駄菓子と禁忌 その1
逃亡も空しく確保されてしまった俺は、アカリとユウトに左右の腕をがっしりと掴まれたままどこかへと連行されている途中だった。
どこに行くかを聞いても「着いてからのお楽しみ!」とアカリから言われたっきり何も教えてくれないので不安が募っていく一方である。
方向的にはいつもの公園に行くのかと思っていたのだが、こいつらは公園に続く道を華麗に通過。
大通りから一本逸れた通りへと入っていく。
この辺りは店も少なく、あまり来る機会もないためますます不安になっていたところでユウトが嬉しそうに声を張り上げた。
「着いたぜ!」
足を止めたのは木造二階建ての一軒家の前である。
見た感じ新築というわけでもなさそうで、そこそこ年季が感じられる建物であるが、明らかに他の一軒家と違う点が一つ。
それは正面が開け放たれ、所狭しと子供心をくすぐるカラフルなパッケージが並べられているという点に尽きる。
「ここは……駄菓子屋?」
「せいかーい!」
アカリが楽しそうにそう言って、駄菓子屋へと足を踏み入れていった。
ユウトと松下もそれに続いたので、俺もおそるおそる入ってみた。
中はここだけ時間が止まっているかのような、いい意味での古めかしさを感じさせる店だった。
壁の棚一面に駄菓子が入ったカラフルなプラスチックの入れ物が並んでいて、奥に小さなレジが置かれているという、ザ・駄菓子屋みたいなそんな感じ。
レジの前には座布団が敷いてあるが、今は誰もいない。
「あっ、ユウト見てみて! このガム、新製品のピーチ味おいてあるよ!」
「マジか!」
ユウトとアカリはさっそく新商品の物色に取り掛かってしまったようなので、近くにいた松下に聞いてみた。
「今日はいつもの公園で遊ばないんだな」
「はい。今日はちょっと事情がありまして」
「事情?」
「連休明けに遠足があるんです。それで遠足に持っていくお菓子を三人で買いに行こうと話していたら、アカリちゃんがこの駄菓子屋に来たいと言い出したので来たという感じです」
「へー、そういうことなのか。でも珍しいな、この近くだったらスーパーとかあるじゃん。あそこまあまあ品揃え豊富だし、スーパーでもよくないか?」
何気なく呟いた瞬間、駄菓子に釘付けになっていた二人が目の色を変えてこちらに向かってきた。
「おにいさん、それ本気で言ってる?」
「え……ま、まあ……」
そう答えた途端、二人の口から深い嘆息が漏れ出る。
「にいちゃんは俺たちがここに来た理由をこれっぽちも分かってないな。俺、失望したぜ」
「そこまでか? てか、テレパシーとか使えるわけないし、そんなの分かるわけないだろ」
至極まっとうな意見を述べたつもりだったが、アカリとユウトは首を振った。
「ちょっとは考えてみてよ。今、おにいさんは松下から遠足のためにお菓子を買いに来たって聞いたでしょ。それがヒントだよ」
アカリからの助言をもとに少し考えてみるが、特に駄菓子屋を選ぶ必要性を見出すことはできない。
「スーパーでいいような気もするんだが……」
「じゃあもっとヒント。おにいさんも小学校の時を思い出してみて。遠足に行ったらお弁当を食べてその後でお菓子を食べるでしょ? その時、おにいさんはどうしてた?」
「? 普通に食ってたけど」
「違うよ。お菓子を食べるのはそうなんだけど、ただ家でゴロゴロ寝っ転がって一人で食べるのとはわけが違うでしょ? 遠足ならではのイベントがあるじゃん」
「イベント……」
そう呟きつつ、俺は小学生時代の遠足を思い返してみた。
平日にクラスみんなで遠出するわくわく感を味わいながら、いつものメンバーと歩きながら駄弁りまくる。
そして昼前に目的地の公園に着いて、好きな場所でシート広げて親が作ってくれた弁当食べて、いよいよやってくるお菓子タイム。
その時、ある光景が脳裏によみがえって来た。
ある仲のいい友達がこう言ったんだ。
『春斗、じゃぎゃりこ一本やるからお前のラムネ一個くれよ』
『いいぜ。じゃあ交換な!』
「あっ」
答えに至った俺の様子を見て、二人はちょっと嬉しそうな顔になる。
「分かった?」
「ああ。交換するため、だな?」
「「正解!」」
答えを聞いて、二人は今度こそ笑顔を弾けさせる。
なるほど、そういうことだったのか。
遠足ではお菓子の交換というイベントが発生する可能性は極めて高い。
ここで重要なのはいかに手札を温存しつつ、多くの種類のお菓子を味わうことができるかだ。
この時、もし小分けができず単価の高いポテチを一袋しか持っていなかったらどうだろうか?
すぐにポテチが底をつき、満足にお菓子の交換なんて行えないだろう。
しかも小学生というのは好奇心旺盛な年ごろである。
普段から家で食べているポテチなんかよりも、普段は自分が買わないようなお菓子に興味をそそられるのは当然のこと。
さらに小学校の遠足ともなればお菓子購入の上限額が決められていることもしばしばであることを考えると。
単価も低く、小分けも可能で、種類も豊富、さらに持ち運びにも苦労しないというメリットだらけの最適解が駄菓子だということだ。
あのスーパーはファミリー層向けで大きな袋菓子はたくさん売っているが、駄菓子の種類はそこまでではなかったはず。
こう考えてみると、こいつらが中々の策士だということが判明した。
「お前ら、ちゃんと考えて店選んでるんだな」
「当然だ。俺らも五年だからな。遠足に関しては達人と言ってもいいくらいだぜ」
「ふふーん。もっと褒めてもいいんだよー?」
アカリは得意げに胸を張った。
なんか負けた気もするが、ここは素直に褒めておくか。
「はいはい、えらいえらい。じゃあさっさと駄菓子選んで来いよ。俺も適当にブラブラしてるからさ」
「オッケー! じゃあそれぞれ選び終わったらもう一回集合ってことで。松下も一緒に選ぼう?」
「いいよー。ではおにいさん、少しの間失礼します。あとで何買ったか教えてくださいね。楽しみにしてますから」
「しなくていいわ。ほら、三人でさっさと選べよ」
「「「はーい」」」




