話すことにしよう。


「あ、来たみたいですね。」


森の奥、街道のある方向とは逆から猛烈な勢いで迫る魔力反応。


「ん?大きい?」


「戦う準備をしなさい!大物が釣れたわよ!」


「この魔力の感触は、やばいですね。」


突如として俺の索敵圏内に侵入して来た反応は、森の中を駆けているにしては速すぎる。そしてとんでもなく激しい魔力を持っているようで、心なしか鳥肌になっている程には魔力が強いようだ。


『GAOOOO!』


響き渡る咆哮。


それは若き竜の咆哮だった。


風を巻き起こし、木々をなぎ倒して滞空する姿は、そこらの魔獣などすべて喰らい尽くせると言わんばかりの威容を秘めている。


「飛竜種、それの幼生期といったところかしら。」


「この大きさでまだ子供ですか。それに子供ってことは。」


「いえ、こんなところを飛んでるくらいよ。親はとうの昔にこの国家群から抜け出していると思うわ。」


それは安心した。


竜で作った心剣。さぞかし強いんだろうなぁ。


強敵を相手にしているというのに、俺は興奮を抑えきれなかった。なぜなら俺が知る中で最強の魔法使いが隣にいて、俺は強力なスキルがあるのだ。


ここらで竜種にどれだけ対抗できるのか、試したい。


「覚悟しな。お前はもう俺の、標的なんだ。」


「かっこよく決めてるのはいいんだけど、あいつ飛竜だからね?解ってる?あなたどうやって攻撃するのよ。」










くそ!



____________________________________________________________


鋼鉄よりも硬い、白銀の鱗。


体長よりも大きいのではないかと思われる、

凶悪な棘を持つ翼。


早く飛ぶことに関して飛竜種の右に出るものはいない、そう言わしめるに足る速さに、その速さを生むための流線の造形。


咆哮でさえ、人の命を刈り取りかねない、暴力の塊。






最強種、竜。


それが今、俺と師匠によって小さくない傷を負いながら、三度目のブレスを放つ。


「下がりなさい!」


「はい!」


一瞬の掛け声で意思疎通出来るほど俺たちの連携は高い。


俺がすぐに師匠の背後に回り飛竜から完全に隠れると同時、師匠は詠唱を開始する。


『誇り高き大地よ、その庇護を我が身に与え、比類なき不落の城壁を今ここに顕現させたまえ。』


『インペリアル・ガイアウォール』


俺の知っている魔法使いの誰よりも速く、誰よりも強大な魔力を練り上げて詠唱を唱える師匠。


その師匠が作り出した、黒色の巨大な壁に竜の渾身のブレスがぶち当たる。


聴覚を失ったと思わせるほどの大音響を伴った、ある種の爆発とも言えるブレスと壁の衝突は、俺と師匠の前に展開された壁を木っ端微塵に吹き飛ばした。


そしてその余波だけで俺と師匠は数メートル後退させられる。


こんなの馬鹿げてる。


横方向に数十メートルは展開された壁。

その吹き飛ばされていない部分の厚さは、軽く見積もって5メートルはある。


そしてあれだけの魔力が込められた壁なのだ、その硬さは俺の剣では傷などつけられない程に硬いはず。


それをいとも簡単に吹き飛ばす、子供の竜。


師匠という絶対的な後衛がいなければ、戦う気すら起きないであろうもう一方の絶対的な強者に向かって、愚かに突き進む影が一つ。


そう、俺だ。


冷却期間・・・・があるなんて、舐めるのも大概にしやがれ!」


そう言い放ち、ブレスを打つために地上にしっかりと足をつけた銀竜に向かって疾走する。


戦いだしてもう1時間が経過し、それでもなお地を這う虫けらの息の根を止められない竜は、苛立ちを込めた尻尾でのなぎ払いを行う。


「おうおう、随分疲れてんじゃねーの!」


巨大な身体のあちこちには俺の剣による切り傷と、師匠による大小様々な魔法の跡が残されている。


だがそれらはあくまで表面だけの傷。そんなものに意識を向ける意味などないというように、尻尾の速度は異常なまでに速かった。


だがしかし、最初の方に比べれば幾らかは落ちているその速度であれば、今の俺でさえ躱すことは容易い。


その原因は主に三度のブレスにある。


・・・いや、ふつうに攻撃されるよりも傷つくブレスって、それどうなのよ。


そう思わせるほどに、ブレスを放った後はしばらく行動が遅くなり、強大な魔力の波長もかなり減退する。


水平に、木々を刈る一撃を、ヒョイっと飛び越えて躱す。


すばしっこい弱者すら捉えられない己の攻撃を嘆いてか、だるそうな表情をする竜。

・・・意外と表現豊かだなおい。ツッコミどころ多すぎだぞお前。


『準備完了。いけるよ。』


「あいよ!」


愛剣を納刀して、反対の手に持つ【心剣・虚喰剣(きょくけん)】の纏っている靄が一度凝縮するように刀身に集められると、次の瞬間には爆発したかのように拡散し、その姿を巨大な大剣に変える。


この戦いの中で思いついた技。

エルピスに多大な協力をしてもらい、不定形である、()()()靄で大剣を作り出すという技は、ぶっつけ本番にしてはうまく機能したようだった。


その体に比べると幾らか小さいように思われる鉤爪を備えた腕を、懐に潜り込もうとする俺に向かって振るう。


俺はその腕のなぎ払いに合わせて再度跳躍し、その腕に()()


そして振り落とされる前に一気に駆け上がる。


「そろそろ飛ばれるのはうんざりなんで、その翼、もらうぞ!」


その時俺を振り落とそうと体を動かし始める竜の耳に、高らかと響く詠唱が聴こえた。


『原初の炎、それすなわち神の(いかづち)より生み出されし、消える事なき厄災にして神々しい祝福なり。』


魔力の高鳴りを感知するのが少し遅れた竜は、凶悪な力を行使しようとする師匠に意識を向けた。


『大地が爆ぜ、木々はその身の内を焼かれ、矮小な人類に畏怖と尊敬の念を抱かせる。』


全身の鱗が明滅し、白銀の翼が大きく一度振るわれ、その反動で巨体が宙に浮く。


「ちょっと!俺乗ってるんですけど!」


竜もろとも吹き飛ばさんとする極大魔法の行使を行う師匠に向けて叫びつつ、振り落とされないように一枚の鱗にしがみつく。


そして翼のはためきに乗せられた風が無数の刃となって師匠を襲う、が。


『ギン!』


その全てが甲高い音を鳴らして、不可視の障壁に阻まれる。


いつも羽織っている外套ではなく、今着ている淡い緑のローブが、風の刃が当たるたびに強く光る。


師匠は俺の心剣に似た魔法を行使する。


【心衣の顕現】


この魔法は、あらかじめトレースしている装備を顕現させる魔法である。


悪魔との戦闘の時に使用していた剣と盾もおそらくこの魔法によるものだろう。


今顕現させているローブは、一切の魔法攻撃を障壁によって防ぐ効果を持つ。それは後衛が持てば実質無敵にも近い力だ。


そして竜の魔法を防いでいる間にも、詠唱は紡がれる。


『猛り狂う神々の槍を、いま我がこの地に再び振り掲げよう。』


『神滅の大雷槍』


完成する極大魔法。


突如として空が雲に覆われ、今なお翼をはためかせては師匠に刃を放ち続ける竜の額に雨粒が一つ落ちる。


それは豪雨。激しい風が吹き荒れて、竜の羽ばたきさえ止めてしまう。


地に落ちた竜と、一層激しくなった暴風に飛ばされないようしがみつく俺に軽い痛みすら感じる雨が降り注ぐ。





『ズドン!』





音も視界もなにもかもを途絶えさせ、静寂が訪れる。


最後に視界に捉えたのは、大樹すら細いと思わせる黒い雷。


それも同時に複数、的確に竜のみを貫いた、まさに神の一撃。


おれはすぐさま目を瞑り、視界が白く塗りつぶされるのを防いだ。


だが竜はあまりの衝撃と光に地に縫い付けられたかのようにその体を沈める。


それでもなお生命力が途絶えないのか。頭や胴体、翼にまで大穴を開けられた状態でも竜は立ち上がろうとする。しかし、か細い鳴き声を発したかと思うと、次の瞬間には地に伏して動かなくなった。


「よし、やったわね!魔法と並行して魔力を練り続けるのは大変だったけど、あなたがいてくれたおかげでなんとかなったわ!」


「そ、それは良かったです、ね。」


喜びの声を上げる師匠。

たしかに強大な敵を打ち倒した感動はある。あるのだが。






・・・この右手の大剣、どうしよ。




俺渾身の一撃も、この師匠の前には無力なんだなと、痛感した戦いであった。


この後、少ししょんぼりとした俺は無垢の剣を作り出して銀竜の力を取り込んだのだった。

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