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年上の男

 ……俺が薬草士となって店を構えられたのは、一重に幼い頃に出会った魔女のおかげだ。


 変わった薬草を使って怪我を治してもらった経験から、薬草に興味を持ち、気づけばそれを生業なりわいとしていた。


 薬草士としての生活が軌道に乗り始めた、そんな時だった。


 初めてあいつが店に来たとき、何となくあいつのことは知ってるような気がしていた。


 というのも、妙に偉そうな言い方をするところや、風貌に似合わぬませた振る舞いが、昔会った魔女にそっくりだと思ったのだ。そうだとするなら、あれから随分と経ったのに、あいつはちっとも変わっていやしない。見た目も、その物言いも。

 

 魔女って年をとらないもんなのか。


 声なんてもう忘れたし、顔もモヤがかかっていて分からない。話した言葉さえあやふやだ。


 だから、自信がなかった。ただ、あいつが最初に興味を示したのがあの薬草だったから、そうじゃないんじゃないかと、ひとまず勝手に思うことにした。


 自分だけ大人になってしまったが、未だに魔女狩りなんて下らない習わしがある時代のままだ。下手に聞いたら姿を見せなくなるんじゃないだろうか。


 ……あの時同様、丸焼きにはしないのだろうけど、さっさと森に姿を消してしまいそうで。


 そんなことを考えていたら、ずっと確かめられずに、ただだらだらと時間ばかりが過ぎて、結局聞き出すタイミングさえも見失ってしまった。あれが初恋とかいうやつじゃなければ、それで良かったかもしれない。

 見た目じゃ、もう俺の方が随分年上だが、実際俺の方がまだまだお子様のままだ。そんな不甲斐ない俺が、彼女を知ることができるのは、唯一彼女の本音か建前かの区別のつかない自分語りだけ。


「また来てもいいかしら?」


 あいつが単にそれだけしか言わなかったから。知らないふりを決め込んだ俺は「どうぞご贔屓に」と言うしか、あいつを繋ぎ止める方法を思いつかなかった。そもそも、名前すら知らない彼女のことだ。確かめる方法なんて初めっから限られていたくせして、自他共に認める口下手な俺には、よく表情の変じる彼女を揶揄うことしかできない。


 それなのに、そんな俺の元に、今日もまたあいつは懲りずにやって来る。


 何であいつはこの店に来るんだろう。それくらいは今度こそ聞いてみようと、確かに毎回思っているのだが。気紛れな魔女のこと、そんな些細なことさえ聞くことすら、躊躇われてしまうのだ。


 ……お前は俺がした約束を、ちゃんと覚えているのだろうか。


 時々自分のことを話す時の彼女は、よく悲しそうな顔をした。


 あいつは自分が「魔女だ」ということは何度かあったが、「あの魔女だ」とは決して言わなかった。それとなく、そうした意味合いを匂わせることはあっても。その都度期待してしまう自分の未熟さよ。


 本当はとっくに知ってるんだと何度言ってやろうかと思ったか知れない。でも、あの約束が過よぎるから。内心では気付いているのに、未だに確信が持てないふりをし続ける俺の代わりに、あいつが自分で「善良な魔女だ」と言い出すまで待とうと思ってしまう。


 彼女が無遠慮に「また来るわ」と帰る度、次は本当にあるんだろうかと、別れながらに既に恋しくなる。もし次があって、あの世間知らずの”お嬢さん”が、本物の善良な魔女だったなら。この気持ちを告げてもいいだろうか。


 傍から見たら非難されるだろうが、実際はきっと彼女の方が俺よりもずっと年上だろうから……と身勝手な理論ばかりを頭の中で捏こねくり回してみる。呆れられて終わるならそれでもいいのだ。


 そんな日が来なくても、せめて手の甲に口付けるくらい許してくれたらなんて、二人して欄干に並ぶ時に考えていると知れたら、きっとあいつは怒るだろう……怒るだけで済めばまだいい。この頃じゃあいつに触れるのだって、顔を見ることすら、一苦労する有様だ。


 成長した分に見合うだけの余裕を演じたいのに、結局のところは、いつだって不首尾のままぶっきらぼうに潰える。全く大人としての顔なんて立ちっこない。いつも考えに始まって考えのままに終じる始末。


 ただ、あいつが来るのを待つだけでは落ち着かないから、平気なふりをするために、この旨くも何ともない煙草を吸うのだ。


――今日もまた。

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