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エルは掴む、果ての世界  作者: 必殺脇汗太郎
第一章 始まりの街編
20/50

エルは病み上がりでボコられる

魔力運用について、ハッキリ言ってザルな設定なので、おかしいなぁと思ったら最新話の仕組みが正しいものだと思いながら読んでください。


なるべく、統一した仕組みにしますけど。

「・・・ん、ここは。」


「起きたのねエル君。」


「起きたです!すっごく心配したです!」


目覚めると、いつも寝泊まりしている宿屋の天井が視界に映る。

そして声を発した瞬間に二人が声をかけ、ターニャに至っては上に飛びついてきた。

こんなに心配するとは、俺はどれだけ寝ていたのだろうか。


「ダグラスさんが助けてくれたところまでは記憶にあるんだが、俺はどれくらい寝ていた?」


「それほどでもないわよ。大体、5時間くらいかしら。」


「だけどエルさん、体がすっごく冷たくなって、顔も青白くなってたです。今も顔はそのままなのです。だから私はすっごく心配だったです。」


「かなりの出血量だったわね。いきなり血を噴き出して倒れるんですもの、みんな大慌てでエル君に駆け寄ったわ。」


そうだったのか。戦ってる間は無理くり止血していたが、安堵とともにそれが解かれたって感じか。

通りで体を起こすとふらふらするはずだ。もう少し横になっていた方がいいのかもしれないな。


「まだ立てるほど回復していないでしょうから、ご飯はここまで運ぶようにして貰う?みんな下で待ってるから伝えてくるわよ。」


「みんな?」


「ええ。と言っても女将さんとダグラスさんとアルベルトさんの三人なんだけどね。みんなエルが心配で仕事が手につかないって感じなの。ダグラスさんなんてギルドにことの詳細を話さないといけないのに、事件は解決した、エルの付き添いをしてから報告するって言ってギルドの職員を追い払ったのよ。怖いもの無しっていうか、どれだけエルが心配なのかしらって感じよ。」


「みんなには迷惑かけたな。」


「そうでもないわ。エル君があの怪物を一人で請け負ってくれたからこそ怪我らしい怪我は特にないし、他の人達はただの心配性なだけだから。」


「そうか、そう言ってもらえるとありがたいよ。この傷はどうやって治療したんだ?結構な深さだと思ったんだが。」


「それはダグラスさんが咄嗟に最高級の回復薬を使ったのよ。私初めて見たわ、『万能薬』なんて。」


「・・・ダグラスさんのことだ、後々請求って言いながらめんどくさい依頼をまわしてきそうだな。」


「はは、それはそうかもね。でもあの人がいなければ私たち全員、あの場で塵に変わっていたかもしれないから、いざとなったら私たち三人でその依頼を引き受けなきゃね。」


「私もがんばるです!」


とりあえず現状は把握できた。まだ少し体調がすぐれないので休むことにした。

2人にはもう大丈夫だから、そちらも休んでくれと言うと、2人とも了承してくれた。

そしてエルサさんは下に、俺が起きたこととまだ少し休むということを伝えにいき、ターニャは当たり前のように俺の布団に潜り込んで抱き着いて寝始めた。というかもう熟睡だ。


ターニャの行動に呆れながらも、どこかかわいらしくも感じ、微笑む顔を枕に押し付けて眠りに入ることにした。


____________________________________________________________


「・・・ターニャ、いつまで寝てるんだ。」


「・・・んん、今おきた、です・・・。」


再度睡眠を取ったことによって、貧血でふらつくことを除けば体調は万全だろう。

寝ぼけるターニャの手を引きながらって、あれ、どうして俺が介護してんだ。

まぁそれは置いといて、ターニャを連れて下に降りていく。


「坊や、やっと起きたのかい。ご飯を運ぼうと思ったけど、下で食べるかい?」


「ええ、そうします。」


「はいよ、いま盛り付けて運ぶからね。」


「おいおい、女将さんエルの無事が嬉しいからって随分しおらしいじゃないか。」


「わかったよ、そんなに言うならあんたの飯は無しだからねアルベルト。」


「わ、悪かったよ、え、本当じゃないよね?あるよね俺のも!」


「うるさい。大体さっきエルサちゃんが教えてくれるまでせわしなく動き回ってたのはどこのどいつだい。」


「はは、そんなやつ知らないなぁ。」


まったく、女将さんとアルベルトさんは素直じゃないな。心配させた張本人の俺が言うことではないんだが。


「エル、よくやったな。お前らがあの怪物の足止めをしてくれたおかげで、あいつが外に出て街を襲ったりすることが無かったんだ。それにあと一歩まで追い込んでくれたおかげでとどめが刺しやすかった。感謝する、ギルドからも褒賞が多めに出るそうだぞ。」


「ダグラスさんが最後来てくれなかったら、俺達全員が死んでいたところでした。こちらこそ、助けていただいてありがとうございます。」


「ほらほら、しけた面してないで、さっさと全員飯食いな!今日は宴会だ!さすがに今日は坊やはお酒禁止だけどね!」


そういって女将さんたちがぞろぞろと料理を運ぶ。

いつも通りの宴会が始まり、みんながどんちゃん騒ぎしている中、なぜダグラスさんがあの場に来たのか聞いてみた。


エルサさんとターニャはすでに話してあるそうで、ことの始まりから順に教えてもらった。


まず、依頼が張り出され、俺たちがダンジョンに向かってる間、俺達とは違うルートであの巨大芋虫が街の近くまで来ていたらしい。かなり寄り道していたらしく、発見されたのは依頼が張り出された日の夕暮れだったらしい。


一日かけて準備をしていた者たちや街に残っていたダグラスさんはあの巨大芋虫を駆除するために戦い、かなり手間取ったそうだ。結局駆逐することはできずに、負傷者が多数出たためダグラスさんは逃げていくそいつを追いかけることはできなかったそうだ。


そうして夜が明けてから、巨大芋虫の痕跡を辿り、曲がりくねったその跡がこのダンジョンにたどり着いたのだという。


後はもう、俺達を発見し、崩れかけながら暴走していた怪物にとどめをさして終了という流れだ。


ダグラスさんがボロボロな上に急に血を噴き出して倒れた俺を見てぎょっとしたらしい。

普段態度と体がでかいダグラスさんが驚いた姿を観れなかったのは残念だが、いまそれを言うと万能薬なるものの請求がきそうなので黙っておいた。


「それにしても、あの怪物と芋虫の関係は何だったんですかね。」


「それに関しても結論が出ている。あの怪物、俺が見たときはすでに無かったんだが、蝶らしき羽根がついていたんだろう?」


「ええ、そうですね。まさかあの芋虫が羽化した姿だっていうんですか?」


「いや、そんなおかしな話でもない。このダンジョンに足を踏み込んだ時、小さいやつとバカでかい芋虫がいただろう?あいつらは異様に柔らかかったよな?」


「足で踏みつぶせるくらいには柔かったですね。あの巨大芋虫も柔いんじゃないんですか?」


「いや、巨大芋虫は結構硬かった、俺の攻撃も弱いのだと跳ね返してたしな。おそらくあの形態はさなぎなんだろう。エルサ達も巨大芋虫の死骸は表面が鱗に覆われていて硬かったと言ってたし、あの怪物の羽化した後の抜け殻だったんじゃないかと思っている。起き抜けに同族喰いを繰り返していたと思うとよほど腹ペコだったんだろうな。おまえらよく食べられなかったな。」


「ダンジョンではああいった生体の魔物が主流なんですか?」


「そんなわけあるか。あれはおそらく普通の蝶の芋虫にダンジョンの核が寄生してああいう魔物として作り変えたんだろう。ダンジョンの発生としてはよくある法則だが、さすがにさなぎ状態であれほど強い魔物が簡単に地上に出たりはしない。それに大抵はダンジョンの核が魔物を生み出す。だから核に知近づけば近づくほど魔物の強さはあがるんだ。あれはイレギュラー中のイレギュラーだろう。」


ダグラスさんはここで一息つくと、お酒をグイっと一気飲みして、話を続ける。


「被害らしい被害はお前とさなぎ退治に出て負傷を負った者たちだけだ。それよりもだ。怪物と対峙して良く生きていられたな。エルサが言うには、あの怪物は遊んでいるようだったらしいが、さすがにさなぎであれだけの強さだ。その成長体と戦って、遊んでいたにしても、おまえが死なずにすんだこと自体ありえない話なんだ。本当によくやったな。お前がどんどん強くなっていて、俺も少し嬉しいぞ。」


そう言って鼻の下を人差し指で擦り、照れ隠しをするダグラスさんは、本当に俺の成長を喜んでくれているようで、なんだかこちらも嬉しくなった。


どんちゃん騒ぎも時間が経てばだんだんと落ち着いてくる。

ターニャは先に寝て、兵士の人たちもみなそれぞれの家に帰っていった。

今は、ダグラスさん、エルサさん、アルベルトさんと俺を合わせた四人。

そこに加えて女将さんが珍しくテーブルに着き、お店の片付けを従業員の方々が行っていた。


「エル、いよいよ明後日出発だねぇ。」


「そうだな、しばらく会えなくなるが、たまには帰って来いよ?」


「はい、ここは本来の予定より長く居ました。そのおかげでみなさんと仲良くなれたし、離れがたい気持ちがありますね。全国を回るのでひょっとするとふらっと寄ったりするかもしれないですから、その時は暖かく迎えてください。」


「ああ、まってるよ。」


「みなさん、何しんみりしちゃってるんですか!あと一日あるんですし、別れの言葉はやめにしましょう。最後の一杯グイってやって笑って今日を終えましょうよ!」


「そうしましょう、女将さんもどうせなら一杯いかがです?」


「そうだねぇ、最後の一杯だけだよ?店が片付かないんだから、飲み終わったらささっと出て行きなね!」


「「「ははは!」」」


「いつもの女将さんに戻ってくれてうれしいですよ。それじゃ、飲み物も来たことだし、カンパーイ!」


「「「乾杯!!」」」


お世話になった人たちと最後の思い出を作れた。

これで安心して旅に出られるというものだ。


____________________________________________________________


「おはようございます。」


「うむ、よく来たな。どれ、最後にお前に教えることがある。来なさい。」


「は、はい?」


ウィスタンシア最終日、俺は皆に午前中は知人にお別れの挨拶をするように伝え、自身もそうすることにしていた。


だからダンさんの元を訪れたわけだが、会って早々にこう切り出された。

後ろをついていく間、ダンさんのいつもの軽口は鳴りを潜め、終始無言だった。


ダンさんはいつも領主館の一部屋を借りて生活している。今日はここに出向いたわけだが、ダンさんは部屋を出て通路をすたすたと歩いていく。そうして一つの大きな扉に着くと、そのまま開けて中に入れと促してきた。


そうして中を見てみれば、テーブルとソファしかなく、窓すらもなかった。


「ここは?」


「極秘の話をする際に、盗聴対策の施された部屋が必要じゃろう?それがここじゃ。」


そういって閉じた扉のドアノブを触り魔力を流す。そうすると扉の材質が変わり、つなぎ目などが次々と塞がり、やがて完全な密室となる。


「どうじゃ、驚いたろう?」


「驚きより先に、今からどんなことをされるかの心配がよぎるあたり、ダンさんとの関係が心配になりましたよ。」


「ふむ、今日はいつもの悪ふざけに付き合ってあげられんでの。そこに座れ。」


「はぁ、いつものやりとりは、あなたの暴力が原因だとばかり思っていました。それで一体何の話なんですか?」


「それはの、アリアの話じゃ。」


「アリアさん、ですか?」


そう聞くと、ダンさんの口から思いがけない話が飛び出てきた。


――――――――――――――――――


―――――――――――――――


――――――――――――


―――――――――


――――――


―――


「・・・それで、俺にどうしろと?」


「すまん、アリアを、救って・・・やってほしい。」


とんでもない話に、そんなお願いまでされて、普通だったら断るに決まってるだろ。



「ええ、そのつもりでしたよ。」


気づけば俺の口は勝手にそう口にしてしまっていた。


「恩に着る・・・。わしではどうすることも、できなかったのだっ!。」


こうして、ダンさんからの緊急依頼を引き受ける形となった俺は、憤りと不安で押しつぶされそうになるのだった。

____________________________________________________________


「突然重い話をしてしまって悪かった。お詫びというにはあれじゃが、お前に剣術のことについて教えていなかったことがある。訓練所にいくとしようかの。」


「大丈夫ですよ、何とかします。それじゃあ行きましょうか。」


領主館を出て、訓練場に向かう。

道中、ダンさんがいろいろな人と挨拶を交わしているのを見て、改めてダンさんは有名人なんだということがわかる。


そんなところに感心しながら、俺とダンさんは訓練場に着いた。


「よし、剣を構えよ。お前には見極めを集中的に教えた。それはお前の剣が速さと一撃の鋭さを重視したスタイルだからじゃ。わしと同じようなその立ち回り、いまのままでは決定打にかけるとは思わんか?」


「はい。確かに鋭い一撃を放つには溜めが必要ですし、それだと対人戦でかなりの不利なのも理解しています。」


「そこでじゃ、おまえに今からわしのある技を受けてもらう。それを見て、覚えよ。これはこうしたらこうできるというような指導はできん。お前の目と、センスによって身に着けられるものじゃ。過度な期待はするな。無理だと思ったら別の道を探すのもよい。では、どこからでもかかってきなさい。」


「そこは実戦形式なんですね。わかりました、・・・行きます!」


剣を正面に構え、そこから一歩踏み込み渾身の振り下ろしを仕掛ける。

もちろんダンさんなら簡単に躱すだろう。なので素早く逆袈裟に繋げるつもりだった。


しかし、ダンさんは正面に構えた状態から、一切動きがない。


俺の斬撃が当たるその瞬間に、ダンさんの体がぶれて、次の瞬間には俺の後ろに回っていた。


そして、後から腹が急激に熱くなり、切られたことを察する。


「かはっ!!!」


「峰打ちじゃ。今のをしっかりと覚えておくがいい。」


「ゲホ、ゲホ、・・・はい、なんとか見えました。」


「うむ、お前はいい目をもっておるのう。ほれ、もう今日はよい、お前の実力はまだまだじゃ、今度帰ってくるときはせめてわしと打ち合えるようになっておれよ。」


「わかりましたよ。歩けないくらいぼこぼこにしてやりますよ。」


「ほう、老人に向かって暴力宣言とは、とんだ弟子がいたもんだのう。」


「あなたに言われるとは、今から雨でも降るんですかね。」


そんなやり取りをして、別れの挨拶が終わる。

次会うときは絶対に勝ってやる。


____________________________________________________________


午後はこれまで通り、複数の依頼をこなし、最後の調整をする。


「2人とも、連携に不自由はないか?」


「んー、三人の連携に問題はないわね。けど、やっぱり遊撃特化か回復役が欲しいわね。それに三人だと二手に分かれたときに片方が独りになってしまうのは痛いわ。」


「ターニャはもう少し、弾いたり防ぐ技術を学びたいです。体で受けてばかりだとこの前みたいな怪物の攻撃ですぐにやられちゃうです。」


エルサの言うことは俺も感じていた。旅先でいい相手を見つけられればってところだな。ターニャは連携には関係ないが大きな問題でもあるよな、俺は躱す技術があるからいいけどターニャはそれができないからな、どうしたものか。」


「とりあえず、両手に手斧もってみるです。これで少しは機動力が上がるはずです。」


「わかった、そしたらもう少し魔獣相手に戦闘訓練だな。」


それから日が落ちるまでひたすら戦い続けた。

ターニャの手斧は戦斧と比べ威力が落ちるが、その代わり手数が増えたことで相手の攻撃機会を減らしていて、なかなか良かった。これなら相手に合わせて戦闘スタイルを変えることができる。


ターニャがどんどんと強くなっていく。エルサさんは安定した魔法と、それに加えて蹴りの攻撃力が加わり、とてもいい中衛兼後衛となっている。


俺は、魔体以外にあまり取り柄がなく、剣術は多少上達しているだろうが、このままだと格上相手に毎度毎度重傷を負うはめになる。

くそ、少しずつ焦りが積み重なって、自然と剣を振るう手に力が入る。


そんなことを考えていると、俺はいつの間にか、今戦っているトレント達に一人で突っ込みすぎていた。瞬時に囲まれ、四体のトレントに滅多打ちにされる。


くっそ、周囲から次々と枝の腕が襲い掛かってくる。一本一本が俺の体に強かに打ち付けられ、躱しても躱しても違う方向から枝が当たる。


「なにやってんのよ!」


そういって一体のトレントにエルサさんが蹴りを放つ。俺を集中攻撃していたことによって無防備になった背中はもろに蹴りが当たり、木でできた胴体が派手に吹き飛ぶ。


俺は他のトレントの攻撃を躱し、防ぎ、胴体を吹き飛ばされた個体の側から包囲網を突破した。


「すまない!気を付ける!」


「当たり前よ!まったく!」


「私が行くです!」


そういってターニャが手斧二つを器用に振り回しながらトレント達の枝を切り裂いていく。

あの子は戦闘勘が良く、一撃一撃が的確に振るわれるおかげで攻撃の遅さをカバーしている。


「私が一気に吹き飛ばすから、エル君もターニャと一緒に足止めを!」


「わかった!」


すぐさま飛び出て、加勢する。やはり二人で分担すると手数の多いトレントでもしっかりと対応ができる。ほどなくして、後ろから感じていた魔力の高まりが最高潮で止まり、詠唱が始まる。


「ターニャ、でかいのを一発かましてくれ!離れるぞ!」


「はいなのです!」


ターニャが手斧二つの柄の先を合わせ、かちりと嵌める。そうして魔力を流すと柄が伸び、刃の部分も一回り大きくなった。

それを豪快に振り回し、二体のトレントに遠心力で威力を高めた一撃をそれぞれに放つ。

枝で防ごうとした二体はその枝ごと叩き切られ、その胴体に深く傷をつける。


俺はというとダンさんの見せてくれた技を習得するために考え付いたことを実践に移そうとしていた。

まず枝の攻撃をすべて把握する。これはダンさんの攻撃を見切るより簡単だ。

そして次に、相手の枝と目が重なる攻撃のタイミングで無理やり体を前に進める。

多少の枝の攻撃が当たるが、今はいい。完全に二体の間に入った時、回転切りを放つ。

捻りを加えたことにより二体の胴体にそれなりの傷をつけ、足を止めさせる。


くそ、やってることは変わらないのに、なんであんなにダンさんは威力が出るんだ。


とりあえずそのまま走り抜け、最前線を戦線を離脱する。


『火よ、命ずる、太陽のように、燃え盛る炎になりて、ここにいるすべての生命に平等の死を与えよ』


何もない空間、トレント四体の丁度中央に、魔力が一気に圧縮される。

魔力が極限まで圧縮され目に可視化され、次の瞬間一気に爆発した。


ちょ、おい、威力強すぎないか!


いそいで距離を取るが、熱波によって吹き飛ばされ地面を転がる。


「いてぇ、病み上がりになんてことしやがるんだ。」


「ふん、心配させた罰よ。少しは目が覚めたかしら?」


「・・・・悔しいが、なんも言えないな。すまない、きちんと切り替えるよ。」


「なに考えてるか知らないけど、こんなことでもう二度と危ない目に合わないで。次やったらエル君ごと燃やすわよ。」


「エルサさんは怒ると怖いです。私はもう二度とエルサさんを怒らせないです。」


エルサさんに怒られた。そりゃそうだ。全面的に俺が悪い。


危ない場面ではあったが、なんとか最後の戦闘を終え、俺たちは帰路に着く。

ウェスタンシア最後の一日がこれで終了した。


____________________________________________________________


街について、最後の人物に報告を兼ねて別れの挨拶をしに行く。


「やあエル君くん。大変だったんだって?見舞いに行けなくてごめんなさい。」


「いいんですよ、アリシアさんには仕事がありますからね!それより、ギルドの報告と一緒に別れの挨拶をと思って。それで、今夜みんなで飲みませんか?」


「いいわね!たまには早上がりしても許されるくらいには仕事してきたと思うし、どこでやるの?」


「銀の熊亭です。よかったアリシアさんが来てくれて。」


「あーあそこね、兵士と冒険者ばっかりで入りづらかったのよね。ふふふ、そう言ってくれるとありがたいわ。楽しみにしているわね。」


そうしてこの夜、盛大に飲んで出来上がたアリシアさんが俺にひたすら愚痴をまき散らし、泥酔して眠りこんでエルサさんに担がれて家に帰されるという最高の思い出を俺にプレゼントしてくれた。


本当に優しくしてくれて、こんなに良くしてくれて、アリシアさんには頭が上がらない。






最後の日を終えて、いよいよ明日は旅立ちの日だ。



目指すは神王国ライトケーン。この世界で唯一、異世界から『英雄』ケーンなる人を召喚したとされる、聖地とされる場所だ。

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