妾、参・上ッ!!
「───くふふっ!妾、参・上ッ!!」
巻き上げられた砂煙を薙ぎ払い、仁王立ちでズビシッ!とポーズを取った九つの尾を持つ狐の獣人、九尾。
渾身のドヤ顔を浮かべ、固まったボスとオールバックの男を見下ろしている。
「これ、どういう状況……?」
「まぁまぁ。ちと、愛しのファントムを助けに来ただけじゃよ。あんまり難しく考えるでない、禿げるぞ?」
「ハゲ……たくはないな……」
頬を引き攣らせて頭上に疑問符を浮かべたボスに、九尾はカラカラと笑い声を上げて答える。
実際、九尾が駆け付けた理由なんて六割が"ファントムのため"が占めているのだ。
それ以外に答えようはなく、悩むだけ無駄である。
ちなみに残りの四割は戦い足りなかったから。
「何故……」
一方で、オールバックの男の表情は険しかった。
確かに百鬼夜行へと送った戦力で九尾討伐はおろか、長い足止めさえ出来るとは元々思っていなかった。
けれどあまりにも早過ぎないか?
覚醒個体が殲滅される時間も、拠点を放置してこちらに駆け付けるまでの時間も。
あらゆる要素を含めた「何故」だ。
それに対して我らが九尾さんは……。
「くっくっくっ……。未練がましいのぅ、ガルフォード。そうまでしてファントムに復讐したいか」
鬱陶しい羽虫の努力を嘲るように笑う。
どんなに頑張って策を弄しようが決して意味はない。
九尾が惚れた男は、もはや彼らに縛られるようなヤワな男ではないのだから。
「好きに言っていただいて構いません。これはあくまで、私個人の感情と組織としての意向の折衷案ですから」
「手を引くつもりはない……とな?」
「ええ」
オールバックの男……ガルフォードは相変わらずの胡散臭い表情で肯定した。
ならば仕方あるまい。
九尾の口角が吊り上がり、妖しい光を宿した瞳が爛々と輝く。
「───ならば、ここで死ぬがよい!!」
地を踏み砕き、凄まじいスピードで九尾はガルフォードの懐に潜り込んだ。
引いた右の拳には猛る紫炎が宿っており、繰り出すと同時にその業火はさらなる熱を帯びて燃え上がる。
もちろんガルフォードとて無抵抗で殴られるつもりは微塵もない。
咄嗟に何枚もの反射の障壁を重ねて展開。
同時にバックステップで距離を取ろうとする。
だがしかし。
「"震天"ッ!!」
繰り出されたのは、空間を砕く強力無比な打撃。
驚くべきことに九尾の拳は展開された反射の障壁を次々と砕き、容易にガルフォードの腹をぶち抜いた。
「ぐっ……!?」
メキメキッ……!と骨が軋む音が鼓膜を打ち、体をくの字に曲げたガルフォードが勢いよく殴り飛ばされる。
何故、あらゆる攻撃を反射するはずの障壁が何も効果を成さないのか。
決して特別な事はしていない。
ただひたすらに強力な拳での一撃が、"反射"という概念ごとぶち壊したに過ぎないのだ。
空間すら物理で砕く九尾の打撃をどうこうしようなど、人間にはまず無理な話である。
ガギャアアンッ!!とガラスが砕けるような特殊な効果音で殴り飛ばされたガルフォードは、何とか体勢を立て直しつつ控えていた覚醒個体をけしかける。
直後、前に出た二体の覚醒個体の間に青い稲妻が走った。
「隙ありっ!」
「……ッ!?」
コピペによる雷速の飛び蹴りがガルフォードの胸に直撃。
ここでやっと、ガルフォードは己の体に常時展開していた反射の障壁が消え失せていることに気が付いた。
どうやら先程の九尾の打撃で完膚なきまでに砕かれ、消失していたらしい。
飛び退きざまに放たれた紫炎がガルフォードの衣服に引火して激しく燃え上がる。
「くっ……!やはり、九尾の相手は割に合いませんね……!」
即座に反射の障壁を展開することで、跳ね返された紫炎の粒が四方八方に飛び散った。
間に割って入った小柄な覚醒個体が大口を開け、ボスに食いかかる。
それを頑張って躱しつつ、ボスは九尾の足止めに向かおうとした覚醒個体を暴風で妨害。
動きが鈍ったその覚醒個体を片手間に殴り飛ばし、九尾はボスと入れ替わりでガルフォードに殴りかかる。
「理解しかねます……!彼の何をそこまで買っているのですか?」
「くふふっ、お主らは死んでも分からんじゃろうなぁ!"恋"なんて夢物語はのぅ!!」
ガルフォードも多少は肉弾戦の心得はあるが、相手がフィジカルの頂点みたいなスペックのため焼け石に水。
段々とその表情に含まれていた余裕が消えていく。
……と、その時。
いきなりガルフォードの体がグイッと引っ張られた。
まるで強烈な磁石に引き付けられているかのように。
見ると、九尾の背後で覚醒個体の相手をしていたボスが、何やら左手を握り締め精一杯に引き絞っていた。
───引力。
重力が反射の対象外であるように、引力もまたガルフォードの〈全反射〉に影響を受けない数少ない力だ。
抵抗のしようが無い凄まじいパワーで引き付けられる先は、当然ながら待ってましたと言わんばかりに拳を構える九尾の元。
ガルフォードが咄嗟に腕で防御した刹那、視界を紫色の炎が熱く染め上げる。
「燃え尽きよ……!"震天"ッ!!」
交差した腕にぶち込まれた、破壊力抜群の超常的な打撃。
空間に刻まれた亀裂は放射状に広がり、やがてそれは元の形に戻ろうとする強烈な力が加わって激しい唸り声を上げる。
直後、膨張した紫炎が全てを呑み込んで世界を支配した。
忙しい!最近とにかく忙しい!ワイも九尾みたいなフィジカル欲しい!
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