第十九話 カサンドラとハイデマリー
18話でカロリーネがカテリーナとなっておりまして誤字脱字報告頂きました!!やってしまいました!報告修正有り難うございます!!困惑したことと思いますが、どうぞよろしくお願いします!
「ど・ど・ど・どうしましょう〜!こんなことになるとは思いませんでした〜!」
お仕着せ姿のハイデマリーが悲痛な声をあげていると、乳母から息子のフロリアンを受け取ったカサンドラが呆れたように言い出した。
「あの二人、驚くほどに意気投合していたわね」
二人で仕事の話が出来るようにと、執事が女伯爵に命じられて部屋を用意したらしく、二人はそちらの方へと移動することになったのだ。ハイデマリーとカサンドラは二人の邪魔になるということで、カロリーネの為に用意された部屋へと戻ってくることなったのだ。
母を大人しく待っていたフロリアンはご機嫌で、その柔らかい頬にカサンドラは頬ずりをする。
「別にハイデマリーが気にすることでもないでしょう」
「そんな訳には!」
「いいのよ、気にする必要なんかないの」
お仕着せ姿のカサンドラは、ソファに寝そべりながら自分のお腹の上にフロリアンを乗せて、ハイデマリーへ朱色の瞳を向ける。
「カロリーネの配慮があって貴女たち家族はモラヴィアに移住となったけれど、別にいつまでもここに残らずにクラルヴァインに戻って来たら良いのよ。何も貴族籍を取り戻して社交界に戻るわけでなし、今のような生活で良いのならクラルヴァイン国内に家でも職でも用意するわよ」
「ですが!国外追放処分を受けているんですよ?」
「私が今、何になっていると思うの?」
お仕着せ姿でだらりとソファに横になっているけれど、お腹に赤ちゃんを乗せてだらけているけれど、カサンドラは間違いなく・・
「数々の鳳陽小説を翻訳されてきた!有名翻訳家のサンドラ様!」
「だけじゃないでしょう?」
王都の行政をあっという間に改革してしまった、他国も瞠目するほどの腕を持つ王太子妃だということは間違いない。
「ドラホスラフ殿下には色々と思うところはあったのだけれど、カロリーネが幸せになるのならと応援をしていたの。だけど、今日のカロリーネを見たら、考えを改めなければならないと思ってしまったのよ」
学生時代、カロリーネとドラホスラフは理想のカップルと言われるほど仲の良い二人だったのだ。あれほど思い合っている二人なら、数々の困難も乗り越えて幸せを手に入れることになるのだろうと思ってはいたのだが・・
「うちの国の侯爵令嬢を安全に保護すると言いながら、二ヶ月以上を貴女の家に置き去りにするのは駄目よ。私、王家が所有する離宮の一つに移動しているものと思っていたもの」
「ですが、王子様には王子様の事情というものがあるようですし」
「全てはパヴェル第二王子が亡くなったことに関わっているみたいよね」
パヴェル王子は落馬事故で亡くなった。
パヴェル王子は非常に優秀だった為、突然の訃報に周辺諸国も驚いたものだった。しかも落馬事故でと言うのなら、誰かの作為を疑わない訳にはいかない。
王宮の中では今、密かに三つの説が浮かび上がっているという。
一つ目は、優秀すぎるパヴェル王子を次の王にと推す貴族が多くなってきたことに不安を抱え、自分の立場を脅かされるのではないかと恐れたブジュチスラフ第一王子が、故意にパヴェル王子を殺したのではないかというもの。
二つ目は、妾の子になるパヴェルをダグマール王妃が疎ましくなって殺したのではないのかというもの。第一王子よりも妾腹の第二王子の方が優秀だったのだ、自分の子を守るために手を下したということも十分にあり得るだろう。
三つ目は、その優秀さゆえに傀儡には出来ないと判断したオルシャンスカ伯爵が、娘の婚約者であるパヴェル王子を亡き者にしたというもの。パヴェルの婚約者になるマグダレーナとドラホスラフ第三王子を結婚させ、後の王とした方が傀儡に都合が良いと判断されたため、行動に出たということも十分にあり得るのだ。
未だに落馬事故の調査は続けられているものの、暗礁に乗り上げているような状態だった。もうすぐ第二王子が亡くなって一年となるため、第三王子の結婚が発表されることだろうと多くの貴族が考えているし、その相手はオルシャンスカ伯爵の娘マグダレーナになるだろうという意見が大半を占めている。
そのような状況の中でカロリーネは平民として王都に潜伏し続けていたのだ、それは梯子を外されたとも思うだろう。
「ドラホスラフ殿下はカロリーネと結婚するつもりはあるようだけれど、あまりにも酷い扱いをしているのは間違いない事実。彼女はクラルヴァイン王国の王太子妃である私、カサンドラの右腕と呼ばれるほどの人物であり、我が国の貴族派筆頭であるエンゲルベルト侯爵家の令嬢なの。その令嬢を平民扱いで放置するということは、それだけ我が国を愚弄しているのも同じこと」
「ち・・違います!違います!モラヴィアの王宮の中では誰が味方で誰が敵かも分からない状況だからこそ!カロリーネ様は我が家でお守りしていたのです!」
「私の右腕を、素人一家の家で保護ですものね?」
「ですが!警護の兵士は密かに置いてくれていましたし!」
「だから安全だった?誰にも知られぬ場所だった?だけど襲撃をされているでしょう?」
カサンドラは大きなため息を吐き出しながら言い出した。
「ハイデマリー、お前からモラヴィアの第三王子に伝えなさい。私の夫から伝えずにお前を使って伝えるのは私なりの慈悲よ」
「は・・はい!」
「このままの状態なら、カロリーネは王子にはやらない。アークレイリにやってしまおうかと考えている。かの地は最近銀山を発見し、膨大な採掘量も見込めるという話も聞いている。貴国などと手を組まずとも、我らには我らの選択があるとね」
「は・・は・・はい〜!」
返事をするなり、ハイデマリーは部屋から飛び出して行くことになったのだ。
カサンドラはハイデマリーが敬愛する鳳陽小説の翻訳家だが、彼女は間違いなく一国の王太子妃なのだ。今はやる気がなくてお仕着せ姿でダラダラし続けているけれど、やる気になったら一気に片付けることをハイデマリーは知っている。
そのやり方は、物語に出てくる悪役令嬢よりもよっぽど悪辣で過激だということをハイデマリーは知っている。
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