マッドサイエンティストは欠かせないよね
「さて、と……」
ある日。
ボスと三号君は秘密基地の端にある研究室にやって来た。
次回の出撃の際に、ぜひ開発品の試運転を頼みたいと科学者さんに頼まれていたからだ。
二人はそれを受け取りに来たのだが……何故か、ボスの足は研究室の入口でピタリと止まって動かない。
理由は三号君も身に染みて理解しているので、ただ視線を逸らして黄昏れることしか出来なかった。
「ボス……」
「……やめろ、皆まで言うな」
二人とも、見るからに気分はどんより曇り模様である。
それも仕方の無い事だ。
何せ秘密結社Xの科学者さんは、万人が"これは酷い"と口にするレベルのマッドなサイエンティストさんなのだから。
そりゃあ研究室に入る気も引けるというもの。
今回は一体どれほど恐ろしいものが待っているのか……。
意を決した二人は、そーっと研究室の扉を開けた。
『………』
そして、研究室の中央に浮かんでいる巨大な物体を目にして、そっと扉を閉じた。
思わず顔を見合わせるボスと三号君。
──あーはいはい、見間違いね。
──そうに違いない。
と目線で会話。
今度はさらに少〜しだけ開けて中を覗き見てみる。
『……』
が、案の定それは確かに居た。
なんかゴゴゴゴゴッ……!!と尋常ならざる雰囲気を纏っている。
何あれ。
「巨大ロボ……?」
ボスがポツリと一言。
そう、巨大ロボ。
角も含めた全長は五メートル程と、特撮番組で目にするような巨大ロボよりは小さいと言わざるを得ないが、間違いなく自分達よりも遥かに巨大なロボである。
それが、謎のエネルギーを背面の翼から噴出しながら空中浮遊していた。
無駄にスタイリッシュなボディをしており、ビー〇サーベルを構える姿は実に様になっているではないか。
あえてもう一度言おう、何あれ。
「おや?」
「「っ!?」」
ふと巨大ロボの横に立っていた人物が入口の方に目を向けた。
どうやらボス達に気付いたらしい。
ボスと三号君の肩がビクリと跳ね上がる。
「や〜や〜。待っていたよ、ボス」
薄暗い研究室に廊下の照明が差す。
白日の元に晒されたのは、白衣のみを身にまとったナイスバディであった。
「服を着なさい、服を」
「……おや。これは失敬」
まさかの裸。
裸を晒しているにも関わらず、全く恥ずかしげもなさそうな様子で服を探す彼女こそ。
多方面からマッドサイエンティストとして恐れられている、我らが秘密結社Xの科学者、"マッド・ノクターン"ことソアレさんである。
「あったあった……よいしょっと」
ゴミ山の中から見つけた、シワまみれの縦セタタートルネックとパンツを装着したソアレ氏。
改めてメガネをクイッとやりつつ、自慢の作品をボスと三号君に見せびらかす。
「見たまえ。ボスがロマンだと言っていた巨大ロボ……その試作品が完成した」
「……え、もしかして次の出撃で試運転するのって、これなん……?」
「まさか。実践で運用するにはまだまだ改良が必要さ。現状の理論だと五分間の起動が限界だね」
「一応五分間は戦えるんすね……」
「当たり前さ。戦えないのならば、巨大ロボの意味が無いからね」
短時間とは言えこれが暴れるのか……と頬が引き攣る三号君。
「実はまだコックピットにまで手が行っていなくてね……。今はこのコントローラーで操るのが限界だよ」
「ほう」
渡されたのはゲーセンの格ゲーなどでよく見るコマンドタイプのコントローラー。
単純なコマンド入力である程度は動かせるとの事。
ボス、未完成とは言え男のロマンを前にウキウキが抑えられず、言われるがまま軽く操作してみる。
すると、ほぼラグ無しに巨大ロボが指定された動きを見せる。
「「おおっ!」
これにはボスと三号君も大盛り上がりである。
しばらく新しいおもちゃを与えられた子供のように、大いにはしゃいでいた二人だった、が……。
「この赤いボタンなんだろ」
「何すかね。押してみましょうよ」
「……あ、それは───」
ソアレの制止も虚しく、ボスはコントローラーの端にあった赤いボタンを押してしまった。
すると。
『ピピッ───!!』
巨大ロボの瞳が真紅に染まり、その閃光は瞬時に回路を通って全身に巡る。
おや、嫌な予感。
ボスと三号君の表情が引き攣った、次の瞬間。
ボガアアアアアアンッ!!!
巨大ロボはド派手に自爆した。
凄まじい作画の爆発でゴミ山及びボス達が吹き飛ばされ、ぐちゃぐちゃだった室内がさらに掻き回されて汚いシェイク状態だ。
「……なして?」
「……巨大ロボの自爆は………ロマンだろう……」
「納得……」
「いや納得しないでくださいよ、ボス……」
ゴミ山に頭から突き刺さったボスと、M字開脚でパンツ丸出しという際どい体勢のソアレさん。
色々と残念な上司二人に、三号君は疲れたようにツッコむことしか出来ない。
「………あ、これ試して欲しい試作品ね。レポートよろしく……」
「いや終盤で雑っ」
えー……はい、試作品実用編です。どうぞ。
◇◆◇◆◇◆
なんやかんやあって、ソアレから試作品を受け取ったボスは、エックス戦闘員諸君を連れていつもの町に出向いた。
しかし、いつもとは違い彼らの顔色は冴えない。
「ボス……これ、本当に大丈夫なんですか……?」
「……たぶん………」
「自信も説得力もない……」
「俺達、生きて帰れんのかな……」
上から一号君、与えられた試作品は"超足が速くなるブーツ"
ボス、"変幻自在!ナノマシン仮面!"
二号君、"怪力を得る秘薬"
三号君、"防御力が天元突破する薬"
である。
もう心配しかない。
特に薬品のモルモットにされた二号君と三号君が不憫でならなかった。
……と、そこへ。
───ザンッ!!
「おわぁ!?」
突如として草むらの向こうから斬撃が迸り、大地にその証を刻みつつ面々を分断した。
悲鳴を上げた一号に遅れて、二号がその異様な光景に驚愕の声を漏らす。
「な、何だぁ……!?」
そして驚きから抜ける前に、お天道様の光を遮る者が上空に躍り出た。
影でそれを察知したボスとエックス戦闘員達はすぐさまバックステップ、道路を塞ぐように陣取る。
「まさかこんな所で会えるとはね……。さあ、今日こそ決着をつけようじゃないか、ファントム!!」
キランッ、と効果音でも入りそうな爽やかさ全開で登場した私服姿の青年。
何故か、彼の周りだけ太陽光を反射しているかのようにキラキラ輝いており、何故か、局所的に吹いた風が彼の髪を爽やかに揺らす。
騒ぎを聞きつけやって来たのは何故か大半が女性で、もれなく黄色い声援を彼に送っている。
いかにも好青年っぽい茶髪の彼だが、右手の物騒な片手剣のおかげでヒーローであることは容易に想像出来る。
……と言うか、ガッツリ顔見知りだった。
「……」
ボスは口をへの字に曲げて心底不服そうである。
うわぁ……とドン引きしている内心を欠片も隠そうとしていない。
「待った待った、今日はまだ何にも悪いことしてないよ」
「どうかな?僕が居なくなったら、何か悪行をするに違いない。そんなこと、この僕───ユウキが許さないぞ!」
「こいつ話聞かねぇなぁ……」
問答無用!
言外にそう感じさせる決めつけの早さで、ユウキと名乗った青年は変身ポーズを取った。
太陽光の輝きが彼の胸のアクセサリーに吸い込まれ、一際眩い光を放つ。
「変身っ!"勇者モード"!」
その名の通り、異世界転生モノでは鉄板の勇者っぽい見た目に変身したユウキが、光を拡散させ剣を構える。
眩しい。
とにかく眩しい。
爽やかスマイルがなんかイラッとする。
歯をキランッ、ってさせるな。
「おのれェ、何故こいつの周りにはいつも女の子ばかり……!」
「処す処す」
一号と二号が嫉妬で壊れかけだ。
ボス、見たくないものを見ないためにそっと瞼を閉じる。
まるで菩薩か何かのような穏やかな表情である。
「ボス、一号行きます!」
「……!(サムズアップ)」
一号君、嫉妬により試作品への恐怖を克服。
説明書に従い、左右のブーツの側面にあるそれぞれの赤色ボタンをプッシュした。
するとブーツの背面から、ゴォォォッ……!とジェット機のような重低音と共に、圧縮された空気が放出される。
どうやらこれで準備完了らしい。
「ふっ!喰らえ、ユウキぉおあ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あっ!!?」
一号君は凄まじい速度で掻き消え、凄まじい速度で河川敷を飛び出し、凄まじい速度で川に入水した。
ぶくぶくとしばらく泡が浮かんでいたかと思えば次第に落ち着き、シーン……と辺りは静まり返る。
どうやらブーツが重くて上がって来れないらしい。
「一号ぉおおおっ!!メディーック、メディーック!!」
ボス、ロングコートを脱ぎ捨て美しい飛び込みを披露。
二号三号は「あちゃ〜……」と薄々予感していた結果に呆れながら担架を用意する。
「ど、どういう事なんだ……?」
すっかり置いてけぼりなユウキ君、さすがに動揺が隠せない。
当然だろう。
彼の視点からすれば、実に奇っ怪なヴィランに見えるに違いない。
ちなみに一号君は無事にボスに引き上げられ、担架の上で観戦することになりました。
……さて、ある意味で勇者な一号君に続くのは二号君である。
「うおおおっ!ウルフちゃんみたいな怪力でこのイケメンを倒してやるっ!二号行きます!」
「おう、やったれ二号君!」
「頑張れ二号!」
数少ない応援を背に、二号君は絶対にやばいであろう"怪力を得る薬"をグイッと飲み干す。
数秒は特に変化が起こらなかった。
観衆も含め、全員が頭上に「?」を浮かべた頃だ。
二号君の体に変化が訪れた。
「おおおおっ!?」
メキメキッ……!!と肉体が強制的に変質する不気味な音が響く。
十秒ほどの変身の末、誕生したのは───。
「思ってたのと違ぁあうっ!!」
四つん這いに打ちひしがれる二号君だった。
腕の筋肉だけが異常発達したせいで、この上なくバランスの悪い肉体になってしまった二号君だった。
想像して欲しい。
マスコットのようなモブ戦士君の腕だけが、ボディビルダー顔負けのゴリマッチョになった光景を。
アンバランス過ぎて可哀想。
「なんか腕だけ画風違くね?」
「あれたぶん、オラオラ言う系の作画じゃ……」
上裸で服を絞っていたボスが思わず呟く。
おそらく三号君の言う通りだろう。
オラァ!とか無駄無駄ッ!とか言いそう。
「ちくしょうっ!せめて一撃入れたらァアア!!」
「むっ!」
いくら見た目が奇っ怪とは言え、見るからに筋肉量は本物。
マッスルマンよりもナイスバルクと言って良いだろう。
放たれる一撃は確実に威力のあるものとなる。
ユウキは気を引き締め直し、攻撃に備える。
「どりゃあああっ!」
「ふっ、やるじゃないか!」
不格好ながら確かに重みのある一撃を剣で受け流しつつ、ユウキは薄っすらと笑みを浮かべる。
爽やかすぎて黄色い声援が止まらない。
「勇者死すべし!」
「残念。僕は皆の声援がある限り、絶対に負けられないんだ!」
「ぐはぁ!?」
勇者の間合いに踏み込みすぎた二号君、峰打ちではあるが鋭い一撃を胴体に受け、派手にぶっ飛ばされた。
二号君、ダウン。
「ボス、三号逝きます」
無言の頷き。
三号君は試作品である"防御力が天元突破する薬"を飲み干した。
「おおおっ!?」
見る見るうちに、三号君の肉体が鉄のような銀色に覆われてカチコチに固まってしまった。
勇者が様子見の一撃を放つ。
しかし、響いたのはガギィインッ!!という鈍い音。
「なにっ!?」
なんと、勇者の一撃を受けても微動だにせず無傷だ。
確かにこれは防御力が天元突破している。
今回の試作品の中では間違いなく当たりの部類だろう………と、ボスは思っていました。
ところが。
「あの……」
何やら言いづらそうな三号君の異変に最初に気付いたのは、正面に居た勇者であった。
この硬さ、どう攻めるべきか……!と真面目に悩んでいた彼だが、どうも様子のおかしい三号君に思わず眉を寄せる。
「ええと……動けないんで、ギブで」
「まさかの弊害」
ボス、天を仰ぐ。
なるほど、確かに天元突破した防御力を得られたのだろう。
しかしその代償に体が完全に鋼鉄化したためか身動きが取れず、おまけにとんでもなく重いと来た。
こりゃダメだ。
「き、君達、一体何をしに来たんだ……」
勇者からの戸惑いの声が秘密結社Xの面々に突き刺さる。
一人は速すぎるあまり速度を制御出来ず川で溺れ、一人は腕だけムキムキになり、一人は硬いけど動けないという致命傷。
もれなく胸に突き刺さる的確なツッコミであった。
「仕方ない……こうなったら、俺の出番ですか」
「……ふふっ。やっとその気になったか、ファントム!」
勇者が無駄にキラキラを撒き散らしながら再び剣を構えなおした。
……帰りてぇ〜。
が、このまま敗走なんてあまりにもダサすぎる。
せめて一矢報いなければソアレも納得するまい。
「──行くぞ、ユウキよ!」
「来いっ、ファントム!」
ボスが与えられた試作品は"ナノマシン仮面"。
その真価をお見せしよう。
「必殺……"ナノマシン仮面"っ!」
「おわぁっ!?」
ボスが腕をクロスすると同時に、いつもとは違った造形の仮面がさらに変化。
口元と上部が削れ、その代わりに側面から触手のようなうねる流動体が二本伸び、勇者に襲いかかった。
ナノマシンと言っても、細胞をどうこうする医学的なナノマシンではなく、いわゆるアイア〇マンのような変幻自在な金属的な物体である。
その性質を存分に発揮したナノマシンの触手が、自在に長さや太さを変えながらひたすらに乱舞する。
「ぐっ、くくっ!やるじゃないか!」
人間を相手にする場合とは全く異なる凄まじい密度の攻撃に、さすがの勇者の頬にも冷や汗が伝う。
しかし、「だが……」と付け足した勇者はその汗すらも爽やかに煌めかせ。
「残念だったね!君のタコのようなその攻撃も、僕には届かない!」
「ヌルフフフッ!それはどうでしょうねぇ……!」
わざわざどこかで聞いたことがある笑い方を披露している辺り、ボスも意外とこの戦いを楽しんでいる節があるのかもしれない。
これからさらに熱くなる……!
そんな確実に白熱するであろう雰囲気が、場を満たそうとしていたその時。
「なんか……キモくね?」
「うん、ちょっと……」
「仮面から触手ってのがね」
なんて、ギャラリーがボソボソと呟いた小さな声を、優秀なボスイヤーは聞き逃さなかった。
それも一人や二人ではない。
複数箇所から聞こえてきた。
ボスは、膝から崩れ落ちた。
とても美しい四つん這いだ。
へにょっていた触手が静かに仮面に戻る。
……ちょっと、調子に乗りすぎたようだ。
「ど、どうしたんだファントム!腹痛か!?」
勇者的には熱いバトルの最中だったので、突然それを放棄したボスに納得がいかない様子だ。
いや、刺してきたんですよ、君のギャラリー達が……とボスさん。
「……きょ、今日のところは撤退してやらぁ!」
「覚えとけよぉ、イケメン野郎!」
「えぇ……」
何とか立ち直ったボスが一号を、怪力を得た二号が三号を担ぎ、非常にかっこ悪いことこの上ない捨て台詞を吐いた秘密結社Xの面々は、スタコラサッサと撤退して行った。
取り残された勇者君は、もはや呆然と佇むしか出来なかったと言う。
────オマケ────
一応きちんと試用レポートを書いて提出したボス達。
「あっはっは。ごめんごめん、おかげさまで良いデータが取れたよ」
「じゃないと困るわっ」
ボス、珍しくご立腹な様子。
「まぁまぁ、お礼にこれをあげるよ」
「なにこれ」
「ボスが試用したナノマシン仮面……アレのデータでさらに改良を加えた、"ナノマシンメイド服"さ」
「………ほう」
「サイズはイリスに合わせておいたよ」
「素晴らしい!さすがだ、マッド・ノクターンよ……!」
「ははは、よしたまえ。……そうだ、きちんと脱衣機能と戦女神モードも搭載している。好きだろう?戦うメイド」
「ああ、大好きだ」
何やら怪しい会話を続ける二人の背後に、音もなくすっ……と歩み寄る影が一つ。
「これからも秘密結社Xのため、尽力してくれ」
「任せたまえ」
熱くハンドシェイク。
そこで。
「……何やら楽しそうですね、ボス」
「っ!?」
ビクリとボスの肩が震える。
ギギッ……と錆び付いた機械のような動作で振り返ると、そこには冷めた瞳のイリスさんが。
「……(ニッコリ)」
直後。
秘密基地に、「アバババババッ!?」というボスの悲鳴が響き渡ったとさ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
誤字脱字報告、感想等やブクマ、評価など、ぜひともよろしくお願いします!!(*^^*)
・ビームサーベル……『ガンダム』シリーズより
・オラァ!とか無駄無駄ッ!……『ジョジョの奇妙な冒険』イメージです。作者は3部が1番好き!
・アイアンマン……『アイアンマン』より
・ヌルフフフッ……『暗殺教室』より、殺せんせーの笑い声
明日も12時過ぎに更新でーす




