愛なんて陳腐な言葉で語れないほどの想いを君に(2)SideR
貴方が私を愛している証拠が欲しい。
愛の証明はどうやったらできるのか。
いつかヒューゴと議論した話。
彼は『愛は信じるもの』と教えてくれた。
それじゃあ、私の好きはどういう原理でできているの?
恋の方程式を教えてほしい。そう思っていた時期があった。
でも、今ならわかる。
好きって、そういうものじゃないんだ。
私は、ただアッシュが好きなだけ。
好きだったから、一緒にいた。
どうして好きになったかなんてわからない。わからなくていい。
好きは、願いの集まりで出来ている原動力だ。
ガソリンみたいに私の心を、身体を、動かしてくれる。
アッシュが幸せにいてくれたら嬉しい。
あなたが幸せになるために、私はあなたを助けたい。
大好き。
好き。
愛してる。
全部全部、貴方に伝えるわ。私なりの方法で。貴方に注がれた愛を、全部全部100万倍にして返してあげる。
◆
そして花祭りが始まった。
学園内だけでなく、国中が花をばらまいている。
フラワーシャワーがところどころで行われている。
空が夕焼け色に染めあげられた頃――私は待ち合わせ場所へ向かった。
まだアッシュは来ていなかった。
私は薔薇を握りしめる。すると茨が手のひらに刺さって、少し血が出た。
もう薄暗くなってきている。夜が近づいてきている。
アッシュはもう、来てくれないんだろうか――そう思っていた時、足音が聞こえた。
そこにいたのは、夜空のような黒い髪と、黄金色の目を持つ男の人――私がずっと待ち焦がれていた人だった。
――来てくれた。
心が跳ねるのをぐっと抑える。
「こんな山奥に呼び出すなんて、相変わらず人をこき使いますね」
アッシュの黄金色の瞳が私の姿を捉えた。
彼の視線は私の顔ではなく、手元に向けられていた。
「手、怪我してるじゃないですか。ほら、血が出てる」
アッシュはハンカチを出して、私の血を拭い取ってくれた。
気づけば、夕日は沈んでいた。
空に月がのぼり、星々がきらめく。
ぼんやりと、私の足元も光りだした。
ここにはあの花が咲いている。
夜光花――夜にしか咲かない花。
昼のうちに太陽の光を吸って、夜になると七色に輝きだす。
いつか、アッシュの幸せを願ったのも、この花の上だった。
あの日、願った想いを。
――願わくば、貴方がどうか幸せになれますように。
「アッシュ」
私は彼に薔薇を手渡した。
「ば、薔薇?」
アッシュは驚いた様子で薔薇を受け取ってくれた。
薔薇一本の花の意味は『貴方しかいない』
アッシュに108本の薔薇の意味を聞かれたことがある。
私はその時、何も知らなくて後で花言葉を調べた。
そして、薔薇の花言葉が本数で変わることを知った。
贈る花は真っ赤な薔薇。
私は唱える。
この世界でしか通用しない、魔法を。
「《花よ》」
薔薇が空から落ちてくる。
2本目――『この世界は二人だけ』
3本目――『愛しています』
5本目――『あなたに出会えた事の心からの喜び』
「《花よ》」
9本目――『いつもあなたを想っています』
12本目――『私と付き合ってください』
「《花よ》《花よ》《花よ》」
24本目――『一日中思っています』
99本目――『永遠の愛、ずっと好きだった』
101本目――『これ以上ないほど愛しています』
365本目――『あなたが毎日恋しい』
「《私の想いの分の花よ、どうか想いを伝えて》」
999本目――『何度生まれ変わってもあなたを愛する』
いつの間にか、一面が薔薇だらけになっていた。
夜光花も、薔薇に埋まってしまっている。
――一歩踏み出す。ずっと踏み出せなかった一歩を。
しゃんと背を伸ばして、目線を彼に合わせて。
私は彼をまっすぐ見つめて、伝える。
魔法で伝わるなら簡単だ。
でも、想いはちゃんと言葉にしないと伝わらない。
「好き。好きよ。愛してる。愛してるなんてありふれた言葉じゃ語れないほど、貴方のことがずっと、ずっと好きよ!」
思えばずっと貴方に恋をしていた。
いつから想っていたかわからない。
でもこの想いは間違いなんかじゃない。
その瞬間、私は手を引っ張られ、彼に抱き寄せられていた。
「……ほんと、貴方は――」
苦しそうな声だった。顔が見えないから、どんな表情をしているかわからない。
「いつもそうです。俺を振り回して、俺の感情をかき乱して。この場所も、景色も、あぁ……もう……本当に……」
「アッシュ……」
彼の肩は大きくて、私をすっぽりと包みこむ。
彼の熱が、鼓動が、直接伝わってくる。
そして彼は大きく息を吐いて、とてもとても溜めて応えてくれた。
「俺も、愛しています。ロゼ」
と。
やっと一歩。
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