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悪の秘密結社は今日も平和です!  作者: ぽんすけ
六章

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92/112

もうやだ帰りたい……




煌々と照る赤月を背に、漆黒の羽を広げ空中に佇む美しき淑女。

血のドレスはとてもエレガントで、彼女の類い稀ない魅力をさらに引き立てていた。

赤黒く禍々しい大鎌を担いだ淑女は艶然と微笑む。

大人の色気満載のえっちなお姉さん。

まさかこの女性が、つい先程まで幼気(いたいけ)な幼女だったとは誰も信じまい。

妖しい輝きを秘めた瞳を歪ませ、ミューラは鎌を振り払い前傾姿勢となった。

直後、ミューラの姿が掻き消える。

遅れて、押し退けられた風がソニックブームのように吹き荒れた。



────ガギィインッ!!



次にミューラが姿を現したのは、思いっきり振り下ろした鎌を九尾にガードされた時であった。

反った刃を左腕で防いだ九尾は、鎌を弾き飛ばして強烈なハイキックを繰り出す。

しかし、空振りだ。

僅かに傾けられたミューラの顔面の真横を素通りして、空気を切るだけに終わった。

鎌の柄の尻で腹部を突き、目にも止まらぬ連続の斬撃が乱舞。

九尾とて全てを受け流すことは叶わず、着物の端を切り落とされバックステップで後退する。

もちろんミューラはその隙を逃さない。

差し出した左腕の傷口から大量の血液が噴き出し、何本もの【薔薇の棘(ローグ・ローズ)】と化して九尾に殺到する。


だが、そこはさすがと言うべきか……。

素早い動きで茨の動きを撹乱しつつ、九尾は巧みな技で次々と迫る【薔薇の棘(ローグ・ローズ)】を撃墜していく。

蹴りや拳で砕き、炎で燃やし。

そして最後の茨をブチブチッ!と引きちぎったと同時に、ミューラが突っ込んできた。

押し寄せる血の濁流と紫の業火が正面から衝突。

ジュワァアアアッ!!と不気味な音を立てて盛大に波打つ。

一戸建ての住宅をも上回る高さまでそびえ立った血と炎の壁だ。

ニヤリと口角を歪めた九尾であったが、揺らぐ炎壁の下部に真一文字の線が刻まれたことで表情を変えた。



「無駄なのだっ!!」



ザンッ!!と突き抜けた痛快な音色。

炎壁の下部が軽々と消し飛ばされた音だ。

鎌を振り払った体勢のミューラの姿が向こうに見えると共に、まるでだるま落としのように崩れた炎が地に降り注ぐ。

その光景を視認した時には既に。

狂気を携えた深紅の瞳が目の前で軌跡を描いていた。

血の大鎌が振り下ろされる。



「チッ……!!」



九尾が舌打ちを一つ。

遅れて、左肩から右の脇腹にかけて刻まれた傷からブシッ……!と血が噴き出した。

ここに来て初めての出血である。

九尾は憎々しげに顔を歪める。



「わははっ!その技はもう我輩に通用しないのだ!!」



一方、ミューラはそう叫んであらぬ方向に腕を伸ばした。

傍から見れば急にどうしたのかと戸惑いが隠せないだろうが、その行動にはちゃんと意味があった。

突如として虚空から現れたエルム。

彼女がまさにその場に現れた瞬間、事前に腕を伸ばしていたミューラに胸ぐらを掴まれた。

まるで初めからその位置に来ることが分かっていたかのようだ。

()()()のエルムを乱暴に地面に叩き付け、あまりの衝撃で浮かび上がった彼女の片足を【薔薇の棘(ローグ・ローズ)】で拘束。

真横をすり抜けて前に出ると、頭の上から思いっきり茨を掴んだ両手を振り下ろした。

釣りの際に、海面へとルアーを投げる"キャスト"という動作を思い浮かべてもらえれば、少し分かりやすいだろうか。

上体ごと倒して全身のパワーをフル活用した、という違いはあるが。

一度目よりもさらに強力な叩き付けによる衝撃がエルムの体を貫いた。



「……ッ!!」



バキバキと砕けた地面から砂煙と瓦礫が舞い上がる。

束ねた【薔薇の棘(ローグ・ローズ)】を大鎌に作り替え、反った刃でエルムの肩口を捉えた。

肉を裂く感触が柄を通してミューラの腕にまで伝わってくる。

力一杯に鎌を振り払い、エルムをぶっ飛ばした。

水切りを彷彿とさせる等間隔のバウンドで彼女の体は遥か彼方に消えていく。



「ふんっ!あまり調子に乗るでないわっ!!」



猛烈な踏み込みで繰り出された九尾の飛び蹴り。

かろうじて左腕の防御が間に合ったものの、蹴りがぶち込まれた部分からミシミシと骨が軋む音が聞こえてくる。

しかも防いだにも関わらず、勢いが収まらずゴリゴリと地面を削って押し込まれるくらいだ。

ミューラは腕を振り払って九尾との間に距離を取り、即座に鎌をガントレットに変化。

繰り出される九尾の拳を躱しつつ、土手っ腹に強烈なパンチをぶち込んだ。

しかし返ってきた思いもよらぬ手応えにミューラは目を見開く。

ガッチガチなのだ。

おそらく全力で腹筋に力を入れているのだろう。



(誘われた……!)



そう気付いた時にはもう遅い。

左のフックが顎を掠めた途端、突如として膝がカクンと折れる。

上手く力が入らない。

僅かに体勢を崩したミューラの腹に渾身のアッパーがめり込む。

体をくの字に折り曲げたミューラは、九尾の首を抱えて膝蹴りで反撃するものの、フックのダメージが残っており本領とは程遠い威力しか出せていなかった。

さらに二発の拳がミューラの体を打ち、オマケに強烈なヤクザキック。

ザザザッ……!と砂煙を巻き上げつつ後退を強いられた。

ここでやっと、脳震盪から復帰。

九尾には劣るが実に強力な打撃を連続で繰り出す。

尋常ではない殴り合いだ。

一発一発の威力が、ボーリングの球を豪速球でぶち込まれているようなものである。

ドゴッ!バキッ!!という鈍い音と共に僅かな鮮血が宙を舞う。



「洒落臭いのぅ!!」

「わははっ!凄いのだ!!こんなに殴ってもまだ壊れないのだ!?」



同時の踏み込み。

相手の間合いに深く深く入り込んだ、防御ガン無視の殴ることしか考えていない熱烈な踏み込みだ。

深紅と(すみれ)色の軌跡がバチッ!と衝突。

互いに口角を逆さ三日月のように吊り上げて、己が出せうる最大級の力を拳に込める。



「「───ッ!!」



左の頬を抉る、拳と拳のクロスカウンター。

言語化の困難な鈍い音が響き渡り、二人の足元が衝撃に耐えきれずバキバキと亀裂を広げた。

互いに殴り飛ばされ、「ペッ」と吐き出した唾には血が入り混じっている。

それとは別にボタボタとこぼれ落ちた鮮血は、ミューラの腕からだ。

自ら血管をぶち破って血を放出しているらしい。

口内から滴る血を舌で舐め取ると、ミューラは血だらけの腕を振り払って自身の血を飛ばす。



「ぐっ……!?」



それはまるで散弾銃のようであった。

無作為に散乱した血が九尾の周囲で炸裂し、重々しい衝撃を伴って尖った血が九尾の肌に突き刺さる。

筋肉を固めることで何とか致命傷は避けたものの、やはり至近距離で喰らったのが不味かったようで、それなりのダメージを受けてしまった。

即座に追い打ちするべく、ミューラは大鎌を振り上げる。

ところが、それは叶わなかった。

真横から訪れた凄まじい衝撃に轢かれ、大いに弾き飛ばされてしまったからである。

ダンプカーと衝突したかのような尋常ならざるインパクトが脇腹の一点を穿ち、淡く血が滲み出る。

エルムの刺突技だ。

銀翼を限界まで広げたエルムが、刹那の合間に繰り出した神速の四連撃。

ドドドドッ!!と残像が発生する速度での刺突でミューラは再度、勢いよく弾き飛ばされた。

周囲の景色が強制的に引き伸ばされ、一回転してガリガリと地面を削りながら着地。

その時、エルムの姿は既に正面になかった。



背後───ッ!!



気付いた時には、横薙ぎされた剣がミューラの横っ腹を捉えていた。

今度は勢いよく上空に弾き飛ばされる。

地面を踏み砕き、エルムもその後を追う。

上空に先回り。

目にも止まらぬ三連撃の刺突、袈裟斬り。

落下先に先回り。

二連撃の刺突、突進切り払い。

そして最後に純白のエネルギーを集束させた、最も威力の高い刺突技をミューラの腹にぶち込んだ。

合計十三にも及ぶ脅威の連続技である。

体をくの字に折り曲げたミューラがドゴォオオオンッ!!と轟音を立てて岩壁に着弾。

岩壁は大規模な砂煙を巻き上げて激しく崩れ落ちた。



「けほっ……!今のは効いたのだ!」



ガラガラと大小様々な残骸が降りしきる中、それらを呑み込んで赤黒い血の濁流が飛び出してきた。

生半可な津波とは比べ物にならないほどの圧倒的物量だ。

道中のあらゆる物を呑み込んで波打ち、エルムと九尾の元に大きな影を落とす。



「……ちっ!」



今度はエルムから舌打ちが漏れた。

直後、圧倒的物量を伴って血の濁流が二人を呑み込み、押し流す。

一度呑まれてしまえば、いくら九尾やエルムと言えど抜け出すのは簡単では無い。

岩壁の残骸から抜け出したミューラは空を飛び、二つの気配をちょうど見下ろせる場所まで移動する。



「……あ゛ぁ〜、気持ち悪いのぅ……」

「おかしな事をおっしゃいますね♪あなたが気持ち悪いのは、いつもの事でございましょう♡」

「あ゛ぁん?」



ヤクザ顔負けのメンチ切りである。

血で全身がぐしょ濡れになり、顔を顰めていた九尾。

エルムからの心無いツッコミでビキッと青筋を立て、頬を引くつかせている。

ある程度の距離が離れているから良いものの、もし真横に居たら普通にぶん殴っていただろう。



「頑丈な奴らなのだ……。だがっ、これで終わりなのだ!!」



しょうもないやり取りを繰り返す二人に呆れた視線とため息を送ったミューラは、不意に体の前で両手を向かい合わせた。

すると、その間に凄まじいエネルギーが渦を巻いて集束を始め、次第にバリッ!バリバリッ!と深紅のスパークを放つようになった。

圧縮、凝縮を繰り返す。

まだまだ足りない。

人外の二人を屠るにはエネルギー不足だ。

グングンと手のひらの間に集まったエネルギーは膨れ上がり、ついには反発を見せてミューラをも傷付けんと唸り声を上げた。

だがそれすらも力で屈服させて、圧縮・凝縮を続ける。

バリバリッ……!!と四方八方に散る深紅の稲妻が最高潮に達した時、それは完成した。


対して、地上でも似たような現象が二箇所で巻き起こっていた。

エルムの(もと)では、まるで湯水のように噴き出した純白の力が、周囲一帯の景色を歪めつつ荒れ狂う。

力の底が見えない。

どんどんと際限なく溢れ、威圧感を高め続けている。

エルムは剣を構えた。

脚を大きく開き、柄は肩の横。

研ぎ澄まされた刃は真っ直ぐと顔の横を通り過ぎ、そして左の手のひらで切っ先を支える。

突きに特価させ、それ以外を切り捨てた独自の構えだ。

噴き出していた純白のエネルギーが剣身へと吸い込まれ、見る者を虜にする神秘的な輝きを放つ。


一方、九尾の下では、彼女の全身から溢れ出した紫の業火が絶え間なく燃え盛っていた。

炎は彼女の心情を表すかのごとく荒れ狂い、周囲を燃やし尽くしても飽き足らず勢いを増す。

ふと差し出した右の手のひらに灯った、ごく小さな炎。

彼女の周囲で燃え盛るものとは比べ物にならない規模であるのに、何故か目が吸い寄せられる存在感があった。

九尾はそれを握り潰し、手の内から飛び出し今にも狂い踊らんとする狂気に満ちた力を、必死に……しかし外面にはおくびにも出さず制御して見せる。


三者三様。

だが一様に"極めた"と豪語するとっておきの奥義を───()()()を、ついに解き放った。





「【血色の(ブラッティ・)流星砲(ストライク)】!!!」



「【無想(むそう)極滅(ごくめつ)】♡」



「【神滅之焔(しんめつのほのお)】!!!」




凝縮された深紅のエネルギーを、ただ相手にぶつけるだけのシンプルかつ強力無比なレーザー砲。

"()()()()()"という神代の異物に、()()()()()()()を注ぎ込み威力を底上げした最大級の次元斬。

そして、神さえも滅する妖狐の業火。

いずれもこの世の兵器では太刀打ち出来ないずば抜けた火力と破壊規模を有する、正真正銘の必殺技だ。

三色の光が世界を満たす。



「────もうやだ帰りたぁい!!」



轟音と閃光で全てが遮られる中。

どこからともなく、そんな情けない声が聞こえてきた気がした。

能力で紫のブロックを生み出して必死に余波をくぐり抜けている、我らがボスから放たれた泣き言である。

ボスの存在を完全に忘れていた人も居るのではないだろうか。

実際、戦っていた三人もこの微かな悲鳴を聞いていなければ、危うく本来の目的を見失うところだった。

……いやまぁ、もう既に手遅れ感は否めないのだが。

三人がボスの存在を思い出すと同時に、外界とは隔絶されたこの異空間に異変が発生した。

おそらく衝突した三つ巴のエネルギーが強力すぎたのだろう。



───ビシッ……!!



最初に響いた音は小さかった。

けれど瞬きをした頃には、バキバキバキッ……!!とあちこちにその音が駆け巡る。

この空間を成り立たせている外殻が、内部から膨張したこの凄まじいエネルギーに耐えきれず崩壊を始めたのだ。

空や地平線、そして地面に無数の亀裂が迸る。

そして。




────ガシャァアアンッ!!!




ガラスが砕けるかのような儚い音を響かせて、異空間は崩壊すると共に三色の光に呑み込まれてしまった。





エヴァントラス編も残すところあと2話です!一体どのような結末になるのでしょう……。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

感想等々、何かしらのリアクションをいただけると、作者は大変喜びます。狂喜乱舞です。ぜひともお願いいたします!( ^ω^ )









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