液体少女の本領
前回のあらすじ。
ハグトーレがハゲてた。
以上。
「あぶなーーーいっ!!」
二号君を担いだボスが、前傾姿勢でかっこよくジャンプ。
体操選手のような見事な身のこなしで一回転し、衝撃を分散させる五点接地によって素早く体勢を立て直した。
猛ダッシュでボスがその場を離れた直後、彼を追って変形した液体の腕が振り払われる。
鞭のようにしなやかで、研ぎ澄まされた刃のように鋭い。
相反する性質を持った液体を伸縮自在に操り、少女はボス達を追い詰める。
「…………ふんっ、やってくれるではありませんか……」
打ち捨てられたカツラを回収したハグトーレが、青筋を額に浮かべつつ頬をひくつかせている。
正直、コイツがハゲてようがハゲてまいがどうでも良いので、ボス達からすれば、もはや眼中に無かったのだが……。
決してバレたくない秘密を暴かれたハグトーレは、スーツの内ポケットをまさぐり、強引に何かを取り出した。
それは、簡素なデザインのリモコンだった。
「地獄を味わうがいい!」
ハグトーレは怒りのまま、中央の真っ赤なボタンを力強く押した。
するとシミュレーションルームの上の方にあった二つのシェルターが開き、何やら大砲のような筒状の装置がせり上がってくる。
「な、なんだ……?」
未だボスに担がれていた二号君が、迫る液体の触手に怯えつついち早くその変化に気が付いた。
遅れて察知したボスと八咫烏ちゃんが慌ててハグトーレに視線を向けると、彼は既に半円形の透明なシェルターの中に引きこもっており、ニヤニヤしたいやらしい笑みを浮かべていた。
「ちっ!」
ボス、舌打ち。
面倒なので、「アイツ人質にしてやろうか……」と実に悪党らしい考えが巡る。
しかしいざシェルターを破壊すべく、雷を放とうと手のひらを向けた瞬間。
────ザバァアアッ!!
真上から滝のように水が降り注いできた。
それも結構な勢いで。
思いっきし頭をやられたボスが、徐々に上昇しつつある海面に無様な姿でぷかりと浮かび上がる。
うつ伏せである。
潰れたカエルのように、残念な部類のうつ伏せである。
「ボスーーーっ!?」
「…………今日一の致命傷かもしんない……」
危うく白目を剥きかけたボスを助けているうちに、水位はみるみる上昇。
あっという間に足が地面につかない程にまでなってしまった。
それでも降り注ぐ水は限界を知らない。
どこまでもどこまでも増えていく。
「うぅ……これじゃあ、しばらくは飛べそうにないっすね……」
水面から顔だけ出しながら、八咫烏ちゃんが困ったように呟いた。
彼女の漆黒の翼は、それはもうしっかりと水に浸かってしまっており、水分を大いに吸収している。
間違いなく、この翼で飛ぶのは困難だろう。
諦めた八咫烏ちゃんは能力を解き、視線を水を吐き出し続ける筒状の装置の方に向けた。
「どういうつもりっすかね」
「さあ。……て言うか、あの液体少女どこ行った?」
「あれ、そう言えば……」
三号君が首を傾げる。
まさかの水責めにビックリしてつい気が逸れてしまった間に、例の液体少女の姿が見えなくなっていた。
どこかへ行ってしまったのだろうか。
ハグトーレ同様に避難した?
一号君も顎に手を当てて何やら思案している様子。
『───ふふふ、聞こえるかね?諸君』
壁に設置されたスピーカーからハグトーレの声がした。
エックス戦闘員からヤジが飛ぶが、おそらくシェルターの内部には聞こえていないだろう。
『君達に良いことを教えてやろう。393号の能力の一つは、"液体操作"だ。つまり───』
ボス、猛烈に嫌な予感がして頬が引き攣る。
どうやらそれは他のメンバーも同じなようで、総じて凄まじく嫌そうな顔をした。
その横で、筒状の装置から噴出していた水が徐々に勢いを失い、やがて完全に出なくなった。
そして入れ替わりで若干水位が低くなり、目の前の水面が山のようにずもももも……と膨らんでいく。
皆、ドン引きの表情である。
『はぁっははははっ!!やってしまえ、393号!貴様の力を見せつけてやれ!』
『…………』
姿を現したのは、超巨大な液体少女の上半身。
圧倒的な大きさでこちらを見下ろしている。
彼女の能力は"液体操作"。
つまり、この部屋を満たす水、その全てが彼女の武器となり得るのだ。
いよいよ章ボスっぽい力を発揮してきましたね、393号ちゃん。
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