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我が主は、悪役令嬢でこの世界の創造主~味方の従者は何故かヤンデレ~  作者: 六花さくら
【第一部】【第八章 愛の鎖】
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世界の強制力(2)SideR

――ポトン、と水の滴る音がした。


 頭がズキズキする。

 どうやら鈍器かなにかで殴らされて、薬で眠らされたようだ。


 目には布がかけられていて、前が見えない。

 しかも口には口枷がつけられている。これじゃあ呪文も唱えられない。


――しかたない。無詠唱で乗り切ろう。


回復(ヒール)


 と頭の中で唱える。

 痛む頭じゃなにも考えられない。私は自分に回復魔法をかけた。

 すると、痛みが一瞬熱くなり、一気になくなる。


 無詠唱だとコントロールが難しい。

 というか常人はできない。

 私や、アッシュや、高等魔術師にしか無詠唱魔法を使うことはできない。

 身体の痛覚や回復力を暴走させるため、下手したら身体中の血液が沸騰して、回復どころか死亡してしまう恐れがある。

 

 どうにか魔法は成功したようだ。


 匂い――土の匂いがする。錆びた匂いがする。ここは一体何処だろう。

 腕を動かそうとしたら、ちゃりんと、鉄のこすれる音がした。


 両腕は枷をつけられ、吊るされているようだ。

 ……視界が見えないのは、ちょっと鬱陶しいな。

 ここが何処か見当もつかない。


 ただ、水の音がするから――海の近くだろうか。

 学園は王都にある。海までは馬車で半日かかるくらい離れている。


――どう考えても、攫われちゃってるなぁ。


《風よ》

 私は腕一本失う覚悟で、目元の布と口枷を風魔法で切り裂いた。


「はぁっ……」


 これでなんとか魔法を唱えることができる。


 そして周りを見回す。土壁と、目の前には檻。

――どこかで見たことがあるような。


 私は頭の中を探る。最近は恋愛話ばかりですっかり浮かれていたけれど、私は現在悪役令嬢で、いつ破滅してもおかしくない状態なんだ。


 波の音、水の音。

 そして微かに香る潮風の匂い。


 「ここ……来たことがある……」


 正直、昔の記憶は断片的になっていて、いつ来たかは覚えていない。

 ゲーム上の背景素材で使ったことがある。


「むむむ……思い出せ~私~」


 正直、星靴のシナリオ、ほとんど忘れているのよね。

 何のシーンで使ったっけ。ルーナにシナリオを書き起こした本を読ませて貰えばよかった。

 そう思いながら、考えていたら、ピンときた。


「ヴィンセントルートの……」


 ヴィンセントルート。

 個別ルートに入った瞬間、ヒロインと悪役令嬢が攫われてしまう。

 ヒロインはヴィンセントに気に入られ、いつの間にか恋に落ちるんだけれど……悪役令嬢は薬漬けにされ、娼館に落とされる。

 あの、最悪のルート。


 あのイベントで使われる『街から離れた海岸際にある塔』。いま、私はそこにいる。


「……あちゃあ」

 どこで分岐を間違えたんだろう。

 ヴィンセントルートのヴィの字も見なかったのに、どうしてここにいるんだろう。


 私はルーナの部屋に行こうとして、そこで誰かに殴られ、意識を失った。

 誰が私を殴った? ……私を憎む人たち? 誰が私を憎んでいる?


 私が王子の婚約者という立場で、アッシュとくっついたことで、世界がバグったのかしら。でもそんなの前の世界で何回もあった。


 アッシュ曰く6回目と7回目、この塔に居たと聞いている。

 そして誰が死んだわけでもなく、何故かループして、10歳の私に戻ったと。


――ここ、すごくバグがありそうだわ。


 もうちょっと余裕があったら、バグを探すんだけれど……正直、怖くてたまらない。

 またあれを体験するの……?


 せっかくアッシュと両思いになれたのに、私はまた汚されてしまうの?

 こんなんなら、アッシュに初めてを捧げていればよかった。


 ……いや、まだ折れるには早い。

 まず状況を確認しないといけない。ルーナは? シナリオだとルーナも一緒に攫われているはず。

 でも何の音もしない。声や鎖の音もしない。


「《解錠(オープン)》」

 呪文を唱えて、手枷を外そうとした。けれどびくともしない。

 この空間――魔法を使えないようにされてる。


 無詠唱のような異常魔法を止めることはできないけれど、通常魔法は使えないようにされているようだ。


「手のこんだやり方だことで……」


 誰が、何で、どうして、どうやって、私をここに閉じ込めた?


 その時、とん、とん、と足音が聞こえた。


――誰かが来る……!

 私を閉じ込めた人? それとも見張りの人? 何にせよ、誰でもいい。誰が来てもヒントになる。


 こつん、こつん……。

 足音が軽い。ヒールのような音だ。――相手は女性?


 そして、私の檻の前にある扉が開いた。

 ……そこに立っていたのは、黒く長い、ストレートの髪をもつ、整った容姿の女性。

 私よりも10は上だろう。


「起きたのね」

 女性は艶のある声でささやくように言った。


「貴方は、誰?」

「……くすくす、何も知らないのね。私は貴方達が憎くてたまらなかったのに」


――え?


 ゲームでもこんな登場人物の立ち絵を描いた覚えはない。

 誰? そしてなんで私を憎んでいるの?


「もう一度聞くわ、貴方は誰?」

「あは、あははははははは! 本当にばか、お馬鹿さん! 何も知らないのね! 何も知らないまま愛されて、何も知らないまま死んでいけばいいのよ! あなたみたいな穢れの知らないお嬢様は、堕ちて堕ちて、堕ちて死んでしまうべきなのよ!」

――話が通じない。


「あなたを汚し尽くして殺してもいいわ。でも……それじゃ、アレに邪魔をされるかもしれないわね。ふふ、くふふ……じゃあ、死んでもらうしかないわよね。そうよね。ね? ね? ネェ? お嬢様? 悪い悪いお嬢様?」


 女性は狂ったように笑う。

 漆黒の髪を掻き乱し、血のように真っ赤な瞳で私を見つめて――


……()()()()()()()()


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()


「《侵食(くるしんで)》」

 彼女が唱えたのは呪いの言葉。

 その瞬間、私の身体が動かなくなる。身体の中でなにかが這い回っている。


「あっ……いぃっ」

 痛い、苦しい、熱い……っ!

 身体も頭もおかしくなってしまいそうになる。


 こんな呪い魔法、一般人が使ったら反動が酷いはずなのに。

 彼女も同じ痛みを抱えるはず。


「あは、はははは、……うふ、ふふふふ」

 それでも彼女は笑っていた。


「あぁ……彼が絶望するのなら、こんな痛みも愛おしいわ。貴方みたいなお人形をこうやって、いたぶって……いたぶっていたぶっていたぶって!」


「ぃい……いいいいっ……っ!」

 呪い返しの魔法を唱えたら――彼女はきっと死んでしまう。

 どうにか、誰も死なない方法で助かりたいと――私は甘えた考えを持っていた。


 そもそも何で彼女が生きているの?

 シナリオ上で登場すらしない、シナリオ開始時点で既に死亡しているはずの彼女が。


――ヴィンセントの姉、イザベラが!


「ばいばい。悪いご令嬢様」

 そう言って、彼女は最後の言葉を唱えた。


「《即死(しんじゃえ)》」


 私の意識は、ぷつんと途切れた。

ほんと、ラブコメでいくつもりだったのに……何故こうなった。


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