エルは対峙する
さて、もう一度ダンジョンに挑むために梯子を降りた。
この梯子、登り降りに関しては問題ないのだが、結構時間を食う。もう少し何とかならないものかと思いつつも、今すぐにどうこうなる問題ではないので言っても仕方ない。
そういえば昨日帰ってくる道が少し広がったかなと思っていたが、まさかあの巨大芋虫が通った後だったりするのか?
そう考えると外でどれだけの飯を食べればさらに太くなれるのかが疑問として挙がってくる。それは今考えても仕方ないか、街にはダグラスさんがいるし、そっちは大丈夫だろう。
とりあえずはパッと見であの巨大芋虫が通ったとわかる大きな道を進むとする。
が、すぐに俺たちは問題に直面した。通路には大量の割れた卵と、元気に動き回る小さい芋虫たちがいたのだ。
「これ、どう考えてもエルが言ってた巨大芋虫が生んだ子たちよね?」
「まーそうだよな。」
「てことは昨日戦ってた芋虫の親でもあるってことだよね。」
「まーそうなるな。」
「てことは地下から地上に上がるためだけにこのダンジョンができたってこと?その途中にあの芋虫たちが生まれたってことよね?この亀裂、発生してからすぐに発見されたそうじゃない、この子供サイズからおっきくなるの、早すぎないかしら。」
「はー、そうだよなぁ。てことはこいつら駆除しないと最悪あの巨大芋虫大発生てことになりかねないよなぁ。」
「嫌です。」
「ターニャ、その気持ちはわか・・・」
「嫌です。」
「だからそこをなん・・・」
「嫌です。全部つぶしてまわるってことぐらいわかるです。ターニャはあのうねうねが気持ち悪いです。嫌なのです!」
「・・・はぁ、エルサさん、しかたない、俺達で潰して回ろう。」
そういうことなので、俺が剣で、エルサさんは爆撃蹴りで虱潰ししていくことにした。
あらかた潰しおえ、先に進もうとするも、定期的に、もっと言えば下層にたどり着くたびに生んでいるぽい。そのため、いちいち潰して回らなければならず。3層についてその作業を終えるころには、正直言って俺とエルサさんは精神的に疲れてしまった。
しかたないじゃないか。芋虫たちが俺達から逃げるようにいろいろな方向に逃げるし、潰す間際には気持ち悪い奇声をあげるんだ。さすがに参ってしまった。
「ねぇ、ギルドに報告して、あのボスを討伐するしかないんじゃない?こんなのやってたら旨味もないし疲れるだけじゃない。」
「それはそうなんだが、あいつがどこまでいって今何をしているのか見ないといけない気がするんだ、なんとなく嫌な予感がしてしかたない。」
「はぁ、エル君がそうしたいっていうなら止めないけど、危うくなったら即撤退だからね。」
「わかったよ。それにしても他の冒険者が見当たらないな。俺達がいくら割と早めに来たといっても一日経ったんだ。そろそろ遭遇してもおかしくないと思わないか?」
そう、まったくと言っていいほど今日は誰とも会っていない。ここまでダンジョンに人がいないのは、さすがに俺でもおかしいとわかる。
不安が高まる中、俺達は足を進める。この時引き帰していれば、この後後悔することも無かっただろう。俺達パーティーの初の苦戦がこの後待ち受けているも知らずに、不安の正体を確かめようと、俺ははやる気持ちを抑えれずに足早に歩を進めてしまう。
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今俺達はだいぶ深くまで潜り、現在五層まで来た。
五層は、これまでと違い、馬鹿みたいに広い空間となっていて、なぜか不気味な大木の森が眼前に広がっていた。
不気味な大木。
その形は通常の生い茂る一本の木が逆さまになり、空中にむかって根を伸ばしていた。そこに風も吹いていないのにうねうねと動いている根の光景を想像してもらえば、まさしく今、眼前に聳え立っているものの姿だと言えるだろう。
ターニャなんてあのうねうねを見て芋虫を連想し、無駄に怖がっている。
「ターニャすまないが、そろそろ戦闘の態勢に切り替えてくれ。やばい気配がする。この森の奥から巨大な魔力の波長がばんばん流れてくる。」
「はいなのですぅ。」
「ほらターニャ、お姉さんが後ろについてるわ。一緒に頑張りましょう?」
「うう、エルサさん大好きなのですぅ。」
「うん、よしよし。お姉さんが守ってあげるからねー。」
「まー芋虫に力負けするのはエルサさんのほうなんだけどな。」
「エル君、丸焼きと感電死どっちが・・・」
「さ!みなさん、早く行きましょう。敵の気配がぶんぶんしますよ!」
雑談を挟みつつ、森に入っていく。
すると木々を避けるようにして至る所に引きずった跡があるのがわかった。
おいおい、この量、あの一匹だけで付けられる量じゃなくないか?
そうしている内、風景に変化が訪れる。
木々がまばらになり、前方に不自然に土が盛り上がっているのが見えてきたのだ。しかもその盛り上がり、かなり広範囲に渡っていて、そうとう大きなサイズである。
よくよく考えれば、この地下空間自体、街一つがすっぽりと入るくらい大きいと思われる。
そして、その盛り上がりには明らかにいろいろな方向に何かが登っていった跡がある。
あれを登った先にあの巨大芋虫がいると思って間違いないだろうか。
「よし、2人ともあの土の盛り上がりを登ってどうなっているか確認したら、情報を渡しに帰ろう。」
「わかったわ。明らかに危険な匂いがするのに。エルはほんとお人よしね、ダグラスさんのが移ったんじゃない?」
「そうかもな。・・・とにかく、先を急ごう。」
ひとつ気になることがある。この森には一切芋虫が見当たらない。不自然なくらいに一匹も見当たらない。
やばいと感じながらも、盛り上がり、いや土手と言ったほうが正しいか。とにかく、土手は簡単に登れるほどしっかりした硬さがあり、着々と先に進むことができた。
そして頂上までたどり着くと、この土手が円形に形成され、真ん中がくぼみになっていることが確認できた。
そしてそのくぼみには、一つの台座と、その上に乗っかる真っ赤な宝玉、そしてあの巨大芋虫ほどではないがそれなりに大きい死骸が多数と、それを貪り食う、一匹の羽の生えた人型の
魔物がいた。
「あれ、こっち見てない?」
そうエルサさんがつぶやくと同時に、土手が蠢き、俺達をくぼみに誘うように、流砂のごとく流れだした。
「やばい、この土手はあいつの魔法だ!強大な魔力の波長はこの土手を維持する為のものか!」
そう気づいた時には、すでに流砂に足を取られ、碌に身動きができない状態になってしまった。
流されに抗いつつ、各々武器を構え、転倒しないようにしながら土手を降りきるまで耐えた。
その間中央で食事をしていた魔物は一歩も動かず、じっとその眼差しをこちらに向けていた。
やがて下までたどり着くと流砂は動きを止めた。
くぼみ側から改めてみると、登れないほどではないがきつい斜面になっていて、明らかにこの土手が外敵を内側に閉じ込めるものだったことがわかる。
そこら中に芋虫の残骸が転がり、体液が地面に染みて乾いたような跡が散乱する。
そして、驚きに溢れた今日一日で、一番の驚きに見舞われる。
「やあ、ようこそ。私のお家へ遊びに来たのね。」
あなたたちもしっかりと食べてあげる。
気負いもなく、軽く友達に話すかのようにそう告げて、その魔物は蝶の羽らしきものを広げるとふわりと浮かび上がり、直後高速でこちらに迫ってくる。
「戦うぞ!武器を抜け!」
言い終わるのと蝶人間が俺にその恐ろしい鉤爪を振り下ろすのとがほぼ同時だった。
剣を合わせて防ごうとするも、あっけなく吹き飛ばされ地面を転がる。
やばい、あれはダグラスさんと同じくらいの力がある。すぐさま仲間のもとに駆けだそうとするも、二人に見向きもせず、魔物は俺を狙ってきていた。
眼前に鉤爪が迫る。とっさに横っ飛びで転がり、跳ね起きて反撃する。
俺が放った水平切りに、その鱗で覆われた足で合わせてきた。一瞬の拮抗、鍔迫り合い状態。されど膂力はあちらの方が上、魔物が足にもう一度力を籠めて動かすと、俺は上体を反らされた。
完全に腹ががら空きになり、剣越しに魔物と目が合う。ニヤァとした笑みを絶やさない魔物は、その笑みをより深くして、腹めがけて三度目の鉤爪攻撃を仕掛ける。
『スキル発動・トリプルフィジカル・フィジカルブースト・ドワーフの血統』
『ドワーフの神よ、大地の恩恵を我が獲物に』
その詠唱が聞こえていた俺は、助けが来ることが分かっていた。だから防ごうとはせずに上体が反らされたのを利用し連続バク転でその場を離脱する。
そして俺が逃れたと同時、ターニャが斧を振るい、大質量の一撃が蝶人間に直撃する。
魔物は本当に俺しか気にかけていなかったのか、簡単にターニャの一撃を食らい、土手まで吹っ飛ばされる。
「ぜんぜん手ごたえがないです。手がじんじん痺れます。あれ、やばいくらい硬いです。」
緊迫した表情のターニャが言った後、土煙が晴れて魔物の姿を見ると、確かに傷らしいものはなく、ただ土で汚れがついているだけだった。
「あらあら、私はその子の香りが気に入ってるのよ?邪魔しないでもらえるかしら。それとも先に、殺される?」
『我が命じる、魔力を代価に、炎を顕現し、落雷のごとく振りそそげ』
『炎雷の一矢』
魔物が話している間に今度はエルサさんの魔法が魔物を襲う。
先程よりも派手な土煙を上げ、魔物は炎に焼かれ、雷に打たれる。
しかし
依然として、そこには無傷の魔物が立っていた。
「そっちの子も死にたいのね?いいわ、その気持ちに答えてあげる。」
『الانتقال بي كين.』
聞いたことがない言語を魔物が呟くと、そこら中に転がっている大小さまざまな芋虫の死骸が一斉に動き出す。
「ターニャ、こっちはいい!エルサと一緒に行動してあの死骸どもと戦ってくれ!エルサ一人じゃこの量は無理だ!」
「でもエルさんが!・・・くぅー、はいなのです!」
とっさにエルサさんを呼び捨てにしてしまったが、今は仕方ない。ターニャもなんとか事態を飲み込んでくれたようで、エルサさんの元へ走っていく。
「あらあら、いいのぉ?あの二人死んじゃうわよ?」
「おまえに心配されるほどあの二人は弱くないよ。むしろお前と戦っている俺の方が弱いくらいだぜ?」
「あら、それはそれは。でも好都合だわ。これであなたの香りを楽しむことが出来そう。その暖かい血の香りをね?」
そうして、再度俺と魔物の戦い始まる。
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激しく出鱈目な鉤爪と蹴りの応酬に、俺は防戦一方になってしまった。
「よく流していられるわね。全力で力を込めているはずなのだけれど?」
「お前の、攻撃なんて、あの鬼に比べれば単純であくびがでるんだよ!!」
「ふふ、ほらほらほら、しゃべってないで、手を動かさないと、ほら、この通りよ?」
しまった、いつの間にか足元み這い寄って、小さい芋虫が纏わりついてしまった。
強い力でかまれ、一瞬怯む。その隙を逃すはずもなく、鉤爪が俺の肩口から体を掻っ捌く。
鮮やかな鮮血が噴き出て、たまらず後方に飛び距離をとる。
「エルさん!今回復・・・」
「くるな、そっちに集中しろ!!!」
あちらはあちらで、切っても潰しても燃やしても吹き飛ばしても、少しでも動く部分があれば2人に這い寄りまた攻撃に加勢する。おそらくあれはゾンビ、あの挙動はあきらかに生者のものではない。
大きな傷はないが、明らかに体力を消耗している。それはそのはず。あの大量の個体一つ一つを動けなくなるまで傷つけなくてはならないのだから。
いずれ体力は尽きる。このままじゃあの二人を死なせてしまう。
とにかく術者であるこの魔物を潰せばあのゾンビ芋虫が止まるかもしれない。確実性はないが今はこの可能性にかけるしかない。
「うお゛ぉ゛ぉ゛!!!」
「吠えるなんて、なんて勇ましいのかしら。でもだめよ、あんまり興奮すると、傷口が開いて大事な血が無くなっちゃうじゃない。」
いつまでも余裕そうにしやがって。
魔体で傷口周辺に魔力を集中し筋肉で圧をかける。筋肉に力をかけ続けることで左腕は使えなくなってしまうが一応の止血はした。
右腕一本でどうにかして戦わなければ。
けど、こいつには俺の剣で傷をつけられない。一体どうやって勝つんだ?
「ふふふ、いいわ、その芳醇な血!我が主と同じその香り!はやく啜らせなさい!」
まて・・・主?
そんなもの一体どこに・・・
「!」
一か所だけ心当たりが浮かぶ。
その方向を確認すれば、ひと際大きいゾンビ芋虫が動かずに、こちらから隠すようにして鎮座している。
疑問が確信に変われば後は早い。そもそもあんな怪しいものがあるのになんで気にかけなかったんだ。
「!!!待ちなさい!」
先程まで積極的に挑んできた相手が突如として向きを変え、背中を見せて全力疾走し遠ざかっていくのだから、そういう言葉が出るのは理解できる。
そしてさらにその走る先にあるものを思えば、この魔物は自分の失言に気づき、必死に追いかけ始めるのもわかっていた。
だからこそ、ものすごい速さで距離を縮める怪物が、その距離をゼロにした時。
振り返ると同時に剣を振るえば、突っ込んでくる速さと合わせて一太刀入れることも可能だと俺は考えた。渾身の一撃となるよう、俺お得意の『魔体・伝え』を駆使した溜め斬りを、振り返りを利用し時間を短縮して放つ。
「GAAAAAAAAAA!」
予想は的中。今まで人間の言葉を放っていた怪物は、ようやく怪物らしい悲鳴を響かせた。
そして流れる鮮血。痛みにのたうちまわる怪物を置き去りにして俺は再度走り出す。
生れ落ちてから今まで、この地下で王様気取りで痛みなんか感じたことなかったんだろう。
こちとら鬼とハゲのせいで何回痛い思いをさせられたと思ってんだ。根性がたりねーんだよ!!出直しな!!!
「ふたりとも、あの宝玉を壊す。援護を!この戦いを終わらせる!」
「「わかった!」」
一番でかいボス芋虫が俺の接近に対し、大口をあけて飲み込もうとしてくる。そこにターニャに守られたエルサさんが最速の魔法を放つ。
『我が命じる、魔力を代価に、雷を』
『ライトニング』
それは一筋の光。いままで見てきた魔法のどれよりも早く、開かれた口に突き刺さる。威力は大したことはなくとも、感電とやけどは防ぎようがなく、ましてやそれが柔らかい口内だとしたら。
ゾンビといえども体の反射は抑えられなかったようだ。痛みに呻くことはなくとも、その開かれた口は閉ざされた。
「ありがとう!そして終わりだ!」
すぐさま足に魔力を流し、大跳躍。飛び越えた先にはあの宝玉が。
怪物ははるか後方。
自然の法則により俺は地面に向かって落下していく。
そして宝玉に剣が突き刺さり、硝子が割れた音がこの戦場に響き渡る。大量の赤い粒子が俺の周りに舞う。
ゾンビたちは力を失ったようにに動きを止めた。
怪物も呻くのをやめ。
そして、
怪物は大音量の絶叫とともに、白い魔力の塊を放ち始めた。
数百に及ぶその魔弾は、一発一発が多大なる威力を持ち、地面を死骸を、粉砕する。文字通り、砂となって消し去られるのだ。
「逃げろ!!とにかくあれに当たるな!!」
おそらくそんなことはできないとわかりつつも、必死で指示出す。
そして、星のように降り注ぐ、その純粋な光の『死』が容赦なく、3人に直撃する
ことはなかった。
俺の前に大剣が、ターニャとエルサさんの前には槍が降ってきて、それぞれが降り注いだ魔弾を防いだ。
防いだ武器は砂のように消え去るが、周囲に目を向けると俺達一人一人を守るように、それこそ星の数に対抗しているかのような物量を持って、様々な武器が浮いていた。
そして、未だに魔力を放出し続ける怪物に数えきれない程の武器が突き刺さる。突き刺さる前に魔弾が消し去る量よりも多くの武器が殺到し、次々とその体に突き立っていく。
最後に大きな人影が、あの時見た槍を突き刺し。
暴走した生命は、始まりと同じように唐突に終わりを迎えることとなった。
「よく頑張った。待たせて悪かったな。」
そう言って、ダグラスさんが微笑む。
その光景をみて安堵した俺は、抑えていた傷口が開き、血を噴き出して倒れる。
薄くなっていく意識の最中で、ひんやりとした感触と続いて傷の痛みが引いていくのを感じ。
そこで俺は目を閉じ、完全に意識を手放した。
魔体について、わかり辛いと意見を頂きましたので説明します。
意識的に魔力運用を詠唱と想像で補助し、身体能力を引き上げる固有魔法、といった感じです。
一般的でなく、知らない人がほとんどです。パッと見で理解できる者もいるでしょうが、そういった人は無意識下で魔力による身体能力の活性化を行っているので、そもそも魔体を使う必要がありません。ですので、今のところエルだけの魔法となっております。




