ウルフちゃんとご褒美デート
ヴィランにも休暇は必須である。
という事でなんとボス、人生初のデートに身を投じようとしているのであります。
ボスはいつもと少し違った私服姿で、賑わう駅前広場にやって来ていた。
少し違う……とは言っても、いつもの黒ロングコートの下がスーツから春にふさわしい爽やかな服装に変化しただけだが。
黒のロングコートと仮面は標準装備である。
しかしこの世界では、コスプレっぽい見た目のヒーローの姿が日常レベルで浸透しているため、彼の姿に対して違和感を抱く者は誰も居なかった。
……さて、ベンチに座ってぼーっとしていたボスさんであるが、そんな彼の元にタタッ!と走り寄る存在が。
「ボスさぁ〜んっ!」
「ぐえっ!?」
愛らしく狼耳をピコピコ、尻尾をぶんぶん振りながらがばぎゅ〜〜!と勢いよくボスに抱きついたのは、秘密結社Xの脳筋幹部こと、ウルフガールちゃんである。
飛びついた勢いで、スチャッとボスのお膝の上にその立派なお尻で乗っかったウルフちゃんは、そのまま胸に実った立派な果実をこれでもかと押し付け、ボスのお顔に頬を擦り付ける。
実に幸せそうな表情だ。
「えへへ〜。お待たせしました!」
「大丈夫、俺もさっき来たところだよ」
平静を装っているがこの男、内心では
ふぉああああああっ!!?柔らかあああっ!?て言うか距離近ぇええええっ!!あああああめっちゃいい匂いするぅうううっ
と全力投球されたバランスボールの如く跳ね回っているのである。
もちろん顔には出さないが。
凄まじい精神力を総動員してポーカーフェイスを崩さない。
いついかなる時でも組織の長たる者、冷静でいなければならないのだ。
「さっ、時間は待ってくれません!早速デートを始めましょう!」
んああああぁあぁあああっ!!
自然な動作でボスのおててギュッ。
しかもちゃっかり恋人繋ぎだ。
過去一の勢いでボスの冷静さが削られる音がする。
もちろん表情にはおくびも出さない。
(ぬぐぐっ。ウルフちゃんめ、やりおる……!)
平気で恋人繋ぎをやってのけたウルフちゃんにボスは戦慄した。
と同時に、このままでは終われないと気を引き締める。
一応これでも一組織の長なのだ。
部下に振り回されっぱなしではボスの沽券に関わるというもの。
(せっかくのご褒美デートなんだ……かっこよくエスコートして、好感度を稼ぐ絶好のチャ〜ンス……!)
なんてボスの邪な思惑とは裏腹に。
とにかくボスとのデートが楽しみで楽しみで仕方が無かったウルフちゃんは、いつまでも尻尾とケモ耳を激しく動かしながらずんずんとボスを先導して歩いていく。
今回のデートは、ヒーロー協会"三英傑"の一人であるマッスルマンを倒したウルフちゃんへの、言わばご褒美のようなもの。
なので今日一日、彼女の行きたい所に行き、したいことをする。
恋愛初心者の非モテ陰キャ男子こと我らがボスが、下手なデート計画を立てるよりも、何倍も心から楽しめるだろう。
………おや、目から汗が。
「ボスさんボスさんっ、見えてきましたよ!」
日差しを受けた花のように、咲き誇る笑顔で振り返ったウルフちゃんにつられて目を向けると、前方に歩道に沿って伸びる長い行列を見つけた。
看板を見ると、最近新しく出来たらしい有名なスイーツ店であることが分かった。
何でも、スイーツ専門の雑誌にも取り上げられたことのある、有名パティシエがオーナーをしているとか。
「ここ、季節のフルーツを使ったパフェがすっごい美味しいんですって!楽しみですぅ!」
「へぇ〜。……お、今月はイチゴのパフェだってさ」
並んでいる間はパンフレットタイプのメニュー表を渡され、先にメニューを見られるようで、長方形の紙をめくりながら至福の時を待つ二人。
行列は長かったが、席が多くメニューも予め見れるためか回転率は悪くなく、二十分前後で二人の番が回ってきた。
「こちらのお席へどうぞ」
「ども」
店員さんに案内されたのは窓際の二人がけの席だった。
席に座ってしばらくすると、別の店員さんが注文を伺いに来たので、ウルフちゃんは季節のパフェとプリンを、ボスはチーズケーキとマスカットのショートケーキ、そしてカフェオレをオーダー。
ウキウキで揺れるウルフちゃんのケモ耳をモフって待っていると、まずカフェオレが届き、続けてあっという間に注文したスイーツが机の上に並んだ。
「あむっ……ん〜!美味しいですぅ!」
「こりゃ並んだ甲斐があったなぁ」
別に舌に自信がある訳ではないボスだが、さすがに一般的なスイーツ店との違いを感じざるを得なかった。
これで特段、高っ!?と思うような値段設定ではないのだから驚きだ。
早々にショートケーキを完食してしまったボスは一度カフェオレを挟み、チーズケーキにも手を付ける。
……と、そこで。
「ボスさん……あ〜ん、ですぅ!」
ウルフちゃんがすっ、と手を添えてスプーンを差し出してきた。
言わずもがな、あの"あ〜ん"だ。
ボスが受けた衝撃は計り知れない。
もはや関節キスとか気にする間もなく、餌に飛びつく魚のごとき反射神経でパクッと食らいついた。
「えへへ……♡」
ウルフちゃん、実に幸せそうである。
なぁあんですかぁ、その表情は!もう好きになっちゃうでしょうがぁあああ……!!とボスさん。
破裂しろ。
お礼にチーズケーキも一口……何故か、あ〜んを強く所望されたのであ〜んであげて、どこか初々しくも微笑ましい雰囲気を撒き散らすお二人。
あまりの甘ったるさに周囲の人々は砂糖を吐き出すマーライオンと化した。
許し難い人災である。
その後も何かとイチャついては無意識に周囲への被害を拡大した二人は、お会計を終えると次の目的地へと歩を進めた。
◇◆◇◆◇◆
さて、砂糖おゲロゲロ事件から程なくして、ボスとウルフちゃんがやって来たのは都内のフィットネスジムだった。
何でもウルフちゃんが定期的に通っているジムの系列店らしい。
「ふんぬっ……!」
ボスが挑戦しているのはウェイトリフティングである。
ベンチプレスの重さは40kg。
初心者でも充分に持ち上げられる重さだ。
細身なボスでは些か不安だったが、それでも根性で持ち上げキープに成功した。
慎重に降ろしてから肩をグルグル回す。
どうやら運動・筋力共に不足しているボスには中々の重労働だったらしい。
「さすがボスさんですぅ!次はもうちょっと重くしてみます?」
「いやちょっと……遠慮しときます……」
一方、ボスが苦戦した40kgを片手で軽々と持ち上げるウルフちゃん。
まるで重さを感じていない様子だ。
さすがフィジカルお化け。
本人曰く、もはや取り付けられる重りを全て取り付けたところで物足りない、という域にまで達しているらしい。
本当に同じ人間か?とボスさん。
激しく同意だ。
限界まで積んだベンチプレスを軽々と持ち上げた途端、ジム内でどよめきが起こったことは言うまでもない。
「ドッキリ番組か……?」
「いや俺には分かる……!あの肉体には、凄まじい筋肉がギュッと凝縮されているのだ……!」
「な、なんだってぇえ!?」
「俺たちには出来ないことを平然とやってのける!そこにシビれる憧れるゥ!」
など。
一般通過した筋肉の妖精達も存分に楽しんでいた様子である。
その後も、一緒にランニングマシンで軽くジョギングしたり、勢い余ってウルフちゃんが破壊してしまった専門器具を、こっそりと修復したりと、ジムデートを楽しんだ。
ちなみに運動着に着替えたスポーティウルフちゃんがセクシーすぎて、ボスさんは終始ソワソワしていたとか。
もげろリア充。
◇◆◇◆◇◆
スイーツ店やフィットネスジムの他にも一日を使って存分にデートを楽しんだボスとウルフちゃんは、すっかり暗くなったタイミングでとある公園に来ていた。
実はこの公園だけはボスが行きたいと提案した場所で、何があるのかとウルフちゃんはボスの腕を抱きながら興味津々だ。
一方ボスは腕を挟む巨大な凶器とふわりと香る甘い匂いに発狂寸前である。
吐血はもうした。
大丈夫、致命傷だ。
「こっちだよ」
瀕死の重体でウルフちゃんを先導し、ボスは傾斜の緩やかな階段を登る。
そうして小さな丘の上にたどり着くと、一気に視界が開けた。
空を見上げれば、都会では珍しい満点の星空。
背の低い木製の柵の向こうに目を向ければ、街の光が織り成す美しい人工の天の川。
二種の絶景を眺められる隠れスポットだ。
ここに連れてくれば何かエモい雰囲気になるやろ……!という、ボスの浅はかな思考とは裏腹に、実に素晴らしい絶景ポイントであった。
「はい、お茶」
「ありがとうございますぅ」
春とは言え、夜になるとまだ若干の肌寒さを感じる日がある。
今日がそうだ。
麓で温かい飲み物を買ったボスはナイス気遣いである。
絶景のよく見えるベンチに腰掛け、二人してお茶を一口。
「今日は楽しめたか?」
「はいっ!ボスさんと一緒でしたから!」
満開の笑顔でそう答えるウルフちゃんに、ボスは優しく微笑む。
途中どこかテンションがおかしかったとは言え、今日は純粋にウルフちゃんに楽しんでもらうことが目的だったのだ。
それを達成出来たのならば喜ばしい限りだ。
「ボスさんはどうでした?その……楽しかった、ですか?」
ギュッと腕に力を込めながら、頬を薄っすらと染め上目遣いで問いかけるウルフちゃん。
実にあざとい。
いつもなら内心で発狂の一つでもしただろうが、チラリと横目でウルフちゃんを見つめたボスは、恥ずかしそうな笑顔で頬をかきながら。
「もちろん、楽しかったよ。すっごくね」
紛れもないボスの本心である。
ちなみにだが、獣人……特に犬系獣人は嗅覚が常人の数倍鋭く、薄っすらではあるが相手の感情を匂いで判別することも可能である。
フィジカルお化けなウルフちゃんはさらにその特性が顕著だ。
なので、ボスが本心から今日のデートを楽しみ、そして喜びを抱いていることを敏感に感じ取ったウルフちゃんは。
「あ……えっと、その………良かった、ですぅ……」
珍しく湯気が上がるほど顔を真っ赤にして俯いてしまった。
いつもの元気っぷりが見事に顔を潜めたしおらしさである。
だが、もちろん抱いたボスの腕は離さない。
むしろさらに抱きしめる力が強くなったくらいだ。
「えへへ♡絶対にまた二人で来ましょうね!」
「……気が向いたらな」
「ぶぅ〜!ボスさんのいけず〜、ですぅ!」
一見素っ気ない返答のように聞こえるが、ウルフちゃんはしっかりと理解していた。
その表情も、声色も、込められた気持ちも。
きっとその日は、そう遠くない内に訪れるだろう。
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・そこにシビれる!憧れるゥ!……「ジョジョの奇妙な冒険」より




