27.限界
サクヤが叫ぶ。
「ソラ! ソラ!」
専用のイヤホンに接続されない……!
さっきの雷の影響か!
ドローンも一瞬接続が切れた……!
なんて攻撃なんだ……!
モニターに視線を移し、素早く操作する。
接続を切り替え、直接ドローンへ声が入るようにした。
『────接続を確認しました』
*
バァァンッ! と衝撃音が響き、砂埃が舞う。
第七術式同士の衝突。
ソラは相手が発動しようとする術式を乱し、相殺してみせた。
第七術式……それは、炎の術式であった。
過去に式神・スメラギから着想を得て、開発した術式である。
それは上野ソラが持つ術式の中で、かなり厄介な性質を持っている。そのため、ソラは直接印を結ぶことで、第七術式を一定時間使えないようにした。
第七術式を、故障させたのである。
その影響による、行き先を失くした呪力が爆発を起こしていた。
「『な、なんだこの状況は……』」
”あっ、なんか声聞こえる!”
”銀髪の子じゃね!?”
”声綺麗~!!”
”ソラと偽物ソラが戦ってるんだよ!”
”ソラは!?”
土煙がようやく落ち着く。
そこには、無傷で立つ二人のソラが居た。
”どっちも無傷……!”
”これまでの戦いで、一番強いんじゃ……!”
”すげええええええ!”
”本物に負けて欲しくない……”
それに応じて、視聴数も増えていく。
その数は数百万を超えている。
もう一人のソラ。
自分たちが最強だと思っている人間が、もう一人いる。
見ていた人々は瞬きを忘れるほど、熱狂していた。
そうしてバンバン放たれる見たことのない術式に、興奮が収まらなかった。
────戦いの勝者は一人。
ようやくサクヤの声が届いた。
その声に、二人のソラが顔を向けた。
「『ソラ! 聞こえているかソラ!』」
「……?」
「『……?』」
お互いに自分を指す。
その意味は、『それ、俺に聞いてる?』である。
「『いや、そっちのソラじゃない』」
今度はお互いに指を差し合う。
『あっちのこと?』という意味である。
「『そっちでもない……本物の方だ……』」
”どっちだよwwwwwwwwwww”
”コント始まったwwwwww”
”緊張感返せwwwwww”
”同じソラだから、アホは変わらないwww”
”ダメだこいつらwww”
”緊張が一気にほぐれたwww”
「あぁ、俺のことね」
”最初から喋ろやwwwwwww”
”喋って聞けばよかっただろうがwww”
”なんで指差しして確認したんだよwwwwwww”
「『……本物、あっち。こっち、偽物』」
”偽物が偽物って認めたwwwwwwwwwww”
”終わりだよこれwwwwwwww”
”いきなり爆笑させるのやめてくれwwwwww”
サクヤの深いため息が漏れる。
「『……勝てるのか』」
サクヤはそれが心配だった。
こんな戦いはこれまでなかった。
ダンジョンの壁が変形し、地形すらも変えてしまうほどの戦いだ。
「うーん……」
ソラが唸る。
”ソラなら勝てるでしょw”
”いつも通り余裕で勝っちゃってください!”
”いけるいける!”
”余裕余裕!”
「……悪いけど、ちょっと無理かなぁ。負けないけど、勝てない」
”え……”
”ガチ……?”
”ソラですら勝てないの……?”
「思考がほぼ同じだから、動きが全部読まれてるんだよね。だから決定打が打てない」
その代わり、ソラ自身もダメージを受けることはない。
つまり、勝敗は動かない。
どちらかが呪力切れで倒れるか、外からの影響……それがこの戦いの勝敗を分ける。
(しかも……俺の場合はみんなを守りながら戦っている。時間稼ぎと隙を狙って距離を離す……それがこの場だと正しい動きかな)
「幸い、俺の偽物ってフル装備じゃないから……まだマシ」
”フル装備って……?”
”なにそれ……”
”初めて聞いた”
”どういうこと?”
疑問が湧く。
「第八術式以降は使えないってこと」
”まだ上があるのかよ……!”
”マジか……!”
”底知れねえwww”
(でも、俺がフル装備なら、勝負はさっさと決まるんだけどね……)
呪力量は本物のソラが上。しかし、あちらはダンジョンから魔力を吸い取り、それを呪力に変換している。
そのため、実質同等である。
技量も負けず劣らず、思考も同じ。
「『カツさんが救援に向かってる』」
「オッケー……結界内にいるみんなの退避を任せるよ」
目前にいる偽物を見る。
「コイツは、俺じゃないと抑えられない」
ソラは刀の柄を握り直す。
そうして、思う。
この戦いに、勝利はない。
みんなの前で言った通り、勝つことは無理だ。
俺が、俺自身がここまで厄介であるとは考えたこともなかった。
この偽物と戦えば戦うほど、俺は自分の限界を感じる。
お前の限界はここなんだ。
ここから先の壁を超えることはできない。
諦めろ。
そう言われているような気分だ。
”この戦い、もしかして……ソラ負ける?”
”流石にないだろw”
”でも、勝てないって本人言ってるぞ”
”負けないとも言ってる”
”自分を超えられる訳ないだろ”
”無理だわなぁ……”
”ソラを超えられる人いるか?”
”勝てないか……”
”逃げた方がよくね?”
”無理なら逃げた方が良いでしょ”
「……」
コメントが荒れている。
当然だ。
これまでこんなこと、一度もなかった。
第六術式の衝突。
第七術式の印の組み合い。
陰陽師同士の戦いは、過去にもあった。
でも、自分の偽物なんて一度もない。
昔、興味本位で『ふんふふ~ん♪』って鏡写の依頼へ行こうとしたらガチで怒られて、不思議だったっけ。
帝が『お前、マジで行くなよ。絶対に行くなよ。振りじゃないからな』的なことを言っていたのはこういうことだったんだ。
ずっと振りだと思ってたよ。
”……え?”
”楽しんでる……?”
”嘘だろ……こいつ……”
”笑った……!”
「面白い……」
相手の思考が同じということは、これは思考の戦いだ。
味わったことのない、新鮮な感覚だ。
俺がいつもはやらないことをやる良い機会だ。
”えっ、なに”
”ソラなにを────”
コメントを読みきる前に、ソラが動いた。
「第二術式展開」
指先を銃のように構え、呪層壁を広げる。
「『……!』」
その空間に、まばらな位置に、何枚もの呪層壁を展開する。
ソラが思う。
動きが読めるんだろ……?
なら、何をするか分かるよね。
「『第三術式……』」
「少し遅いね。第六術式……神雷」
「『……!?』」
”狙ってない!”
”適当に撃ったぞ!”
ソラが放った神雷が、一直線に進む。
そのまま、展開してあった呪層壁から反射し、空間を何度も反射していく。
”反射した!?”
”呪層壁って反射することもできるんだ!”
偽ソラの意識がそちらに向く。
本来は威力がかなり高いものの、一直線にしか進まず、使い勝手が非常に悪い技である。
それが反射しまくることで、予測ができない神雷の動きに、意識を向かざるを得なかった。
ソラへの意識が、一瞬だけ外れる。
その隙を逃すことなく、攻める。
「水命糸」
ソラが糸を伸ばした。
手印を止めるのではなく、足へ絡めて引っ張る。
「『第……っ!』」
キュッ、と偽ソラの身体の軸がズレる。
ビリビリ……!
反射していた神雷が、偽ソラの背中に迫る。
「『陣地、入替』」
「それやめてよぉ~……」
まだ残っている紙人形と入れ替わるべく、偽ソラが術式を再度使用する。
バッと、ソラが辺りを見渡した。
そこには大量の紙人形が展開されている。
ソラはさらに思考を回す。
どれだ……どれに逃げる。
俺ならどこに……。
移動先は分からない。きっと俺なら何個も裏を掻く。
…………違う。
そこに時間を使うのは無駄だ。
……集中しろ。
展開していた呪層壁が移動する。
足りない……! もっと増やせ。
指先で位置を指定し、さらに数を増やす。
ほんの一瞬で、大量の呪層壁を展開する。
他人から見れば、無茶苦茶な術式の使い方だった。
考えろ、計算しろ、限界を超えろ。
「水命糸────」
貫け。
一本の水色をした糸が、無数に呪層壁を反射し、広がっていく。
一つも残さず、広がっていた紙人形を貫いていく。
それはまるで、蜘蛛の巣のように広がっていた。
「『……!!』」
”全部貫いた……!!”
”すげええええ!”
”やばっ……!”
”恰好良すぎるだろ今の……!”
”これなら偽ソラが逃げられない!”
偽ソラは『陣地入替』が発動せず、背後から迫った神雷が直撃する。
バァァァンッ!! と音が響いた。
コメントが流れる。
”一気に畳みかけに行った……!”
”早すぎるだろwww”
”一連の動きやっば……”
”すげえテンポの戦闘……”
”戦闘のセンス高いな”
”当てた……!”
”ずっと拮抗してたのに、ソラが直撃させた!”
”倒したんじゃね!?”
”直撃だ!”
「……いや、違う」
砂埃が落ち着く。
そこに、偽ソラの姿はなかった。
パラパラ、と瓦礫が落ちる。
そこには、大きな穴が開いていた。
「深層に逃げられた」
*
深層。
ソラたちが戦っていた真下に、アカリは居た。
「な、なに!? なんか落ちてきたんだけど!?」
「『……』」
「あっ! あんたあの時の……!」
そう思った途端、アカリには真っ黒なもじゃもじゃが見える。
「────ッ!!」
(違う! こいつ、あの時の奴じゃない!! アイツはもっと優しいもじゃもじゃだった! こいつは……)
「敵!」
アカリが槍を振るう。
「『……呪層壁』」
(またあの堅い壁!)
貫けず、また防がれる。
「あれ? 誰かいる」
「……ッ!? あっ!」
落ちてきた穴から、ソラが降りてくる。
「あんた、あんたのもじゃもじゃ! あんたが本物でしょ!?」
「げっ、将軍……てか、人をもじゃもじゃで判断しないでよ……えっ? もじゃもじゃって言った?」
「『……』」
”将軍きちゃー!!”
”これならワンチャン……!?”
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