エルは脱出を目指す
俺は今この地から出るために荒野をひたすら歩いている。ひたすら、歩いている。
師匠はというと、ケロっとした顔で元気よく俺の前を歩いている。元気よく、歩いている。
魔力の枯渇など一切ないかのように普段通りである。魔力の枯渇なんてないかのように、歩いている。
「はぁ、まさか自前の回復手段を用意してるだなんて。師匠、ここの知識ってもしかしなくても自分で集めたものですよね。」
「ええ、そうよ?普通の人間にこんなとこの調査なんてできるはずないじゃない。でも最初入った時は焦ったわね。魔法使いが魔力を回復できない、なんてさすがに笑えなかったわ。」
「それでも何とかできちゃう辺り、やっぱり師匠は普通の人間ではないんですね。」
「ふふふ、私のことはまだ、な、い、しょ!」
「・・・・・・はいはい。」
「そんなとこより、母さんって呼んでくれないのね。なんだか悲しいわ。」
「さすがにもう母さんなんて呼べないでしょう。恥ずかしすぎますよ。」
他愛ない雑談をしながら、突進してくる怪物を切り伏せて、俺達は歩いている。
ほんと、結構な数が突っ込んでくるせいで、歩みが遅くなる。もう少しおとなしくしてくれませんかね。
そう思いながらも用心は必要なわけで、心剣は解除せず常時展開している。
前の俺であればとっくに魔力が底をついていただろう。
だがしかし、俺には無尽蔵魔力吸収ができるエルピスがいる。そして吸収した魔力を貯蔵することができる体になったおかげで、俺は心剣の常時開放が可能になった。
だがやはり長時間の展開は疲れが溜まるらしく、一日の内何度か休憩を挟まざるを得ない。
そう、一日の内何度か、だ。
現在、砂漠踏破にかかっている時間は10日。
悪魔の城が薄っすらと見えるほどの距離から出発したのだから、今はまだやっと半分の地点くらいだろうと、師匠は言う。
ひっきりなしに襲ってくる怪物にイライラするのも仕方ないことだろう。
俺が寝ている間は師匠が怪物を倒し、俺が起きている間は師匠が魔力の回復に努めるというような順番を決めて歩みを進めてきたわけだが、先を見つめていても砂の海が終わることはない。
当然それだけの日数歩いていれば、腹が減る。
だが辺りには一切食べれそうなものはない。
だが現在俺の腹は満たされている。
何故かと言えば、師匠の体を一部たべて・・・いるわけではもちろんない。
「なんで、こんな貧相な怪物がおいしいんだっ。」
辺りを見渡して、怪物がいないことを確認したうえで今日の休憩地点を決めた。そして、唯一の食料である怪物を師匠の魔法で丸焼きにし、食べ始める。
そしてこの怪物だが、脂がのっているわけでもないのにとにかくおいしい。
師匠曰く、魔力化を引き起こすくらい高い魔力が肉を変質させ、この味を出しているらしい。
魔力、マジ感謝。
きっと悪魔たちはこいつらが主食なんだろうな。狩る手間を考えると少々あれだが、それを差し引くと少しうらやましい気持ちが残ってしまう。
そんなこんなで、10日目が終わる。
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11日目。怪物やっぱおいしい。
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12日目。怪物少し飽きてきた。
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13日目。怪物以外のものが食べたい。
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14日目。暇。
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15~18日目。ひまひまひまひま。
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そして迎えた19日目。
「行きますよ師匠!」
「ええ、おいしい食事と暖かい布団が私達を待っているわ!」
「俺、水を浴びたいです!もう砂が髪にまとわりついて嫌なんです!」
「一気に行くわよ!」
「はい!」
群がるように集まる怪物、靄っと君達を全力で蹴散らし、俺と師匠は全力で走る。
『世界の裏側』の境目に近づくほどに数を増やす怪物たちは、今現在目視だけでざっと100匹以上はいる。悪魔に捕食されない為に、きっと一生懸命離れたんだろう。
よっぽど悪魔たちはこの怪物たちを捕食してきたようだ。俺達が落ちた所でも割と数が少なかったのだから、きっと悪魔城の近辺は一匹もいないとみて間違いない。
切って、刺して、飛び越えてまた切ってを繰り返す俺と、バン!ドン!ズドドン!!と次々に魔法を連射する師匠。
もう何匹倒したかもわからなくなったところで、ようやっと土地と土地の境目を超えた。
怪物たちは、よっぽど自分達のテリトリーから出たくないのか、境目が近づくにつれて次々と俺達を狙うのをやめた。
襲ってこないことに安堵した俺達は、二人して地面に転がり頭上に輝く太陽を拝む。
「ああ、澄んだ空って、なんて心地いいんだろうか。」
「ええ、まったくもってその通りだわ。」
ふたりして清々しさを感じるセリフを掛け合い、無事生還できたことに喜びを感じる。
あんなところに落とした悪魔を、俺は絶対に許さん。
打倒ジャジャース、ジュージュを心の中で掲げたところで、太陽を遮る何かが俺の顔を覗き込む。
『ウモォォォォ』
間の抜けた鳴き声を上げる牛が、俺の顔の上で唾液を振りまく。
「汚い!てめぇ、おいしくいただいてやろうか、あん?」
積み重なったイライラが無実の牛に注がれる。
「野生の牛なんて珍しい。さっさと殺って、おいしく頂きましょう。大丈夫、命、感謝、忘れない。」
『ウモッゥ!?』
向けられた捕食者の目を見て恐怖に駆られた牛は一目散に逃げだした。
「追いかけるのは、めんどくさい。」
「そうね、さすがに私ももうそれは嫌だわ。」
とにかく、今は無事に帰還したことを喜ぶとしよう。
「ここは、どこなんですかね。」
「ちょっと飛んでどこかに街とかがないか見てくるわね。」
そう言って師匠は何事かを呟くと、ふわりと浮き上がり上空へと高度を上げていく。そしてぐるっと当たりを見回して、ある方向で止まるとそのままふわりと落下してきた。
「ここから少し行った先に大きな街があったわ。さすがに今回は私も変装して街に入ろうかしら。水浴びと食事がしたい、切実に。」
「ええ、そうしましょう。じゃ、ちょっとしたら行きましょうか。結界お願いします。」
「ええ、任せて。今なら魔力も無限大よ!」
無限大かはともかく、師匠は今なら結界を張って安全を確保し続けることも容易い。
ササっと詠唱を済ませて結界を張ると、懐かしの魔法を木々に向かって放つ。
『地を這う蔦、重なる枯葉、大空に手を伸ばす木々よ。我が命ずる、想像のままに形を成せ。』
そう、師匠特製ハンモックだ。早速体をハンモックの上に載せてひと眠りすることにした。
そして俺達二人は砂の地面から解放された安堵から熟睡をかまし、起きたのが次の日の朝だったことに驚愕するのだった。
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「いやー、気持ちよかったぁ。水っていうのは偉大ね。」
「魔法で作り出した水よりも、なぜか気持ちよさが違いますよね。」
「まさに母なる恵みね。」
俺達は街に着き宿をとった。そしてそこの井戸を使わせてもらい、体の汚れを洗い落したところだ。
ここは農業の街、デーメティル王国。
国土の10分の7を畑に使っている、この大陸一の農業大国だ。国境の西と北西の大部分が『世界の裏側』と接していて、北東、東、南東を神帝国グリムローズが、南と南西をアリシアランス帝国がそれぞれ接している。
地理的にはアリシアランス帝国の下に神王国ライトケーンがあるので、ターニャやエルサさんの元に戻るのはアリシアランスを横断する必要がある。
しかし、ずっと戻ることを考えていたが、今は少し状況が違う。
それはアリアさんのことだ。
ダンさんに頼まれていたことを解決し、アリアさんを旅へと連れ出す為には、今、帝都へ向かった方が良い。そして、それならあの二人も帝都までくればいいんじゃないかと思いついた。
そのためにはまず、帝都まできてもらう旨を手紙で知らせなければならない。
あの二人ならきっと俺の行動を予測してウィスタンシアに一度戻るはず。俺達が出会った街に俺が戻ると考えるはずだからだ。もちろん俺もウィスタンシアに戻ろうと思っていた。
考えついたら即行動。
師匠に手紙を買ってくることを伝えて俺は街へと繰り出す。
きっと一枚では届かないだろうから、数枚送る必要がある。幸いにも少しばかりのお金は服の中に仕込んであるので、手紙を買う分には困らない。
なかなか雑貨屋が見つけられなかったが、しっかりと手紙を買うことができ、宿に戻ったのが夕方となった。
宿に入ってみれば師匠は一階の食堂で食事をしており、酒も入ってかなり上機嫌のようだ。
「お。おかえりぃ~。愛しの女の子たちへの手紙はきちんと買えたのか~い?」
「師匠ってお酒弱いんですね。そんなところに師匠とのつながりがあったとは。」
「あなたもはやく飲みなさいよぉ。」
進められるまま、一杯注文し、あまりお金がないことに気づく。
「師匠、おれお金ないんであんまり飲めないですからね。」
「ふふふ、私はね、こんなこともあろうかと、しっっっかり、おかねおためてきたんらから!」
持っているグラスの中身を一気に飲み干し、呂律が回っていない状態でそう言った師匠はどん!と、どこからかお金の入った袋を取り出し、机の上にぶちまけた。
「こえれも、まら10分の1もないんらから!きょうはわたしの、おのおごりらぁ!!!」
「「「おおおおお!!!」」」
そう言ってまた師匠は酒の注文をする。
仕方ないので荷物を部屋に置き、騒ぎまくる師匠に付き合って俺もお酒を飲むことにした。
今後の方針は、明日の朝話そうと思う。
ちなみに、俺は酔いつぶれ、次の日の朝起きると、屈強な男たちが顔や体にあざを作ってあちこちに横たわり、机やらテーブルやらが数個壊れた状態だった。
・・・・・・またやっちゃった?
そして師匠は気持ちよさそうにカウンターに体を預けて寝ていたのだった。




