筋肉モリモリマッチョマンの変態
「うへぇ〜……何だこの豪華メンツ……」
次の階層で待ち構えていたのは、全身レザー装備の筋肉モリモリマッチョマンだった。
縁の細いサングラスを頭にかけ、拳銃やナイフなど様々な装備を黒い防弾ベストや腰のポーチに収納。
背中には斧とサブマシンガンがクロスして背負われていて、剥き身の鉈の背で肩をトントン叩いている。
頬には十字の大きな傷。
胴体にはピチピチのシャツに浮き出た斜めの切り傷が見える。
かなり良い体格をしており、身長はおそらく180cm近い。
心底参ったような仕草で「お手上げ……」とおちゃらけているが、簡単に間合いを詰められない独特の気配を纏っている。
「ったく、少しは人数削っとけよ……」
どうやらその男───ガルバンは、秘密結社Xの戦力がまだまだ残っていることが不満ならしい。
出来るだけ楽をして、効率良く依頼を達成したかった彼からすれば不都合も良いところ。
正直、このまま素通りさせても良いんじゃないかと思ったくらいだ。
だって確実に面倒臭いし。
だがそれでは依頼不履行ということで、最悪の場合は一銭も懐に入ってこない可能性がある。
それこそあってはならない。
タダ働きなんてごめんだ。
なので、ガルバンに残された道はただ一つ。
い〜〜い感じのメンツだけ足止めして、い〜〜い感じに時間を稼ぐ。
ガルバンの切り替えは早かった。
「よ〜しお前ら!俺は今から、大技の準備に取り掛かるからな!隙を見せるつもりはねぇが、もしかしたら準備を頑張るあまり、ちょっとよそ見をしちゃうかもなぁ!そこを突かれちゃ、いくら俺でもみすみす見逃しちまうぜ!……あ、念のために見張りで一人くらい置かれちまうと、さすがに俺でも後追いできねぇよ〜!」
めっっっちゃくちゃに、もう誰がどう見ても酷いと言わざるを得ない程の大根役者っぷりで、ガルバンはそう言い放った。
訳:一人残してさっさと上行け
である。
下手な英文法よりも簡単な読解だ。
チラチラと上の階へと繋がる階段に視線を向けながら、これ見よがしに大技っぽいモーションを繰り返す。
ちなみに、ガルバンに大技らしい大技は一つも無い。
ただの筋肉モリモリマッチョマンな一般人なので、せいぜい出来ても「野郎オブクラッシャー!!」程度である。
………え?それはクラッシャーされる側のセリフだって?
おっしゃる通り。
「……彼は私が相手しよう。君たちは先に行きたまえ」
「げっ」
珍しく自ら前に出たのはソアレさんだ。
彼女のマッドサイエンティストらしい仄暗い微笑みは、顔を顰めたガルバンの背後に向けられていた。
そこには、照明の暗がりに隠れるように身を潜めた、二人の男が居た。
階下でイナズマが率いていた、不気味な男達とよく似たハイライトの無い瞳を持つ無機質な男が二名。
こちらは片方が素手、片方が鉤爪のような物を装備している。
どちらも同様に不気味な程に静かで、不気味な程に生気を感じさせない。
人間の剥製と言われても信じてしまうだろう。
濁った瞳にじっと見つめられ、八咫烏ちゃんは冷や汗を垂らしながら思わず一歩後退した。
「おいおい、ちょっとタンマタンマ!」
「ん?なんだい?」
待ったをかけたのはガルバンだった。
随分慌てた様子で何かをアピールしている。
「チェンジで」
「……と言うと?」
「戦う人、チェンジで」
まさかのチェンジ希望。
何かと要求の多いヒーローさんだ。
「出来ればそっちの女の子が良いなぁ。……もちろん、そこのモブ戦闘員でも可」
「誰がモブだゴルァ!」
「上等だやってやんよ!後悔すんなよ!?」
「しかも八咫烏ちゃんをイヤラシイ目で見やがって!この筋肉モリモリマッチョマンの変態が!」
「見てねぇよ変態言うな!」
上から一、二、三号君である。
ブチ切れである。
百歩譲って………みたいな、譲歩の挙句の譲歩………みたいな、そんな選択肢で選ばれた事が死ぬほどムカついたらしい。
覆面越しでも分かるくらいに青筋を立てて、我先にと突撃しそうな勢いだ。
「ふむ……私じゃ不満かな?」
「いや不満ってか………なるべく弱そうな方が良いって言うか」
ガルバンが苦笑い気味に答える。
だいぶ………いや、かなりぶっちゃけた。
強い奴とは戦いたくない。
だって大変だし。
かと言って弱すぎると、「手を抜いていないでさっさと倒せ」と言われてしまう。
だからその間………中間くらいがちょうど良いのだ。
そういう意味では、八咫烏ちゃんは実に理想的。
ジャストミートなのだ。
断じてイヤラシイ目で見ている訳ではない。
実際、実力的には八咫烏ちゃんよりもガルバンの方が一回り上なので、彼の見立てはかなり正確だと言える。
「残念だけれど、ここは譲れないね」
「……理由を聞いても?別に恨みを買うようなことをした覚えは………いや、心当たりしかないけども。少なくとも、アンタに直接的な嫌がらせはした覚えは無いぜ?」
誰かの恨みを買うようなことは数え切れない程しているらしい。
そんな事はさておき。
「正直、君自体にさして興味は無い。私が惹かれているのは、後ろの二匹さ。実に面白い……。明らかに精神的異常をきたしていながら、その思考回路は非常に明瞭。異常こそが正常と化している。むしろ常人よりも格段に研ぎ澄まされているようだ。強制的にリミッターを外したのか?いやそんな簡単なものではない。この従順さは?まるで自ら望んでいるかのよう……。面白い。どうしてその若さで………いや、外面こそが最も解釈を混濁させる要素で───」
「何この人、怖っ」
「激しく同意」
ドン引きのガルバンの呟きに、ボスは遠い目をして頷いた。
マッドサイエンティストモードだ。
もはや誰もソアレを止められない。
知的好奇心に踊らされた彼女は、疲れ果てて脳がシャットアウトするまでひたすらに探求に踊り狂う。
その姿はまさに狂気。
「……じゃ、後はお任せするんで………ごゆっくり〜」
「おいこら任せんじゃねぇ!厄介なもん押し付けてくなよ!………おいちょ、おい!?え、マジで?俺こいつ相手しなきゃなんねぇの?割に合わねぇって!」
全てから目を逸らしたボスは、エックス戦闘員と八咫烏ちゃんを連れて、そそくさと上階に繋がる階段へと消えてしまった。
ガルバンの嘆きは尤もだ。
一般的な報酬で、超マッドサイエンティストモードのソアレの相手をしなくてはならないとは……。
何ともお気の毒なヒーローである。
「時間は有限だからね……」
暗い感情を帯びたソアレのセリフに、ガルバンは反射的に鉈と拳銃を構えていた。
殺気とは言えぬものの、凄まじく鋭利で背筋がヒンヤリと冷えるもの。
まるで研ぎ澄まされた刃物を首筋に当てられているかのようだった。
ガルバンの頬を一筋の冷や汗が伝う。
拳銃を持ったまま手を掲げると、合図に合わせて控えていた背後の男達も構えを取る。
彼らもソアレの気配を感じ取ってから、意識だけは臨戦態勢だったらしく、ほんの少し揺らいだ空気からガルバンはそれを察した。
(お利口なお人形さんみてぇな、不気味な面しやがってよぉ……。まったく、とんだ貧乏クジだぜ………)
正直、依頼を受けた事を後悔し始めていた。
報酬が美味かったからと、即座に話に乗った過去の自分をぶん殴ってやりたい。
……まぁ過去の自分に「マッドサイエンティストがヤバいからやめとけ」と言ったところで、頭がおかしいと思われるだけだろうが。
「───さあ、実験を始めようか」
白衣のポケットに片手を突っ込んだソアレの背後で、見たこともない機械やらアイテムが鋼鉄製のアームによって展開される。
その異様な光景に、ガルバンは頬を引き攣らせ……。
(恨むぜ、ハグトーレさんよぉ……)
内心で、依頼主にお門違いな恨み言を呟くのだった。
マッドサイエンティストモードのソアレさんは、決して誰にも止められない……。
・筋肉モリモリマッチョマンの変態………『コマンドー』より
・「さあ、実験を始めようか」………『仮面ライダービルド』より、主人公・桐生戦兎の決めゼリフ。
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