どうも、一般通過オタクです
やっと新章突入です!
エピローグ祭りに付き合ってくださった皆様、本当にありがとうございました!
「行ってきま〜す……っと」
財布とスマホだけポケットに入れて、ボスは隠しエレベーターに乗り込む。
現在、朝の九時半。
外に出ると、雲一つない青空が広がっていた。
夏に差し掛かりそれなりに気温も暑くなってきた頃合だが、ボスの服装は相変わらずのロングコートとワイシャツだった。
もちろんデフォルトの仮面も忘れない。
廃墟を出たところで、ジャージ姿のウルフちゃんにばったり会った。
「あっ、ボスさん!おはようございます!ですぅ!」
「おはー。今日はジョギング?」
「はいです!チェリーちゃんも一緒ですよ!」
「おはよ、ザコのボスさん♡」
くすくすとメスガキっぷりを遺憾無く発揮した笑みを浮かべ、チェリーちゃんがボスの腹部をツンツンする。
さりげなく呼び名が"ザコのお兄さん"から"ザコのボスさん"に変わっていた。
本人曰く、敬意を込めてとのことらしいが……。
前に「ザコ」が付いてる時点で敬意とは………とボスが遠い目をしたのは言うまでもない。
むしろザコのボスさんの方が不名誉では?
「仲良く特訓です!」
「……ああ、そういや弟子入りしたんだもんね。もはや死に設定と化してるけど」
「そういうこと言わないの、ザコのボスさん」
チェリーちゃんから「メッ!」された。
「ザコのボスさんはどこか行くの?」
「ちょっと本屋にね。水彩画シリーズの番外編がついに書籍化されたんですよ……!!」
ボスは拳を握り力説する。
そう皆さんご存知、ボス最推しのキャラクター"パレットちゃん"が登場する水彩画シリーズ。
原作は数年前に完結しているものの、実はWeb版では後日談を含む豊富なアフターストーリーが、未だに更新され続けているのだ。
本編では絡みの薄かったキャラ達の会話が見れたり、ほのぼのした尊い日常シーンを拝見させていただいたり……。
作者様には感謝しかない。
本日、なんとそのアフターストーリーの一部がついに書籍化!
店頭に再び、パレットちゃんのカラーイラストが帰ってきたのだ。
「……あれ。でもザコのボスさん、この前通販で注文してなかったっけ?」
確かにチェリーちゃんの言う通り、ボスは事前にネット注文を済ませている。
しかも特典の関係で複数のサイトからのご購入だ。
おかげさまでボスの財布はすっからかんである。
「いやね、駅前の書店にパレットちゃんの等身大パネルがあるらしいんすよ。しかも限定版はアクスタ付き……これは行かねば!買わねば!」
ボスは熱く語る。
先日、アジトから最も近い大きな書店がSNSにてとある投稿をしていたのだが、それを見てボスはベッドから転げ落ちた。
水彩画シリーズ最新刊の発売を記念して、店頭にパレットちゃんの等身大パネルが設置されたらしいのだ。
しかもイラストは、原作シリーズのイラストレーターの完全新規書き下ろし。
行かねばなるまい、これは。
「という訳で行ってくるぜ!チェリーちゃんも頑張ってねー!」
サムズアップで応援の言葉を残し、ボスは駆け足で町に向かって行った。
◇◆◇◆◇◆
ところが。
書店に向かって勇み足で歩くボスの行く手を遮る存在が居た。
……いや、本人にその意思は全くないのだろうが、ボスからすれば厄介な相手にエンカウントしてしまった。
「───あっ!」
一瞬の硬直の後、向こう側もボスの存在に気が付いたようで、オシャレなサングラスの奥で目を見開きながら驚愕の声を漏らした。
英字がプリントされた半袖の上に涼しげなチェック柄の上着を羽織り、デニムのショートパンツからは健康的なスラリとした生脚が惜しげも無く晒されている。
小さなポーチを肩にかけており、身バレ防止用と思われるサングラスと帽子で隠してもなお、彼女の放つ雰囲気は誤魔化せていない。
とにかく顔面がお強い。
まるでモデルさんだ。
メイクは控えめだが素材が良いためか自然と目を引く美貌があり、ハーフアップにした栗色の髪は非常に滑らかで絹のようだ。
彼女の周りだけ、まるで別次元のようにキラキラと輝いている。
どこぞの某勇者君とは違って、なんて美しいキラキラなのだろう。
これなら眩しくても許せる、とボスは真面目に思った。
それはそれとして。
(どないしよ……)
困った。
実に困った。
町に繰り出した途端、まさかヒーローとエンカウントするなんて……。
「……あっ、あの……!私のこと、覚えてますか……?前に、ライブで………」
女の子が僅かに頬を染めつつ、上目遣いで聞いてくる。
なんて凄まじい破壊力。
実にあざと可愛い仕草だ。
醸し出すオーラと相まって、たった一撃でオタク共の心にぶっといアンカーをぶっ刺した。
行き交う通行人の中には見蕩れたまま視線を外せず、ゴチンッ!と電信柱に激突したり、目尻を釣り上げた彼女から強烈なビンタを頂戴したりする男も見受けられる。
何を隠そう、正面からそれをぶちかまされたボスもまた、内心で吐血する程の重傷を負わされた。
危なかった。
パレットちゃんが心の大半を占めていなければ、いくらボスと言えど「おっふ……」と胸を抑えていたかもしれない。
一番恐ろしいのは、これをおそらく自然にやってのけていることか……。
「えっと……ルーシィちゃんだよね……?どうしてここに?」
念のため、小声で確認するボス。
ボスがエンカウントしたヒーローの正体は、なんとあの超人気アイドルグループ・"デモンソウルズ"のリーダー、ルーシィちゃんであった。
以前、ボスは二号君とラプラスの家所属のヴィランに誘われて、彼女達デモンソウルズの現地ライブに参加した。
しかしそこで武装集団による立てこもり事件に遭遇。
危うく殺されそうになったルーシィちゃんをボスが助けたのだ。
その際、お礼をしたいと連絡先を求められたのだが、ヒーローを兼任している……しかも人気アイドルに個人的な連絡先を教えるのは如何なものか。
そう判断したボスは逃げるように退散した。
そのため現在まで特別な関わりは一切無かったのだが………。
「え、えへへ……♡」
ボスが回想してる間。
一方でルーシィちゃんはと言うと、右手で口元を覆いながら、ちっとも隠せていない実に幸せそうな表情を浮かべていた。
口元はニヨニヨと緩みまくり、頬はすっかり朱に染まっている。
まるで全身から幸せハートマークが振り撒かれているようだ。
推しから認知されていた事が余程嬉しかった様子。
「えっと……ファントムさん、これから駅前の〇〇書店に行くんですよね!」
「……ん?うん、そうだけど……」
「あの!私もついて行っていいですか……?少しだけでも、お話しがしたくて」
本来、断るべきなのだろう。
お礼をしたい……という建前は理解出来るものの、いかんせん相手は仮にもヒーローである。
お互いに「じゃあ一緒に行こうか」と簡単に言える立場じゃない。
しかし………しかしだ。
だがしかし!
それでも!
「………じゃあ、一緒に行こっか」
「っ!やったぁ!ありがとうございます!」
ボスはギャルの上目遣いに屈した。
ルーシィちゃんが前屈みになった際、ふよんと揺れて視界の大半を占めた肌色の谷間に、ボスは屈したのだ。
後悔はない。
仮にこれが罠だったとしても、決して後悔はない。
僅かな不安で今にも崩れてしまいそうだった表情が、ボスの一言でパァ……!と輝きを取り戻し、眩しい笑顔を浮かべる。
ルーシィちゃんのはにかんだ笑みは、ボスのあらゆる疑念や不安を容易に消し去った。
罠でもいい!罠でもいいんだッ!!
もはやボスの理性はまともに機能しなくなっていた。
ボスの辞書に「自重」という言葉は存在しないみたいです……。
・罠でもいい!罠でもいいんだッ!!……『ポプテピピック』より
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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