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第二十話  ペトルとカロリーネ

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 それはカロリーネがまだ学園に入る前のことだった。

「これ、今までの物よりもよっぽど負担が少ないから、試しに使ってみない?」

 と言ってコルセットを渡して来たのはカサンドラで、

「まあ!カサンドラ様ったら!また誰かに頼んでお好みのものを作って頂いたのでしょう?」

 と、コンスタンツェが冗談めかして言っていたのを覚えている。


 あれは十四歳になったばかりの頃の話で、このコルセットを利用したドレスを作りましょうなんていう話を、カロリーネはカサンドラとコンスタンツェの三人でしていたのだった。


 腰は細ければ細いほど良いという極端な発想から鉄線まで使ったコルセットが登場したところで、多くの女性がその一方的な理想と価値観の押し付けに悩まされることになったのだ。だけど、ペトルが開発したコルセットは、

「これだったらまだ楽よ!もうこのコルセットしかつけられないわ!」

 と、多くの女性から言われるようになるのだった。


 ただ、鯨の髭という珍しいものを使っている為、それなりに値段は高いものとなったものの、使用する女性の気持ちを十分に考えて作られたコルセットに対して、金に糸目をつけない淑女は相当な数いたとは思う。


 もちろん、男のペトルが自ら付けて開発する訳にもいかないため、多くの時間と手間ひまをかけて作り上げていくことになったのだろう。その渾身の作品を否定するようなマーメイドドレスを作り上げたカロリーネは、最初、ペトルに対して苦手意識を持っていたのだが、

「お願いよ!助けてちょうだい〜!」

 と、泣いて懇願する大男を前にして、カロリーネの強張った肩の力もすっかり抜けてしまったのだ。


 カロリーネはあえて服飾に関わる話をペトルとはせずに、経営に関してだけ話を推し進めて来たのだが、まさかペトルがあそこまでマーメイドドレスに対して思うところがあったなどとは思いもしない。


 とにかく話し合いをしたいということで意気投合したカロリーネとペトルは、執事が用意したサロンで対面の席に着くこととなったのではあるが・・

「ペトルさん!本当の本当にごめんなさい!」

 カロリーネはテーブルの上に額が付くのではないかというほど低姿勢となって頭を下げた。


「ペトルさんが自分の作品であるコルセットに対して誇りを持っているということは知っております。コルセットによって腰のラインがより美しく見えるドレスを作り続けているのも知っています。そして、私が売り出しているマーメイドドレスの所為で売上が傾いていていることも知っていますし、私の所為で、ペトルさんが苦境に追い込まれていることも知っています」


 カロリーネは涙を浮かべて言い出した。

「無駄を省いて経営を正常に戻して、もう少しすれば、必ずペトルさんのお客様は戻って来ると確信していたの。だってペトルさんが作るドレスは素敵なデザインのものばかりですもの」


 ペトルは少し前のめりになって、カロリーネの手を包み込むように握りながら言い出した。


「カロリーネが一生懸命やってくれているのは知っているし、ドレスの売れ行きが悪いのは、ただただ、私が未熟なだけだから気にしないで。それに、カロリーネは自分の意思であのドレスを作り出した訳じゃない。自分ではやる気が起きない王太子妃に丸投げされて始めただけのことでしょう?」


 ペトルが言う通り、コルセットを使わないドレスを作ることになったのは、鳳陽国の皇后と妊娠中のカサンドラが求めるものが一緒だったことにある。社交はコンスタンツェ、服飾はカロリーネに丸投げされて、結果、コルセットを使わないマーメイドドレスがバカ売れすることになったのだ。


「それに、鯨の髭は有限だっていうカロリーネの言葉に、私は頭を殴られたような気持ちになったの。私たちにとっては鯨って山ほど何処にでも居るような存在だけれど、自分たちで育てている訳じゃないのだから、造船のために伐採をした樹木と同じように、鯨も数をどんどん減らして居なくなっちゃうなんてことにもなりかねないもの」


「それでも、ペトルさんを窮地に追いやったのは私です」

「そんなことないわよ」


 ペトルはカロリーネの手を包み込むようにして両手で握りしめると、にこりと笑ってカロリーネを見つめた。

「私を窮地に追いやったのはカロリーネじゃないわ。私をわざわざ服飾の世界に引っ張り込んで酷使して、挙げ句の果てにはコルセットなしのドレスを世界に発信して、私に後ろ足で砂をかけたまま、素知らぬ振りを続けた悪役令嬢が悪いのよ」


 そう言ったペトルは、

「悪役令嬢じゃなくて、今は悪役王太子妃ね。不敬で訴えられるかしら?これは二人だけの秘密よ」

 ウィンクをして握りしめていたカロリーネの手を離した。


「私はアークレイリ出身なのだけれど、北の端にあるだけあって非常に閉鎖的で、ほとんど鎖国しているような国がうちの国なの。鯨を使って下着を作るって言っても、頭がおかしいんじゃないかと思われるのが関の山。だけど、これが当たれば鯨は食べるだけでなく、立派な資源として再利用することが出来るようになる。つまりはお金になると思ったの、私って案外に俗物的でしょう?」


「いいえ、いいえ、そんなことはないです」

 カロリーネもお金になると思って、カサンドラに丸投げされた服飾事業に邁進した。カロリーネの実家は投資に失敗をして右肩下がりの状態だった為、少しでも家の助けになればとも思ったのだ。


「カテリーナ様が母国に戻っていたし、協力してもらえないかとお願いしたの。そうしたら二つ返事で了承して下さって、そこで私はモラヴィアで事業を始めることにしたのよ」


 襲撃を受けたカロリーネは女伯爵であるカテリーナの庇護を受けるために移動をすることになったのだが、女伯爵であり、侯王の姉であるカテリーナの屋敷をペトルが訪問することが出来たのは、彼が以前からカテリーナと交流を持っていたから。


「ハイデマリーの家に行ったら襲撃されたというのだもの、本当に心配したし、無事で良かったわ」


 心底安心したように笑うペトルを見上げて、少し顔を赤らめたカロリーネが何かを誤魔化すように言い出した。


「それで・・帳簿について質問したいのでしたっけ?まだ完全に整理が出来ていなかったのですが、何処か気に掛かる場所でもありましたでしょうか?」

「あらやだ!帳簿なんて単なる理由づけに過ぎないのは分かっているでしょう?」


 ペトルはコロコロと笑うと、

「とにかく、あなたが無事で良かった」

 そう言ってじっと見つめるので、カロリーネは慌てて執事が用意してくれた紅茶に口をつけると、

「だったら、これから売れると思われる新しいコルセットについて話し合いませんか?」

 と、琥珀色の瞳をキラキラさせながら言い出したのだった。


6/10(月)カドコミ様よりコミカライズ『悪役令嬢はやる気がない』が発売されます!!書き下ろし小説(鳳陽編)も入っておりますので、ご興味ある方はお手に取って頂けたら幸いです!!鳳陽ってどんな国?なんてことが分かる作品となっております!よろしくお願いします!!

宣伝の意味も含めて『モラヴィア侯国編」の連載を開始いております!最後までお付き合い頂ければ嬉しいです!

モチベーションの維持にも繋がります。

もし宜しければ

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6/10(月)にコミカライズ『悪役令嬢はやる気がない』が発売!

書き落とし短編〈鳳陽編〉も入っています!

作中に出てくる鳳陽ってどんな国?皇帝ってどんな人?など興味がございましたら、ご購入頂ければ幸いです!!よろしくお願いお願い致しますm(_ _)m
悪役令嬢は王太子妃になってもやる気がないも宣伝の意味も兼ねてスタートします!"
― 新着の感想 ―
多分くっつくことはないんだろうけど、おネェいいなぁ。。。 おネェから一瞬感じる好意ってキュンキュンしますね
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