愛なんて陳腐な言葉で語れないほどの想いを君に(1)SideR
気づけば初夏を迎えていた。
私とアッシュの関係は変わらず。
アッシュになんとか話しかけようとすると、冷たい目で見られる。
それで私は言葉を飲み込んでしまい――何も言えなくなる。
いつものように晩ごはんを食べていた時のこと。
「ぱんぱかぱーん! 明日はいよいよ花祭りですよ!」
ルーナが楽しそうに両手を上げながら言った。
「花祭り……そういえば、そんなイベントを設定したわね」
「初期好感度の高いキャラに花を送るイベントですよね。あのイベントは全キャラ好きでした……ロマンチックで!」
「あ、ありがとう。そう言ってもらえるなら嬉しいわ」
――花祭り。
好感度の高いキャラクターと一騒動あって、最後にヒロインが花を贈るイベントだ。
学園在学中のキャラも、学園外のキャラも巻き込む、この国で一番大きなお祭りだ。
元は農作物の収穫を祈るものだったのだけれど――気づいたら愛する人に告白するイベントになっていた――という設定である。
「明日……アッシュは誰かから花を贈られるのかしら……」
「ローゼリア様! ここ一ヶ月、貴方はずーーーっとくよくよしていますよ! 自業自得なのに!」
「うぐっ!」
ルーナの正論が胸に突き刺さる。
本当に自業自得なのは自覚している。
「仕方ないですね。私のお花を分けてあげます」
そう言って、ルーナは自室から薔薇を一本持ってきた。
「――ルーナも薔薇を渡す人がいるの?」
「げふんげふんっ! ま、まぁ……えぇっと、その話は良いんですよ! アッシュとローゼリア様の恋が優先です!」
ルーナの顔が珍しく赤くなった。
「る、ルーナ? ねぇ、教えて? 好きな人いるんでしょ?」
私はわくわくしながらルーナに尋ねた。
ルーナは両手を腰に当てて、目をそらす。
「好き、というわけでは……ただ、少し……思ったよりもいいなと……思う人が……」
「えっ? 誰? 誰なの?」
「……レオナルド。フェリックス殿下と仲良くなっていたときに、話すことがあって、それでちょっとずつ、気になってて……」
もじもじと両手の指を絡めたり離したりして――その姿はまさに恋する乙女だった。
「うそっ! そうだったの! なんで早く教えてくれなかったの!?」
「ローゼリア様はローゼリア様の問題があるでしょう! 私のことはいいですからっ!」
ルーナがまさかレオナルドを気にかけるなんて……気づかなかった。
そしてさり気なくフェリックス殿下とも仲良くなっていたのね。……すごいわ、さすがヒロイン。
「ねぇ、ルーナもレオナルドのことを考えると、胸がぎゅーっと締め付けられたり、恥ずかしくなって枕に顔を埋めたり、突然泣きそうになったり、彼が夢に出てきたりするの?」
同じ恋する乙女として教えてほしかった。
女の子はみんなこの想いを抱えているのかどうか、聞きたかった。
「え、いや……そんなのはないですけど……話してて安心するなーってくらいです。ローゼリア様、アッシュのことをそこまで想っていたんですね」
「……~~っ!」
墓穴を掘ってしまった
「ローゼリア様。いい機会です。アッシュに花を渡して告白しましょう」
「――で、でも私、嫌われてるし……」
「そう仕向けたのは貴方でしょうに!」
「ででで、でもーーーー!」
「バレンタインと一緒です。お世話になっているからと渡せばいいんですよ!」
バレンタインと同じ。そう考えると、少し気分が軽くなった。
私はルーナからもらった一本の薔薇をぎゅっと握った。
――そういえば……。
私は幼い頃、アッシュに聞かれたことを思い出した。
そしてあることを調べた。
頭にしっかり染み込んでいる。
告白しよう。
アッシュが私を嫌いになっていても構わない。
私がアッシュを好きなんだ。
その想いを伝えたい。感謝の気持ちを、恋を、愛を、すべて伝えたい。
その日の夜、私はアッシュに手紙を書いた。
『放課後、校舎裏の山の上で待っています』
場所を指定したのは、理由があった。
あとはアッシュが応じてくれるかどうか。応じてくれなかったら、ルーナに泣きつこう。
そして翌日――花祭りが始まった。
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