愛してるゲーム その2
愛してるゲーム その1 の続きです!
「じゃあ、愛してるゲームはどうかな? おにいちゃん、ルール知ってる?」
愛してるゲーム。
俺の記憶が確かなら、相手と交互に「愛してる」と言い合って先に照れたり、笑ったりした方が負けというゲームだったはずだ。
「知ってるけど……どうしてそのゲームなんだ?」
葵の真意が分からず素直に質問をぶつけると、葵はあっけらかんと、
「これならおにいちゃんに勝てると思ったからね。だって私、おにいちゃんのこと大好きだし」
「!?」
その不意をついた攻撃に俺は激しく動揺してしまい、石のように固まってしまう。
葵から目線を逸らしたくなったが意地でなんとか踏みとどまる。
「今のは……セーフだよな?」
「照れてないし笑ってもいないからセーフだね。それにまだゲームも始まってないし。でも見てる感じ……これは楽勝かな?」
葵はからかうような笑みを見せる。
これはまずいな。
今の感じからして俺には勝機はほとんどないし、愛してるゲームなんて実際にやったこともないため自信も全くない。
そもそも相手と面と向かって「愛してる」なんて言いあうだけでも相当照れくさいのに、その相手が妹となったら照れくさいなんてもんじゃない。
それに対して葵の方は日ごろから自分の好きなもの(家族を含めて)には遠慮なく好きだと大っぴらに好意を表しているため、例え俺相手に愛してると言うことにも抵抗を感じないのだろう。
圧倒的にこちらが不利な状況ではあるが、勝負内容は何でもいいと言ってしまった以上引き下がることはできない。
俺は一度深呼吸をして心を落ち着ける。
「準備できた?」
「ふー。……よし、オッケーだ」
覚悟を決めてそう返事をすると、葵は大きく頷いてから宣言した。
「じゃあ今からスタートね。照れたり笑っちゃったりしたらダメだから。先攻と後攻、どっちがいい?」
「別にどっちでも。お前が選んでいいぞ」
「うーん……なら、私からいくね?」
葵は迷いなく先攻を選択するとスッと席を立ち、俺の後ろに回り込んできた。
一体、何をしようとしているんだ? と当然の疑念を抱くが、すぐさまそれを振り払う。
予想外の行動を起こしてこちらの動揺を誘おうという葵の作戦かもしれないからな。
目を閉じて視界を完全に遮り、その手には乗らないようにする。
さあ、どっからでもかかってこい! という鋼のように固い決意を決め込んでいると突然、
「おにいちゃん……」
というささやき声が耳元で聞こえたかと思うと、そっと背中に葵がもたれかかってきた。
ミルフィーユのように甘くとろけそうな声色と、背中からじんわりと伝わってくるほのかな温もりによって俺の心はドラム式洗濯機に入れられた洗濯物のように揺さぶられる。
しかも目を閉じてしまっているので聴覚と触覚のみに体の全神経が集中しており、感覚的には映像なし、音声アリのASMRに近い状態となっているため、脳内CPUごときでは処理が追いついておらず、今にもショート寸前である。
このままじゃヤバい!
浅い呼吸を幾度も繰り返すことで脳に大量の酸素を供給し冷静さを保とうとするが、葵はその好機を見逃さなかった。
一拍おいてから耳に息がかかるほどの距離でこうささやいてきた。
「おにいちゃんを……あいしてる」
「!!!」
その瞬間、つい変な声が出そうになってしまったが、すんでのところで息を強引に飲み込んだ。
平常心、平常心だ!!!
ここで照れてしまえばプリンは食べられない!
こんなところで陥落してもいいのか!?
否、そんなこと許されるはずがない!
ここはなんとしても兄としての威厳を保つのだ!
と、自分に暗示でもかけるかのような必死な抵抗を心中で繰り返すことに加えて、何事もないように口をぎゅっと引き結ぶことで俺は平静を装い続けた。
なんとかして感情を押し殺し続けていると、
「……むぅ。これじゃダメか」
葵は少し不満そうにそうつぶやきながら俺から離れていった。
あ、危なかった……あと十秒あのままだったら確実に負けていた……。
心の内でぐったりと脱力をしていると、葵が余裕の笑みを浮かべながら普段の声のトーンを取り戻す。
「じゃあ次、おにいちゃんの番ね」
やっとこちらのターンになったが、これまでの様子から考えるにただ単にこいつに「愛してる」なんて言っても勝てっこないだろう。
それに考えもなしに攻勢を仕掛けるだけでは返り討ちにされて俺の方が照れてしまう可能性が高い。
しかも今の感じだと、次の葵の攻撃に耐えられるかどうかも分からないし……。
ということはここはリスクをとって攻め方を変え、一発でこいつを陥落させるしかないだろう!
「葵!」
「ひゃあっ!」
俺は勢いよく立ち上がってまだ後ろにいた葵の肩を両手でガッと掴むと、葵は可愛らしい声をあげた。
「実は俺も大好きだったんだ。昔から、ずっと……」
「お、おにいちゃん?」
「どうしても、この気持ちが抑えきれなくて……だから今日、これだけは言っておきたくて……」
予想外の出来事に珍しくうろたえる葵にひたすらに訴え続けると、葵の頬がみるみる紅潮している。
よし効いてるぞ!
ここで一気に決めてやる!
俺は逃げようとする葵の肩をもう一度力強く掴むと、葵がこちらに視線を向けたタイミングで真正面から目をひたと見据えて言い放った。
「心から葵を……愛してる」
ボッとゆでだこのように葵の顔が赤くなる。
俺の予想では葵は俺たち家族を攻め慣れてはいるが、家族に攻められ慣れてはいないので耐性がないと踏んでいたのだが、この反応を見るにビンゴのようだな。
よしっ! これでプリンは俺のもの、兄の威厳は保たれた!
俺は勝利を確信し、心の中で高笑いをかまし、葵が照れる瞬間を今か今かと待っていると――。
ドサリ。
リビングのドア付近で何かが落ちる音がした。
音につられるようにしてそちらに視線を送るとそこには――。
「ね、姉ちゃん!?」
驚愕に目を見開き、呆然と立ち尽くす姉の美夏の姿があった。
まさかこんなタイミングで帰ってくるとは!
えっと、もしかしてだけど今のやつ聞かれた?
しかも俺が葵の肩を掴んでいるという今のこの状況は、兄が妹に対して迫っているという禁断の兄妹恋愛的なシチュエーションに見えなくもない。
今までは葵しか見ていない、という前提のもとでこんな言動をしてきたわけだが、それを第三者である姉ちゃんに見られたとなると、恥ずかしさのあまり体が火照ってくるのを感じる。
「二人とも……なにやってるの?」
震える両手を口元に近づけ、動揺を隠し切れない様子で姉ちゃんが訊いてくる。
「姉ちゃん、違うんだ……これは誤解だから……。だから落ち着いて聞いて、ってうわっ!」
俺は慌てて葵から手を離し、姉ちゃんに弁明しようとしたのだが、今度は葵が俺の首に手をまわして離さないようにしてきた。
「葵、いまそれどころじゃない――」
「おにいちゃん、私だけを見て」
「!」
葵め、こんな状況までも利用して俺を照れさせようとしていやがる!
どんだけプリン食べたいんだよ!
「あわわわわ……ま、まさか私のかわいい弟と妹がこんな関係になっていたなんて……私、どうすればいいの!?」
その様子を見て、姉ちゃんは誤解をさらにエスカレートさせている。
「違うんだ、姉ちゃん! これはただのゲームで――」
「私、真剣なんだよ? それをただのゲーム、遊びだなんて……ひどいよ、おにいちゃん!」
「なっ! ち、違うからな、姉ちゃん!」
事態の収拾を図ろうとするも、一度こうなってしまえば姉ちゃんは止まらない。
「おいちゃん、そんなに真剣に春斗のことを……うん、そうよね。二人の決断を応援するのがお姉ちゃんの使命よね。分かったわ! 私、二人のこと応援する! お父さんとお母さんには私から説明して――」
「違うんだよぉぉぉ!!!」
俺の悲痛な叫びが小倉家の一軒家に響き渡った。
次回 好き嫌いとダイエット その1




