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73・痕跡


(もうっ、またかよ……)


 先程からギュスタンは、時折立ち止まると地面や周囲を確認している。恐らく襲撃者……いや、今は逃亡者か? 彼らの痕跡を調べているのだろうがーーそんな事しなくともジョルクに任せときゃ間違い無いのに……やはり平民の魔法なんて信用してないって事なんだろうか?


 俺としてはなるべく早く追いついてナルを助けてやりたい! こう、頻繁に立ち止まられると若干イラっとする、逃げられたらどうすんだよ……。


「ふん、やはり妙だな……」


 ーー妙? ほほぅ、妙だと? うちのジョルクの索敵に何か問題でも?


「ふんっ、気付かんのか?ーーナルとやらは攫われたのであろう。しかし、抵抗している様子が全く無いのが気になる」

「ーー何でそんな事分かるんだよ?」


 俺の焦燥感……というよりは怪訝さが伝わったのか、ギュスタンは意外にも丁寧に痕跡の解説をし始めた。


「ーーよいか? 歩幅の乱れ、それに草木の折れが少な過ぎる。抵抗し暴れているならばもう少し目立った痕跡があるのが普通だと思わないか?」

「ーーじゃあ……もしかしたら気絶してるとか? ナル軽いし……担いで移動してるんじゃないか?」

「成る程、きっとそうに違いねぇなぁ! 争う様な声も聞こえ無いし!」


 小脇に抱えられて運ばれるナルの姿が容易に浮かぶ、また極度の人見知りだから怖くて悲鳴を上げたりも出来なかったのかもしれない……痴漢に会うと恐怖で声が出ない人もいるらしいしな。


 因みに俺はジェットコースターで「キャー!」って悲鳴上げてる人達はそれ程怖がってないんじゃないかと思ってる。

 まぁ安全を確保されたアミューズメントなんだから当たり前なんだけどさ、本当に怖い時って声出なくない? 少なくとも俺がジョルクの魔法で空をぶっ飛んだ時は声出なかった。


「ふんっ、いくら小柄とはいえ担げばヒト一人(ひとり)分重量が増すのだ、足跡はその分深く沈む筈……だが、そんな形跡は無い」


 言われて見れば確かに俺の足跡と比べても深さは大差無いーーギュスタンって貴族のクセにそんなに詳しく痕跡を調べる事が出来るのか! 凄いな、痕跡なんて相手がどっちに進んだかを知る為の物だと思ってたのに……。


 ギュスタンによれば熟練者になれば痕跡から敵の人数は勿論、身長や体格、性別に種族なども分かるんだとか。ーーそして事前情報が多ければ多い程、戦闘は有利になる。


 ジョルクの索敵魔法は確かに優れてはいるが流石に相手の身体的特徴までは分からない。それに実は敵味方の区別すら付かないと言うデメリットもある。

 単純な追跡やかくれんぼならジョルクの索敵だけでも良いが、今回の様に相手との戦闘が予測される場合はきちんと痕跡も調べておくべきだと言う事をギュスタンは言いたかったらしい。


 成る程、痕跡とか詳しいのカッコイイかもな。俺も帰ったらクリミアに偵察のレクチャーを頼んでみようかなぁ。クリミアは親が狩人だったらしく獲物の解体や追跡が得意らしいし……きっと痕跡の調べ方も詳しいだろう。


 それにしても、ナルが抵抗して無いのは何故だ?


「ーー担がれて無いなら……ナルが自分で走ってるんだろ? なぁ兄貴」

「ほぅ、面白い……お前の仲間は裏切ったとでも?」


「そんな事は分かんねぇなぁ、だけど抵抗してないならーーそう言う事だろ? なぁ」


 は? ナルが裏切り? それは考えられ無い。ーーだけどまぁ、脅されて協力している可能性は有るかも知れない。




 再び追跡を始めた俺達にギュスタンがポツリと尋ねる。


「……お前達、『マーレイの血の惨劇』を知っているか?」

 

「急に何だよ、マーレイ? 血の惨劇?」

「あぁ、俺は知ってるぜ! 舞台だろ、なぁ? 昔、何度か観た事あるけどーー俺はやっぱり『アルバトロス戦記』とか『ヒューズレイの勇者』とか英雄もの方が好きだなぁ!」


 なんだ舞台の話かよ……雑談にブルジョワ感出してくる所が流石貴族って感じだな。ジョルクが舞台好きなのは芝居がかった魔法詠唱で分かるけどさーーこのボンボン共め!


「で、それがどうしたってんだ?」

「あの舞台はマーレイで本当に起きた事件を元に作られたのは知っているか?」


 『マーレイの血の惨劇』

 王国の港街として栄える都市マーレイ、ある日バラバラに切断された女性の遺体が発見される。不思議な事に、そのバラバラになった死体の一部はどんなに捜索しても見つからなかった。

 そして、その日を境に同様の死体は増え続け、被害者の数は十数人にも達した。

「マーレイには魔人がいる」との噂が立ち始め、街には活気が無くなり経済に大きな打撃を与え始めた。

 海岸一帯の警備を取り仕切る海将軍エーギルは事件解決の為に第二騎士団を派遣、街の警備兵などと協力し捜索した結果、容疑者として一人の男が浮上した。

 容疑者である人形創作者(パペットクリエイター)を尋問すべく、男の屋敷に向かった騎士団達はそこで大量の死体と人形を発見。男は逃げられぬと悟ったのか家人を全て殺し、自らも命を絶ったのだ。


「ーーって話だったなぁ! 舞台じゃ人形をリアルに作る事に夢中になって、材料集めの為に殺人を起こしたって感じだったっけなぁ? 」

「それって、死体で人形作ってたって事か? 怖っ!」


 そういえば有名なサイコスリラー映画で、死体の皮膚を繋ぎ合わせて服を作ってた殺人鬼がいたな……どこの世界にも猟奇的な奴はいるらしい。


「犯人はいつも自分の右手に填めてる気持ち悪ぃ人形(マペット)と話してるんだ、子供の頃はそれ見てチビったもんだぜ、なぁギュスタン?」

「俺はチビった覚えは無いっ! お前と一緒にするな!」


 この焦り方……ギュスタン、間違い無くチビったな?


「ま、まぁ良い、問題はそこでは無い。実際はこの人形創作者(パペットクリエイター)が逃げたのでは? と言う噂があるのだ」

「でも舞台では騎士団に囲まれた男が自分の首をナイフで切り裂いて自害してたぜ、なぁ?」


「ーー舞台では、な……実際は犯人は投獄されたらしい。だがさる高位の貴族が犯人が作る人形に魅せられ密かに脱獄させたのでは? との噂があったのだ……舞台を流行らせたのは犯人の手口を広める事で新たな被害を防ぐ目的があったとか、その証拠にあの舞台を公演する金は王国が出していた」


 この世界にはテレビやラジオが無い。新聞などはあるみたいだが、大きな出来事を流布するにはこういった流行りの舞台で取り上げるのが一番手っ取り早い。


「へー、でも王国が金出してたって何で知ってるんだよ?」

「ふんっ、うち(実家)にもその費用の打診が来ていたからな。父上が頭を抱えていたのを覚えている……」


 余程高位の貴族が噛んでいたらしく、王国側も(おおやけ)には出来なかったらしい。その代わりに舞台を意図的に流行らせ、民衆に注意喚起を呼びかけたのではないかとの事。

 全く、それが本当であればとんでもない話だ。単純に殺人鬼が逃げただけではなく、その殺人鬼にパトロン(高位貴族)がいる可能性があるのだから。


「ーー先程サイラスが倒した襲撃者が人形創作者(パペットクリエイター)だったらしい」

「おいおい! ま、まさかそいつも右手とお話ししてたとかじゃぁ……無いよね?」


「……ふん、察しが良いなーーそのまさかだ。男は右手に填めた人形(マペット)と会話をしていたらしい……」


 サイラス、そんな噂の殺人鬼を倒しちゃったの!? 


 凄い! 凄いけど、これってもしかして……背後にいるパトロン(高位貴族)が黙って無いパターンでは?


いつも読んで頂きありがとうございます。


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