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第五十九話  裏切りの足音

お読みいただきありがとうございます!兵士たちのお話が続きます!よろしくお願いします。

 中央貴族と呼ばれるモイミール・ユラセクは侯都の近くにそれほど大きくはない、先祖代々引き継いできた領地を持つ子爵家の次男である。歴史はあれども鳴かず飛ばずといった弱小貴族でもあるため寄親の言うことには絶対服従だ。


 官吏として王宮に勤めるモイミールの父や兄は、宰相が逆賊と扱われたことに対して最後まで憤慨していたものの、中央貴族がまとまって討伐に向かわなければならないとなった為に、領主軍80を引き連れたモイミールは、領地を出発することになったのだ。


 逆賊を討つために挙兵をしたオルシャンスカ伯爵には軍を率いた経験などないはずなのに、あっという間に兵に必要な武器や輜重が揃えられていくことになったのだ。


 普通、モイミールのような次男が領地で養っている兵士たちを連れて出兵すれば、連れて行く兵士たちの輜重や武器は自分たちで賄わなければならなくなる。だというのに、最近飛び抜けて景気が良いと言われるオルシャンスカ伯爵は武器弾薬だけでなく、兵士たちの食事や天幕に至るまでの全てを、伯爵家の資産から用意することになったのだ。


 宰相ウラジミールを逆賊としたのは行き当たりばったりの行為のようにも見えるのだが、宰相の地位を狙っていたオルシャンスカ伯爵は遠からずこうなることを予想していたのだろう。


 全ての準備が事前に整えられていたと言わんばかりに、温かい食事までもが提供される。武器だけは旧式のライフル銃ではあったけれど、あまりにも全てが素早く準備されていく有様を見て、モイミールは驚きを隠し切ることは出来なかった。


 侯王ヴァーツラフの名代として軍を指揮することになったオルシャンスカ伯爵だけれど、その伯爵の陣幕には多くの南大陸の人間が出入りする。そのことにモイミールが気が付いたのは、伯爵の傘下に降ってから数日後のこと。


 毎日のように軍議が開かれているものの、その場には常に南大陸から来た肌の浅黒い男たちが居るため、流石におかしいと感じるようになったのだ。


「なあ、なんで軍の中にまで南大陸の人間が入り込んでいるんだろうな?」


 上官への報告を終えて自分の部隊へと戻ったモイミールが、領地が隣接する伯爵家の子息、パトリック・プロヴォドに問いかけると、パトリックは持っていた新聞をモイミールに投げながら言い出した。


「侯都でばら撒かれた号外の一部だけど、大変なことが書かれているぞ」

「号外?何処で手に入れたんだよ?」

「父上が密使を使って送って来てくれたんだ」


 足元に落ちた新聞を拾い上げたモイミールは、思わず生唾を飲み込んだ。

 その新聞によると、災害の復興のために無利子で高額な金を貸し出してくれたイヤルハヴォ商会は決して善意から金を出したわけではない。王宮の中で働く役人を利用して、本来は復興に充てられるべき金を横領させ、その金を使って自分たちから麻薬を買うように誘導し、麻薬を購入した役人(貴族)たちはその麻薬をより高値で他の貴族に売買していたというのだ。


 イヤルハヴォ商会は麻薬の密売をモラヴィアだけでなくクラルヴァイン王国でも行っており、彼らはスーリフ大陸中にオピによる麻薬依存を広げて侵略戦争を仕掛けるつもりでいるのだという。


「それとな、父上からの手紙によると、ヤロスラフ様とドラホスラフ殿下が北部で挙兵をしたっていうんだ」

「それを抑えるのが中道派貴族たちになると思うのだが?」

「中道派貴族たちは国を蛮族に売り渡そうとする今の侯王と第一王子とは手を切って、ドラホスラフ殿下に付くことに決めたらしい」

「となると・・」


 中央貴族である自分たちが宰相を倒すために兵士を集結させているような状況で中道派が裏切ったとなれば、侯都までガラ空き状態になってしまったことを意味している。


「オルシャンスカ伯爵はこちらの予想以上に兵を集めているのだから、一部を侯都に向かわせるように手を打った方が良いと進言した方が良いのかもしれないな」

「おいおい!進言するって誰に進言するって言うんだよ!」


 オルシャスカ伯爵が集めた軍は上層部になればなるほど、天幕にこもって手巻きタバコを吸い続けているような状態なのだ。吸っているのはただの手巻きタバコという訳ではなく、煙草の中に乾燥させたオピの樹液を含ませている。


「上の連中が皆んな揃ってヤク中状態で、誰がまともに話を聞くって言うんだ?」

「だけど、それじゃあ」


「我が家は中道派貴族たちと同じようにドラホスラフ殿下に乗り換える、侯王の泥船に同乗するのはヤク中どもだけで十分だろう」

「だがそれじゃあ、うちの寄親が納得するわけがない!」

「お前、そんなに寄親が大事かよ」

「いや、全然・・」


 中央貴族の中でも搾取する側と搾取される側に分かれることになるのだが、モイミールの家は完全に搾取される側の家なのだ。寄親となるサディレク伯爵家がユラセクの家のために何かしてくれたという覚えがとにかくない。


「この号外は侯都ではすでにばら撒かれているし、復興費用を横領して麻薬を購入したと言われている奴らはオルシャンスカ伯爵の子飼いの貴族たちだということは誰もが知っているような状態らしい。今はオルシャスカ伯爵が侯王の名代で逆賊となったウラジミール宰相を討つために挙兵しているが、近い未来に、伯爵自身が逆賊として討伐されることになるだろう」


 パトリック・プロヴォドは、モイミールに対して真剣な眼差しとなって言い出した。


「俺はな、己の私利私欲のために国を食い物にしてきた一部の貴族が許せないし、麻薬でドロドロになっている中毒者どもも気に入らない。だからな、こいつら纏めて滅ぼしてやろうと考えているんだ。だけど俺たちだけではあまりに手が足りない、モイミール・ユラセク、お前も一緒に泥舟から逃げ出すための手伝いをしてくれないか?」


「手伝いだって?」


 パトリックが言う手伝いとは非常に簡単なことだった、とにかく寄親となる上層部を戦地から追い出せと言うのだ。


 国を食い物にして己の私欲を満たしているという奴は、大概、オピという麻薬の中毒になっているという。麻薬中毒になっているということは戦いもせず働きもせずに、ただただ怠惰に麻薬を貪っていたいと考えているはずなのだ。


「逆賊となって落ちぶれた宰相の一族を倒すのは私たちだけで十分に出来ますから、上の方々はどうか戦地から遠く離れた別荘で吉報をお待ち頂ければと思うのです」

「ええ、ええ、そうですよ。ゴミの片付けは我らに任せて、後方でお待ち頂く方が良いでしょう」

「主人が不在のところは私の方で誤魔化しておきますから」

「体力勝負のところは我らにお任せくださいませ」


 モイミールが寄親となるサディレク伯爵の天幕まで行って、揉み手となってそう訴えると、

「これぞ忠臣という奴だな。それでは戦場はモイミール・ユラセクに任せて我らは後方へ引き上げよう」

 と、伯爵たちはニヤニヤ笑いながら言い出した。


 モイミールはユラセク家の寄親となるサディレク伯爵家の一同が意気揚々と後方に下がるのを見送った。彼らが侯都に向かう途中で立ち寄った娼館が火事にあったことも知らなければ、侯都にある彼らの邸宅までもが不審火によって燃えたという話も知らない。


 中央貴族の中でも重鎮となるサディレクの軍が、宰相の領地に深く食い込んでいる状態だったのだが、そのままの状態でモイミールは兵士を一旦停止させると、そこから徐々に後退を始めたのだが・・


「サディレク伯爵より秘密裏に相談頂いたのだが、オルシャンスカ伯爵が我が国を南大陸に売り飛ばすという策が明るみとなり、逆賊ウラジミールを討つ話だったのがひっくり返り、我々こそが逆賊扱いされるかもしれないと言うのだ」


 モイミールは伯爵から丸投げされた全軍を集めて宣言をした。


「伯爵はいち早く、我らが国に仇なす逆賊ではないと証明するために侯都へと向かった。そもそも宰相様が国を裏切ったということ自体が戯言であり、我らは南大陸人による罠に嵌められるところだったのだ!」


 だからこそこのまま後退して、宰相との和平交渉に出るつもりなのだと宣言すると、一人の男が大泣きしながら言い出した。


「私は昔、宰相様に命を救ってもらったことがあるのです!しかも侯王様の命令だからと言って討伐隊を組まされましたが、我らが戦う相手は同じモラヴィアの民じゃないですか!私は同国民同士が傷つき戦いを続ける意味がわからなかったのです!」


「まさか南大陸人による作戦だったなんて!」

「侯王が祖国を売りに出そうとするなんて!誰が想像出来たものか!」

「我々は踊らされたんだ!」


 そう言って大泣きする兵士たちが梟の間諜たちだとは思いもしないモイミールは、感極まって勝手に宣言を行ったのだ。


「内戦をこのまま続けて祖国の人々の犠牲を増やして良いわけがない!私の責任を持ってこの部隊は戦うことをやめる!(ヤク中の)サディルク伯爵には全権を委任されている私が宣言するのだ!同国人同士で戦うことはもうやめよう!」


 サディルク伯爵の部隊は大所帯だった為、彼らの声は伝播するような形で前線に広がっていくことになったのだが、これに今は滅びたトウラン王国の諜報組織、梟が大きく関わっていることにモイミールは気が付いていない。


ちょっとお話が前後したのですが、ドラホスラフ王子が王宮を飛び出して行った時のお話と、前線のお話ということになります。さてさて、どうなってしまうのか・・明日もお話は続きますので最後までお付き合い頂ければ幸いです!!


6/10(月)カドコミ様よりコミカライズ『悪役令嬢はやる気がない』が発売されます!!書き下ろし小説(鳳陽編)も入っておりますので、ご興味ある方はお手に取って頂けたら幸いです!!鳳陽ってどんな国?なんてことが分かる作品となっております!よろしくお願いします!!


モチベーションの維持にも繋がります。

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悪役令嬢は王太子妃になってもやる気がないも宣伝の意味も兼ねてスタートします!"
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