16話 パパの話
今日は髪を切る日です。
叔母の楓さんの妹の鈴さんがやってる美容室にいつもお世話になっています。叔母の妹って関係としては何と言えばいいんでしょうか。それもまた叔母でいいんでしょうか。
「かゆいところはございませんかーっと」
鈴さんが私の髪にくしを通しながら聞いてきます。
「それはシャンプーのときに言うやつでは?」
「芽依はツッコミが上手だなぁ……あっ……」
私の髪を切るや否や、鈴さんがやらかした感じの声を出しました。
「あっ!? あって何ですか!?」
「あっはは、うそうそ、冗談だよーん」
「…………」
笑えない冗談すぎます。
「芽依って何年生になったんだっけ? 小五? 小六?」
「六年生ですよ」
「青春だぁねぇー」
「青春って言うにはちょっと早いような気がしますけど」
「そんなことないって。あたしなんて小六んときに大恋愛して、そんときに告った子と今も一緒にいるんだよ?」
「はぇー、一途ですねぇ」
自分が誰かに告白するなんて、考えたこともありません。
「芽依にもいつかそういう人が現れるよ」
「別にノーサンキューですけど」
恋は人間を狂わせます。
去年の夏、名前も知らない男子に告白されたことがありました。丁重にお断りしましたが、その男子のことを好きだったらしい名前も知らない女子が私に突っかかってきました。
椛が上手いことやってくれて事なきを得ましたが、私だけだったらどうなっていたか分かりません。
そのときに「あんたってもらわれっ子なんでしょ。ホントの親がマジやばい奴らしいじゃん」とか言われました。
美紅が私の代わりにガチギレしてくれましたが、私だけだったらどうしていたか分かりません。
「……鈴さんは」
私の本当の両親のこと、何か知っていますか?
「ん? どした?」
そんなこと聞いても、何の意味もないのです。
今の私には知る必要のないこと。
今、一緒にいてくれる家族のことだけを大切にすれば良いのですから。
「……私の本当のパパとママと、知り合いだったりしましたか?」
無意味だと分かっていても、その言葉が口から出るのを止めることができませんでした。
私の髪を鋤いていた鈴さんの手が止まります。
「……まー、気になる年頃だよね。優ちゃんとか姉ちゃんには聞きにくいことだろうし」
鈴さんが少しだけ気まずそうに笑います。
「……ごめんなさい、答えにくかったら、答えないでもいいです」
「んー、そだねぇ……芽依のママのことはほとんど知らないけど、パパのことならちょっとだけ知ってるよ」
「……どんな人でしたか?」
「ロリコンだったよ」
【悲報】私のパパ、ロリコンだった
「……今日ほど親のことを聞いて後悔した日はないですよ」
「でも小学生のあたしには優しかったよ?」
「ロリコンって情報のあとにそれを聞いても、それはもうただのロリコンでしかないんですよ! 他にもっと何かないんですか!?」
「姉ちゃんいわくイケメンだったらしいよー。顔が良くて一目惚れしたとか…………やべ、今のなし」
一目惚れ!? 叔母がパパに!?
「すみません、それは初耳なんですけど」
「あ、あはははは、何も聞かなかったことにしよう? じゃないと、おかっぱにしちゃうぞ⭐︎」
割と本気のやらかしだったようで、鈴さんは冷や汗をだらだら流していました。
「いやもう無理ですよ!? 今度から楓さんと接するときに、あーこの人って私のパパに惚れてたのかーとか絶対考えちゃうんですけど!?」
「ま、まあ、でも、すぐ別れたらしいから、ノーカンだよノーカン」
別れた!? つまり一目惚れだけじゃなくて、お付き合いしていた……ってコト!?
「いや、何でそんな情報を与えてくるんですか! 今度から楓さんと接するときに、あーこの人って私のパパと付き合ってたのかーとか絶対考えちゃうんですけど!?」
「うぅ……も、もうこれ以上この話を掘り下げないで……うっかり手が滑りそう……」
なんか恐ろしいことを言ってます。
パパの話をまとめると、ロリコンで、小学生女子に優しくて、イケメンで、叔母に一目惚れされて、叔母とお付き合いをしていたということらしいです。情報量が多い。特に最後の方。
「…………今日聞いた話は、忘れることにします」
「……そうしてくれると助かるよ、マジで」
ほとんど知らないパパのこと。
今はもういない、パパのこと。
ほんのちょっとでも知れて嬉しいと感じてしまうことに罪悪感を覚えてしまうのは、何故でしょうか。




