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転生幼女くんは文章が上手くなりたい  作者: 果実夢想
六筆【妖狐姉妹は平和を破壊する】
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☆人間なんて、嫌いだ

 あれから、すぐに服を着替え、遊園地内を駆け回った。

 当然人が多く、特定の人物を探し出すことは困難を極めており。

 数分、数時間が経過してもなお、ハーティーを見つけることはできなかった。


 途中でリリアとも遭遇し、僕たちが協力することになった旨を説明すると、特に何も言わず受け入れてはくれた。

 とはいえ、心の中でどう思っていたかまでは分からないが……ただ、あのリリアもかなりハーティーのことが心配で仕方がないのだろう。

 敵だった僕たちと協力することさえ、厭わないくらいに。


 仲間なのだ。

 むしろ、心配じゃないわけがない。


「……あれは」


 ふと。乱れた息を整えていると、空中からハーティーを探していたリリアが、そんな短い呟きを漏らした。

 すかさず地に降り立ち、淡々とした口調で言う。


「妙なものを見つけたわ。あんなもの、人間がどうこうできるとは思えない」


「妙なもの?」


「……とりあえず、ついてきなさい」


 そう言って、駆け出すリリア。

 僕たちは訝しみながらも、何かの手がかりかもしれない以上、黙ってその背中を追いかけた。


 辿り着いた先には、確かに普通の人間がどうこうできるものだとは思えない光景が広がっていた。

 破壊されている。石でできた、頑丈な壁が。


 どんな怪力を持っていようと、ここまで壁に穴を開けるのは人間には不可能だろう。

 となると、別の種族がやったということになるが……。


「……これ、ハーティーだよ」


「ええ、間違いないわね。あの子なら、これくらいはできるはず」


 チュマーとリリアは、二人して同じ意見を告げた。

 僕たちには分からないが、仲間の二人がそう言うなら、そうなのだろうか。


「わ、分かるんですか……?」


「当たり前。何年一緒にいると思ってんの。これは、ハーティーが自分の拳でやったんだよ」


 ククルの素朴な問いに、チュマーが素っ気なく答える。

 にわかには信じ難いが、ハーティーだって人間ではない別種族なのだ。

 正確に何の種族かまでは知らないけど、それでも並外れた力を持っていてもおかしくはない。


 破壊された壁には大きな穴が穿たれ、中に入れるようになっている。

 あれだけ探して見つからないのであれば、もしかしたら。


「行ってみましょう」


 リリアが呟き、僕たちは無言の頷きを返す。

 そして、壁の穴の先を進んだ。


 洞窟のように先が続いており、とても薄暗い。

 まさか、壁が破壊されただけでこんな道ができているとは。

 それだけ、ハーティーが破壊しながら進んだということなのだろうか。


 でも、一体何のために。

 まだハーティーたちが街を襲った理由を詳細には分かっていないとはいえ、少なくとも何かしら理由はあるはずだ。

 何の理由もなく、ここまで壁を破壊するわけがない。


 などと考えながら、言い知れない嫌な予感を孕みつつ歩く。

 やがて、奥に到達したときに。

 僕たちが、目にしたものは――。


 ――凄惨な、赤だった。


挿絵(By みてみん)


 壁にもたれかかって、床に座っており。

 全身から、大量の血を流している――ハーティー。

 目は薄らと開き、僕たちを見上げていた。


「は、ハーティー……ッ!?」


 チュマーが叫び、ハーティーのもとへ駆け出す。

 リリアも悔しそうに奥歯を強く噛み締めながら、黙って歩み寄った。


「何があったの? 誰に、やられたの?」


「……」


 ハーティーは答えない。ただ目線をチュマーに注ぐだけ。

 いや、答えられないのか。ここまでの重傷なのだ、きっと口を開くことすら困難に違いない。


 無意識に、強く拳を握り締める。

 どうやったら、こんなにも重傷を与えることができるのか。

 物理的にも、精神的にも。


「……人間、なんて、嫌いダ」


 ふと。小さく、途切れ途切れではあったが、確かに言葉を紡ぎだした。

 驚きはしたものの、聞き逃してしまいそうなほど小さな声だったため、無言で続きの言葉を待つ。


「……生まれも、育ちも、容姿も……人それぞれ違う、もの、なのに。自分たちとは違う、自分たちには理解できない……ただ、それだけで、迫害する対象になル」


 もしかしてそれは、ハーティーの過去なのだろうか。

 過去――つまりは、街を襲った理由とも直結しているのかもしれない。


「……人間、なんて、嫌いダ。あいつらは、平気で、人を、傷つけル。ワタシが鬼族だと、知った途端、に、何回も、何回も、傷つけ、られタ……」


 鬼族。

 それが、ハーティーの種族か。


 鬼族にも、ククルの龍族の里のように住処があるのだと思うが、ハーティーは人間と一緒に暮らしていたのかも。

 そして、鬼の子だからという理由で、暴力や暴言を繰り返された、と。

 そう語るハーティーは、今にも消え入りそうな声だった。


「……だ、から……人間なんて、嫌いだ……。傷つけられる、前に、こっちが、傷つけるしか、生きていけなイ。あんな奴ら、いなくなって、しまえば、いイ……」


 人間を、憎む理由。

 あのとき、街を襲った理由。

 痛いほどに、泣きたいほどに、思い知った。


「……でも。それじゃ、だめだって、やっと、分かっタ。それじゃ、あのときの人間たちと、同じだ……っテ。分かって……いや、分からされて。あいつ、に……人間に復讐する方法を教えてくれた、あいつ、に――」


 ぷつん、と。

 糸が切れたみたいに。


 これ以上先の言葉は、もう紡がれなくなってしまった。


「そん、な……やだよ、ハーティー。ハーティー……ッ!」


 チュマーは涙を流す。動かなくなったハーティーを抱き寄せ、ただその名を呼び続ける。

 リリアは俯き、血が滲むほどに唇を噛み締める。静かではあったが、頬に一筋の涙が伝っているのが見えた。


 何で、こうなったのか。

 確かに、ハーティーは敵だった。

 ククルやフーリーを傷つけ、たくさんの街の人々を恐怖に陥れた。


 でも、悪人ではなかった。

 ただ辛い過去があって、人間を信用できなくなって、それで。


 もう少し違う生活を送れていたら。

 もう少し違う出会い方をしていたら。

 僕たちだって、きっと――。


 今の僕たちには。

 泣き続ける二人を、黙って見つめることしかできなかった。

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