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転生駒姫は、親バカな父・義光と従兄の政宗を和解させて東北大同盟を作り処刑フラグをへし折ります!  作者: 双瞳猫
第1部:転生幼女、親バカ父と暴走従兄の喧嘩を止める

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第30話「十五里ヶ原の戦い①——『上杉、ついに庄内へ』」(前半)

 天正十六年(一五八八年)、溶けそうな八月。

 出羽の夏は、短い。

 しかし短いからこそ、この季節の暑さは完全にバグっていた。凶暴という言葉すら生ぬるい。肌をじりじりと灼く、殺意高めの陽光。鼓膜を破壊しにくる、大音量の蝉の合唱。空気そのものが激しく震える、謎の錯覚。山形城の石垣は熱を帯びて白く輝き、遠く霞む山並みは陽炎の向こうでゆらゆらと揺らいでいた。


 そんな灼熱の中を、一つの軍団が動いていた。

 ザッ、ザッ、ザッ――!!

越後と出羽の国境を分かつ山道を、無数の足音が踏み鳴らす。

 先頭を行く大将は、馬上で「ハハハハハ!」と豪快に笑っている。

 本庄繁長。

 越後が誇る猛将にして、かつての村上城主。五十に近い年齢を感じさせない熊のような巨躯に漆黒の鎧を纏い、その眼光は獲物を狙う猛禽類のように鋭く輝いている。

まさに「最強のオヤジ」を体現したような男が、大気を震わせる野太い声で吠えた。

「——いざ、庄内へ!」

 本庄の野太い号令が、山間に轟き、熱量が弾ける。

「毘」と「龍」——上杉家の軍神・謙信公の遺した二つの旗印が、夏の風にはためく。

「うおおおおおッ!!」

数千の精兵が、鎧の擦れる音とともに国境の山道を越えていく。その足音は大地を揺るがし、木々の葉をざわめかせた。

「充長よ!」

 本庄は、傍らを行く若者に声をかけた。

 大宝寺義勝——本庄充長とも呼ばれる、本庄繁長の次男だ。庄内の一大名だった大宝寺義興の養子に入り、かつては庄内の「正統な支配者」を名乗れる立場にあった男。しかし今は、越後との国境のド田舎・小国城に退去を余儀なくされ、故郷の土を踏めずにいる。

 その若者は、静かに拳を握りしめていた。

「父上……必ず、庄内を」

「ああ。必ず取り戻す」

 本庄は、息子の肩を力強く叩いた。その目に、燃えるような闘志が宿る。

(——東禅寺め。大宝寺の旧臣でありながら、最上の犬に成り下がりおって)

 本庄の胸の奥で、古い怒りがぐつぐつと煮えたぎっていた。東禅寺義長。かつての大宝寺家臣でありながら、最上義光に寝返り、庄内の統治を任されている男。その存在が、本庄には許せなかった。

(義光は今、伊達との同盟に浮かれておる。庄内の備えなど、薄いに決まっておる。一気に押し込むぞ)

 本庄の読みは、戦国武将として至極真っ当なものだった。

 大崎合戦は早期和睦で終わったとはいえ、最上は伊達との関係構築に力を注いでいるはずだ。庄内の国人衆など、精々が東禅寺義長と来次氏秀の手勢程度。上杉の精兵数千を相手にできるはずがない。

 本庄は、勝利を確信していた。

 ——しかし。

 その確信の片隅に、チクリと刺さる小さな棘のような違和感があった。

(……直江殿が言っておった。最上義光の娘。七歳の幼女が、東北の政治を動かしていると)

 本庄は、ふんと鼻を鳴らしてその思考を強制終了した。

(七歳の娘が何を考えていようと、上杉の精兵の前には関係ない。戦は数だ。数と武力だ)

 自らの僅かな疑念を、圧倒的な自信でねじ伏せ、本庄は前を向いた。

 決戦の地・庄内の空は、恐ろしいほどに青く澄み渡っていた——。


 同じ頃、山形城。

 私は軍議の間の隅っこで、気配を消して静かに控えていた。

 お父様——最上義光——は、上座で腕を組み、めちゃくちゃ険しい顔で物見の報告を待っている。普段のデレデレした「超絶親バカモード」は、今日のところは1ミリも見当たらない。精悍な顎の線、鋭く細められた目。これが、「羽州の狐」と恐れられる男の、本当の顔だ。

(……来るとは思っていたけど、いざ来ると緊張するな)

 私は内心でそっと深呼吸をした。七歳の小さな胸が、ドキドキと音を立てている。中身(精神年齢)は二十歳のつもりでも、身体の反応だけは正直だ。

 そこへ。

「殿ォッ!!」

 バタバタという荒い足音とともに、全身を汗と埃で汚した物見の兵が、障子を勢いよく開けて飛び込んできた。

「上杉軍、ついに国境を越えました! 庄内へ侵攻を開始しております! 主将は猛将・本庄繁長! 兵数は推定数千に上るとのこと!」

 軍議の間が、一瞬、水を打ったように静まり返った。

 次の瞬間。

 ギリッ。

 お父様の歯ぎしりが、静寂を切り裂いた。

「……上杉め」

 低く、しかし底冷えするような声だった。

「ついに牙を剥きおったか」

 お父様がゆっくりと立ち上がる。その動作一つ一つに、凄みがある。威圧感が半端ない。采配を握る拳には、青筋が浮かぶほどの力がこもっていた。

(——本庄繁長が来た。やっぱり史実通りだ)

 私の頭の中で、前世の記憶が静かに動き出した。

 天正十六年八月。十五里ヶ原の戦い。史実では、上杉軍の完全勝利。最上は庄内を失う——。

 でも今回は、違う。

 私は、そう自分に言い聞かせた。力を込めて。

 お父様の隣に控える氏家守棟殿が、冷静な声で現在の戦況を整理し始める。

「殿、本庄繁長は越後随一の猛将。庄内の東禅寺義長殿と来次氏秀殿の手勢だけでは、正面からの迎撃は困難かと存じます」

「分かっておる」

 お父様が短く答えた。その目が、鋭く私の方を向く。

 ——あ。

 私は思わず背筋を伸ばした。

「駒」

「はい、お父様」

「お前の予言どおりになったな」

 お父様の声は、怒っているわけでも、責めているわけでもなかった。ただ、静かに事実を確認している。

「……はい」

 私は、静かに頷いた。


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