閑話 コルセットはいらない ①
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宰相の娘ダーナは、赤ちゃんの時からふくよかでふくふくとして育って来た為、幼児期から少女へと成長し、デビュタントを迎える年になって以降も、コルセットなんてものは、生まれてこのかた一度として着用したことがない。
「「「「・・・無理でしょ」」」」
と、親兄妹も言っているし、自分自身もそう思う。幸いにもダーナの体型を嘲笑うような家族も親族も使用人も居なかったので、
「「「「あーら!(コルセット無しだなんて)斬新なドレスだこと!」」」」
舞踏会場で出会ったレディたちにそう言われても、蔑むような眼差しを向けられても、どうとも思うことはなかったのだ。
年頃のレディらしく恋愛にうつつを抜かしたいなあと思うような人間だったら、自分の体型を卑下することもあっただろうけれど、そんなものは必要ない。幸いにもシュバンクマイエル家は娘を結婚商売に使わなくても良いほど裕福な家だった為、領地のために優秀な頭脳と計算力を使って生きていけば良いだろうと考えていたわけだ。
父親も宰相だし、我が家は安泰だと考えていたダーナだったが、まさか謀反を疑われることになろうとは思いもしなかったし、
「な・・こんなところに・・女神・・」
なんてことを、まさか自分自身が言われることになろうとは思いもしなかったのだ。
しかも、相手はペトローニオ・マグヌス・スタール・フォン・トルステンソン、侯王の姉であるカテリーナ・バーロヴァの孫であり、北辺の国とも呼ばれるアークレイリの公爵家子息という人でもある。元々は海軍に所属していたのだが、何もかもを投げ出してコルセット事業に邁進しているような人であり、現在、モラヴィアで複数のメゾンのオーナーをしている。
生きている間は顔を合わせたいとは思わなかった相手を前にして、ダーナの顔は赤くなったり青くなったりして、この場から逃げ出したくて仕方がないような状態に陥った。
ダーナは貴族令嬢でありながらも、今まで一度としてコルセットというものを着用したことがない。自分には必要なものだとは思えなかったからだ。そんなダーナがコルセットでひと財産儲けたメゾンのオーナーと握手をしていると・・
「カサンドラ様、私、人が恋に落ちるところを始めて見たかもしれません」
というカロリーネ嬢の世迷い言がダーナの耳にも飛び込んでくる。正直に言って、馬鹿も休み休み言ってくれとダーナは思う。人が恋に落ちるとはなんなんだ、ここにはカロリーネとカサンドラと自分しか居ないのだから、洒落にならない冗談はやめて欲しい。
「ペトローニオが社交界の薔薇に興味を持たないのは、特殊な花が好みだったからなのね。コルセットで大儲けした男があのタイプが好みだったなんて!」
クラルヴァインの王太子妃は何が言いたいんだ?意味がわからないんだが?
「海の男の好みのタイプはふっくら、モッチリなのだと私は思いますわ」
いやいや、お相手に失礼だから、そういうことを言うのは本当にやめて欲しい。
クラルヴァイン王国の王太子妃とその友人は、気性もさっぱりとした変わり者だとダーナは思っていたのだが、やっぱり彼女たちも、女らしい女らしさというものを持っていたということになるのだろう。
言動はどうであれ、顔立ちも整った男が一人現れたとなれば、醜い女にけしかける。醜い女がちょっとその気にでもなろうものなら、
「馬鹿じゃない?あんたなんか相手にするわけがないじゃない?」
「鏡を見てから出直して来たら?」
なんてことを言い出すことになるのだろう。
「あああ、誰でも良いから私に恋に落ちてくれる人が現れないかしら〜」
と、カロリーネ嬢は口では言ってはいるが、フリだ、フリ。私にはドラホスラフ殿下という尊い存在が婚約者となっているのだけれど、貴方が望むのなら、貴方の手を取ることもやぶさかではないというアピール。樽のようなデブに意気揚々と挨拶を続けている男はイケメン、イケメンが美人に靡くというのは世の中の常とも言えるだろう。
ダーナの目の前に立つ、カテリーナ・バーロヴァ女伯爵の孫は、非常に好意的な眼差しとなって目をキラキラさせながらふっくらとした手に口付けを落としたけれど、ダーナの縮こまった胃の中にある胃液が逆流して口から溢れ出しそうになった。
太ったダーナをわざわざ引き摺り出して行われる茶番は、いつでもどこでも行われる定例行事のようなものだから。
お父様、戦準備をしているというけど大丈夫かしらとか、北部ときちんと連携が取れているだろうかとか、こんな状態で内戦に突入して、侯王ヴァーツラフは頭悪いにも程があるだろうとか、浮気男ブジュチスラフ第一王子はやっぱり死ねとか、そんなどうしようもないことを考えながら気を紛らわそうとしたけれど、気分の悪さはどんどんと酷いものになってきて・・
「ダーナ嬢、大丈夫ですか?ダーナ嬢?」
めまいと吐き気と貧血症状で倒れそうになっていると、目の前のイケメンは太ったダーナを支えるようにして心配そうな声をあげている。
「重いので床に落としていいです」
朦朧とした意識の中、ダーナは目の前の男にはっきり、きっぱりと告げたのだ。
「ごめんなさい、私、コルセットは使う主義じゃないので、貴方が持って来たというコルセットを買うつもりはありません。うちは確かに金持ちかもしれないですけど、大量購入とか出来ません」
ダーナははっきり、きっぱりとコルセットは購入しないと断言した。
「それに、カサンドラ様にはアルノルト殿下がおりますし、カロリーネ様にはドラホスラフ殿下がいらっしゃいます。私を当て馬にしてカロリーネ様をドラホスラフ殿下から奪い取ってやろうとか、そんなことを考えているのならやめたほうが良いですよ」
当て馬歴が長いダーナとしては、ダーナの当て馬が吉と出るか凶と出るかについては、大概当てることが出来るのだ。ダーナが知るドラホスラフ第三王子は、執着心の強い粘着気質な男のため、今は例え離れていたとしても、カロリーネを決して離す気などないだろう。
「ドラホスラフ殿下が死んだら可能性があるとは思いますけど・・あの王子が死ぬのかなあ・・想像出来ないんですよねえ・・」
ダーナが知るドラホスラフ第三王子は、執着心の強い粘着気質な男なのだ。今は例え離れていたとしても、カロリーネを決して離す気などないのだから。
ダーナは意識を暗闇の中に沈めながら、大きなため息を吐き出した。
ここが実家だったら、太ったダーナがたとえ何処で倒れたとしても、心得た家臣がヒョイと担いで寝室まで運んでくれるのだろうが、ここは完全に他人の家。ヒョイと担いでくれる家臣は何処にもいない。
無理に運ぶ必要はないし、頼むから床に転がしておいてくれ。目を覚ましたら自分でベッドまで移動するから。そんなことを考えている間に、いつものようにダーナの巨体がヒョイと簡単に持ち上げられた。
私は家臣を連れてきた覚えはないのだけれど、お父様が密かにつけておいてくれたのかしら?
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