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悪の秘密結社は今日も平和です!  作者: ぽんすけ


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5/7

本当にもう勘弁して……


明日からは19時更新に固定しようと思ってるので、よろしくお願いします!!



今日とて平和が守られている平凡な町を、その男は歩いていた。

のどかな風にたなびく漆黒のロングコート。

仮面に隠れて表情を伺うことは叶わないが、チラリと見える視線は真っ直ぐで鋭い。

秘密結社Xのボス───通称"ファントム"と呼ばれる彼は、行き交う人々に紛れ密かに目的の場所へと向かっていた。



「ふっふっふっ……。今日こそ()()を手に入れるぞ……!」



気合いは充分。

準備も万端。

今日のために、彼は何ヶ月にも渡って耐え忍んできたのだ。

全ては()()を手にするために。

辛い日々を思い返すなどして一歩一歩踏みしめて歩いていると、ついに目的地にたどり着いた。



「……よしっ!」



仮面の下でニヤリと微笑み、いざ来店。

しばらくして。



「やっふ〜!!」



超ご機嫌なボスが、ホップステップジャ〜ンプしながら自動ドアを通って戻ってきた。

何やら胸にはかなり大きな袋が大事そうに抱えられている。



「ついに買っちゃいました、パレットちゃん(アニメキャラ)の限定版フィギュア!プレ値で凄まじいお値段だったけど、後悔は無いぜ!」



まるで宝物を愛でるがごとく、箱越しにパレットちゃんとやらのフィギュアをヨスヨスするボス。

傍から見るとだいぶ危ない人である。

ご覧の通り、あれだけ意味深な雰囲気を醸し出していたにも関わらず、手に入れると息巻いていた()()の正体は、まさかのアニメキャラの限定フィギュアだったのだ。

断じて危険な兵器や極秘情報とかじゃない。

ちなみにお値段なんと五万円超え。

もちろん、ここ数ヶ月の食費やら趣味の予算を削り捻出した、ボスのポケットマネーでのご購入です。



「どこに飾ろうかなぁ……。今飾ってるパレットちゃんのアクスタ少し動かして〜……」



脳内で飾り棚の配置をシミュレーションしているようで、あーでもないこーでもないと幸せそうに呟いている。

無機質な仮面もまた少しほんわかした表情だ。

秘密結社のボスとは。



「くっ、帰るまでの時間が惜しい……!八咫烏(やたがらす)ちゃんを召喚するか……!?」



秘密基地は都合上郊外に設置したため、どうしても帰るまでに一時間以上かかってしまう。

スマホ片手に、団内でもトップレベルのスピードを誇る八咫烏ちゃんを呼び出そうかどうか思案。

彼女が居れば、渋滞を知らない快適な空の旅は二十分も経たず終わるだろう。

いつもは使う機会のない上司権限の発動タイミングか……?と、割と本気で悩むボス。

しかし、さすがに団員をタクシー扱いするのはなぁ……と思い留まったらしく、諦めて歩いて帰ることにしたようだ。

小さく鼻歌を奏でながらオフィス街を抜け、住宅街に入る。

ちょっとした近道だ。

が、数分後、ボスはこの道を通ったことを後悔する。

何故なら。



「「あ」」



バッタリと、会ってしまったのだ。

おそらく友達であろう三人組と共に下校途中だった、制服姿の"勇者"に。






        ◇◆◇◆◇◆






何の変哲もない住宅街で"勇者"にエンカウントした秘密結社のボスさん。

とりあえず、素知らぬ振りですれ違う作戦を決行してみる。



「なっ、ファントム!?何故こんな所に!?」



それはこっちのセリフだわ!と内心でボスさん。

しかし焦ってはならない。

内心のズンと沈んだ気持ちを抑え込み、実に爽やかな笑みを浮かべて応戦する。



「ふぁんとむ……?すまない、人違いだと思うよ(きらんっ)」

「いや、そんな見るからに怪しい仮面と黒コート姿の人物なんて、君以外に居るわけないだろう」



それはそう。

ただ()()"勇者"に冷静な正論をぶっ込まれたボスは、偽の煌めきを潜めて非常に不満気である。

そしてやはり勇者のキラキラはウザい。

なんで日常でもキラキラ振り撒いてんだよ。



「みんな、安全な所へ避難してくれ。俺はこいつを捕まえる」

「おいおい、いくら何でも問答無用は酷くないか?話を聞いてくれたって良いじゃないの」

「交渉のフリをして時間を稼ぐつもりか?悪いが、その手には乗らないよ」

「えぇ〜……」



勇者───ユウキ君の"ヴィランの話を聞く耳は持ちません"オーラを感じ取ったボスは、げんなりした表情でため息をつく。



「なぁ、本当に今日は買い物帰りなだけなんだって。ほらこれ、戦利品」

「戦利品?……なるほど。戦って奪う……それがヴィランという訳か」

「マジかお前」



戦利品ってそういう意味じゃないんだけどなぁ!?とボス、魂の叫び。

しかし後の祭りである。

すっかり戦闘意欲を刺激されたらしいユウキは、右手を天に掲げ聖剣を召喚する。



「変身ッ!」



聖剣を手にしたユウキの元に光が凝縮し、あっという間に戦闘モードにフォームチェンジ。

カバンを路肩に投げ捨て、ユウキは構える。



「今日という今日こそ観念してもらうぞ、ファントム!」

「いやちょ、待っ───」

「問答無用っ!」

「うおっ!?」



制止の声も虚しく、素早い踏み込みと共に横一線に振り払われた聖剣の切っ先がボスの髪を掠る。

慌ててバックステップ。

もちろんフィギュアに衝撃が伝わらないよう細心の注意を払ってだ。



「おまっ……危ねぇな!」

「ふっ!」



間髪入れず襲いかかってきた燕返(つばめがえ)しを彷彿とさせる連撃を紙一重で躱す。



「"ブレイブスラッシュ"!」

「っとぉ!?」



聖剣の袈裟斬(けさぎ)りに合わせて、光を帯びた斬撃が飛びボスの足元に突き刺さった。

直前でジャンプしていなければどうなっていたかは、豆腐のように裂けたコンクリートで推し量るべし。



「どうした、反撃しないのか!」

「くっ……!」



空中に身を躍らせたボスの元に、鋭い剣閃が殺到する。

息をつく暇もないほどの高速斬撃だ。

フィギュアを庇いながらでは全てを受け流すことは出来ず、ロングコートの裾やワイシャツの襟などに浅い裂け目が増える。

ユウキの蹴りを体を盾にした上で左腕で受け、完全に衝撃を相殺しつつ壁を利用して地面に着地。

空を仰ぎ見たが、太陽の光が降り注ぐそこにユウキは居なかった。



「こっちさ」



瞳だけ向けると、いつの間にか懐に潜り込んでいたユウキと視線が交差した。

下向きに構えた聖剣には極光が凝縮されており、見るからに凄まじいエネルギーが内包されている。

間違いなく住宅街で放って良い規模の攻撃じゃなかった。



「"新羅天翔(しんらてんしょう)"っ!!」



眼前で振るわれた聖剣。

剣身から溢れ出した極光が視界を満たし、一筋の流星となって天へと昇る。

遥か上空まで駆け巡った極光は、僅かな残光を残して派手に爆散した。

多少の余波が住宅の窓を揺らしたが主だった被害は皆無な様子だ。

一応、ヒーローなだけあって周囲への被害とかは考えていたらしい。

巻き起こった土煙の中からボスが、続いてユウキが飛び出してくる。

直前で躱したようで、ボスもノーダメージ。

ロングコートの土汚れはフィギュアを庇った名誉の負傷だ。

再び高速の斬撃を繰り出しながら、ユウキはキランッと輝く歯を見せ笑みを浮かべる。



「さっきから、その荷物を過保護なまでに庇っているね。もしかして、重要な兵器でも隠しているのかな?」

「……」

「沈黙はつまり、肯定……という事だね!」

「違うわっ!あぁもう面倒くせぇ!」



こいつ本気で一回シバいたろか……!

ボスの頬がピクつく。

本気と書いて"マジ"だ。



「しっ!」



ボスの反応を見て、袋の中身が"大事なもの"であると認識したのだろう。

隙を作ろうと、フェイントとしてその袋───中身の箱に攻撃を仕掛ける()()をした……のだが。

それが良くなかった。

いくらフェイントでありフリだったとしても、またそれをボスが動作から理解していたとしても。

大事な大事な限定版パレットちゃんに対して乱暴しようとした罪は重い。



───パシッ!



その音はやけに乾いて聞こえた。

ボスの体に伝わった衝撃が足を通って地面に抜け、コンクリートに放射状のヒビが入る。



「なにっ!?」



ユウキが驚くのも無理はない。

聖剣の切れ味は天下一品。

コンクリートさえ豆腐のように割く。

そんな聖剣が……()()()受け止められたのだ。

まるで棒切れでも掴むかのように。

反射的に身を引こうとするユウキだが、それよりも早く聖剣を引っ張られつんのめってしまった。

とんでもない馬鹿力だ。

そう戦慄した直後。



「ごはぁっ!?」



今度は腹に凄まじい衝撃が走る。

ただの腹パンだ。

咄嗟に力を込め全力でガードしたおかげで軽く鎧が凹む程度で済んだ。

しかし、それでは終わらなかった。

驚くべきことに、一度受けた衝撃と()()()()()()()()()が再び腹部を襲ったのだ。

ボスは動いてすらいない。

一度目の打撃の状態から微動だにしていない。

一体何が……!?

想像する間もなく、ユウキはぶっ飛ばされ地面を転がった。



「おいこらお前、今パレットちゃん狙ったろ……ぶっ飛ばすぞこの野郎」



もうぶっ飛ばされてます。

バカヤローコノヤローと893みたいな顔面でお怒りのボスさん。

どうやら彼の逆鱗に触れてしまったらしい。

……はいはい、ヒーローって平気でそういう事するんですね。

よろしい、ならば戦争だ。



「ぱ、ぱれ……?けほっ……な、なんだって……?」

「お、パレットちゃんをご存知ない?そっちがその気なら、二時間みっちりと布教という名の拷問に付き合わせてやるが………今日のところはこれくらいで勘弁してやらぁ」



ユウキ君はどうやらアニメには疎いようだ。

パレットちゃんの箱を大事そうに抱えてボスは踵を返す。

口上が完全に893のそれである。



「……あ、もしもし八咫烏ちゃん?ちょっと迎えに来て欲しいんだけど……うん、うん……スイーツ?……うん、うん……ああ、もちろん。じゃあ駅前で待ってるね」



仏頂面で電話した相手は八咫烏ちゃんだった。

イケメン勇者のせいで余計に時間がかかってしまったため、結局お迎えをお願いすることにしたらしい。

もちろんタダでとは言わず、駅前の有名スイーツ店に寄ることで手を打ってもらった。



「んじゃ今日はこれで」

「……ま、待て……!」

「せめて次回エンカウントするまでに、"水彩画シリーズ"は履修しておくんだな」

「だ、だから何の話だ……!」



水彩画シリーズとは、パレットちゃんが登場する"水彩画少女は〜"で始まる青春ラブコメ作品の総称である。

原作ライトノベルは完結済の計十五巻。

アニメは三期まで放送されている。

せめて水彩画シリーズを履修し、この限定版パレットちゃんの素晴らしさを理解しろとおっしゃっているのだ、この秘密結社のボスは。

本当に何を言ってるんだこの人。

理解不能な要求と腹部の痛みで未だに蹲ったままのユウキを置いて、ボスはさっさと駅の方に向かって行ってしまった。






────オマケ────




「美味しいっすね〜」

「美味しいねぇ〜」



元ヒーローがオーナーを務めているという有名スイーツ店で、八咫烏ちゃんと合流したボスは優しい甘さのデザートをたくさん頬張り、無事に消費したSAN値を回復したそうな。





最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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