24.「クシェル!」
私たちは約束した。
私が年老いるそのときまで、夫婦として、家族として生きよう、と。ジギスヴァルトはもう死のうとはせず、そのときまで一生懸命生きて、一緒に幸せに暮らそう、と。
どこか気まずそうにうなずくジギスヴァルトが、照れているだけだと気付くと笑ってしまって。そんな私に彼は拗ねたように目を逸らす。ずっとそんな風に暮らしていけたらいいと思った。
あの森の中の家で、ジギスヴァルトと、ノイくんと、私は、今度こそ本当に家族になったのだ。それはきっと、何よりも幸福なことだと思う。
歳をとらない二人の中で、私だけが老いていく。月日が流れれば、二人の祖母のような見た目になることだろう。
いつか、不安になるときがくるかもしれない。嫉妬するときがあるかもしれない。老いる自分を厭い、周囲を羨むときがあっても。
けれどそれさえも、愛しんで生きていきたい、と心から思った。
「ディッくーん!」
いつものように、荷馬車でやってきたディルクさんを、ノイくんが駆け寄って歓迎する。彼はノイくんを抱き上げると、いつかのように私の手を取った。
「こんにちは、クシェルちゃん。君に会えた今日という日は、俺にとって忘れられない一日となるだろうね」
また、世の女の子がこぞってうっとりしそうな甘い声で、ディルクさんが私の手の甲に口づける。いい人なのだが、やはりアマーリエには近づけたくない類の男性だなあ、と思う。
そして、いつかと同じように、そこにジギスヴァルトが割り込んだ。
「だから!」
言いながら、彼は私の肩を掴んで自分の方に引き寄せる。怒りの滲んだ表情が嫉妬であると、もう私にも分かっている。
そうなると、指を差して叱られても、最早可愛いだけだった。
「おまえは僕の妻のくせに!」
責めるような言葉に、悪戯心をくすぐられて笑い声を漏らす。ジギスヴァルトの表情が、怒りから怪訝そうなものになる前に、素早く背伸びをした。
ぎょっと目を開いて後ずさる彼に構わず、距離を詰める。その頬に、すかさず口づけた。
「そうね。私の旦那様」
それからにっこり笑っても、なかなか反応がない。驚きすぎたのか、と様子を窺っていれば、ジギスヴァルトは目を見開いたまま、顔を真っ赤にしていた。
「……っな、なっなっなっ…………クシェル!」
苦し紛れ、というように、顔を真っ赤にしたままジギスヴァルトが叫ぶ。ディルクさんの吹く口笛の音が聞こえて、楽しくなった私は声を上げて笑った。
これにて完結です。
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。




