ヴィランたちの緊急会議
『ヒーロー協会、秘密結社Xに宣戦布告!?』
あらゆる新聞が一面に取り上げたこの話題は、すぐさま世間に浸透し大いなる騒ぎを起こした。
当然だ。
ここまで大々的に、ヒーロー側からヴィランに喧嘩を売るなんてこと、一度も無かったのだから。
しかも相手はあの"ヴィラン連合"に所属する一大組織だ。
唐突な行動に疑念が湧く一方、ヒーロー協会の勇気ある行動を称賛する声も少なくなかった。
どことなく緊迫した雰囲気が世間を満たす中、喧嘩を売られた側であるヴィラン連合もまた、緊急で会議を開いていた。
今はちょうどいつもの円卓に集まり、司会進行のラプラスが新聞の件に触れたところだ。
「殲滅じゃ」
開口一番、見るからに不機嫌そうな九尾がそう言い放った。
彼女の周囲には凄まじい密度のエネルギーが漏れ出ており、思わず身震いしたくなるような圧を感じる。
あまりの理不尽さにゼロはドン引きだ。
その横で、九尾の圧をそよ風のように受け流していたラプラスが口を開く。
「それは頼もしい限りですが………君が先陣を切ってしまうと、一方的な蹂躙で終わってしまいます。ファントム君、それでは納得しないでしょう?」
「あたぼうよ。今回はバリバリに喧嘩売られちゃったからね。俺たちが拳で抵抗しないと」
ゲン〇ウポーズで、こちらもやる気満々なボスさん。
実際問題、名指しで宣戦布告されたのは秘密結社Xのみだ。
果たして新人だからと舐められているのか、手始めに潰してやろうという思惑なのかは知らないが………どちらにせよ、売られた喧嘩を黙って見過ごすほど優しくない。
「という訳で、皆には一旦ステイでお願いしたいね。……あ、もちろん露払いはよろ」
ボスはしゅぴっ、と手を挙げてそれだけはお願いした。
いや普通に、秘密結社Xだけでヒーロー協会の全勢力と衝突は無理。
勝てるならわざわざ"ヴィラン連合"なんて組合は作ってない。
「………ま、妥当な判断だよな」
「ああ。群がるヒーロー共は任せておけ」
ゼロと魔王様は首肯する。
九尾だけは未だに不満そうだが……。
「気に食わんのぅ……。何故、ヒーロー協会はここまで強気に出れる?妾のファントムを小馬鹿にしよって」
九尾のさりげない自分の物アピールは全員がスルー。
しかしセリフの前半だけは魔王も激しく同意だった。
「ヒーロー協会とヴィラン連合の勢力は、均衡している………少なくとも、奴らはそう思っているはずだ。些か無謀じゃないか?」
秘密結社Xに喧嘩を売るということは、それつまりヴィラン連合全体を敵に回すようなものだ。
あまりにも軽率な行動と言わざるを得ない。
それとも、実は長年に渡り計画していた作戦でもあるのだろうか。
ヴィラン連合相手に「勝てる」と言い切る作戦が。
「どうやら世間の認識としては、我々ヴィラン連合は所詮、思想の違う悪党の集まりであるとのことですよ」
「うん?」
「あくまで、ヒーロー協会に対抗するため団結しただけ。仲はさして良くないと考えているようですね」
「なんだそりゃ」
「むしろ俺達ズッ友だよなぁ」
「お前らが童貞彼女無しな限りだけどな」
「「おい」」
不貞腐れたゼロの発言に、魔王様とボスからツッコミが入る。
ボスはともかく、魔王様は童貞と彼女無し、どちらも当てはまらない。
既に青薔薇姫こと最強の正妻様、シルヴィアで卒業済である。
それつまり、魔王様はズッ友でないと断言しているのと同義。
ヒーロー協会よりも前に個人的にボコボコにしてやろうか……と魔王様。
あまりの迫力にゼロは「冗談ですやん」と、てへぺろする。
男がそれをやっても需要は皆無だ。
魔王様の関節技が見事にキマった。
「うわぁああギブギブギブッ!?」というゼロの悲鳴をBGMに、九尾は面倒そうに小指で耳をカリカリ。
「ゼロのせいで話が逸れたのぅ。……して、どうするつもりじゃ?ファントム。まさか能無しで正面から突撃する訳ではあるまい?」
「さすがにね」
いくら不意打ちが成功しても、ヒーロー協会に正面から乗り込めば、返り討ちに遭うことくらい容易に想像出来る。
もちろんそこはボスとて無策ではなかった。
「そこはほら、露払いの出番よ。派手に騒いでもらって、ヒーロー達を分散させる」
「ふむ。体の良い囮という訳じゃな」
作戦というのは至ってシンプル。
ヒーロー協会からちょっと離れた場所で、組織ごとにド派手な騒ぎを起こしてもらうのだ。
そうなればヒーロー達もてんやわんや。
多くのヒーローが出撃し、結果的に協会内部は人手不足。
そこを秘密結社Xが襲撃するという訳だ。
自分達がやると言いつつ、露払いに全力で頼るボスさんだった。
「嫌か?」
「くふふっ、むしろウェルカムじゃ。しかと妾に任せておけ」
「相変わらず頼りになるよ」
「うむ、惚れてもええんじゃよ?」
「それは無い」
「むぅ」
九尾は不満げに唇を尖らせる。
可愛いかよ。
ご覧の通り一部の不満と約一名の犠牲は出たものの、今後の方針は無事に決定。
緊急会議は早めのお開きとなった。
◇◆◇◆◇◆
会議が終わり、いつも通りのんびりと帰りの支度を整えていると。
とてとて……とゆっくり青薔薇姫が歩み寄ってきた。
「……大丈夫そう?」
「まぁ、何とかなるっしょ。うちのメンバーは優秀だからね」
「そう……」
透き通るような水色の髪を揺らして、青薔薇姫ことシルヴィアはこくりと頷いた。
お人形さんのような美しさでありながら、氷のように冷えきった無表情でボスのことをじっと見つめている。
どうやら心配してくれているらしい。
「……あなたは、ハルトの大切なお友達。何かあったら、ハルトが悲しむ」
「愛されてるなぁ、魔王様は」
「ん、当たり前」
小さな胸を堂々と張って、ふんすっ、とドヤ顔の青薔薇姫。
その表情は僅かに緩んでいるようにも思える。
「ご迷惑をおかけします」
「ん、気にしないで。悪いのはヒーロー協会」
露払いの件も含めて、背後に控えていたイリスがぺこりと頭を下げる。
どちらかと言うと悪いのは圧倒的にヴィランサイドの自分達なのだが、それは言わないお約束。
首を横に振ったシルヴィアは、ボスの瞳を見つめながら一つ忠告をした。
「……今回の件、裏でシャイニング・ウィザードが関わってるみたい。油断は禁物」
「うわぁ……」
ボスが見るからに顔を顰めた。
No.2ヒーローの名前が出た途端だ。
もちろん強さ的な意味もあるのだが、それ以上に……。
シルヴィアも僅かに同情の気配を滲ませて首肯する。
「あの女は、気持ち悪い」
シンプルな悪口に、遠目に見ていた魔王が苦笑している。
まぁ彼女がここまで毛嫌いしているのにもきちんと理由がある訳で、それを知る身としては中々かける言葉に困るというもの。
ボスも同じく、シャイニング・ウィザードというヒーローに対して、凄まじい苦手意識があるのだ。
「……ま、何を企んでいようと関係ないさ。奴らに、俺たちと敵対することの恐ろしさを再確認させてやるまでだ」
「………ん、頑張って」
シルヴィアは僅かに微笑み、最後にそう口にした。
踵を返して、魔王様の元に戻る青薔薇姫を見送った後。
ボスは机に向かい、改めてかっこよくゲンド〇ポーズをキメる。
「───さあ、行こうかイリスちゃん。ヒーロー共に一泡吹かせてやるとしよう」
背後に控えたイリスが、返事の代わりに一歩近付き無言で目を伏せる。
……ふっ、キマったな……!!
かっこいい!
まさに正統派悪の組織、って感じだ!
珍しく悪役ムーブをかませたボスは、ご満悦な状態でアジトに戻ったという。
次回、ついにヒーロー協会VSヴィラン連合……!?
・ゲンドウポーズ……『新世紀エヴァンゲリヲン』に登場する碇ゲンドウの特徴的なポーズ
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